はじめに
電流帰還アンプ(CFA)がトランスインピーダンス・アンプ(TIA)用途の第一候補に挙げられることは、これまでありませんでした。CFAの反転入力の電流や反転入力電流のノイズが比較的大きく、同等の電圧帰還アンプ(VFA)を1桁以上も上回ること、さらにシステム設計者がCFAに不慣れなために、気軽に使用できないということも敬遠される原因であると考えられます。しかし実際には、CFAの扱いは容易であり、高ゲイン、低消費電力、低ノイズ、広帯域幅、高スルーレートを必要とするアプリケーションにおいては、同等のVFAより優れた性能を発揮します。理想的なCFAでは、ループ・ゲインがクローズドループ・ゲインに依存しないため、クローズドループ・ゲインとは関係なく優れた高調波歪み特性や帯域幅性能を提供できることも特長の一つに挙げられます。
FET入力オペアンプは、入力バイアス電流や入力電流ノイズが非常に小さいため、TIAアプリケーションにおいて低出力電流デバイス(光電素子など)を入力電流源として使用するような場合に、候補の筆頭に挙げられることが多いものです。FET入力オペアンプはこうしたさまざまなアプリケーションで優れた性能を発揮しますが、高速性能を必要とするシステムでは動作速度が不十分な場合があります。そのため、よりノイズ耐性に優れた高速システム用のTIAとして、CFAが採用される傾向が強まりつつあるのです。
本稿では、TIAとして動作するCFAに対し、光ダイオードなどの光/電流トランスデューサの寄生容量がどのような影響を及ぼすか、またこのような寄生容量に対してアンプを適正に補償するにはどうすればよいかについて説明します。CFAの動作に関する基本的な資料とともに、CFAとVFAを分析する中で見出されるいくつかの類似性についても紹介します。VFA回路の「ノイズ・ゲイン」やCFA回路の「帰還インピーダンス」についての解析は、ここでは行いません。その代わり、ループ・ゲインを使用する際に従来から用いられている帰還理論を利用しています。これは、電流領域と電圧領域間を移動するときに生じる問題を避けるためであり(ループ・ゲインは常に無次元量となります)、さらにこの理論はボーデ線図で簡潔かつ容易に表すことができるからです。
電流帰還アンプの基礎
理想的なCFAでは負の帰還信号が電流であるため、入力インピーダンスがゼロ(入力で完全短絡)となります。これとは逆に、理想的なVFAでは帰還信号が電圧であるため、入力インピーダンスは無限大となります。CFAはその入力に流れる誤差電流を検出し、入力電流のZ倍に相当する出力電圧を発生させます。この場合のZはトランスインピーダンス・ゲインです。誤差電流の方向は、負帰還が生成されるように定義されます。ZはVFAのオープンループ・ゲインAに似ており、理想的なCFAでは無限大に近づきます。図1の基本回路は、理想電流源からの電流を出力電圧に変換するために、理想的なCFAをTIAとして構成したものです。

このTIAのクローズドループ・ゲインは次式で表すことができます。
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式1は、Zが無限大に近づくとTIAのゲインがそのRF理想値に近似することを示しています。Zが無限大に近づくと誤差電流ieがゼロに近似し、入力電流はすべてRFを流れます。ループ・ゲインは式1の

です。
残念ながら理想的なCFAというものは存在しないため、実際のデバイスは理想に近い次善の構成、すなわち、入力間にユニティ・ゲイン・バッファを備えたものを使用します。電流ミラーが誤差電流を高インピーダンス・ノードに反映することにより、電流が電圧に変換され、バッファ処理の後、出力されます(図2参照)。

RO = 0である限り、クローズドループ・ゲインは式1で与えられたものと同じです。RO > 0のとき、クローズドループ・ゲインは次のようになります。
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(2) |
また、ループ・ゲインは

となります。
実際の部品を使用したTIAの設計
フォトダイオードなどの光電デバイスは、寄生シャント容量がデバイスの面積に比例します。RO = 0のときは、この容量は完全にブートストラップされるため、クローズドループ応答に影響を及ぼしません。実際のCFAではRO > 0であり、寄生容量が応答に影響を及ぼして回路が不安定になる可能性があります。また、VFAのオープンループ・ゲインAと同様、実際のCFAでは低い周波数でZ値が大きく、周波数の増大に伴って減衰するため、位相偏差は周波数が高くなるにつれて遅延の度合が大きくなります。一次近似としては、式3に示すように、Z(s)をs = p時の単一主要ポールとDCトランスインピーダンスZOで表すことができます。Z(s)における高周波ポールについては後で取り上げます。
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(3) |
図3の回路は、寄生容量CとトランスインピーダンスZ(s)を含んでいます。CFAの反転入力容量はCに含めてしまうことが可能です。

反転入力でKCLを適用することで式4が得られます。
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(4) |
誤差電流ie は次のように表されます。
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式4と式5から、図3の回路のクローズドループTIAゲインとして次の結果が得られます。
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(6) |
ループ・ゲインは式6から明らかであり、次式により与えられます。
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ループ・ゲインは、s = p時の低周波ポール、

時の高周波ポールという2つのポールを含んでいます。ROよりもRFが著しく大きい場合には、RFとROの並列値をROによって近似させることができます。これら2つのポールは、ループ・ゲイン値が0 dBより大きい周波数で高周波ポールが発生した場合に安定性の問題を引き起こします。ROとCが小さい場合には、クロスオーバ周波数より高い周波数で寄生ポールが発生し、アンプは安定しますが、ほとんどのTIA回路は、こうしたケースに該当しないため、反転入力寄生容量の補償方法を考えなければなりません。
帰還コンデンサの追加(余談)
式3に示すような単一ポール伝達関数を持つCFAは、帰還ループの位相遅延が–90°に制限されるため、帰還抵抗がどのような値であっても安定動作します。しかし、実際のCFAの2次ポールは高周波数で重大な位相遅延をもたらすため、安定性を確保するためにはRFの最小値を現実的な値に制限することになります(許容可能な最小位相余裕は一般に45°です)。ここから先の解説では、Z(s)はs = p時の主要ポールとともにs = pH時の高周波ポールを含むものとします。
一般的には、帰還インピーダンスがゼロにならないよう、CFA回路内では帰還コンデンサを使用すべきでないと言われています。しかし話はそれほど単純なものではありません。帰還コンデンサは振幅の変化だけでなく、位相偏差を引き起こすからです。ここでは、CFAを用いたTIAに帰還コンデンサを追加するとどうなるかを説明します(寄生入力容量についてはとりあえず省きます)。図2の回路で帰還コンデンサCFを帰還抵抗RFの両端に追加すると、ループ・ゲインにポールとゼロが発生します。ZFは、RFとCFの並列組合せとして定義されます。
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式2のRFをZFに置き換えると、クローズドループ・ゲインは式9のように表すことができます。
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ループ・ゲインは次式で表されます。
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ループ・ゲインは、Z(s)におけるs = p時の主要ポールとs = pH時の高周波ポールを含んでいます。また、帰還コンデンサが追加されたために、

時のポールと

時のゼロも含んでいます。
ボーデ線図では、CFに起因するゼロがCFに起因するポールより低い周波数で発生しています。これは、ゼロ周波数式の分母にRFが含まれ、ポール周波数式の分母に(RO||RF)が含まれるからです。CFを持つ1個のCFAを用いたTIAのボーデ線図(式10)を図4に示します。

このゼロによって周波数が増大するとともに振幅増大と前方への位相偏差が発生しますが、安定性という面ではそのほうが好ましい場合があります。しかし、図4でモデル化されたシステムの場合、そのゼロによってループ・ゲインと0 dBとの交差ポイントが外側に押し出され、pH時のポールによって振幅漸近線が0 dBのクロスオーバの手前より–40 dB/ディケードで降下します。青い破線はCFなしのループ・ゲインを示しており、式2と2ポール対応のZ(s)を使用すれば式11のように表すことができます。
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(11) |
図4はCFなしの場合にアンプは安定動作し、CFを追加することによって安定性に問題が生じることも示しています。しかし図4のグラフは、帰還コンデンサの使用を完全に否定するものではありません。というのも、この特定のZ(s)がすべてのCFAを代表するものではなく、またここでは実際の抵抗値やコンデンサ値を使用しているわけではないからです。図4は、帰還容量の安全な範囲が高周波ポールによって制限されることを示しています。さらに、単一のポール伝達関数を持つ仮説上のCFAにおいては、帰還容量をいくらでも安全に追加することができ、さらには帰還容量を追加すればそのクローズドループ帯域幅を拡張できることも示しています。
寄生容量に起因するポールを除去するためにCFに起因するゼロを利用
CFをCFAに追加した場合の影響については大まかな理解が得られたと思いますので、次にCFを使用して入力電流源の寄生シャント容量を十分に補償できることを示します。
図3の回路のクローズドループ・ゲインは式6で表すことができます。帰還コンデンサを追加したときにこの回路がどうなるかを示すために、式6のRFをZFに置き換えます。これは、式9を導くときに行った作業に似ています。ZFは式8に定義されています。この回路を図5に示します。

図5の回路のクローズドループ・ゲインは式12で与えられます。
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(12) |
ループ・ゲインを求めると次のようになります。

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(13) |
式13のCFに起因するゼロは式10のゼロと同じですが、CFに起因するポールは

から

に変わります。
CFにCを加えることで、ポールの位置をゼロの位置まで移動し、入力電流源の寄生容量Cに起因するポールを除去することができます。式13において、CFとCに起因するポール周波数がCFに起因するゼロ周波数と等しくなるようにすれば、式14が得られます。
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(14) |
式14はCF値を計算するための単純な式であり、図5に示すTIAの寄生容量Cに起因するループ・ゲイン内のポールを除去することができます。ポールのゼロ・キャンセルが完了することにより、ループ・ゲインは式11のような主要ポールと高周波ポールを持つ元の形式に戻ります。ここで、クローズドループ・ゲインは式15のように表すことができます。
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(15) |
式14を使用する際、特に難しいのは固定値ではないRO値を求めることですが、これはCFAのデータシート上に必ず規定されているとは限りません。ポールのゼロ・キャンセルは、0 dBとの交点におけるループ・ゲイン・プロットの傾斜が20 dB/ディケードに十分近ければ問題ありません。式14は、ROが0に近づくときに生じるブートストラップの増加により、CFの値がROに比例して減少することを示しています。この場合、Cは完全にブートストラップされ、必要なCFは0と等しくなります。式14は、ROC = RFCFのようにマッチング表現をした時定数の形式で表すこともできます。式14のマッチングした時定数形式は、VFAの寄生加算ノード容量を補償するときに使われる数式、すなわちRGCG = RFCFに酷似しています。この場合のRGはVFAのゲイン抵抗で、CGはRGの両端に加えた容量であり、これは一般に寄生加算ノード容量となります。しかし、このような利点には代償が伴います。CFを追加するとTIAは安定しますが、式12と式15からわかるように、

でクローズドループ・ゲインにポールが形成されます。式15で示したクローズドループ・ゲインは、互いの伝達関数を掛け合わせる2つのカスケード接続システムとみなすことができます。最初のシステムは式15の左端の要素を伝達関数として備えており、オームの次元を持ちます。2つ目のシステムは式15の右端の要素を伝達関数として備えており、その次元は無次元です。
ループ・ゲインの振幅が–20 dB/ディケードで0 dBに交差する限り、2つ目のシステムの応答はループ・ゲインによって決定され、1次伝達関数によってモデル化することができます。基礎的な帰還理論に従えば、このロールオフ条件が満たされていれば、ループ・ゲイン振幅が1を大きく上回る場合に第2のシステムのクローズドループ・ゲイン振幅はほぼユニティになり、ループ・ゲイン振幅が1を大幅に下回る場合にはその振幅通りになります。クローズドループ・ゲインの3 dBポイントは、ループ・ゲイン振幅が0 dBに交差する周波数で発生します(傾斜が–20 dB/ディケードより少し速いと、クローズドループ応答の0 dB交差ポイント近くでピーキングが発生します)。したがって、安定したアンプの場合、第2のシステムは1次ローパスフィルタに近似させることができます。このフィルタは、通過帯域にユニティ・ゲインを持ち、ループ・ゲイン振幅が0 dBに交差する周波数とカットオフ周波数が等しいものとなります。最初のシステムの伝達関数は帰還係数の逆数であり、単純な1次ローパス応答によってRFのDC値および

のコーナー周波数が得られます。
直感的には、CFに起因する追加ポールの発生は理にかなっています。というのも、出力電圧は帰還インピーダンス(周波数の増大に伴って低下する)を流れる電流によって生成されるからです。ポールは、CFのリアクタンスがRF値と等しくなる場合に形成されます。これと同様の現象は、VFAを用いた帰還コンデンサ補償型のTIAでも見られます。CFを式14で計算した値から慎重に引き下げてポール周波数を移動させ、位相余裕を小さくすることにより、クローズドループ帯域幅をいくらか広く取ることができます。ただし、こうした操作はあくまでも実験上のこととして行うようにしてください。
シミュレーション・データ
この結果をテストするために、CFAの単純なシミュレーション・モデルを作成しました。この場合、ZO = 1 MΩ、p = –2π (100kHz)、pH = –2π (200 MHz)、RO = 50 Ω、RF = 500 Ωです。ループ・ゲインの大きさ(振幅)を求めるには、式11にこれらの値を当てはめてその絶対値をとります。
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fが約145 MHzであれば、この式の値は1となります。
145MHzでのループ・ゲインの位相偏差は次式で与えられ、
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位相余裕は約54°となります。寄生容量のない基本的なCFAにおいて、手始めとしては妥当な値です。
図6 に、立上がり時間1 nsの電流ステップ入力に対するこのモデルの応答のシミュレーションを示します。

応答はクリーンであり、リンギングも最小限に抑えられています。位相余裕54°で、まさに予想通りの応答です。反転入力とグラウンドの間に50 pFの寄生容量を追加した場合に同じアンプのステップ応答がどうなるかを図7に示します。

図7の縦のスケールは図6の場合と同じですが、リンギングが生じている分、表示は1目盛だけ下げてあります。このアンプでは過剰なリンギングが観察され、位相余裕の問題が生じていることは明らかです。
このアンプの場合は、式14で求めた5 pFの帰還容量を追加することで安定化することができます。図8に、5 pFの帰還容量を追加すると応答がどうなるかを示します。

クローズドループ・ゲインのポールによる帯域制限が生じていることは明白です。元のアンプのループ・ゲイン0 dBのクロスオーバ周波数を求めると145 MHz であり、これは一次システムの約1.1 nsの時定数に対応しています。RFCF時定数は2.5 nsです。(位相余裕が90°より小さいのでループ・ゲインのロールオフ・レートは0 dBクロスオーバで–20 dB/ディケードより少し速くなりますが、1次のクローズドループ・モデルの近似度はかなり正確です。)上述したような2つのカスケード接続システムのモデルを使って、カスケード接続システムの総時定数を2つの時定数の2乗和平方根(Root Sum Square)、すなわち約2.7 nsと推定することができます(入力電流源10 ~ 90%の立上がり時間1 nsは、無視できるほどの短い有効サブns時定数に相当)。これは、図7の応答にとってほぼ適切な値と考えられます。
CFを3 pFに落とすことで位相余裕がいくらか減少するとともにクローズドループ・ポール周波数が増大し、反応速度が改善されます(図9)。

CFの最適値を得るためには、何らかの実験を行う必要があります。CFを選択する際は、負荷容量、ボード・レイアウト、ROの変更といった他の要素も考慮の対象に加えます。
結論
CFAをTIAとして使用することに関心をお持ちであれば、CFAの反転入力でトランスデューサ容量を補償する方法、および補償が機能する仕組みを理解する必要があります。ここでは、従来の帰還技術を使って、反転入力容量を補償するために帰還抵抗と並列に1個の帰還コンデンサを追加するという単純な方法を紹介しました。帰還コンデンサはクローズドループ応答に不要なポールをもたらしますが、計算値を参考にしつつ、実験を通してコンデンサの値を調整することで、ポールによる帯域制限効果を軽減することができます。
EngineerZoneのAnalog Dialogue Communityに掲載している”Current Feedback Amplifiers”についてのブログ(英語)についてのコメントもお待ちしております。
参考資料
Gray, Paul R., and Robert G. Meyer. Analysis and Design of Analog Integrated Circuits. John Wiley & Sons, Inc., 1977.
Lundberg, Kent. “Feedback Control Systems.” M.I.T. Course Notes.
Roberge, James K. Operational Amplifier: Theory and Practice. John Wiley & Sons, 1975.