モータ制御、ソレノイド制御、パワーマネジメント(たとえば、DC/DCコンバータやバッテリ監視)など、数多くのアプリケーションで高精度なハイサイド電流の検出が必要とされています。このようなアプリケーションでは、リターンの代わりにハイサイドの電流モニタリングを行うことによって、グラウンドへの短絡の検出や再循環ダイオード電流の連続モニタリングなどの診断機能を高めることができ、またシャント抵抗を配置せずに済むために、グラウンド・パスの品質を維持することができます。図1、2、3は、ソレノイド制御とモータ制御のための代表的なハイサイド電流のシャント構成です。
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上記のすべての構成において、負荷電流を監視するシャント抵抗のパルス幅変調(PWM)された同相電圧がグラウンドからバッテリまでの全範囲で振幅します。このPWM入力信号の周期、周波数、立上がり/立下がり時間は、電力段からFETへの制御信号によって決まります。したがって、シャント抵抗の両端の電圧を監視する差分測定回路には、きわめて高い同相ノイズ除去と高電圧処理機能の両方が不可欠となり、それに加えて高ゲイン、高精度、低オフセットが負荷電流値を正確に表示するためにすべて必要になります。
単一制御のFETを使用するソレノイド制御1(図1)では、電流は常に同じ方向に流れるため、単方向の電流センサで十分です。モータ制御構成(図2と図3)では、モータ位相にシャントを配置するとシャント抵抗の電流が両方向に流れることがあるため、双方向の電流センサが必要です。
ハイサイド電流検出機能のさまざまな選択肢を検討している設計者は、多くの半導体ベンダーからいろいろなオプションが提供されていることに気が付かれるでしょう。ここで大切な点は、これらのさまざまな集積回路デバイスが、電流検出アンプと差動アンプという2つのまったく異なる高電圧アーキテクチャに分類できるということです。
ここでは、これらのアーキテクチャ間の重要な相違点を明らかにすると同時に、これらについて説明し、ハイサイド電流検出を必要とする設計者が、アプリケーションに最適なデバイスを選ぶことができるようにします。AD8206双方向差動アンプとAD8210双方向電流検出アンプの2つの高電圧部品を比較しましょう。どちらも同じピン配置で、ハイサイド電流シャントの監視を行いますが、仕様とアーキテクチャは異なります。では、どちらのデバイスがアプリケーションに最適かをどのようにして検討すればよいのでしょうか?
動作の仕組み
AD8206(図4)集積高電圧差動アンプは、入力抵抗を使用して入力電圧を16.7:1に減衰し、アンプA1の入力範囲内に同相電圧を維持することにより、最大65Vの同相電圧に耐えます。ところが、入力抵抗ネットワークは差動信号も同じ値で減衰してしまいます。AD8206の特色である20V/Vのゲインを得るには、アンプA1とA2によって差動信号を実際に約334V/V増幅する必要があります。
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このデバイスは、出力アンプを供給範囲内の適切な電圧にオフセットすることによって双方向の入力測定を行います。このオフセットは、A2の正側入力に接続された正確にトリミングされた抵抗分圧器に外部から低インピーダンス電圧を加えることによって得られます。このデバイスの有益な点は、図に示す250mVの同相バイアス回路があるために、同相電圧が2Vほど負側に移行しても差動入力電圧を正確に増幅できるところにあります。
AD8210(図5)は最近発表した高電圧の電流検出アンプですが、AD8206と同じ関数関係があり、同じピン接続を使用します。ただし、動作の仕組みは異なり、結果として得られる仕様は差動アンプのものとは違います。
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明らかな相違点は、入力構造が抵抗減衰ネットワークに依存せずに大きい同相電圧を処理できる点です。入力アンプは、XFCB IC製造プロセスで可能な高電圧トランジスタで構成されます。この電圧にさらされるすべてのトランジスタのVCEブレークダウンが65Vを超えるため、この入力の同相電圧も同様に65Vを超えます。
AD8210のような電流検出アンプは、以下の方法で小さい差動入力電圧を増幅します。入力端子はR1とR2によって差動アンプA1に接続します。A1は、トランジスタQ1とQ2を用いてR1とR2を流れる電流を調整することによって、A1の入力端子の両端に現れる電圧をゼロにします。AD8210への入力信号が0Vのとき、R1とR2の電流は等しくなります。差動信号がゼロでないとき、一方の抵抗を流れる電流が増加し、他方の抵抗で減少します。電流の差は入力信号の大きさと極性に比例します。Q1とQ2を流れる差動電流は、正確にトリミングされた2つの内部抵抗によってグラウンド基準の差動電圧に変換されます。この電圧はその後、アンプA2によって増幅できますが、今度はデバイスの5V(typ)電源によって駆動する低電圧トランジスタを使用して、全体のゲインが20の最終出力を生成します。
このアーキテクチャによる電流検出アンプは一般に、入力同相電圧が2Vまたは3Vを超えた状態のままである場合、また入力同相電圧がグラウンド(またはそれより下)まで降下する必要がないアプリケーションの場合にのみ有効です。ただし、AD8210は、入力同相電圧が5Vより下回り、最大-2Vまで降下したときでも、プルアップ回路を使用してアンプA1の入力を5V電源の付近に保持します。したがって、デバイスの5V電源よりかなり低い同相電圧でも正確に差動入力電圧を測定できます。
電流検出アンプと差動アンプが、同じ機能を実行しながら動作がかなり異なることは明らかです。差動アンプは、高入力電圧を減衰してアンプが許容できるレベルにします。電流検出アンプは、差動入力電圧を電流に変換して、再びグラウンド基準の電圧に戻します。その入力アンプは高電圧の製造プロセスであるため、大きい同相電圧に耐えることができます。2つのアーキテクチャ間の差異は当然ながら性能の差異につながり、ハイサイド電流モニタリング・ソリューションを選択する設計者は、この違いを考慮しなければなりません。一般にメーカーのデータシートは、精度、速度、パワーなどのパラメータを利用して使用するデバイスの種類を正しく選択してもらうために必要な情報を掲載しています。ただし、デバイスのアーキテクチャ固有の重要な相違点のいくつかは、データシートを読んでもすぐにはわかりませんが、設計上きわめて重要な留意事項になります。以下は、エンジニアが最善のソリューションを見つけるために認識しておかなければならない重要なポイントです。
帯域幅: 入力の減衰のため、多くの差動アンプの帯域幅は通常、電流検出アンプの約1/5です。ただし、ほとんどのアプリケーションでは、差動アンプの低い帯域幅でも十分です。たとえば、多くのソレノイド制御アプリケーションは20kHz未満で動作しますが、モータ制御の場合はノイズの問題があるため、20kHz以上で動作しなければなりません。ソレノイド制御は平均電流を調べる必要があり、差動アンプの帯域幅が最適になるアプリケーションです。一方、モータ制御の場合、特にモータ位相で測定するときには瞬時電流が重要です。したがって、高帯域幅の電流センサ・アーキテクチャのほうが実際のモータ電流をより正確に表すことができます。
同相ノイズ除去: 2つのアーキテクチャの入力構造の相違により、CMR性能に違いが生じます。一般に、差動アンプにはトラッキング精度が0.01%のトリミングされた入力抵抗があります。この程度のマッチングなら、通常はDCにおいて80dBのCMRが保証されます。トランジスタ入力構造の電流検出アンプではマッチングが優れているため、CMRは入力抵抗マッチングに依存せず、同相電圧が低い場合を除き、一般に100dB以上と規定することができます。たとえば、AD8210では、入力同相電圧が5V未満のとき、差動アンプと同じ80dBになります。この電圧範囲では、前述の内部プルアップ回路により入力構造が抵抗性の構造になり、このためCMRはトリミングした0.01%精度の抵抗マッチングに依存するようになります。それでも、電流検出アーキテクチャは全電圧範囲で優れた同相ノイズ除去を提供します。
外部入力フィルタリングの影響: ハイサイド電流検出アーキテクチャで入力フィルタリングを使用する場合、アーキテクチャの影響が非常に大きくなる可能性があります。入力ノイズと電流スパイクの影響を除去することが目的の入力フィルタは、通常は図6のように実装します。
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どのようなアーキテクチャであっても、各部品にはトリミングされたいくつかの入力抵抗があるため、直列に外付け抵抗を加えるとミスマッチを生じ、ゲインとCMRの両方の誤差につながります。これは、一般に次式のように計算することができます(Rinは、規定のアンプ入力抵抗です)。
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差動アンプには、100kΩを超える入力抵抗があります。AD8206の場合、Rin=200kΩで、200Ωのフィルタ抵抗を使用すると、ゲイン誤差の増分は約0.1%になります。これらの外付け部品による同相誤差は、抵抗の許容誤差が1%とすると-94dBになり、基本的にデバイスの規定されたCMR誤差の80dBに入ってしまうため、その影響は無関係になります。
電流検出アンプには非常に大きい同相入力インピーダンスがありますが、差動入力電圧を電流に変換するために、一般に5kΩ未満の入力直列抵抗を備えています。AD8210の場合、Rin=3.5kΩ(差動入力インピーダンス)を使用して上の式を計算し直す必要があります。この場合、フィルタの抵抗によるゲイン誤差の増分は5.4%ほどにもなることがあります。また、外付け抵抗のミスマッチという最悪の条件を想定すると、CMRは59dBまで低下することもあります。これは、代表的な精度を最大合計誤差2%未満とするデバイスの性能にとっては大きな痛手です。
したがって、電流検出アーキテクチャで入力フィルタを使用するときには注意が必要です。内部抵抗が5kΩ 以下のとき、10Ω 未満のフィルタ抵抗を使用してください。これによって、電流検出アンプ本来の高精度が維持されます。上述のように、差動アンプの場合は、入力抵抗が大きいと外部ミスマッチの影響を受けにくくなるため、もっと広範な入力フィルタの抵抗値を使用することができます。
入力のオーバードライブ: ハイサイド電流検出アプリケーションでは、設計者はアンプが規定された範囲外で動作する恐れがあることを十分に考慮しておく必要があります。典型的な使用方法では、シャント抵抗を流れる負荷電流の流れによってわずか数百mVだけ異なる値がアンプに入力されるものと想定されていますが、入力の両端に数ボルトの違いが発生するような障害状態にデバイスは耐えることができるでしょうか?このような場合、差動アンプのアーキテクチャは本質的に頑強であり、いったんシステムが正常な状態に戻ると、予想どおりの機能を継続する傾向があります。入力抵抗ネットワークは、ただ電流をグラウンドに送るだけです。AD8206の場合は、65Vにおいて入力当たり200kΩを用いれば、325μAがグラウンドに流れます。
電流検出アーキテクチャを使用する場合、設計者はこのような問題が発生する可能性を考慮する必要があります。最初の例の場合、AD8210のようなデバイスは入力両端の大電圧の振幅に耐えることができません。通常、このようなデバイスには、入力間にESD保護ダイオードを備えています。このダイオードは、約0.7Vを超える電圧差によって順方向にバイアスします。このダイオードの実際の破壊点はさまざまですが、自動車のバッテリにおける場合のような大きな差動電圧では、一般に電気的な過剰ストレスのためにデバイスが損傷する恐れがあります。
負の電圧保護: 多くの場合、特に車載アプリケーションでは、逆バッテリ電圧に対して電流センサを保護する必要があります。差動アンプの抵抗ブリッジ入力があるかどうかが、重要な耐久要因になる可能性があります。ただし、設計者はデバイスの絶対定格を確認して、入力ESDダイオードが作動し、しかも大きい負の電圧がある場合のみ作動するよう設計する必要があります。
電流検出アーキテクチャは、入力アンプとそれに対応する入力トランジスタが大きな負の電圧に直接接続するため、このような場合には最適ではありません。入力が大きな負のDC電圧にさらされないようにするため、電流検出アンプの入力ESDダイオードは、入力電圧範囲の規定の下端から外れると作動するように設計されています。
ただし、このような電流モニタは、負のDC電圧以外に、負の入力過渡電圧によっても影響を受ける場合があります。これは一般にPWMシステムの場合ですが、制御FETをオンにしてからオフにすると、電流シャント・モニタの入力同相電圧がグラウンドからバッテリに振幅します。この場合も、主にデバイスの入力ESDダイオードによって決まる絶対最大定格をよく調べることが大切です。前述のように、差動アンプは高入力抵抗によって保護されており、基本的には負の過渡電圧の影響を受けません。したがって、ESDダイオードは通常、大きな負の電圧でクランプされるように設計されています。しかし、電流検出アーキテクチャを使用するときは、きわめて短時間の負の過渡電圧であっても入力ESD保護が作動することがあります。この場合の入力ESD保護は、デバイスの入力同相定格に近い電圧で作動するように設計されています。このようなパルスは一般に、AD8210のESDセルを損傷するほどのエネルギーはありませんが、この点での性能はデバイスにより異なります。厄介な問題が生じないように、実際のシステムでこのパラメータをテストする必要があります。
入力バイアス電流: パワーマネジメントが重要で、小さなリーク電流も考慮する必要があるアプリケーションでは、2つのアーキテクチャの入力構造の違いから入力バイアス電流を検討する必要があります。たとえば、バッテリ電流検出システムではどちらのアーキテクチャもハイサイド電流を監視します。ただし、システムがオフで、電流モニタの電源もオフのとき、入力がまだバッテリに接続している間、差動アンプ(AD8206など)の抵抗入力ネットワークに固有のグラウンドへのパスは、バッテリから電流を流し続けるためにバイアス電流が必要になります。これに対して、きわめて大きい入力同相インピーダンス(AD8210の場合は5MΩを超える)の場合、電流検出アーキテクチャを使用するデバイスには入力からグラウンドに流れる電流がほとんどないため、バッテリ電流が流れません。
結論
ハイサイド電流検出は、自動車、電気通信、民生、工業用の各アプリケーションにおいて広く求められている機能です。現在、この機能を実現するために、高電圧差動と電流検出の統合アンプが市場で販売されています。システム・エンジニアは、アプリケーションの精度条件と耐久条件に応じて、どのタイプの電流センサがそのシステムに最適かを入念に調べる必要があります。以下の表に主な留意点をまとめました。
どちらのタイプの電流モニタも機能しますが、異なるアーキテクチャによってもたらされる利点には、明らかなトレードオフをともないます。瞬時の電流モニタリングには広帯域幅の電流検出アンプが最適ですが、平均電流を監視するアプリケーションでは差動アンプのトポロジのほうが簡単に実現できます。さらに、消費電流が重要なパワーマネジメント・アプリケーションでは、入力電源オフ時のバイアス電流ドレインが最小の電流検出アンプのほうが有利です。ただし、ハイサイド電流検出アンプの入力構造は外部フィルタを実装することで性能が制限されるおそれがあるため、悪条件のアプリケーション環境でも絶対入力定格を超えないように十分な精査が必要になります。
特長 | 電流検出アンプ | 差動アンプ |
何のモニタリングに 最適な速度か |
臨時電流 | 平均電流 |
入力CMR (DC) | >100 dB | 約 80 dB |
入力CMR (PWM) | 約 80 dB | 約 80 dB |
「オフ」時の入力 バイアス消費電流 |
非常に低い | 入力抵抗分圧器で 連続的なリーク |
外部フィルタリング | 主にポスト・フィルタ | プレフィルタまたは ポスト・フィルタ |
入力ストレス感受性 | 外部ストレスに対し 十分な配慮が必要 |
一般に頑強 |