ワイヤハーネスの断線と短絡を検出する診断技術

現代の自動車において、ワイヤハーネスは非常に重要な役割を果たしています。数千の組立部品で構成されるワイヤハーネスはさまざまな電子システムを接続して、その連携動作を実現します。どのハーネスも一箇所不具合が生じるだけでシステム全体に悪影響を及ぼす可能性があります。車載電子機器へのニーズの高まりに対応する必要から、自動車のワイヤハーネスは複雑さを増しており、ワイヤの破損や短絡を迅速かつ簡単に検出する技術の必要性が高まっています。自動車の寿命が尽きるまで、ワイヤ診断機能は、変わることのない重要性を担い続けます。組み立て時にワイヤ不具合の診断や修理を行うとすると、製造工程に大幅な遅れが生じるおそれがあります。実際に使い始めてからワイヤ不具合の診断や修理を行うとなれば、修理店への訪問が増え、保証修理という形での莫大なコストがメーカー側に発生します。

車線検出やパーキング・アシスト機能(フロント/リアビュー・カメラ)を含むアクティブ・セーフティ・システム、さらに、ナビゲーションやリア・シート・エンターテインメントを含むインフォテインメント・システムなどの自動車用電子システムに対するニーズが高まっています。これらのシステムが有効に作動するためには、自動車のすべてのコーナー部分からケーブルを介して送られてくるビデオ・データをドライバや乗員に確実に届ける必要があります。ケーブルの健全性は、これらのシステムの適正な動作を維持する上で必要不可欠です。

本稿では、自動車用アプリケーションのビデオ/オーディオ送信ラインに対してワイヤ診断を行うための安定性および費用効果の高い回路設計を実現するためのヒントをご紹介します。

図1の回路は、バッテリ短絡(STB)、グラウンド短絡(STG)、断線、短絡などの不具合を効果的に検出することができます。この回路は、完全集積化されたビデオ再生フィルタADA4433-1(U1)をビデオ送信シグナル・チェーンの一部として使用し、高速差動アンプADA4830-1(U2)を検出回路として使用します。ADA4433-1は、-3dBカットオフ周波数が10MHzで、27MHzでの除去比が45dBという高次のフィルタを備えています。内部の固定ゲインは2V/Vとなっています。このフィルタは優れたビデオ仕様、出力の過電圧保護(STB)および過電流保護(STG)、低消費電力を実現しています。ADA4830-1は、0.50V/Vの減衰ゲインと、入力の過電圧状態を通知できる不具合検出の出力フラグを提供します。このデバイスは最大18Vの入力過電圧保護、広い同相入力電圧範囲、優れたESD耐性などの特長を備えています。

図1の回路例のU1は、リアビュー・カメラまたはエンジン制御装置(ECU)からのビデオ信号をレシーバに送信する差動出力バッファです。入力は、通常CMOSイメージャまたはビデオ・エンコーダによって駆動されます。U1の主な機能はアクティブ・フィルタ機能(再生機能)を提供して、ビデオ信号をケーブル経由でディスプレイに送ることです。U2の入力は、不具合検出機能を提供するためにU1の出力に接続されています。以下にこれらの機能について説明します。また、表1にも関連情報を示します。

Figure 1
図1. ADA4433-1(U1)とADA4830-1(U2)を使用したワイヤ診断回路

バッテリ短絡不具合検出

U1とU2は両方ともバッテリ短絡検出機能とSTB出力フラグを備えています。バッテリ短絡イベント時には、U2の出力フラグによりロジック・ローレベルが送信され、マイクロコントローラの汎用入出力(GPIO)ポートが、即座にこの信号を読み取ります。

グラウンド短絡不具合検出(単出力)

U1の正入力(INP)を負入力(INN)に接続します。+OUTと-OUT間の差動出力は0Vになります。いずれか一方の出力がグラウンドに短絡すると、U2の出力の差動電圧は500mVを上回ります。

グラウンド短絡不具合検出(両出力)

U1の正入力(INP)を0Vに設定します。+OUTと-OUT間の差動出力は約1Vになります。両方の出力がグラウンドに短絡すると、U2の出力の差動電圧はほぼ0Vになります。

オープン・サーキット

U1の正入力(INP)を0Vに設定します。その結果、+OUTと-OUT間の差動出力は約1Vになります。オープン接続があると、U2の出力の差動電圧は約500mVになります。

隣接出力への短絡

U1の正入力(INP)を0Vに設定します。+OUTと-OUT間の差動出力は約1Vになります。両方の出力が互いに短絡すると、U2の出力の差動電圧はほぼ0Vになります。

通常動作(ケーブル不具合なし)

U1の正入力(INP)を0Vに設定します。その結果、+OUTと-OUT間の差動出力は約1Vになります。また、U2の出力の差動電圧は約250mVになります。

表1.診断出力インジケータの要約

不具合状態 U1入力設定 U2出力インジケータ インジケータの電圧レベル1
バッテリ短絡
ピン5
85 mV
グラウンド短絡(単出力) INP = INN ピン6 530 mV
グラウンド短絡(両出力) INP ≠ INN ピン6 10 mV
オープン・サーキット INP ≠ INN ピン6 500 mV
隣接出力への短絡 INP ≠ INN ピン6 0 mV
通常動作(ケーブル不具合なし)   ピン6 250 mV
1電圧レベルはすべて概算値であり、個別の設計に応じて特性評価を行う必要があります。

EngineerZoneAnalog Dialogue Communityに掲載している“diagnostic techniques for wire harnesses”のブログ記事(英語)へのコメントもお待ちしております。

著者

Don Nisbett

Don Nisbett

Don Nisbettは、高速シグナル・コンディショニング・グループのマーケティング・エンジニアです。現在の職位に就く以前は、製品エンジニアリング、アプリケーション・エンジニアリングをそれぞれ担当しました。ウースター・ポリテクニック・インスティテュートで電気工学の理学士号を取得。同校を卒業後、2002年からアナログ・デバイセズに勤務しています。