はじめに
液体を注入する工程では、その量を正確に把握しなければなりません。つまり、液体の水位を正確に検知できるようにするために、高精度で容易に実現可能な手法が必要になります。本稿では、分解能が24ビットの容量/デジタル・コンバータを使用して、高い精度で液体の水位を検知する手法を紹介します。
容量の基礎
容量(キャパシタンス)は、コンデンサ(キャパシタ)がどれだけの電荷を蓄積できるのかを表す指標です。容量Cは次式で求められます。
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図1に示すコンデンサでは、面積がAの2枚の金属板が距離dの間隔を保って平行に配置されています。この場合の容量Cは次式で表されます。
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この式についての詳細は以下のとおりです。
- Cは容量で、単位はF(ファラド)
- Aは2枚の板がオーバーラップしている部分の面積であり、a×bで求められる
- dは2枚の板の間の距離
- εRは比誘電率
- εOは真空の誘電率で、その値は約8.854×10-12Fm-1
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容量/デジタル・コンバータ
続いて、容量/ デジタル・コンバータ( C D C :Capacitance-to-Digital Converter)の具体例を紹介します。アナログ・デバイセズ(ADI)は高分解能のシグマ・デルタ(Σ Δ)方式CDCを提供しています。「AD7745」は1 チャンネル、「AD7746」は2 チャンネルのCDC製品で、いずれも入力に直接接続された容量の値を測定することができます。分解能はミッシング・コードなしの24ビットで有効分解能は21ビットです。また、直線性は±0.01% 、精度は±4fF( 工場からの出荷時に校正)と、いずれも高い性能を実現しています。両製品は、水位 、位置、圧力などの物理パラメータの測定に使用するセンサーとして最適です。
AD7745とAD7746は機能的に完結した製品です。マルチプレクサ、励起用のソース、入力容量の調整に使用するスイッチド・キャパシタ方式のD/Aコンバータ(CAPDAC)、温度センサー、電圧リファレンス、クロック・ジェネレータ、制御/キャリブレーション(校正)用のロジック回路、I2C互換のシリアル・インターフェース、電荷平衡型の2次ΣΔモジュレータと3次デジタル・フィルタで構成される高精度のコンバータ・コアを内蔵しています。このコンバータ・コア(CDCコア)は容量入力に対してはCDCとして動作し、電圧入力に対してはA/Dコンバータ(ADC)として動作します。
測定の対象となる容量Cxは、ΣΔモジュレータ(CDCコア)の入力と励起用のソースの間に接続します。励起信号としては矩形波を使用します。この信号は、変換動作の間、Cxに印加されます。ΣΔモジュレータはCxの電荷を継続的にサンプリングし、0と1のストリーム・データに変換します。デジタル・フィルタはΣΔモジュレータの出力である0と1のストリーム・データを処理し、1の密度で表される容量値を求めます。フィルタの出力はキャリブレーション係数によってスケーリングされます。最終的な結果は、外部のホストからシリアル・インターフェースを介して読み取ることができます。
図2に示した4種の構成図は、いずれもCDCを使用した容量検知方法を表したものです。それぞれ、シングルエンド、差動、接地型、浮動型のセンサー・アプリケーションに対応します。
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容量式の水位検知方法
続いて、液体の水位を監視する簡単な方法を説明します。この方法では、図3に示したように、液体の中に平行板コンデンサを浸します。水位が変化したら平行板の間の誘電体の値が変化するため、容量値も変化します。図中でC2として示した第2の容量センサーはリファレンスとして使用します。
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εR(Water)はεR(Air)より十分に大きいため、センサーの容量は液体に浸された部分の容量によって近似できます。したがって、液体の水位は以下に示すようにC1/C2として算出できます。
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ここでLevelは液体に浸された部分の平行板の長さ、Refはリファレンス・センサーの平行板の長さを表します。
容量式の水位検知システムのハードウェア
2つの容量測定チャンネルを備えたAD7746は、水位検知の用途に非常に適しています。図4に、そのためのシステムのブロック図を示しました。このシステムでは、容量式センサーとリファレンスの容量値がデジタル・データに変換されます。それらのデータはI2Cポートを介してホストPCまたはマイクロコントローラに送信されます。
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正確な測定のために、プリント回路基板の設計が非常に重要です。図5はセンサー用のボード(4層のプリント回路基板)とCDCの接続を表しています。精度を得るために、AD7746は基板の表面の2枚の金属板にできるだけ近い位置に実装します。グラウンド・プレーンは基板の背面で露出されています。このアプリケーションでは、2つの入力チャンネルを使用します。図6に実際の基板の外観を示します。
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このセンサー用の基板は、2枚の平行板ではなく、2枚のコプレーナ線路(金属板)を使用して設計されています。平行板の場合、誘電体はプリント基板の材料、空気、液体によって形成されます。一方、基板内部のコプレーナ層は直接液体に触れる必要はありません。コプレーナ線路長当たりの容量は次の式で近似できます。
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この式の詳細について以下にまとめます。
- dは2本の平行線路の中間点間の距離
- lは線路の長さ
- wは各線路の幅(線路の幅は等しいと仮定)
- tは線路の厚さ
- 実効比誘電率εR(eff)はdとhの比によって決まる(hはプリント基板の厚さ)
- d/hが1より十分に大きい場合、εR(eff)はほぼ1
- d/hがほぼ1の場合、εR(eff)は(1+εR)/2
コプレーナで構成したセンサーの線路長当たりの容量はほぼ一定です。そのため、上式から、測定された容量値は液体に浸された部分の長さに比例することがわかります。「LabVIEW®」(National Instruments社製)によって開発したソフトウェアを使用し、システムのキャリブレーションを実行することで、さらに高い精度を得ることができます。
LabVIEWで開発したソフトウェア
LabVIEWを用いて、PC上で動作するソフトウェアを開発しました。このソフトウェアでは、CDCからI2C互換のシリアル・インターフェースを介してデータを取り出す処理を実行します。図7に示したのは、PC向けに開発したGUI(Graphical User Interface)です。液体の水位を検知するデモ用システムの稼働中に、水位、周囲温度、電源電圧の各値がリアルタイムで表示されます。
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液体の水位は次式によって得られます。
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LabVIEWで開発したプログラムには、基本的なキャリブレーション機能と高精度の測定を実現するための高度なキャリブレーション機能を用意しています。「Dry(基本) 」キャリブレーションは、上式のC1DRYとC2DRYを求めるために使用します。上式のGainとOffsetは、0"(インチ)と4"におけるキャリブレーションによって求められます。つまり、各キャリブレーションで決まる二元一次方程式を解くことで求められます。なお、リファレンス・コンデンサは、キャリブレーションと測定処理の実行中は液体に浸しておく必要があります。
まとめ
本稿では、容量式センサーを使って液体の水位を検知するデモ用システムを紹介しました。
参考資料
AD7746 Evaluation Board Technical Documentation
(AD7746の評価用ボードに関する技術資料)
Jia, Ning. “ADI Capacitance-to-Digital Converter Technology in Healthcare Applications” Analog Dialogue, Volume 46, Number 2, 2012.
Jim Scarlett「容量‐デジタル・コンバータにより、診断システムのレベル検出を容易化」Analog Dialogue48-04
Walker, Charles S. Capacitance, Inductance and Crosstalk Analysis, Artech House, 1990, ISBN: 978-0890063927.