負電圧用のリニア・レギュレータ

「負電圧」とは何でしょうか。電圧というのは相対的なものです。2 つの導体があったとすると、それぞれの電位は異なる可能性があります。つまり、一方の電圧はもう一方の電圧より高い可能性があるということです。このような場合に、「負電圧」という表現を使うことはまずありません。負電圧という言葉を使うのは、その電圧が、システムのグラウンド電位よりも低い場合です。図1 に示したのは、電源電圧が 3.3 V、グラウンド電位が 0V のシステムの例です。このシステムでは、センサーからの信号を計測し、その結果を記録するものとします。センサーからの信号は、おそらく 2.5 V ~ -2.5 V の範囲にあります。そのような信号を扱うために、このシステムでは 3.3 V の正の電源電圧と -3.3 V の負の電源電圧を必要とするオペアンプを使用しています。

正の電源電圧である 3.3 V は、もともとシステムに存在しています。-3.3 V の負の電源電圧については、-5 V の補助電圧を利用できるかもしれません。この電源レールは、おそらくトランスを使用した電源によって構成しているはずです。一般に、その種の電圧は精度がそれほど高くありません。そこで、図 1 のシステムでは、高い精度で -3.3 V を生成するためにリニア・レギュレータを使用しています。

正電圧用のリニア・レギュレータとしては、数多くの製品が提供されています。そうした正電圧用のリニア・レギュレータを、負電圧の変換に使用することは可能なのでしょうか。

図1に示したのは、正電圧用のリニア・レギュレータを使用して負電圧を生成する回路を実現した例です。但し、この回路では、電流のソースしか行えず、シンクには対応できないという問題が生じます。仮に、電流のソース/シンクが可能な正電圧用のリニア・レギュレータ製品を選択したとします。その場合でも、この回路では別の問題が発生するはずです。図中の可変抵抗は、リニア・レギュレータのパス・エレメントを表しています。このリニア・レギュレータ IC には、VIN、VOUT、GNDというメインの端子があります。各端子の電圧の相対的な関係は、正電圧のアプリケーションで使われる場合と全く同じです。しかし、このような環境で正電圧用のリニア・レギュレータを使用することには欠点があります。この回路では、-5 V の電源レールを基準とし、抵抗分圧器を使用することで出力電圧を調整します。つまり、システムのグラウンドである 0 V を基準にするのではありません。- 5V の電源レールには何らかの乱れやノイズが発生します。それらが、レギュレータによって生成した -3.3V の電源レールに直接影響を及ぼします。また、レギュレーションの精度も低くなります。-5 V の電源電圧の精度が±10%程度であるとします。その低い精度の影響が、生成した -3.3 V の電圧にも現れます。

図 1 .正電圧用のリニア・レギュレータによって負電 圧を生成する回路。この回路では、電流の流れる方向に依存して期待どおりの動作が得られなくなります。
図 1 .正電圧用のリニア・レギュレータによって負電 圧を生成する回路。この回路では、電流の流れる方向に依存して期待どおりの動作が得られなくなります。

このような形で正電圧用のリニア・レギュレータを使うことには、もう1つの欠点があります。それは、en ピン(イネーブル・ピン)に代表される I/O ピンが、-5 V を基準にして機能することです。システムにおいて、異なる電圧間のシーケンスを監視する必要がある場合、何らかのレベル・シフトが必要になるかもしれません。

図 2 は、図 1 と同じ機能を実現するシステムです。但し、図 1 の例とは異なり、負電圧の降圧専用に設計されたリニア・レギュレータを使用しています。この種の ICは、一般的なリニア・レギュレータと区別するために、負電圧用のリニア・レギュレータと呼ばれています。図2 の回路では、アナログ・デバイセズの新たな負電圧用リニア・レギュレータ「ADP7183」を使用しています。この IC は、ノイズを最小限に抑えつつ、最高レベルの電源電圧変動除去比(PSRR)が得られるように設計されました。そのため、この製品は、電源の変動に敏感なノードに対するフィルタリングの用途に最適です。

図 2 . 負電圧用のリニア・レギュレータによる負電圧の生成

図 2 のように負電圧用のリニア・レギュレータを使用する場合、0 V のグラウンド電圧を基準として -3.3 V の電圧が生成されます。そのため、非常にノイズが少なく精度の高い出力電圧が得られます。また、I/O ピンも 0 Vのグラウンド電圧を基準として機能するので、レベル・シフトを行う必要はありません。ここまでに説明したように、負電圧の変換や負電圧のフィルタ処理を行う場合には、負電圧用のリニア・レギュレータを使用するべきです。但し、市場で入手可能な負電圧用のリニア・レギュレータは種類が限られています。アナログ・デバイセズは、最大出力電流が 300 mAの ADP7183 や同 500 mA の「ADP7185」といった新製品を市場に投入することで、設計者に対して新たな選択肢を提供しています。

今月の問題

ところで、なぜLDO(低ドロップアウト)レギュレータが必要になるのでしょうか。皆さんは、安定した 5V の出力を得たい場合、今でも定番のリニア・レギュレータ「7805」を使用していますか。7805は、最小でも 7 Vの入力電圧が必要になるはずです。ここでは、100 mA の出力電流を得たいとします。

その場合、7805と「ADP150」のようなLDOレギュレータとでは、どちらの方が高い効率を得られるでしょうか。

ヒント: ADP150のデータシートを参考にしてください。

答えは StudentZone で確認することができます。

著者

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーション・エンジニアとして、パワー・マネージメント・ソリューションの導入に携わりました。その間、アリゾナ州フェニックス(米国)で4年間にわたりスイッチング電源に取り組んだ経験も有しています。2009年にはアナログ・デバイセズに入社。製品ラインや欧州のテクニカル・サポートを担当するなど、様々なポジションで業務に携わってきました。