はじめに
フォトダイオードやその他の電流出力センサーを使用して物理的特性を計測する精密計測器には、多くの場合、最大限のダイナミック・レンジを実現するためにトランスインピーダンス・アンプ(TIA)とプログラマブル・ゲイン段が含まれています。本稿では実例を使用して、ノイズを最小限に抑えながら広帯域と高精度を実現する一段で構成するプログラマブル・ゲイン・トランスインピーダンス・アンプの実装に関する利点と課題を解説します。
トランスインピーダンス・アンプは、光の測定を行うシステムにとって欠かすことのできない構成要素です。紫外光・可視光(UV-VIS)分光器やフーリエ変換赤外(FT-IR)分光器などの化学分析装置の多くは、フォトダイオードを使用して化合物を正確に特定します。これらのシステムは、広範な光の強さを測定しなければなりません。たとえば、UV-VIS分光器は、使用済みモーターオイルなどの不透明なサンプルから、エタノールのような透明な物質を測定します。さらに、物質によっては特定周波数において強力な吸収帯が存在する一方、他の波長ではほとんど透明なままのものもあります。計測器設計者は、多くの場合、ダイナミック・レンジを拡大するために信号経路にいくつかのプログラマブル・ゲイン・ブロックを追加します。
フォトダイオードとフォトダイオード・アンプ
フォトダイオード・アンプについて述べる前に、フォトダイオードについて簡単に触れておきます。この素子は、PN接合部に光が当たると電圧や電流を発生させるデバイスです。図1にその等価回路を示します。分光法に使用する代表的なデバイスとして、このモデルにはシャント抵抗、シャント・コンデンサと並列に接続された光の強度に依存する電流源が含まれています。シャント抵抗の値は大きな抵抗値を示し、シャント・コンデンサに関しては小さいデバイスの場合50pF程度、非常に大きいデバイスでは5000pFを超えるものがあります。
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図2は代表的なフォトダイオードの伝達特性です。この曲線は通常のダイオードと非常によく似ていますが、フォトダイオードでは光を当てると曲線全体が上下に移動します。図2bは、光が当たっていない場合の伝達関数の原点付近を拡大した図です。バイアス電圧がゼロでない限り、フォトダイオードの出力もゼロにはなりません。この状態の出力電流を暗電流と呼び、通常10mVの逆バイアスでの出力をスペック規定しています。大きな逆バイアスでフォトダイオードを動作(光伝導モード)させると応答が速くなりますが、ゼロバイアスで動作(光起電モード)させると暗電流はなくなります。実際には、アンプの入力オフセット電圧によってフォトダイオードの電極間にわずかな電位差が生じるため、光起電モードでも暗電流を完全になくすことはできません。
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フォトダイオードを光起電モードで動作させる場合、トランスインピーダンス・アンプ(TIA)はバイアス電圧をほぼ0Vに維持して、フォトダイオード電流を電圧に変換します。TIAの最も基本的な形式を図3に示します。
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DCエラー源
理想的なオペアンプではアンプの反転入力は仮想接地電位となり、すべてのフォトダイオード電流は帰還抵抗Rfを通じて流れます。Rfの一方の端が仮想接地電位であると、出力電圧は単純にRf × Idとなります。この近似計算値が成立するには、オペアンプの入力バイアス電流と入力オフセット電圧を小さい値に保つ必要があります。さらに、入力オフセット電圧が小さければ、フォトダイオードの暗電流が最小限に抑えられます。このような条件に適したアンプがAD8615で、室温における最大リーク電流が(入力バイアス電流)1pA、最大オフセット電圧は100μVです。この例では、最大光入力で必要な出力レベルを得るために、Rf =1MΩとしました。
残念ながら、フォトダイオード・アンプ回路の設計は、図3に示す回路用にオペアンプを選択するだけの簡単な作業ではありません。オペアンプの帰還経路に単にRf = 1MΩを挿入しただけの回路では、フォトダイオードのシャント容量によってオペアンプが発振することがあります。これを示すために、代表的な大面積フォトダイオードのCs とRsh を表1に示します。表2はAD8615の主な仕様を示したものです。AD8615は入力バイアス電流、オフセット電圧、ノイズ、容量がいずれも小さいため、精密フォトダイオード・アンプ用に最適です。
表1. フォトダイオードの仕様
パラメータ | 記号 | 値 |
シャント容量 | Cs | 150 pF |
シャント抵抗 | Rsh | 600 MΩ |
表2. AD8615の仕様
パラメータ | 記号 | 値 |
入力容量、差動 | Cdiff | 2.5 pF |
入力容量、同相モード | Ccm | 6.7 pF |
合計入力容量(TIA) | Ci = Cdiff + Ccm | 9.2 pF |
ゲイン帯域幅積 | GBP | 24 MHz |
電圧ノイズ密度 | en | 7nV/√Hz、10kHz 時 |
電流ノイズ密度 | In | 50fA/√Hz、1kHz 時 |
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安定性を確保するための外付け部品の選択
図4aは、フォトダイオード・アンプ・モデルの好例です。このシステムのオープンループ伝達関数では、オペアンプのオープンループ応答(データシートに記載)による極が28Hzにあり、帰還抵抗とフォトダイオードの寄生抵抗および寄生容量による極がもう1つできます。この例に使用した部品の値からすると、この極は式1に示すように1kHz で発生します。
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(1) |
Rsh はRfよりも2桁大きいので、式1は次のような近似式に単純化できます。
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(1a) |
それぞれの極はオープンループ伝達関数に90°の位相シフトを発生させ、180°の合計位相シフトは、オープンループ振幅応答が0dBの線と交わるときの周波数よりもかなり低い位置になります。このため図4bに示すように、位相余裕がなく回路はほぼ確実に発振します。
動作を安定させるために、Rfと並列にコンデンサを配置することによって伝達関数にゼロを挿入することができます。このゼロは、0dBのクロスポイントの伝達関数の傾きを40dB/decadeから20dB/decadeに減少させ、位相余裕を正にします。安定性を保証するには、少なくとも45°の位相余裕が必要です。位相余裕が大きくなると応答時間が増加しますが、リンギングは少なくなります。コンデンサによってオープンループ応答に追加されたゼロはクローズドループ応答では極になるため、アンプのクローズドループ応答はコンデンサが大きくなるとともに低下します。45°の位相余裕で帰還コンデンサの値を計算する方法を式2に示します。
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(2) |
ここで、fuはオペアンプのユニティ・ゲイン周波数です。
このCfの値は、システムの動作が可能な最も高い実用帯域幅を決定します。もっと小さい容量を選択して位相余裕を小さくし、帯域幅を高くすることもできますが、出力がリンギングを起こしやすくなる恐れがあります。また、すべての部品には、最悪条件下でも安定性を保証するために考慮しておくべき許容差があります。この例では、Cf = 4.7pFを選択したため閉ループ帯域幅は34kHzとなりますが、これは多くの分光システムにおける標準的な値です。
帰還コンデンサ追加後の開ループ周波数応答を図5に示します。位相応答が30°以下に低下しているところがありますが、その位置はゲインが0dBに到達する位置から数ディケード離れているので、アンプの安定性が損なわれることはありません。
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プログラマブル・ゲインTIA
プログラマブル・ゲインのフォトダイオード・アンプを設計するひとつの方法は、想定される最も強い光が入力した場合でも線形領域の出力を維持できるトランスインピーダンス・アンプ(TIA)を使用して作ります。図6aに示すように、これと組み合わせるプログラマブル・ゲイン・アンプ(PGA)段は、光が弱い状態下でもTIAの出力を増幅でき、強度の強い信号に対しては1に近いゲインを実現します。もう1つの方法は、図6bに示すように、TIA内にプログラマブル・ゲインの機能を直接実装して第2段をなくすことです。
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TIAノイズの計算
トランスインピーダンス・アンプにおける3つの主要なノイズ源は、オペアンプの入力電圧ノイズと入力電流ノイズ、帰還抵抗のジョンソン・ノイズです。通常、これらのノイズ源はすべてノイズ密度(1Hzあたりのノイズ電圧)で表されます。RMS電圧に換算するには、ノイズ電力(電圧ノイズ密度の二乗)を算出して周波数で積分します。もっと簡単に正確に計算するには、ノイズ密度に等価ノイズ帯域幅(ENBW)の平方根を掛ける方法があります。クローズドループ帯域幅は、帰還抵抗Rfと補償コンデンサCfに支配される一次応答としてモデル化できます。安定性の例に示した仕様を使った場合、クローズドループ帯域幅は次のようになります。
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(3) |
3dB帯域幅を単極システムのENBW(実効帯域幅)に変換するには、π/2を掛けます。
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(4) |
以上でENBWが得られ、ここから帰還抵抗とオペアンプの電流ノイズによるRMSノイズを求めることができます。抵抗のジョンソン・ノイズは出力に直接現れ、オペアンプの電流ノイズは帰還抵抗通過後の出力電圧として現れます。
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(5) |
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(6) |
ここで、kはボルツマン定数、Tはケルビン単位の温度です。
最後のノイズ源は、オペアンプの電圧ノイズです。出力に現われるノイズは、入力ノイズにノイズ・ゲインを掛けた値です。トランスインピーダンス・アンプのノイズ・ゲインについて考える場合の最良の方法は、図7に示す反転アンプから始めることです。
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この回路のノイズ・ゲインは次の通りです。
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(7a) |
図4aに示すフォトダイオード・アンプのモデルを使用すると、ノイズ・ゲインは次のようになります。
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(7b) |
ここで、Zfは帰還抵抗とコンデンサの並列合成値、Zinはフォトダイオードのシャント容量を含めたオペアンプの入力容量とシャント抵抗の並列合成値です。
この伝達関数には複数の極とゼロが含まれており、手計算による解析は面倒です。しかし、先に挙げた例の値を使用すれば、おおまかな近似を行うことができます。DC付近の周波数では抵抗が支配的で、ゲインは0dBに近くなります。これは、ダイオードのシャント抵抗が帰還抵抗よりも2桁ほど大きいことによります。周波数が大きくなってくると、コンデンサのインピーダンスが小さくなってゲインを支配し始めます。オペアンプの反転ピンからグラウンドへの合計容量は帰還コンデンサCfよりはるかに大きく、周波数とともにゲインが増え始めます。幸い、帰還コンデンサと帰還抵抗によって形成される極がゲインの上昇を阻むためゲインの増加は無限には続かず、最終的にはオペアンプの帯域幅に制限されてゲインのロールオフが始まります。
周波数の変化に伴うアンプのノイズ・ゲイン挙動、および伝達関数の各極およびゼロの位置を図8に示します。
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抵抗のノイズ密度と同様に、図8の出力ノイズ密度をVrmsで表した電圧ノイズに換算する最も正確な方法は、ノイズ密度を二乗して周波数スペクトラム全体にわたって積分し、その平方根を求めることです。しかし、応答を調べた結果は、これよりもはるかに簡単な方法でも生じる誤差がわずかであることを示しています。大部分のシステムでは、最初のゼロと極は、二番目の極に比べて比較的低い周波数で発生します。たとえば表1と表2の仕様を使用した場合、回路の極とゼロは次のようになります。
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(8) |
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(9) |
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(10) |
ノイズのピークは次の位置になります。
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(11) |
fz1とfp1の発生位置は、fp2に比べて比較的低い周波数である点に注意してください。DCからfp2までの全域にわたって、出力ノイズがプラトー部分(台形の上の平坦部分)のノイズ(式11のN2)に等しいと単純に仮定すると、出力ノイズの算出に必要な計算を大幅に単純化することができます。
このような仮定をすれば、出力ノイズは入力ノイズ密度にプラトー部分のゲインとENBWを掛けた値に等しくなり、その値はfp2 × π/2となります。
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(12) |
以上で、3つのノイズ源すべての出力換算ノイズが得られました。これらをまとめれば、全体的なシステム出力ノイズが得られます。3つのノイズ源はそれぞれ独立したガウス分布ノイズであるため、ここでは単純な加算値ではなく二乗和平方根(RSS)で総和を求めます。RSSを使用して複数の項をまとめる場合、1つの項が他の項の3倍を超えると、全体の値はその項に支配されます。
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(13) |
図8の応答から、オペアンプのノイズ帯域幅がその信号帯域幅よりはるかに広いことが明らかです。帯域幅を拡げてもノイズの原因になるだけであるため、出力にローパスフィルタを追加して信号帯域幅以外の周波数におけるノイズを減衰させます。帯域幅34kHzの単極RCフィルタを追加すれば、電圧ノイズは254μVrmsから45μVrmsに減少し、合計ノイズは256μVrmsからわずか52μVrms まで減少します。
プログラマブル・ゲイン段によるノイズ
トランスインピーダンス・アンプ(TIA)の後にプログラマブル・ゲイン・アンプ(PGA)を追加した場合、出力におけるノイズは、PGAのノイズと、TIAのノイズに追加されたゲインを掛けた値の和になります。たとえば、ゲイン1および10を必要とするアプリケーションにおいて、合計入力ノイズ密度が10nV/√HzのPGAを使うとすると、PGAによる出力ノイズは10nV/√Hzまたは100nV/√Hzとなります。
システムの合計ノイズを計算する場合も、表3に示すようにトランスインピーダンス・アンプのノイズ寄与分とPGAのノイズ寄与分の二乗和平方根により求めることができます。この例の場合、PGAに34kHzフィルタが含まれているものとします。すでに述べたように、ゲインが10の場合、トランスインピーダンス・アンプのノイズ寄与分は、PGAのゲインを掛けた値としてPGAの出力に現れます。
表3. TIA+PGAアーキテクチャの合計システム・ノイズ
PGA入力でのノイズ | 出力ノイズ G = 1 |
出力ノイズ G = 10 |
|
RCフィルタ付きTIA | 52 μVrms | 52 μVrms | 520 μVrms |
34kHz BW付きPGA | 2.3 μVrms | 2.3 μVrms | 23.1 μVrms |
合計RSSノイズ | 52 μVrms | 524 μVrms |
予想通り、PGAをゲイン10で動作させた場合の出力ノイズは、ゲイン1に設定した場合の10倍をわずかに上回る値になります。
単一ゲイン段のノイズ特性上の利点
次に述べる方法は、プログラマブル・ゲインのトランスインピーダンス・アンプを使用し、PGA段を完全になくしてしまうやり方です。1MΩと10MΩの2つのプログラマブル・トランスインピーダンス・ゲインがある回路の原理図を図9に示します。それぞれのトランスインピーダンス抵抗には、フォトダイオードの入力容量を補償するための専用コンデンサが必要です。先に挙げた例との一貫性を保つために、どちらのゲイン設定についても信号帯域幅は34kHzであるものとします。したがって、10MΩの抵抗には0.47pFのコンデンサを並列に接続します。この場合、1MΩの抵抗で動作させた場合の出力電圧ノイズは式12の値と同じです。10MΩのトランスインピーダンス・ゲインで動作させた場合は、抵抗を大きくするとジョンソン・ノイズ、電流ノイズ(この場合、電流ノイズには1MΩではなく10MΩを掛ける)、ノイズ・ゲインがいずれも大きくなります。同じ方法に従い、3つの主要ノイズ寄与分は次のように表されます。
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(14) |
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(17) |
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(18) |
したがって、合計出力ノイズは次のようになります。
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(19) |
帯域幅34kHzの単極RCフィルタを出力に追加するとノイズを低減でき、合計のシステム・ノイズは460μVrmsとなります。高ゲインのためにfp2は信号帯域幅にかなり近い位置になるため、ゲイン1MΩで動作させた場合ほど大きなノイズ低減効果はありません。
2つのアンプ・アーキテクチャにおけるノイズ性能の概要を表4に示します。10MΩのトランスインピーダンス・ゲインでは、二段回路の場合よりも合計ノイズが約12%減少しています。
表4. 合計システム・ノイズの比較
出力ノイズ、 プログラマブルTIA |
出力ノイズ、 PGAの後段にTIA |
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ゲイン = 1 | 52 μVrms | 52 μVrms |
ゲイン = 10 | 460 μVrms | 524 μVrms |
プログラマブル・ゲイン・トランスインピーダンス・アンプ
図9は、プログラマブル・ゲインのトランスインピーダンス・アンプの原理図です。これは優れたコンセプトですが、アナログ・スイッチのオン抵抗とリーク電流による誤差が生じます。オン抵抗は電圧および温度依存のゲイン誤差を発生させ、リーク電流は特に高温においてオフセット誤差を発生させます。
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図10に示す回路は、すべてのトランスインピーダンスレグ(帰還抵抗のオペアンプ出力側)に2つのスイッチを使用することによって、これらの問題を回避しています。この場合スイッチ数が2倍になりますが、左側のスイッチのオン抵抗は帰還ループ内にあるため、出力電圧は選択した抵抗を流れる電流のみに依存します。右側のスイッチは出力インピーダンスのようなもので、アンプがADCドライバのように高インピーダンスの負荷を駆動する場合に無視できる程度の誤差を発生するだけです。

図10の回路はDCおよび低周波数で動作しますが、オフ状態のスイッチに生じる寄生容量によってもう1つの課題が生じます。図10ではCpで示されているこれらの寄生コンデンサは未使用の帰還経路を出力に接続するため、全体的な帯域幅を減少させます。図11は、これらのコンデンサが未選択のゲイン・レグを接続してしまう結果、実質的にトランスインピーダンス・ゲインを変化させて、選択したゲインと減衰された未選択ゲインを並列に組み合わせてしまう状態を示しています。
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必要な帯域幅と帰還抵抗によっては、寄生容量のためにアンプの予想された動作と実際に測定された動作との間に大きな違いが生じてしまうことがあります。たとえば図11のアンプにおいて、先に挙げた回路と同じ1MΩと10MΩの抵抗を使用し、それぞれに4.7pFと0.47pFのコンデンサを接続して、10MΩのゲインを選択したとします。さらに、それぞれのスイッチのフィードスルー容量が約0.5pFであるとして、寄生経路を考慮に入れた場合の理想的な帯域幅と実際の帯域幅の差を図12に示します。

この問題を解決する1つの方法は、各スイッチを2個の直列スイッチに交換することです。これによって部品数が増えますが、寄生容量は半分に減少します。この方法を図13に示します。

もっと広い帯域幅が必要な場合は、第三の方法としてSPDTスイッチを使用し、未使用の入力をすべてグラウンドに接続することができます。開放状態の各スイッチによる寄生容量は回路内に残りますが、図14bに示すように、それぞれ の寄生容量はオペアンプの出力とグラウンドの間、あるいは未使用の帰還レグからグラウンドの間に現れます。アンプ出力とグラウンド間の容量は、安定性を損ねてリンギングを発生させる傾向がありますが、この場合の合計寄生容量は数ピコファラドに過ぎないため、出力に大きく影響することはありません。反転入力とグラウンドの間に生じる寄生容量は、フォトダイオードのシャント容量とオペアンプ自体の入力容量に加算されますが、その増加の割合は、フォトダイオードの大きなシャント容量に比べると無視できる程度のものにすぎません。各スイッチのフィードスルー容量が0.5pFだとすると、オペアンプの出力には2pFの負荷が追加されますが、これは大部分のオペアンプの動作にとって問題ではありません。
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何でもそうですが、図14の方法にもトレードオフがあります。ゲインの種類が2種以上になると、複雑になってきて実装が困難になることがあります。さらに、帰還ループ内に2つのスイッチがあるため、DC誤差や歪みが生じます。帰還抵抗の値によっては、これらの小さな誤差を吸収するために余分な帯域幅が必要になることがあります。たとえば、1MΩの帰還抵抗を使用する場合、ADG633のオン抵抗により室温で約50ppmのゲイン誤差と5μVのオフセット誤差が発生します。しかし、そのアプリケーションが最大限の帯域幅を必要とする場合、これは妥当なトレードオフと言えます。
結論
フォトダイオード・アンプは、大部分の化学分析および要素分析の信号チェーンに不可欠な部品です。プログラマブル・ゲインによって、非常に広いダイナミック・レンジを正確に測定する計測器を設計することができます。本稿では、広帯域幅と低ノイズを実現しながら、安定性を確保する方法を示しました。プログラマブル・ゲインTIAの設計には、スイッチ構成、寄生容量、リーク電流、歪みなどに関する課題が伴いますが、適切な構成を選択し、正しいトレードオフを行えば、優れた性能を実現することができます。
EngineerZoneのAnalog Dialogue Communityに掲載している”Programmable-Gain Transimpedance Amplifiers”についてのブログ(英語)についてのコメントもお待ちしております。