リチウムイオン・バッテリの充電に必要な高精度の電圧検出

±1%精度の終止電圧を保証するバッテリ・チャージャ用のコントローラIC

携帯型のシステムでは、リチウムイオン(Li-ion)バッテリの普及が更に進んでいます。同じく再充電が可能なニッカド(NiCad)バッテリやニッケル水素(NiMH)バッテリと比べると、同じ大きさ、同じ重さでも、より大きな容量が得られるからです。例えば、リチウムイオン・バッテリを搭載した携帯型のコンピュータ機器では、ニッケル水素バッテリを搭載した同様のコンピュータ機器と比べてより長い動作時間を実現できます。但し、リチウムイオン・バッテリを利用する場合には、充電回路の設計に特別の注意を払わなければなりません。それにより、バッテリを早く、安全に、完全に充電できるようになります。

アナログ・デバイセズは、バッテリ・チャージャICとして「ADP3810」を提供しています*。同ICは、特に1~4セルのリチウムイオン・バッテリの充電制御をターゲットとして設計されました。リチウムイオン・バッテリの充電においては、終止電圧が非常に重要な意味を持ちます。同ICを採用すれば、±1%の精度で終止電圧を維持することが可能になります。また、終止電圧(固定値)としては4.2V、8.4V、12.6V、16.8Vという4種の値に対応します(オプション)。また、同ICのファミリ製品として、「ADP3811」も提供しています。この製品の場合、終止電圧の値をユーザがプロブラムできることに加え、他の種類のバッテリにも対応できます。両ICを使用すれば、充電電流を正確に制御することができます。また、1A以上の電流で高速な充電を実現することが可能になります。加えて、両デバイスは2.0Vを生成する高精度の電圧リファレンスを内蔵しています。更に、絶縁アプリケーションに対応できるように、フォトカプラを直接駆動するための出力も備えています。

リチウムイオン・バッテリの充電: 通常、リチウムイオン・バッテリを使用する場合、CCCV(Constant Current, Constant Voltage)方式の充電アルゴリズムが必要になります。すなわち、リチウムイオン・バッテリの充電は、終止電圧に達するまで設定された電流レベル(通常1A~1.5A)で行わなければなりません。終止電圧に到達したら、チャージャ回路は定電圧モードに切り替わり、バッテリを終止電圧(通常はセル当たり4.2V)に維持するために必要な電流を供給します。そのため、チャージャ回路は、バッテリの状態に応じて電流または電圧を一定の値に維持するための安定した制御ループを備えていなければなりません。

リチウムイオン・バッテリの充電における主な課題は、その容量を最大限に活かしつつ、壊滅的な故障を引き起こす可能性のある過充電が生じないようにすることです。終止電圧について許容可能な誤差はわずか±1%です。1%を超える過充電が生じると、バッテリが故障する可能性があります。一方、1%以上の充電不足が生じると、バッテリの容量が低下します。リチウムイオン・バッテリの場合、わずか100mVの充電不足(4.2Vのリチウムイオン・セルの場合、-2.4%)が生じると、約10%の容量が失われることになります。許容可能な誤差が非常に小さいことから、充電制御回路には高い精度が求められます。そうした精度を達成するために、コントローラは次のようなコンポーネントを備えていなければなりません。すなわち、高精度の電圧リファレンス、オフセットが小さくゲインが高い帰還アンプ、高精度でマッチングした抵抗から成る分圧器です。これらすべてのコンポーネントによるトータルの誤差を、±1%未満に抑えなければなりません。逆に言えば、ADP3810は、これらのコンポーネントの誤差を含めて±1%の精度を保証しているということです。したがって、同ICは、リチウムイオン・バッテリ向けのチャージャICとして非常に優れていると言えます。

ADP3810/ADP3811の詳細: 図1は、ADP3810/ADP3811の機能ブロック図です。このような回路によって、CCCV方式のチャージャが実現されています。その性能の鍵を握るのは、2個のgmアンプ(電圧入力、電流出力)です。GM1はシャント抵抗RCSを介して充電電流を検出/制御します。一方、GM2は終止電圧の検出/制御を担います。これらの出力は、アナログ的にOR構成として接続されています。この回路は、GM1、GM2の出力によって両アンプが共有するCOMPノードをプルアップすることしかできないように設計されています。それにより、電流アンプと電圧アンプのうちいずれかが常に充電ループを制御するようになっています。COMPノードの信号は、gm型の出力段(GM3)でバッファリングされます。その出力電流は、直接DC/DCコンバータの制御入力を駆動します(絶縁アプリケーションの場合、フォトカプラを介して駆動します)。

図1. バッテリの充電回路。ADP3810/ADP3811のブロック図も簡略化して示してあります。
図1. バッテリの充電回路。ADP3810/ADP3811のブロック図も簡略化して示してあります。

ADP3810は、バッテリの電圧を抵抗分圧器で正確に分割し、内蔵電圧リファレンスが生成する2.0Vと比較します。その抵抗分圧器は、高精度の薄膜抵抗を使用して構成されています。ADP3811はそれらの抵抗は備えていません。そのため、以下の式に従い、終止電圧に対応して2つの外付け抵抗の値を決定(プログラム)します。充電電流をプログラムするためには、VCTRLピンからの入力を使用します。それを受け取るバッファ・アンプは、ハイ・インピーダンスの入力を備えています。また、低電圧ロックアウト(UVLO)回路はスムーズな起動を保証します。

数式 1

OR構成について理解していただくために、完全に放電されたバッテリにチャージャを適用した状態を考えます。バッテリの電圧は、終止電圧よりも十分に低いはずです。そのため、(バッテリに接続された)VSENSEからの入力によって、GM2の非反転入力の電圧が2.0Vのリファレンス電圧よりも十分に低くなります。そのため、GM2はCOMPノードをローに引き下げようとします。しかし、GM1と組み合わせられていることから、COMPノードは常にプルアップされます。つまり、COMPノードには影響は及びません。バッテリは完全に放電しているので、チャージャは充電電流の量を増やし始めます。その制御は電流ループが担います。充電電流によって、0.25Ωの電流検出抵抗RCSの両端には負の電圧が生じます。この電圧は、20kΩの抵抗R3を介してGM1によって検出されます。平衡状態では、(ICHARGERCS)/R3 = -VCTRL/80kΩが成り立ちます。したがって、充電電流ICHARGEは次式に従って維持されます。

数式 2

充電電流がプログラムしたレベルを超える傾向にある場合、GM1のVCS入力は強制的に負になり、GM1の出力がハイに駆動されます。それによりCOMPノードはプルアップされ、出力段からの電流が増大します。すると、DC/DCコンバータ(フライバック、降圧、リニアなど、様々なトポロジのものが使われます)の駆動が弱まり、最終的に充電電流が減少します。このような負帰還によって、充電電流の制御ループは成り立っています。

バッテリが終止電圧に近づくと、GM2の入力はバランスのとれた状態になります。ここでGM2はCOMPノードをハイに引き上げます。すると、出力電流が増加し、充電電流が削減され、VSENSEとVREFの値が等しく保たれます。この状態になったら、充電ループの制御の主体はGM1からGM2に移行します。2つのアンプのゲインは非常に高いので、電流制御から電圧制御への遷移は非常に急峻に行われます(図2)。なお、図2のデータは、図3に示すオフライン・チャージャ(10Vのバージョン)で取得しました。

図2. CCCV方式における電流/電圧の遷移。ADP3810を使って構成したチャージャの動作を表しています。
図2. CCCV方式における電流/電圧の遷移。ADP3810を使って構成したチャージャの動作を表しています。

完全なオフライン・チャージャ: 図3に示したのは、ADP3810/ADP3811を使用して構成した完全な充電システムです。このオフライン・チャージャ(絶縁型のチャージャ)では、コンパクトかつ低コストの設計を実現するために標準的なフライバック・アーキテクチャを採用しています。主要な構成要素は、1次側のコントローラ、パワーFETとフライバック・トランス、2次側コントローラの3つです。この設計では、ADP3810を直接バッテリに接続して使用します。また、充電電流は0.1A~1Aの値にプログラムします。それにより、2セルのリチウムイオン・バッテリを8.4Vまで充電します。入力範囲は70VAC~220VACなので、様々な用途で利用可能です。1次側で使用しているPWM(Pulse Width Modulator)ICは、業界標準の「3845」ですが、他の製品も使用できます。チャージャの実際の出力はADP3810/3811によって調整され、±1%以内の終止電圧が保証されます。

図3. リチウムイオン・バッテリ用の完全なオフライン・チャージャ
図3. リチウムイオン・バッテリ用の完全なオフライン・チャージャ

ADP3810/ADP3811を使えば、追加の回路を使用することなく、直接フォトカプラのフォトダイオードを駆動することができます。4mAの電流を出力可能なので、様々なフォトカプラに対応できます。この例では、フォトカプラとして「MOC8103」を使用しています。フォトトランジスタの電流は抵抗RFを流れ、3845のCOMPピンの電圧が設定されます。それにより、PWMのデューティ・サイクルが制御されます。同スイッチング・レギュレータ(3845)は、フォトカプラからのLED電流が増加するとデューティ・サイクルが小さくなるように設計されています。

平均充電電流は、ADP3810/ADP3811からの信号によって制御されます。ただ、1次側ではサイクルごとのスイッチング電流を制限する必要があります。この電流制限機能は、2次側の回路とフォトカプラの故障、動作不良を防ぐ役割を果たすように設計します。また、回路の起動時に1次側のパワー回路のコンポーネント(FETとトランス)に過度のストレスがかからないように設計しなければなりません。2次側のVCCが2.7Vを超えると、ADP3810/ADP3811によって平均電流の制御が行われるようになります。1次側の電流制限機能については、NMOSパワー・トランジスタ「IRFBC30」とグラウンドの間に接続された1.6Ωの電流検出抵抗によって設定を行います。

この回路全体の精度は、2次側の中核的な要素であるADP3810/ADP3811によって決まります。整流に必要なのは1個のダイオード(「MURD320」)だけです。フィルタのインダクタは必要ありません。また同ダイオードは、入力電力が切り離されたときにバッテリによってチャージャが逆駆動されることを防止します。1000µFのコンデンサCF1は、バッテリが存在しないときに安定性を維持する役割を果たします。先述したように、抵抗RCSは平均電流を検出します。ADP3810は直接(ADP3811の場合、分圧器を介して)バッテリに接続され、その電圧を検出して制御を行います。

この回路により、リチウムイオン・バッテリ用の完全なオフライン・チャージャを実現できます。フライバックのトポロジによってAC/DCコンバータとチャージャ回路を組み合わせることで、コンパクトかつ低コストの設計が得られます。システムの精度は、2次側のコントローラであるADP3810/ADP3811によって決まります。両ICのアーキテクチャは、他のバッテリ充電回路においても良好に機能します。例えば、ADP3810とDC/DCコントローラ「ADP1148」を組み合わせれば、標準的な降圧型のDC/DCチャージャを容易に設計できます。シンプルなリニア・チャージャも、ADP3810と外付けのパス・トランジスタを使うだけで実現することが可能です。あらゆるケースにおいて、ADP3810が備える高い精度により、リチウムイオン・バッテリの充電に必要な±1%の終止電圧を保証することができます。

技術関連のデータについては、www.analog.com/jpからお問い合わせください。

著者

Generic_Author_image

Joe Buxton