低抵抗値シャント抵抗のレイアウトパッドの改善による高電流検出精度の最適化

はじめに

電流検出抵抗にはさまざまな形状とサイズがあり、様々なシステム、自動車、パワー制御、工業用システムにおける電流測定に用いられます。非常に低い値の抵抗(数ミリオーム以下)を使用するとき、ハンダの抵抗成分が検出素子抵抗の大部分を占めることになり、測定誤差が大幅に増大します。この誤差を低減するため、高精度アプリケーションでは一般に4端子抵抗とケルビン・センスを使用しますが、このような専用抵抗は高価なものです。さらに、大電流を測定するときは、抵抗パッドのサイズとデザインは、検出精度を決定する上で重要な役割を果たします。本稿は、標準的な低価格の2パッド検出抵抗を4パッドのレイアウトで使用して、高精度のケルビン・センスを実現する代わりの方法について説明します。図1は、5つの異なるレイアウトによって生じる誤差を特性付けるためのテスト用ボードを示しています。

Figure 1
図1. 検出抵抗レイアウトのテスト用ボード

電流検出抵抗

0.5mΩという低い抵抗値まである、よく使用されている電流検出抵抗器は2512サイズのパッケージで、消費電力は最大3Wです。最悪時の誤差を明らかにするため、これらの実験では、1%の許容値を持つ0.5mΩ、3Wの抵抗(製品番号:ULRG3-2512-0M50-FLFSLT、Welwyn/TTelectronics 製)を使用します。図2に、その寸法と標準の4線式フットプリントを示します。

Figure 2
図2. (a) ULRG3-2512-0M50-FLFSLT抵抗の寸法;(b) 標準の4パッド・フットプリント

従来のフットプリント

ケルビン・センスでは、システム電流と検出電流に別のパスを設けるために、標準の2線式フットプリント内のパッドを分割する必要があります。図3は、このようなレイアウトの例を示しています。システム電流は、赤い矢印で示すパスを流れます。簡単な2パッド・レイアウトを使用する場合、全抵抗は次式で表すことができます。

Equation 1

抵抗の増加を避けるため、電圧センシング・パターンは検出抵抗パッドまで直線的に結線する必要があります。それでもシステム電流によって、上のハンダ接合部間に大きな電圧降下が発生するでしょう。しかし、検出電流が下のハンダ接合部間に引き起こす電圧降下はごくわずかです。したがって、このスプリット・パッド方式は、測定値からハンダ接合部の抵抗を除去し、システム全体の精度を改善します。

 Figure 3
図3. ケルビン・センス

ケルビン・フットプリントの最適化

図3に示すレイアウトは、標準的な2パッド方式に比べて大幅に進歩しています。しかし、非常に低い値の抵抗(0.5mΩ以下)では、パッド上の検出ポイントの物理的な位置と、抵抗を流れる電流の対称性がさらに重要になります。たとえば、ULRG3-2512-0M50-FLFSLTはソリッド金属合金抵抗であるため、パッドに沿った抵抗の長さが実効抵抗に影響を与えます。校正済みの電流を使用し、5つのカスタム・フットプリント間で電圧降下を比較することによって、最適な検出レイアウトを決めることができました。

テスト用ボード

図4は、テスト用ボード上に作成された5つのレイアウト・パターン(A~E)を示しています。可能な場合、色分けした点によって示されるように、検出パッドに沿ったさまざまな部分のテスト・ポイントにパターンを配線しました。個々の抵抗のフットプリントは次のとおりです。

  1. 2512の推奨フットプリントをベースにした標準的な4線式抵抗(図2(b) を参照)。検出ポイントのペア (XY) はパッド(x軸)の外側と内側のエッジ。
  2. Aと同様ですが、パッド領域をうまくカバーできるように、パッドを内側近くに引き伸ばしました(図2(a) を参照)。検出ポイントはパッドの中央と端。
  3. パッドの両側を使用することで、より対称的なシステム電流フローが得られます。また、検出ポイントをより中央の位置に移動します。検出ポイントはパッドの中央と端です。
  4. Cと同様ですが、システム電流パッドは一番奥のポイントで結合します。外側の検出ポイントだけを使用します。
  5. AとBのハイブリッド。システム電流は大きいパッドを流れ検出電流は小さいパッドを流れます。検出ポイントはパッドの外側と内側のエッジです。
 Figure 4
図4. テスト用ボードのレイアウト

ハンダはステンシルを使用して塗布し、リフロー炉によって処理しました。ULRG3-2512-0M50-FLFSLT抵抗を使用しました。

テスト手順

図5にテスト構成を示します。各抵抗を25℃に保持し、20Aの校正済みの電流を流しました。結果として得られる差動電圧は、抵抗温度が1℃以上上昇することを防ぐため、負荷電流を有効にした後で1秒未満測定しました。各抵抗の温度を監視して、テスト結果を25℃で記録するようにしました。20Aでは、0.5mΩ抵抗の両端での理想的な電圧降下は10mVです。

 Figure 5
図5. テスト構成

テスト結果

表1は、図4に示す検出パッド位置を用いて測定されたデータを示します。

表1. 測定電圧と誤差

フットプリント 検出パッド 測定値(mV) 誤差 (%)
A Y
9.55 4.5
  X 9.68 3.2
B Y
9.50 5
  X 9.55 4.5
C Y 9.80 2
  X 9.90 1
D X 10.06 0.6
E Y 9.59 4.1

X 9.60 4

上部パッド* 12.28 22.8
*ケルビン・センスなし。ハンダ抵抗に関連する誤差を明らかにするため、主要な高電流パッドの両端で電圧を測定しました。

観察

  1. フットプリントCとDは最も低い誤差を示し、同じような両者の結果と変動は個々の抵抗許容値の範囲内に入っています。許容できる部品配置に関連した問題が発生する可能性が少ないフットプリントCのほうが優れています。
  2. いずれの場合も、抵抗の外側端にある検出ポイントが最も正確な結果を出します。これは、メーカーのサイズ指定が抵抗の全長であることを示しています。
  3. ケルビン・センスを使用しない場合、ハンダの抵抗成分に関連して22%の誤差があることに注目してください。これは、約0.144mΩの抵抗値に相当します。
  4. フットプリントEは、非対称なパッド・レイアウトの影響を示しています。リフロー時に、部品は最も多くのハンダを持つパッドに引っぱられます。このタイプのフットプリントは避けてください。

結論

得られた結果に基づいて、最適なフットプリントはCであり、想定される測定誤差は1%未満となりました。図6は、このフットプリントの推奨寸法を示しています。

Figure 6
図6. 最適なフットプリント寸法

検出パターンの結線も測定精度に影響を与えました。最高の精度を実現するため、検出電圧は抵抗のエッジで測定してください。図7に示す推奨レイアウトでは、ビアを使用してパッドの外側エッジを別の層に結線することで、メイン電源プレーンが切断されないようにしています。

Figure 7
図7. 推奨のPCボード・パターン配線

本稿のデータはすべての抵抗に適用できるものではなく、抵抗の組成とサイズによって結果は異なります。抵抗のメーカーとご相談ください。フットプリントのレイアウト寸法と構造を個々のSMT製造条件に適合させることは、ユーザの責任です。アナログ・デバイセズ社は、このフットプリントを使用した結果として起こり得るいかなる問題にも責任を負いません。

著者

Marcus OSullivan

Marcus O'Sullivan

Marcus O’Sullivanは、1999年にアナログ・デバイセズに入社し、アプリケーション・エンジニアとしてパワーマネジメント・グループに勤務しています。リメリック大学で電子工学の工学士号を取得しました。