背景
ほとんどの中間バス・コンバータ(IBC: Intermediate BusConverters)では、入力と出力の間を絶縁するために大きな電源トランスが使用されます。また、通常は、出力フィルタにもインダクタが必要になります。このようなIBC は、データ通信、テレコム、医療用の分散電源アーキテクチャで一般的に使用されています。そうした用途に向けて、さまざまなサプライヤから、フットプリントが1/16、1/8、1/4 ブリックの IBC が標準的な製品として提供されています。一般的な仕様は、公称入力電圧が 48 Vまたは 54 V で、5 V ~ 12 V という低い中間電圧を生成するというものになります。出力電力のレベルは数百 Wから数 kW に及びます。中間バス電圧は、POL(Point ofLoad)レギュレータの入力として使用されます。POLレギュレータは、FPGA、マイクロプロセッサ、ASIC、I/Oなど、低電圧で動作するデバイスの給電に使用されます。
一方、48 V から直接変換を行う場合など、新たな多くのアプリケーションでは、IBC において絶縁を行う必要はありません。上流の 48 V または 54 V の入力が、危険なAC 電源からすでに絶縁されているからです。そうした多くのアプリケーションでは、非絶縁型の IBC を採用するためにホット・スワップに対応するフロントエンド・デバイスを使用することになります。非絶縁型の IBC が新たな多くのアプリケーションに組み込まれるようになったことから、ソリューションのサイズとコストが大きく削減されるようになりました。また、効率が高まるとともに、設計に対して柔軟性がもたらされました。図 1 に、分散電源の一般的なアーキテクチャを示しました。

分散電源のアーキテクチャの中には、非絶縁型の変換を適用できるものがあります。その場合、シングルステージの降圧コンバータの使用を検討することができます。必要なのは、36 V ~ 72 V の入力電圧範囲に対応し、5V ~ 12 V の出力電圧を生成可能な DC/DC コンバータです。アナログ・デバイセズの「LTC3891」であれば、そのような条件を満たします。150 kHz という比較的低いスイッチング周波数で動作させる場合、約 97 % の効率を達成することが可能です。ただ、それよりも高い周波数で動作させた場合には効率は低下します。48 V という比較的高い入力電圧によって、MOSFET のスイッチング損失が生じるからです。
新たなアプローチ
本稿では、革新的なアプローチを紹介します。それは、スイッチド・キャパシタと同期式の降圧コンバータを融合させるというものです。その構成では、スイッチド・キャパシタ回路によって入力電圧を半分まで低減し、それを同期式の降圧回路に供給します。入力電圧をいったん低い電圧に低減し、さらに必要な出力電圧まで降圧するという手法により、効率を高めることができます。あるいは、より高いスイッチング周波数で動作させれば、回路のサイズを大幅に縮小することが可能になります。また、スイッチド・キャパシタをフロントエンドとするDC/DC コンバータは本質的にソフト・スイッチングの性質を備えることになります。それにより、スイッチング損失を低減し、MOSFET で生じる電圧ストレスを抑えて、EMI(電磁妨害)を低減するというメリットを得ることも可能です。図 2 に、そのような組み合わせで構成したハイブリッド型の同期式降圧コンバータの例を示しました。

新たな高効率の DC/DC コンバータ
「LTC7821」は、スイッチド・キャパシタ回路と同期式の降圧コンバータ回路を統合した製品です。この IC を使用すれば、DC/DC コンバータ全体のソリューションとして、従来よりも最大で 50 % のサイズ縮小を実現することができます。しかも、スイッチング周波数を 3 倍に引き上げることによって、効率を損なうことなくサイズを削減することが可能です。あるいは、他の製品を使った場合と比べると、同じスイッチング周波数を使用しても効率を最大 3 % 高めることができます。ソフト・スイッチングに対応するフロントエンドによって EMI が低減されるので、配電、データ通信、テレコム、あるいは 48 V を使用する最新の車載システムといった非絶縁型の次世代 IBC に最適です。
LTC7821 は、10 V ~ 72 V(絶対最大定格は 80 V)の入力電圧範囲に対応します。外付け部品を適切に選択することにより、数十 A もの出力電流を生成可能です。外付け MOSFET のスイッチング周波数としては、200 kHz~ 1.5 MHz の範囲内の固定値にプログラムすることができます。48 V の入力、12 V/20 A の出力という標準的なアプリケーションにおいて、500 kHz のスイッチング周波数で 97 % の効率が得られます。従来の同期式降圧コンバータで同じ効率を達成するには、1/3 の動作周波数でスイッチングする必要があります。これは、はるかに大きな磁気部品や出力フィルタ部品を使用しなければならないということを意味します。LTC7821 はオン抵抗が 1 Ω で高性能の N チャンネル MOSFET に対応するゲート・ドライバを内蔵しています。同ドライバにより、効率を最大限に高めることができます。また、大きな出力が必要なアプリケーションに対しては、複数の MOSFET を並列で駆動する方法で対処できます。さらには、電流モード制御のアーキテクチャを採用していることから、複数の LTC7821 を並列の多相構成で動作させることも可能です。適切に電流を分担させ、出力電圧のリップルを抑えることが可能なので、ホット・スポットを生成することなく、従来よりもはるかに大きな出力を要するアプリケーションに対応できます。
LTC7821 は多くの保護機能を備えており、さまざまなアプリケーションにおいて堅牢性を発揮します。起動時にはコンデンサに対するバランス調整が行われ、多くのスイッチド・キャパシタ回路で発生する突入電流を抑えます。また、システムの電圧、電流、温度に異常がないかどうかを監視する機能を備えています。検出抵抗を使用することで、過電流に対する保護機能を実現します。異常が発生した際にはスイッチングを停止し、FAULT ピンをローに設定します。加えて、内蔵するタイマーを利用し、適切なリスタート/リトライ時間を設定できるようになっています。EXTVCC ピンを介し、DC/DC コンバータからの低電圧の出力や、利用可能なその他の電源(最高 40 V)からの給電も可能なので、電力損失を低減し、効率を高めることができます。その他の特徴としては、まず全温度範囲における出力電圧精度が ± 1 % に抑えられています。さらに、多相動作向けのクロック出力、パワー・グッド出力信号、短絡保護、モノリシック出力電圧による起動、外部リファレンスをオプションで使用可能、低電圧ロックアウト(UVLO)機能、内部充電バランス回路などに対応しています。図 3 に、36 V ~ 72 V の入力を12 V/20 A の出力に変換するための回路を示しました。

図 4 は、48 V の入力、12 V/20 A の出力を要するアプリケーションに対して、以下の 3 種の DC/DC コンバータを使用した場合に得られる効率を示したものです。
- スイッチング周波数が 125 kHz、ゲート駆動電圧が 6Vのシングルステージの降圧コンバータ(青色)
- スイッチング周波数が 200 kHz、ゲート駆動電圧が 9Vのシングルステージの降圧コンバータ(赤色)
- スイッチング周波数が 500 kHz、ゲート駆動電圧が 6Vのハイブリッド型コンバータ(LTC7821、緑色)

LTC7821 を使って構成した回路は、他の DC/DC コンバータを使用する場合と比べて最高 3 倍の周波数で動作しつつ、同等の効率を達成します。また、そうした高い動作周波数を使用することによって、インダクタのサイズが 56 % 縮小されます。それにより、ソリューション全体として最大 50 % の小型化が実現されます。
コンデンサの事前バランス調整
通常、スイッチド・キャパシタを利用したコンバータは、入力電圧の印加時またはコンバータのイネーブル時に、非常に高い突入電流にさらされます。このことが、電源回路の障害につながる恐れがあります。LTC7821 は、コンバータの PWM 信号がイネーブルになる前に、すべてのスイッチング・コンデンサを事前に充電する独自の機構を備えています。これにより、起動時の突入電流が最小限に抑えられます。また、DC/DC コンバータの動作の信頼性をより高く確保するために、異常に対する保護機構を働かせるプログラマブルなウィンドウも備えています。それにより、電流モードで動作する従来からの降圧コンバータと同じように、スムーズなソフト・スタートによって出力電圧が得られます。詳細については、LTC7821のデータシートをご覧ください。
メインの制御ループ
コンデンサのバランス調整フェーズが完了すると、通常の動作が開始します。M1 と M3 の MOSFET は、クロックによって RS ラッチがセットされるとオンになります。また、メインの電流コンパレータ ICMP によって RS ラッチがリセットされるとオフになります。続いて M2 と M4の MOSFET がオンになります。RS ラッチをリセットする ICMP のピークのインダクタ電流は、エラー・アンプEA の出力である ITH ピンの電圧によって制御されます。VFB ピンは電圧帰還信号を受け取り、EA がそれを内部リファレンス電圧と比較します。負荷電流が増加すると、VFB の電圧が 0.8 V のリファレンスよりもやや低くなります。それによって、平均インダクタ電流が新しい負荷電流と一致するまで、ITH の電圧が増加し続けます。M1 と M3 の MOSFET がオフになった後は、M2 とM4 の MOSFET が次のサイクルが開始するまでオンになります。M1/M3 と M2/M4 がスイッチングする間、コンデンサ CFLY は、CMID と直列または並列に交互に接続します。MID の電圧は、VIN のほぼ 1/2 になります。この DC/DC コンバータは、高速で正確なサイクル単位の電流制御機構を備えており、オプションで電流の分担が可能な従来の電流モードの降圧コンバータと同じように動作します。
まとめ
本稿では、入力電圧を半分にするスイッチド・キャパシタ回路の後段に同期式の降圧コンバータが配置するハイブリッド型のコンバータを紹介しました。これにより、DC/DC コンバータ全体としてのソリューションのサイズを、従来と比べて最大 50 % 縮小することができます。これは、効率を損なうことなく、スイッチング周波数を 3 倍に引き上げることによって達成されます。あるいは、既存のソリューションと同等のフットプリントで、3 % 高い効率で動作させることも可能です。この新たなハイブリッド型コンバータのアーキテクチャでは、ソフト・スイッチングによって、EMI と MOSFET のストレスが低減されるといったメリットも得られます。大きな出力が必要な場合に、複数のコンバータを容易に並列で動作させ、電流の分担を正確かつアクティブに行うことも可能です。