目的
今回は、バイポーラ・トランジスタ(BJT)を使用して構成したエミッタ接地回路の周波数応答について検討します。
エミッタ接地回路のトポロジ
図1に示したのは、代表的なエミッタ接地回路(共通エミッタ・アンプ)です。コンデンサCCとCBは、それぞれ入力と出力をアンプ回路のDCバイアスから分離する(ACカップリング)ために使用しています。コンデンサCEはACバイパス・コンデンサであり、トランジスタQ1のエミッタにおいて低周波領域のACグラウンドを確立する役割を果たします。ミラー・コンデンサCFは、アンプ回路の高周波側において3dBの応答を調整するために使用する小容量のコンデンサです。

低周波領域の応答
図2に示したのは、図1の回路の低周波領域の動作に対応する小信号等価回路です。低周波領域では、CFのインピーダンスが非常に高いと考えられます。そのため、CFは無視できます。また、RBは、図1のRB1とRB2を並列に合成したものです。

短絡回路の時定数解析を使うことで、低周波側の3dB周波数ωLを次式のように求めることができます。
ここでR1S、R2S、R3Sは、それぞれ以下のように表されます。
高周波領域の応答
図3に示したのは、図1の回路の高周波領域の動作に対応する小信号等価回路です。高周波領域では、CB、CC、CEのインピーダンスはRS、RL、REと比べて非常に小さくなります。そのため、それぞれを短絡回路に置き換えることができます。

高周波側の3dB周波数ωHは、次式によって求められます。
ここでRT、RCLは、それぞれ以下の式で表されます。
このように、エミッタ接地回路の動作が低周波側/高周波側のドミナント・ポールによって適切に特徴付けられるのであれば、この回路の周波数応答は、次式のように近似できます。
各変数の意味は以下のとおりです。
s:複素角周波数
AV:ミッドバンドにおけるゲイン
ωL:低周波側のコーナー角周波数
ωH:高周波側のコーナー角周波数
回路の設計
ここでは、エミッタ接地回路を具体的に設計してみます。まず、CB、CC、CEはいずれも1F、CF、CΠ、Cμはいずれも0Fだと仮定します。トランジスタQ1としては「2N3904」を使用することにします。それ以外の仕様は以下のとおりです。
VCC = 5V
RS = 50Ω
RL = 1kΩ
RIN > 250Ω
ISUPPLY < 8mA
AV > 50
[ピークtoピークの出力振幅(クリップは発生させない)] > 3V
以下の手順で設計/検証を行ってください。
- 計算結果、設計手順、各部品の最終的な値はすべて記録しておいてください。
- 回路シミュレータとして「LTspice®」を使用し、回路の特性を検証します。仕様を満たしていることを示すために必要なすべてのシミュレーション結果は、プロットとして取得します。また、DCバイアス点が記入された回路図も用意してください。
- LTspiceを使用し、CFが0Fという条件で高周波側の3dB周波数を確認します。
- シミュレーションの動作点データを基にして、トランジスタのCπ、Cμ、rbを求めます。また、式(5)~(7)を使ってfHを算出します。これらの式で得られるのは角周波数なので、単位がHzの周波数値に変換する必要があります。この計算結果を、上のステップで得られたシミュレーション結果と比較してください。
- fHが5kHzになるCFの値を算出します。シミュレーションによって特性を確認し、必要があればCFの値を調整します。
- fLが500HzになるCB、CC、CEの値を算出します。シミュレーションによって特性を確認し、必要があれば各コンデンサの値を調整します。
実験の手順
次に、設計した回路をブレッドボード上に実装します。回路の周波数応答を実際に測定することで、設計した値の検証を行います。
準備するもの
- アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」
- ソルダーレス・ブレッドボード
- 抵抗:6個。アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」から必要な値のものを選択します。
- コンデンサ:4個。ADALP2000から必要な値のものを選択します。
- 小信号NPNトランジスタ:「2N3904」(1個)
ソース抵抗RSとADALM2000の任意波形ジェネレータ(AWG)については注意すべきことがあります。AWGの出力W1には、50Ωの直列抵抗が存在します。したがって、W1と直列に接続する外付け抵抗には、その値も含める必要があります。また、設計した回路は比較的ゲインが高いので、入力信号のピークtoピーク振幅は約100mV程度に抑えなければなりません。この場合、ノイズ対策の観点から、ソフトウェア・ベースでAWGの出力値を小さく設定するのではなく、AWGの出力とエミッタ接地回路の入力の間に、信号を減衰させるための抵抗分圧器を挿入するとよいでしょう。図4に示すような回路を使えば、1/16の減衰と60Ω相当のソース抵抗の両方が得られます。ここでは値が68Ωの標準抵抗を使用していますが、別の値の標準抵抗を組み合わせることも可能です。.

ハードウェアの設定

図5に示したのが、設計した回路と図4の回路を組み合わせた結果です。ブレッドボードを使用し、この回路を図6のように実装します。

説明
- 設計値に基づいて、図5の回路を構成します。実際に使用する部品については、ADALP2000に含まれる標準品の中で最も値が近いものを選択してください。なお、標準品を直列/並列に組み合わせれば、より設計値に近い値の部品を得ることもできます。
- IC、VE、VC、VBを測定することによって、DC動作点を確認します。DCバイアス値がシミュレーションから得られた値と大きく異なる場合には、次のステップに移る前に、必要なDCバイアスが得られるよう回路を修正します。
- ISUPPLYを測定します。
- ソフトウェア・パッケージ「Scopy」のネットワーク・アナライザ計測機能を使用し、50Hz~20kHzの周波数応答(振幅)を測定します。それにより、低周波側/高周波側の3dB周波数fL/ fHの値を特定します。
- ミッドバンドの周波数領域でAV、RIN、ROUTを測定します。
図7、図8に示したのは、LTspiceを使って取得した図5の回路のシミュレーション結果です。


問題
- コンデンサCFをより小さい値(0.01μF)のものに置き換えます。その条件で、AC掃引のシミュレーション結果と、ネットワーク・アナライザ計測機能を使用した実測結果を取得してください。コンデンサの値を変更したことで現れる影響について説明してください。
答えはStudentZoneで確認できます。