対数型イメージ・センサーとノード解析の融合
IoT(Internet of Things)の環境で画像(映像)の解析を行うアプリケーションを運用したいケースがあります。その場合、エッジ側のノードにおける解析(以下、ノード解析)と対数型イメージ・センサーを使用することにより、システムの性能を向上することができます。画像解析アプリケーションは、現実世界で生じる多くの情報を活用してメリットを得ようとするものです。具体的には、一般的な監視をはじめ顔の認識などさまざまな用途に使用されます。そうした用途のほとんどでは、行動分析や予測分析を実施することを主な目的としています。画像解析アプリケーションによって収集された情報は、クラウド・コンピューティングを利用し、より上位のレベルで広範囲にわたって処理されることになるでしょう。ただし、その際にいかに詳細な処理を行うかということについては限界があります。この点について、ノード解析と対数型イメージ・センサーを活用することにより、改善を図ることが可能になるのです。
ノード解析を利用する場合、クラウドとの通信量/通信速度に関する制約が排除されます。そのため、データの分析能力を高めることができます。クラウド・コンピューティングを利用する場合、ノード解析を使う場合と比べて、3 桁とまでは言わないまでも 2 桁は広い帯域幅が必要になります。つまり、クラウドではなく、ノード解析を利用することで、必要な処理能力を低く抑えることができるのです。また、処理に伴う遅延も低減されます。人口が密集した市場、交通が大きく混乱する区域、市街地の駐車場などは、ノード解析を使った予測分析や行動分析が有効に機能する複雑な環境の例です。このような環境を対象とし、クラウドを利用して上位レベルの処理を実行すれば、事業戦略を前進させたり、交通量を調整するために迂回を指示したり、自治体が管理する駐車場の利用効率を高めたりすることができます。一方、クラウドで解析を行う代わりに、センサー・ノードに下位レベルの処理を担うソフトウェアを実装すれば、システムの遅延や帯域幅、セキュリティのレベル、消費電力を改善することができます。
ノードのインテリジェント化を図ることに加え、対数型イメージ・センサーを適用すると何が起きるでしょうか。そのようにすれば、従来のイメージ・センサーでは不十分だった領域に優位性がもたらされ、システムをより強化することが可能になります。対数型イメージ・センサーは画像処理に対して広いダイナミック・レンジを提供します。また、光度の変化に対する依存性を低減します。例えば、影や反射、光の急激な変化、高いコントラストなどについては、従来のイメージ・センサーよりも対数型イメージ・センサーの方が優れています。画像解析アプリケーションにおいてこれらの問題を解決すれば、データの取得方法が改善され、ノード解析が強化されます。データの取得について改善を図れば、画像解析アプリケーション全体の性能を大幅に向上させることが可能になります。
ノード解析と対数型イメージ・センサーによる性能の向上は、IoT 対応の画像解析アプリケーションが抱える課題の解決に役立ちます。IoT に対応するアプリケーションでは、セキュリティ、意思決定の遅れ、データ通信の帯域幅、演算能力といった事柄が共通の課題になります。これらの技術的な課題は、データ通信を使用しないようにすれば大幅に軽減されます。そのため、IoT に対応するアプリケーションでは、ノード解析に注目が集まっているのです。一方で、画像解析アプリケーションにおける一般的な課題としては、コントラストが制限されることと、光度に対する依存性が存在することが挙げられます。これらの問題のほとんどは、対数型イメージ・センサーを採用することによって排除することができます。言い換えれば、画像解析アプリケーションでは、この種のセンサーが鍵になるということです。繰り返しになりますが、IoT に対応する画像解析アプリケーションの性能は、ノード解析と対数型イメージ・センサーを採用することによって大幅に強化することができます。
エッジのインテリジェント化
ここで言うエッジのインテリジェント化とは、発生が予想される視覚的なイベントのデータに対し、エッジにおいて処理を施すことを意味します。それにより、計測したそれらのデータを瞬時に適切な動作に変換することができます。その際、クラウド・サーバとの間でデータ通信を行う必要はありません。クラウドにデータを転送するのではなく、画像データをエッジで瞬時に解析するということは、意思決定のプロセスがローカルで行われるということを意味します。その結果、システムにおける遅延が大幅に短縮されます。それだけでなく、一般論として通信の傍受などのリスクを抱えるテータ転送が排除されるため、セキュリティの面でも強化が図れます。
このような手法を採用する場合、予測分析や行動分析を行うためには、最も有用な情報のみをクラウドに送信する必要があります。このようにデータのパーティショニングを最適化すると、画像解析フレームのすべての帯域幅を使用する必要はなくなります。そのため、クラウドの価値を最高のレベルにまで高められます。画像フレーム・データのほとんどは、固定的に設置されたカメラから取り込んだものになるでしょう。その際、取得されるのは、あまり変化のない画像である可能性があります。そうであるなら、ノードにおいてフィルタ処理を施しても問題はありません。実際、エッジ・ノードにおける画像解析では、多くのフィルタ処理によって解釈を行い、乗用車、トラック、自転車、人間、動物といった具合に、対象物の種類を識別します。クラウド・サーバ内で、下流に送信されるフル・フレーム・レートの映像データを解析するには、相応のデータ帯域幅と演算能力が必要になります。この要件は、エッジ・ノードにおけるフィルタ処理によって軽減されます。帯域幅について言えば、クラウドを利用するアプリケーションに比べて 2 ~ 3 桁低減されます。このことは、ノード解析によって得られる性能の向上に大きく寄与します。
対数型イメージ・センサー
画像解析アプリケーションにおいて、従来のイメージ・センサーから対数イメージ・センサーへの置き換えを実施すると、何が起きるのでしょうか。その置き換えを行えば、従来のイメージ・センサーに関連する一般的な問題に対処することができ、大幅な改善を図ることができます。従来のイメージ・センサーのほとんどは、線形な特性を有しています。つまり、その種のセンサー(リニア・イメージ・センサー)が備えるピクセル(画素)は、光を変数とする線形関数によって電圧を生成します。このような動作によってコントラストが制限されます。また、リニア・イメージ・センサーは、均一の露光フェーズを使用しており、フレーム・レート内に設けられたピクセルの露光時間のダイナミック・レンジを制限しています。加えて、従来のイメージ・センサーのコントラストは光度に依存します。そのため、反射に関連してコントラストの問題が生じることがあります。これらの一般的な問題は、対数型イメージ・センサーへの置き換えを行うことで排除できます。対数型イメージ・センサーのピクセルは、光を変数とする対数関数によって電圧を生成するからです。図 1 ~ 3 により、従来のイメージ・センサーと対数型イメージ・センサーの違いを見てとることができます。
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従来のイメージ・センサーを使用していると、対象となる環境の画像を完全に取り込むことを妨げるコントラスト関連の問題に遭遇することがあります。それらの問題は、各ピクセル内で電圧が直線的に生成されることに起因して生じます。リニア・イメージ・センサーのピクセル内で生成される電圧は、衝突する光子の量に正比例します。そのため、対数型イメージ・センサーと比べるとダイナミック・レンジが制限されます。リニア・イメージ・センサーにおけるコントラストの低下は、ダイナミック・レンジの低下が原因で発生するということです。このコントラストの低下は、IoT に対応するアプリケーションにおいて、センサー・ノードで実施される解析の質を悪化させます。そして、最終的にはシステム全体の性能に影響が及びます。一方、対数型イメージ・センサーでは、ピクセルの電圧は対数関数によって生成されます。そのため、広範なレベルの光に対応でき、コントラストが改善されます。ただし、それは光に対する感度が高くなるということを意味します。このことは、一部のアプリケーションに対しては望ましくない効果をもたらします。もちろん、アプリケーションによっては光度に対する感度が高いことは利点になります。
従来のイメージ・センサーによる画像の取得は、太陽の反射や明るい環境の影響によって妨害される可能性があります。例えば、自動車のフロントガラスで反射が生じていると、車内での顔の認識は困難になります。その反射は画像の取得の障害になるということです。結果として、システムで誤差が発生したり、重要なデータが損失したりすることで、画像解析にマイナスの影響が及ぶ可能性があります。リニア・イメージ・センサーでは、ピクセル間のコントラストが光度に依存します。このことから、それらの反射はセンサーに取り込まれます。結果的に反射の強度がさらに増すことになります。この光度との依存関係は式( 1) から理解することができます。一方、対数型イメージ・センサーのコントラストは、自然対数の性質に基づくことから光度には依存しません。そのため、反射や急激な光の変化を和らげることができます。対数型イメージ・センサーが光度に依存しないことは式(2)から理解できます。
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コンポーネントだけでなく、プラットフォームも提供
アナログ・デバイセズは、個々のコンポーネントだけではなく、プラットフォーム・レベルのソリューションを提供しています。優れた性能を備え、実績のあるインテリジェントなソリューションを、コストを抑えつつ直ちに導入できるということです。アナログ・デバイセズが提供するセンサー機能と計測機能により、信頼性と精度に優れたデータが得られます。それらのデータがスマート・アプリケーションの起点になります。また、アナログ・デバイセズは、お客様と連携し、あらゆる問題に対応可能なシステム・レベルの独自ソリューションを開発しています。そうしたソリューションの 1 つに、QVGA(Quarter Video Graphics Array)の画像解析を可能にする「ADIS1700x」があります。

ADIS1700x は、QVGA に対応した解析機能を備える小型のイメージ・センサー・モジュールです。対数型のセンシング機能と、画像の質を最適化するためのデジタル信号処理機能を併せ持ちます。ノードでの解析機能は、低消費電力のプロセッサである「Blackfin」によって実現します。また、手振れ補正機構や、傾き/衝撃の検出に使用可能な加速度センサーを備えています。加えて、対象物の動きをトラッキングしたり、カウントしたりするためのエッジ検出機能も備えています。ピクセルのサイズは 14 µm × 14 µm であり、従来のイメージ・センサーとは異なる固有の露光フェーズで機能します。このモジュールには、屋外で使用できるよう絶縁保護コーティングが施されています。そのため、最新のスマート・シティ・アプリケーションやビルディング・アプリケーションを構築する際の大規模な配備に最適です。「ADIS17001」は、視野(FOV: Field of View)が 110°のレンズを備えています。一方、ADIS17002 のレンズは FOV が 67°です。これら 2 つは、駐車場の監視、駐車違反の取り締まり、渋滞の検出、産業用の解析など、多様なアプリケーションに向けた選択肢として提供されています。

ここまでに説明したように、IoT に対応する画像解析アプリケーションにノード解析と対数型イメージ・センサーを適用すれば、システムの性能を大幅に向上することができます。このアプローチに対応できるよう、アナログ・デバイセズは ADIS1700x をリリースしました。クラウド・コンピューティングではなくノード解析を利用することにより、IoT に対応するアプリケーションをより進化させることができます。また、対数型イメージ・センサーを利用すれば、従来のイメージ・センサーでは得られないレベルのメリットを享受することが可能です。そのため、IoT に対応するアプリケーションをさらに進化させることができます。IoT に対応する画像解析アプリケーションにノード解析と対数型イメージ・センサーを適用することで、より堅牢なシステム・レベルのソリューションが実現されます。