ADALM2000による実習:エレクトレット・マイク用のオーディオ・アンプ回路

目的

今回は、エレクトレット・マイク用のオーディオ・アンプ回路を設計します。つまり、マイクからの小さな出力電圧をアンプによって増幅できるようにするということです。更に、そのアンプ回路によって小型のラウドスピーカを駆動してみましょう。

背景

エレクトレット・マイクは、コンデンサ(キャパシタ)マイクの一種です。一般に、コンデンサ・マイクには外付けのファントム電源が必要です。それにより、コンデンサをバイアスします。一方、エレクトレット・マイクにはファントム電源は必要ありません。そうではなく、コンデンサのプレートに電荷を永続的に保持することによって動作します。ただ、市販のほとんどのエレクトレット・マイクはプリアンプ(通常はオープンドレインのFET回路)を搭載しています。そのため、低電圧の電力がわずかに必要となります。

オーディオ・アンプは、単純なものであればトランジスタを使用して構成できます。負帰還回路はあってもなくても構いません。ただ、負帰還回路を設ければ、歪み性能が向上するという非常に重要なメリットが得られます。そこで、この実習ではAC結合の非反転オペアンプ回路を設計することにします。電圧ゲインは10に設定し、ループ内に配置したエミッタ・フォロワ回路で信号を出力するようにします。その出力信号はラウドスピーカにAC結合することにします。そのオーディオ・アンプ回路において、オペアンプ部は電圧ゲインを提供します。一方、エミッタ・フォロワ回路はバッファとして機能し、ラウドスピーカを駆動するために必要な電流を供給します。エミッタ・フォロワ回路をフィードバック・ループ内に配置することにより、全体的な性能が向上します。

オーディオ・アンプ回路の設計

上述したように、エレクトレット・マイクは、オープンドレインのFETをベースとするプリアンプを内蔵しています。そのため、図1に示すように、出力と5Vの電源の間には値が680Ω~2.2kΩ程度のドレイン抵抗RDを接続する必要があります。ここではその値を2.2kΩに設定することにします。それにより、5Vの電源を使用する場合のドレイン電圧は約4.5Vになります。

図1. エレクトレット・マイクの出力段
図1. エレクトレット・マイクの出力段

この設計例では、グラウンドを基準とするAC結合を介して、インピーダンスが8Ωのラウドスピーカに公称400mV p-pの信号を供給することを目標とします。そのためには±25mA程度の電流が必要です。ここで、アンプ回路は、5Vの単電源で動作するように設計します。そこで、オペアンプのDCレベルは2.5V(電源電圧の1/2)にバイアスすることとします。入力信号、出力信号、帰還信号にはいずれもAC結合を適用します。入力信号にAC結合を適用することで、マイクの出力のDCレベルとアンプ回路の入力のDCレベルが異なる状態を許容できるようになります。アンプ回路のオペアンプ回路の部分とエミッタ・フォロワ回路の部分は、それぞれクワッドオペアンプ「OP484」とNPNトランジスタ「2N3904」を使って構成することにします。これらは、アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」に含まれています。

図2. 構成するアンプ回路
図2. 構成するアンプ回路

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • レール to レールのオペアンプ:OP484(1 個)
  • エレクトレット・マイク:1 個
  • NPN トランジスタ:2N3904(1 個)
  • インピーダンスが 8Ω のラウドスピーカ:1 個
  • 抵抗:47Ω(1 個)、68Ω(1 個)、100Ω(1 個)、1kΩ(1 個)、2.2kΩ(1 個)、20kΩ(1 個)
  • コンデンサ:4.7µF(1 個)、47µF(1 個)、220µF(1 個)

ハードウェアの設定

図3に示す回路を、ソルダーレス・ブレッドボード上に実装します(図4)。

図3. エレクトレット・マイク用のオーディオ・アンプ回路
図3. エレクトレット・マイク用のオーディオ・アンプ回路

なお、アンプ回路の動作を確認したい場合には、マイクとスピーカを取り除き、ブレッドボードを図5のように変更してください。その上で、ADALM2000のオシロスコープ機能を使用して信号波形などを確認します。


手順

図5のブレッドボードを使用すれば、アンプ回路のゲインを確認することができます。そのためには、まずソフトウェア・ツール「Scopy」を開き、5Vの正の電源を有効にしてください。そして、任意波形ジェネレータ(AWG1)の出力チャンネル1(W1)を、ピークtoピークの振幅が50mV、周波数が200Hz、オフセットが2.5Vの正弦波を生成するように設定します。なお、正弦波の振幅を大きくしていくと、クリッピングが観測されるようになるはずです。オシロスコープ機能については、入力信号をチャンネル1で、アンプ回路の出力信号をチャンネル2で観測することにします。垂直分解能を100mV/div、位置を-2.5Vに設定すると、オシロスコープの画面に図6のような信号が表示されるはずです。

図4. 図3の回路を実装したブレッドボード
図4. 図3の回路を実装したブレッドボード
図5. アンプ回路の動作を確認するために変更したブレッドボード
図5. アンプ回路の動作を確認するために変更したブレッドボード
図6. アンプ回路の入出力波形
図6. アンプ回路の入出力波形

アンプ回路が適切に動作することを確認したら、エレクトレット・マイクとラウドスピーカを図4に示したように接続します。ラウドスピーカをマイクのすぐ前まで移動させると、可聴フィードバックが生じるはずです。

問題1

正弦波の振幅を大きくしていくと、なぜクリッピングが生じるのでしょうか。

問題2

ラウドスピーカをマイクに近づけると、可聴フィードバックが生じるのはなぜでしょう。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Andreea Pop

Andreea Pop

Andreea Popは、アナログ・デバイセズのシステム設計/アーキテクチャ・エンジニアです。2019年より現職。クルジュナポカ工科大学で電子工学と通信工学の学士号を取得しています。また、同校でIC/システムに関する修士課程を修了しました。

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。