概要
現在では、電源の設計を支援するためのものとして様々なツールが提供されています。なかでも広く活用されているのは、各種の計算ツールやシミュレーション・ツールなどでしょう。それに対し、アーキテクチャを設計するためのツールはそれほど広く使われていません。実際には、その種のツールは電源システムを開発する際、非常に役に立ちます。電源を開発する際の最初のステップとしてそれらのツールを活用すれば、最適なアーキテクチャを設計するための基礎を固められます。
はじめに
電源システムの設計/開発に向けては様々なツールが提供されています。それらのツールは技術者の負担を大幅に軽減します。アナログ・デバイセズが提供する「LTspice®」も、そうしたツールの1つです。これを使用すれば、パワー・コンバータ回路のシミュレーションを実施できます。様々な電圧/電流信号を用いてシミュレーションを実行することにより、電源回路を適切に改良したり、調整を加えたりすることが可能になります。その結果、電源回路の特性を特定の要件に近づけることができます。
「LTpowerCAD®」も有用な計算ツールです。シミュレーション・ツールであるLTspiceとは異なり、LTpowerCADは様々な計算を実行するために使用します。入力電圧範囲、出力電圧、負荷電流、出力電圧リップルなど、様々な仕様を考慮しながら計算を実施することで、回路の最適化を図ることができます。また、LTpowerCADは、適切なパワー・コンバータICの選択と、それに対応する最適な外付け受動部品の選択を支援してくれます。つまり、LTpowerCADは、LTspiceによる回路シミュレーションを実施する前に使用すべきツールだと言えます。
電源システムを設計/開発する際にはもう1つ重要な作業を行う必要があります。それは、電源システムのアーキテクチャを定義することです。つまり、パワー・ツリーの構造を決定することが重要になります。通常、アプリケーション・システムに適用する完全な電源システムを構築するには、複数種の電圧を生成するために複数のパワー・コンバータを使用する必要があります。ただ、それらによって構成されるパワー・ツリーは様々な形態で実現可能です。アナログ・デバイセズは、そうした電源のアーキテクチャを決定する際に利用できるものとして「LTpowerPlanner®」を提供しています。このツールを使用すれば、異なるアーキテクチャによって生じる違いを計算によって明らかにすることができます。その結果は、ツール上にわかりやすく表示されます。
LTpowerPlannerの活用方法
図1に示したのは、LTpowerPlannerの使用例です。この画面には、24Vの入力電圧を使用する電源のアーキテクチャが表示されています。この構成により、複数の電源電圧と負荷電流を生成できます。LTpowerPlannerでは、複数のブロックを線でつなぐことにより、電源のアーキテクチャの構造を簡単に作図することができます。また、個々のブロックをクリックすることにより、それぞれの電力変換効率を設定することが可能です。入力作業を終えたら、アーキテクチャ全体に関するあらゆる計算を実行することが可能になります。図1のアーキテクチャの場合、全体としての効率は91.6%になります。この結果は、画面の左下に表示されています。
LTpowerPlannerのようなツールを使用すれば、異なるアーキテクチャの性能を比較できます。図2に示したのは、図1と同じ仕様を満たすソリューションの例です。ご覧のとおり、両者の構造には違いがあります。LTpowerPlannerを使用すれば、図1のソリューション(以下、ソリューション1)と図2のソリューション(以下、ソリューション2)の性能を比較することができます。ソリューション2では、リニア・レギュレータ(LDOレギュレータ)を使用することで、2.8Vの入力電圧から1.2Vの電源電圧を生成しています。このような構成を採用すれば、ソリューション1のようにConverter 4を使用する場合よりもコストの面で有利になります。
ソリューション2では、ソリューション1に対してもう1つの変更を加えています。どちらのソリューションでも、Converter 2によって3.3Vの電源電圧を生成している点に変わりはありません。ただ、ソリューション1では、24Vの入力電圧から直接3.3Vの電源電圧を生成しています。それに対し、ソリューション2では5VのDCリンクから3.3Vの電源電圧を生成しています。
図1と図2を見ると、アーキテクチャの構造だけでなく、効率の計算結果も確認できます。すると、アーキテクチャ2の全体の効率は86.3%しかないことがわかります。つまり、ソリューション1と比べて5.3%も低くなっているということです。
ただ、どちらのアーキテクチャを選択すべきなのかは様々な側面から検討しなければ判断できません。つまり、アーキテクチャ全体の効率だけでなく、各ソリューションのコストやサイズなども比較する必要があるということです。LTpowerPlannerのような視覚化を実現するツールを使用すれば、そうした検討が容易になります。
LTpowerPlannerは、電源のアーキテクチャを設計するためのスタンドアロンのツールとして使用できます。同ツールは、アナログ・デバイセズのウェブサイトから無償でダウンロード可能なLTpowerCADに含まれています。図3に示したLTpowerCADの画面で「System Design」のアイコン(青色)をクリックすると、LTpowerPlannerが起動します。
LTpowerPlannerの目的は、異なる電源アーキテクチャの全体像を明確に示すことです。また、同ツールが備える計算機能を使用すれば、どのアーキテクチャが効率の面で優れているのかを把握することができます。
まとめ
アナログ・デバイセズは、パワー・マネージメントを対象とした様々なツールを提供しています。電源システムを設計する際、最初に行うべきステップはそのアーキテクチャを最適化することです。その作業を簡素化してくれるのがLTpowerPlannerです。これを使用すれば、様々なパワー・ツリーの構成図を簡単に作成できます。それらの図を基にすることで、効率などの比較が容易になります。効率の値は、同ツールが備える計算機能を使用することで算出できます。候補となるアーキテクチャに関する貴重な情報が得られるので、アーキテクチャの構成を迅速に決定することが可能になります。