マシン・ビジョン・システムでは、非常に短い期間に強い光を放つフラッシュを使用します。それによって、様々なデータ処理アプリケーションで使用する画像データを高速で生成します。例えば、高速で物体を運搬するベルト・コンベアでは、ラベルの確認や欠陥の検査を瞬時に実施するために、マシン・ビジョン・システムで監視を行います。近接センサーやモーション・センサーに対応するマシン・ビジョン・システムでは、通常、IR(赤外線)タイプやレーザー・タイプのLEDを搭載したフラッシュを使用します。特に、セキュリティを確保するためのシステムでは、高速で検出しづらいLEDフラッシュを使用し、何らかの動きを感知して、監視カメラで捉えた映像を保存するということを行います。
このようなシステムが抱える1つの課題は、極めて多くの電流を、数マイクロ秒という短いオン時間(電流を出力してLEDをオンにする時間)で供給する一方で、100ミリ秒あるいは1秒以上といったレベルまでオフ時間(電流の供給をストップしてLEDをオフにする時間)を長くとれるようにすることです。LEDカメラのフラッシュ向けの信号として、長いオフ時間の後に、短時間だけきれいな矩形波を生成するというのは、容易なことではありません。この種の用途では、LED(またはLEDストリング)を駆動するための電流は1Aを超えます。その一方で、LEDがオンする時間は数マイクロ秒と非常に短いことから、この課題の難易度は高くなります。LEDドライバ用のICの中には、高速PWM(Pulse Width Modulation)機能を備えるものがあります。そうした製品の多くは、高速な画像処理を正確に行うための矩形波の波形を劣化させることなく、長いオフ時間と、大電流が流れる短いオン時間に効率的に対処することは困難である可能性があります。
アナログ・デバイセズ独自のLEDフラッシュ用IC
「LT3932」は、アナログ・デバイセズが提供する高速LEDドライバです(以下、LEDを駆動するための回路全体ではなく、コンバータ機能を担うこの種のICをLEDドライバと呼ぶことにします)。同ICは、最大2Aの電流を要するLEDストリングに対応可能です。また、マシン・ビジョン・システムにおいて、1秒、1時間、1日以上といった長いオフ時間が発生するカメラ用フラッシュの実現に利用できます。同ICは、特殊なカメラ用フラッシュ機能を備えており、オフ時間が長くなっても出力コンデンサと制御ループのコンデンサの充電状態を維持することができます。LT3932は、出力コンデンサや制御ループのコンデンサの状態をサンプリングした後、長いオフ時間の最中もそれらのコンデンサに対してトリクル充電を続け、リーク電流の影響を補償します。これは、他のLEDドライバでは考慮されていない機能です。
LT3932は、当社独自のフラッシュ技術を採用しています。この技術により、LEDフラッシュ用の電流量を増やしたい場合には、複数のLT3932を並列接続することで対応できます。その場合でも、フラッシュ向けの出力信号の波形や信号品質が劣化することはありません。図1に示したのは、3A出力のフラッシュ用に2個のドライバを並列接続した例です(最大4A出力まで対応可能)。ご覧のように、この種のアプリケーションに非常に容易に対応できます。
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マシン・ビジョン・システムで使用するLEDフラッシュに関しては、PWM方式の標準的な調光用ドライバで対応できるレベルよりも、はるかに厳しい要件が課せられます。ほとんどのハイエンドのLEDドライバは、100Hz以上の周波数を使うPWM方式の調光によって輝度を制御するように設計されています。LEDフラッシュは矩形波によって繰り返し発光するわけですが、その周波数が低すぎると、人間の目には不快なちらつきや閃光として映る可能性があるからです。周波数が100Hzの場合、オフ時間は最大約10ミリ秒になります。正しく設計されていれば、10ミリ秒のオフ時間に、出力コンデンサの充電状態が低下するのを最小限に抑えることができます。また、PWMパルスによって直近にオンになったときとほぼ同じ状態で制御ループをスタートすることが可能です。インダクタに流れる電流の応答は高速であり、次にLEDをオンにするPWMパルスは高速で繰り返すことができます。オフ時間が長い場合(周波数が100Hzより低い場合)、リークによって出力コンデンサの電荷が失われるリスクが高くなります。それにより、LEDがオンに戻るときの素早い応答が妨げられます。
並列接続のLEDドライバで大電流に対応
LEDドライバは、LEDに流す電流量を調整する電流源として動作します。その電流は出力側への一方向のみに流れます。このことを利用すれば、複数のLEDドライバを並列に配置して、各ドライバの電流の合計を1つの負荷に対して流すということが行えます。その場合の電流源は、他のLEDドライバからの逆電流や、出力の不整合によって生じる電流から保護する必要はありません。一方、電圧レギュレータは本質的にそうした電流の分担には向いていないと言えます。あらゆる電圧レギュレータは、出力電圧を単一の値に調整しようとします。帰還回路にわずかな不整合があると、レギュレータは逆電流を流すことがあります。
複数のLEDドライバを並列に接続して使用する場合、出力負荷では各ドライバからの電流が合流することになります。その際、各ドライバは別の電流の供給元である他のドライバとは関係なく、自身の出力電流を維持します。このことから、LEDドライバを並列接続する使い方は、かなりシンプルなものになります。例えば、図1に示すLEDフラッシュ・システムは、2個のLT3932を並列に接続して構成しています。このシステムは、10マイクロ秒のオン時間と長いオフ時間というマシン・ビジョン・システムの仕様に即して、3Aの電流によって4個のLEDを効率的に駆動します。各LT3932は、PWM制御によるオン時間に、全ストリングに対する電流の半分を供給します。PWM制御によるオフ時間には、ターン・オフして出力状態を保存します。オフ時間は短いかもしれませんし、長いかもしれません。いずれにせよ、繰り返し生成されるフラッシュ用の信号波形には影響は及びません。
フラッシュのアプリケーションで複数のLEDドライバを並列接続して使う場合、長いオフ時間の最中は、単一のドライバが動作しているのと同様のシンプルな状態になります。LEDドライバは、直近にオンになったときのPWMパルスの終わりに共有されている出力電圧を監視します。そして、オフ時間が長くても、出力コンデンサを充電したままの状態に保持します。各ドライバは、共有している負荷からPWM制御の対象になるMOSFETを切り離し、リークによるエネルギーの損失を補うための電流を供給することによって、直前の電圧とほぼ同じレベルに出力コンデンサを充電した状態で保持します。長いオフ時間に出力コンデンサに生じるすべてのリークは、少量の電流を供給することによって補償されます。次のPWMパルスによってオン時間が始まると、各ドライバに対応するMOSFETがターン・オンします。その際、出力コンデンサは、経過した時間(オフ時間)が10ミリ秒であっても丸1日であっても、直近のパルスによってオンになっていたときとほぼ同じ状態で動作を開始します。
図2(a)と(b)は、LT3932を並列接続し、マシン・ビジョン用のカメラにおいて、3A/10マイクロ秒の電流パルスにより4個のLEDを駆動しているときの各信号波形を示したものです。LEDをオンにするためのパルスは、PWM制御におけるオフ時間が10ミリ秒(100Hz)の場合でも1秒(1Hz)の場合でも、急峻で高速です。この特性はマシン・ビジョン・システムにとって理想的なものです。

さらなる大電流への対応
並列に接続できるLEDドライバの数は、2個に限定されているわけではありません。3個以上のドライバを並列に接続し、さらに多くの電流に対応する鋭いエッジの信号を生成することも可能です。LT3932をベースとするシステムには、マスター・デバイスやスレーブ・デバイスは存在しません。すべてのLEDドライバが同量の電流を供給し、負荷はそれらを等しく消費することになります。その場合、並列に接続したすべてのLEDドライバは同じ同期クロックを共有し、同じ位相で動作することが理想です。それにより、各LEDドライバの出力コンデンサに生じるリップルが、ほぼ同じ位相になるからです。結果として、リップルの電流が逆流したり、ドライバ間で流出入したりする可能性を排除できます。PWMパルスの波形が、2MHzの同期クロックと同じ位相になっていることが重要です。それによって、LEDフラッシュ用の矩形波にジッタが生じることがなくなり、画像処理の結果が最良になります。
LT3932には、「DC2286A」というデモ・ボードが用意されています。このボードは、1つまたは2つのLEDを1Aの電流で駆動する降圧型の回路として設計されています。DC2286Aの回路に変更を加えたり、複数のDC2286Aを並列接続したりすることで、図1に示した回路と同様に、大電流、高電圧、並列動作に容易に対応できます。図4には、2つのDC2286Aを接続して使用している様子を示しました。24Vの入力電圧を基にして4個のLEDを駆動するために、3Aの電流を10マイクロ秒出力します。この例では、同期クロック信号を生成するためにパルス・ジェネレータを使用しています。量産型のマシン・ビジョン・システムの場合、同期信号やPWMパルスの生成には、クロックICを使用することも可能です。より多くの電流を得たい場合には、DC2286Aを追加して並列に接続します。
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まとめ
マシン・ビジョン・システムでは、自動画像処理を実現するために、高速かつきれいな矩形波信号によって、LEDフラッシュに大電流を供給する必要があります。これは、LEDドライバとして複数のLT3932を使用し、それらを並列に接続することによって実現できます。LT3932はアナログ・デバイセズ独自のカメラ用フラッシュ技術を採用しています。そのため、同ICを並列接続することによって、大電流への対応を図ることができます。その使い方では、オフ時間が長くても、3A以上/数マイクロ秒の電流パルスを出力することが可能です。LEDフラッシュのオフ時間がどれだけ長くても、フラッシュ用の波形にジッタが生じることはなく、きれいな矩形波信号が得られます。