産業分野向けのLEDドライバ回路、電源のオン/オフ表示の用途に最適

概要

多くのシステムでは、電源のオン/オフの状態を視覚的に表すためにLEDが使用されています。本稿では、その種のLEDを駆動するためのシンプルかつ小型の回路を紹介します。その回路は、1個の抵抗と1個の小型ICで構成されます。本稿では、そのICの具体的な例として「MAX22191」を取り上げることにします。同ICは、もともとこの用途のために設計されたものではありません。しかし、このICによって、従来のソリューションで使用されていた数多くのコンポーネントを置き換えることができます。MAX22191はスタンドアロンで動作する製品であり、消費電力が少ないことを特徴とします。それに加え、配線ミスに対する堅牢性を備えています。これらの特徴から、産業用システムやそれに類似するシステムでの利用に適しています。

はじめに

産業分野の制御システムでは、フィールド電源電圧としてほぼ例外なく24V DCが使われます。そして、電源のオン/オフの状態は、LEDの点灯/消灯によって視覚化することが一般的です。多くの場合、そのためのLED(以下、電源用LED)はコントローラのヘッド・ユニット、I/Oモジュール、通信モジュールなどに実装されます。電源用LEDは、各種の機器/コンポーネントの設置作業、保守作業、ダウンタイムを最小限に抑えるために役立ちます。対象とする機器/コンポーネントの例としては、PLC(Programmable Logic Controller)やDCS(Distributed Control System)コントローラといった産業用のシステム/サブシステム、電源ユニット、センサー、アクチュエータなどが挙げられます。電源用LEDは、電源電圧の値が規定の範囲内にあるなど、定義された条件が満たされた場合に点灯する必要があります。その概念はシンプルですが、実際にはそれほど単純に設計/実装できるわけではありません。例えば、ヒステリシスを備える電圧コンパレータが必要になります。また、自己給電型の回路を実現しなければなりません。その上で、安定した状態で電源用LEDを駆動できるようにする必要があります。

更には、以下のような要件も満たさなければなりません。

  • 消費電力を少なく抑える
  • 電源電圧が、対象とする機器/コンポーネントの最小動作電圧を下回る場合にはLEDを消灯する
  • 光強度が電源電圧に左右されないようにする
  • 過電圧に対する耐性を備える回路を構築する
  • 配線ミス(電源が逆向きに接続されて負電圧が印加されるなど)に対する堅牢性を実現する

シンプルな回路であっても、その性能はコンポーネント、温度、電圧の変動に大きく依存する可能性があります。このことも課題になり得ます。

背景

本稿で紹介するのは、電源用LEDを駆動するためのドライバ回路です。ただ、その回路は一般的なドライバICではなく、産業用のデジタル入力ICを流用して実現します。つまり、本来の目的とは異なる形でデジタル入力ICの機能を活用するということです。一般に、産業用の制御システムの入力部は、24Vのロジック信号をベースとします。そして、入力電流、入力電圧の仕様や入力閾値電圧の値が明確に定義されています。例えば、シンク入力(p型入力とも呼ばれる)のプルダウン電流については次のような定義が存在します。すなわち、産業分野で最も一般的なタイプ3の入力については、ハイ側の最大入力閾値電圧が11Vの場合、プルダウン電流は2.0mA以上と規定されているといった具合です。今日のデジタル入力回路では、消費電力を最小限に抑えるために入力電流の値が制限されています。具体的には、上記の2.0mAという下限値を少しだけ上回るレベルになるよう厳格に調整されます。

回路のアイデア

上述した2.0mAという電流のレベルは、LEDの一般的な駆動電流の値と合致しています。また、産業用のデジタル入力についてはスイッチングの閾値が明確に定義されています。これらの理由から、本稿で紹介する回路のアイデアが生まれました。そのアイデアとは、シングルチャンネルのデジタル入力ICが、電源電圧の監視とLEDの駆動に適しているのではないかというものです。図1に示すのが、本稿で提案するアプリケーション回路の例です。産業用のデジタル入力ICであるMAX22191は、OUTピンによってフォトカプラを駆動することを想定して設計されています。同ICのREXTピンには、OUTピンから出力される電流の値を設定するための抵抗を接続します。具体的には、2.0mA~2.6mAの値を設定することが可能です。

Figure 1. Supply monitoring LED driver. 図1. 本稿で提案するLEDドライバ回路。電源電圧を監視し、その状態に応じてLEDを駆動します。
図1. 本稿で提案するLEDドライバ回路。電源電圧を監視し、その状態に応じてLEDを駆動します。

図1に示したように、MAX22191は電流源を内蔵しています。その電流値の許容誤差は±12.5%です。温度、入力電圧の変動や、部品間のバラツキがあってもこのレベルの精度が確保されます。その結果、電源電圧に応じた光強度のバラツキは無視できるレベルになることが保証されます。電流源に対応して規定されているOUTピンの出力コンプライアンス電圧は5.5Vです。そのため、今日のほとんどのLEDを駆動することが可能です。更に、MAX22191の電源電流はわずか110μA(代表値)です。したがって、ソリューション全体の消費電力を少なく抑えることができます。

ここで図2をご覧ください。これを見ると、入力電圧(電源電圧)が9V(代表値)になるとLEDの駆動電流が急峻に立ち上がり、8V(代表値)になると降下することがわかります。つまり、1Vのヒステリシスが設けられているということです。MAX22191のデータシートに入力電圧の閾値電圧として規定されている値が、LEDがオンになる最大閾値電圧とLEDがオフになる最小閾値電圧に相当します。より高い閾値電圧が必要な場合には、図3に示すように回路を構成します。つまり、電源電圧とINピンの間に直列抵抗RINを追加します。同抵抗の値は、RIN =[閾値電圧の増分]/IINで計算できます。

図2に示したように、LEDがオンの状態では入力電圧の値が変化しても駆動電流の値は一定です。この点が、シンプルなバイポーラ/MOSトランジスタによってLEDを駆動する場合とは大きく異なります。バイポーラ/MOSトランジスタを使用する場合、トランジスタのアーリー電圧によって電流と電圧の依存関係が格段に高くなります。

Figure 2. LED current vs. supply voltage. 図2. 電源電圧(入力電圧)とLEDの駆動電流の関係
図2. 電源電圧(入力電圧)とLEDの駆動電流の関係

LEDの制御

電源電圧の値だけでなく、ロジック制御によって電源用LEDの点灯/消灯を実施したいケースもあるでしょう。その場合、図3に示すようにTESTピンを使用すると便利です。例えば、パワーアップ時の遅延に関する機能、点滅の機能、オン/オフ以外のステータスの表示機能などを実装することができます。

Figure 3. Circuit with on/off control and increased threshold voltage. 図3. 閾値電圧を引き上げた回路。オン/オフの制御も行えます。
図3. 閾値電圧を引き上げた回路。オン/オフの制御も行えます。

高い堅牢性

本稿で提案したソリューションは、-40℃~125℃の動作温度範囲に対応します。INピンに入力される電源電圧の許容範囲は-70V~60Vです。広範な電圧に対応できるので、サージに対する保護のためのヘッドルームを確保できます。また、配線ミスによって電源が逆向きに接続された場合に対応可能な堅牢性も得られます。逆接続によって負の入力電圧が印加された場合、この回路の入力電流は1μAに抑えられます。

まとめ

MAX22191を使用すれば、LED用電源を駆動するアプリケーションをシンプルに構成できます。同ICは、パッケージとしてSOT23を採用しています。本稿で紹介した回路は、このICと消費電力の少ない電流設定用の抵抗しか必要としません。そのため、ソリューションのサイズを小さく抑えられます。

著者

Reinhardt Wagner

Reinhardt Wagnerは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のディスティングイッシュト・エンジニアです。産業用オートメーション・グループに所属しています。もともとはMaxim Integrated(現在はアナログ・デバイセズに統合)に在籍していました。21年間にわたるキャリアを通じ、産業分野で使われる新たな通信用ICや入出力用ICの定義に従事。携わった製品の分野としては、IO-Link、高速デジタルI/O、Beyond-the Rails™技術を採用したアナログ・スイッチ、デジタル・アイソレータなどが挙げられます。