ADALM2000による実習:オペアンプ・ベースのコンパレータ

目的

オペアンプのスイッチ動作を利用すれば、電圧コンパレータを実現できます。電圧コンパレータは、2つの入力電圧の相対的な状態を判定するものです。判定結果は、コンパレータの2値出力(ハイ、ロー)によって表されます。比較の処理としては、2つの入力電圧の差をとり、得られた結果の符号が正になるのか負になるのかという判定が行われます。その符号に応じ、コンパレータがとり得る2つの値のうち1つが出力されます。

オペアンプをベースとするコンパレータでは、2つの入力V+とV-の差を単一の入力VDに置き換えて考えることができます。出力電圧VOは以下のようになります。

  • VO = VOH(ハイを出力):V+ > V-(VD > 0)を意味します。
  • VO = VOL(ローを出力):V+ < V-(VD < 0)を意味します。

出力電圧が切り替わる特定の入力電圧VI(VD = 0)が、そのコンパレータのスレッショールド電圧(閾値)VThとなります。

本稿では、以下に示す2種の主要な電圧コンパレータについて検討します。

  • シンプルなコンパレータ:帰還回路がなく、スレッショールド電圧は1 つだけです。
  • ヒステリシス・コンパレータ:正帰還回路を備えており、スレッショールド電圧が2 つ存在します。

準備するもの


  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボードとジャンパ線のキット
  • 抵抗:10kΩ(3個)、20kΩ(1個)
  • オペアンプ:「OP97」(1個。アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」の最新版に含まれる低スルー・レート品)または「OP37」

シンプルなコンパレータ

まずは、シンプルなコンパレータについて検討します。

背景

図1の構成により、オペアンプはシンプルなコンパレータとして機能します。この機能は、オペアンプの高いゲインと出力の飽和効果を利用することで実現されます。この回路は、基本的には2つの状態を持つ意思決定回路だと言えます。非反転入力(+)の電圧が反転入力(-)の電圧よりも高ければ、出力はハイになります。「ハイになる」というのは、オペアンプの最大出力値で飽和するということです。逆に、非反転入力の電圧が反転入力の電圧よりも低ければ、出力はローになります。例えば、非反転入力に任意の入力電圧VINを印加し、反転入力にDCリファレンス電圧VREFを印加するとします。その場合、VIN > VREFであれば出力はハイになり、VIN < VREFであれば出力はローになります。このように、図1の回路は2つの入力電圧を比較し、相対値に基づいて出力を生成します。オペアンプを使用する通常の回路とは異なり、入力と出力の間に帰還経路はありません。このような回路は、「オープンループで動作する」と表現されます。

図1. オペアンプを使用して構成したコンパレータ回路
図1. オペアンプを使用して構成したコンパレータ回路

ハードウェアの設定

コンパレータは、様々な場面で使用されています。まずは、その基本動作を確認しておきましょう。ここでは、幅が可変の矩形波を生成する一般的な構成のコンパレータを取り上げます。

まず、電源がオフになっていることを確認し、回路を実装します。ここでは、ADALM2000が備える任意波形ジェネレータ(AWG)の1つの出力をVREFとして使用します。その振幅はゼロとし、出力オフセットを最低値まで下げておきます。実験では、このオフセットの値をゼロから高めていきます。

図2. 図1の回路を実装したブレッドボード
図2. 図1の回路を実装したブレッドボード

もう一方の入力電圧VINは、AWGのもう1つの出力によって生成します。ピークtoピークの振幅が2V、周波数が1kHzのサイン波を出力するように設定します。電源を投入し、VREFが0Vのときの出力波形をエクスポートしておきます。

続いて、VREFの値をゆっくりと上昇させ、何が起きるのか観察します。VREFが1Vのときの出力波形を記録しておいてください。更に、VREFが2Vを超えるまで高め続け、何が起きるか観察します。ここまでの実験が完了したら、なぜそのような挙動を示すのか考察してください。

続いて、VINとして三角波を出力するように設定し、同様の実験を行います。観察した結果は、実験レポートとして記録しておいてください。

手順

AWGの出力をVINとして使用し、ピークtoピークの振幅が2V、周波数が1kHzのサイン波を回路に印加します。オペアンプの電源電圧としては、ADALM2000のユーザ用電源を使用して±5Vを供給します。波形の表示には、ADALM2000のオシロスコープ機能を使用します。チャンネル1に入力信号が表示され、チャンネル2には出力信号が表示されるように設定してください。.

図3に示したのは、入出力波形の表示結果の例です。

図3. コンパレータの入出力波形
図3. コンパレータの入出力波形

ヒステリシス・コンパレータ

続いて、ヒステリシス・コンパレータの実験を行います。ヒステリシスとは、システムに対する現在の入力だけでなく、それ以前の入力にも依存して変化を示す動作のことです。ヒステリシスを備える回路の出力は、入力に対する1つの厳密な関数とはなりません。そうではなく、タイム・ラグ、ディレイ、あるいは履歴に対する依存性が伴います。また、入力が減少するときの出力応答は、入力が増加するときの出力応答とは異なる性質を示します。

ヒステリシス・コンパレータの場合、2つの出力値VOH、VOLに対応する2つのスレッショールド電圧VThH、VThLが存在します。出力を入力に帰還(正帰還)し、スレッショールド電圧が出力に依存するように回路を構成します。具体的には、非反転入力に対し、抵抗分圧器で決まる特定の比率で出力電圧を帰還します。出力電圧の何割かを非反転入力に加えるということです。

ヒステリシス・コンパレータについては、ヒステリシスが移動する方向と、ある時点において有効なスレッショールド電圧は1つだけだということを考慮しなければなりません。

スイッチングのプロセスは正帰還によって維持され、入力信号によって出力のスイッチングがトリガされます。

非反転型のヒステリシス・コンパレータ

ヒステリシス・コンパレータは、いくつかの構成で実現できます。まずは、非反転型のヒステリシス・コンパレータを取り上げます。

背景

ここでは、非反転型のヒステリシス・コンパレータの例として、図4に示す回路を構成します。

図4. 非反転型のヒステリシス・コンパレータ
図4. 非反転型のヒステリシス・コンパレータ

この回路において、オペアンプの非反転入力にはVINを印加します。回路の入力と出力の間には、抵抗R1、R2を使用して構成した分圧回路を付加しています。これにより、非反転入力に対して出力電圧を一定の割合で正帰還します。

帰還量は、R1、R2の比によって決まります。図4の回路の場合、帰還量は1/2になります。

スレッショールド電圧は、次式によって求めることができます:

式1

VD = 0、VIN → VThとすると、以下のようにスレッショールド電圧が得られます。

式2

ハードウェアの設定

ブレッドボードを使用し、図4に示した非反転型のヒステリシス・コンパレータ回路を図5のように実装します。

図5. 図4の回路を実装したブレッドボード
図5. 図4の回路を実装したブレッドボード

手順

AWGの出力をVINとして使用し、ピークtoピークの振幅が6V、周波数が1kHzのサイン波を回路に印加します。オペアンプには、電源電圧として±5Vを供給してください。最後に、チャンネル1に入力信号が表示され、チャンネル2に出力信号が表示されるようにオシロスコープを設定します。

図6に、入出力波形の例を示しました。

図6. 図4の回路の入出力波形
図6. 図4の回路の入出力波形

図7に示したのは、図4の回路のXYプロットです。これを見れば、非反転型のヒステリシス・コンパレータにおける入出力電圧の伝達特性を把握できます(矢印はスレッショールド電圧に対する信号の流れを表しています)。スレッショールド電圧の計算値を測定値と比較してみてください。

図7. 図4の回路のXYプロット
図7. 図4の回路のXYプロット

反転型のヒステリシス・コンパレータ

続いて、反転型のヒステリシス・コンパレータを取り上げます。

背景

ここでは、図8に示す反転型のヒステリシス・コンパレータについて検討することにします。

図8. 反転型のヒステリシス・コンパレータ
図8. 反転型のヒステリシス・コンパレータ

この回路では、オペアンプの反転入力にVINを印加します。回路の入力と出力の間には、抵抗R1、R2で構成した分圧回路を配置しています。これにより、非反転入力に対して出力電圧を一定の割合で正帰還します。

帰還量は、R1、R2の比によって決まります。この回路の場合、帰還量は1/2となります。

スレッショールド電圧は、次式によって求めることができます。

式3

VD = 0、VIN→ VThとすると、次のようにスレッショールド電圧が得られます。

式4

ハードウェアの設定

ブレッドボードを使用し、図8に示した反転型のヒステリシス・コンパレータ回路を図9のように実装します。

図9. 図8の回路を実装したブレッドボード
図9. 図8の回路を実装したブレッドボード

手順

AWGの出力をVINとして使用し、ピークtoピークの振幅が6V、周波数が1kHzのサイン波を回路に印加します。オペアンプには、電源電圧として±5Vを供給してください。オシロスコープは、チャンネル1に入力信号が表示され、チャンネル2に出力信号が表示されるように設定します。

図10に入出力波形の例を示しました。

図10. 図8の回路の入出力波形
図10. 図8の回路の入出力波形

図11に示したのは、図8の回路のXYプロットです。これを見れば、反転型のヒステリシス・コンパレータにおける入出力電圧の伝達特性を把握できます(矢印はスレッショールド電圧に対する信号の流れを表しています)。スレッショールド電圧の計算値を測定値と比較してみてください。

図11. 図8の回路のXYプロット
図11. 図8の回路のXYプロット

スレッショールド電圧が非対称な反転型ヒステリシス・コンパレータ

もう1つ、反転型のヒステリシス・コンパレータを取り上げます。スレッショールド電圧が非対称である点を特徴とします。

背景

図12に示したのが、スレッショールド電圧が非対称な反転型ヒステリシス・コンパレータです。

図12. スレッショールド電圧が非対称な反転型ヒステリシス・コンパレータ
図12. スレッショールド電圧が非対称な反転型ヒステリシス・コンパレータ

図8の回路とは異なり、この回路では、リファレンス電圧VREFを追加で使用します。回路の入力と出力の間には、抵抗R1、R2で構成した分圧回路を配置しています。これにより、非反転入力に出力電圧を一定の割合で正帰還します。

スレッショールド電圧は、次式によって求めることができます。

式5

VD = 0、VIN→ VThとすると、以下のようにスレッショールド電圧が得られます。

式6

ハードウェアの設定

ブレッドボードを使用し、図12に示した回路を図13のように実装します。

図13. 図12の回路を実装したブレッドボード
図13. 図12の回路を実装したブレッドボード

手順

AWGの出力をVINとして使用し、ピークtoピークの振幅が6V、周波数が1kHzのサイン波を回路に印加します。また、AWGのもう1つの出力を、値が2VのVREFとして使用します。オペアンプには電源電圧として±5Vを供給してください。オシロスコープは、チャンネル1に入力信号が表示され、チャンネル2に出力信号が表示されるように設定します。

図14に、入出力波形の例を示しました。

図14. 図12の回路の入出力波形
図14. 図12の回路の入出力波形

図15に示したのは、図12の回路のXYプロットです。これを見れば、図12の反転型ヒステリシス・コンパレータにおける入出力電圧の伝達特性を把握できます(矢印はスレッショールド電圧に対する信号の流れを表しています)。スレッショールド電圧の計算値を測定値と比較してみてください。

図15. 図12の回路のXYプロット
図15. 図12の回路のXYプロット

問題

4種のコンパレータ(シンプル、非反転型、反転型、スレッショールド電圧が非対称の反転型)について、スレッショールド電圧を計算してください。その値を、実験で得られたスレッショールド電圧と比較してください。

追加の実習

最後に、追加の実習を提示しておきます。図12に示したコンパレータ回路に変更を加え、電圧が負の値の場合には赤色のLEDが点灯し、電圧が正の値の場合には緑色のLEDが点灯するようにしてください。入力信号の周波数を1Hz(またはそれ以下)まで下げれば、ターン・オン、ターン・オフする様子を目視で確認できます。LEDに流れる電流が20mAを超えないように、必ず電流制限抵抗を適用してください。

続いて、図16に示すように、複数の電圧レベルに対応する回路に拡張してみてください。

図16. LEDを使用した電圧レベルの表示計
図16. LEDを使用した電圧レベルの表示計

準備するもの


  • 抵抗:10kΩ(1個)、20kΩ(2個)、470Ω(3個)
  • LED:赤色、緑色、黄色のものを各1個
  • オペアンプ:「ADTL082」(1個。2個のオペアンプを内蔵)

この回路では、2つの各コンパレータに対して1つのスレッショールド電圧を設定するために、R1、R2、R3を使用して分圧器を構成しています。設定されたスレッショールド電圧と入力電圧に基づき、1度に1個のLED(D1、D2、D3のうちいずれか)がオンします。

問題

  • 図16の回路のスレッショールド電圧を求めてください。また、それぞれの入力電圧範囲に対し、どのLEDがオンになりますか。
  • 図17のように、ブレッドボードに回路を実装してください。オペアンプには、電源電圧として±5Vを供給します。AWGの1つの出力によりVINを生成し、もう1つの出力により5VのVREFを生成します。
  • VINを0V~5Vの範囲で変化させ、LEDの動作を観察してください。
図17. 図16の回路を実装したブレッドボード
図17. 図16の回路を実装したブレッドボード

答えはStudentZoneで確認できます。

なお、図16の回路は、ウィンドウ・コンパレータとして知られています。同コンパレータについては、Temperature Control Using Window Comparator(ウィンドウ・コンパレータによる温度の制御)をご覧ください。

著者

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。