Virtual Evalの活用法 ――ADC に関する設計を仮想的にスタートする

これまでに A/D コンバータ(ADC)を使ったことはありますか。マルチプレクサや PGA、バッファ、シグマ・デルタ(ΣΔ)コンバータ、リファレンス電圧、電源で構成される複雑なシステムは手に負えないと感じたり、どこから手を着ければよいものかと悩んだりはしていませんか。そのようなときに役立つのが「Vi r tual Eval」です。ADC のアナログ入力、PGA のゲイン、電圧リファレンスの値、あるいは電源電圧の値を変更しつつ、ステップ応答や周波数応答 H(f)、変換結果のヒストグラムへの影響などを把握することができます。

本稿では、アナログ・デバイセズの ADC「AD7124-8」を例にとり、仮想評価ボードの使い方を解説します。

なぜ仮想化という手法を使うのか?

個々のアプリケーション向けに設計した回路の性能は、選択した部品に応じて決まります。各部品の性能に関する情報やヒントは、データシートを見れば確認することができます。ただ、各種の回路から成る設計全体の特性を詳しく評価するために、通常は評価ボードを使用することになります。それによって、ADC、アンプ、インシュレータなどの部品のテストを行うということです。しかし、評価ボードを使う方法には大きな欠点があります。それは、実際に評価ボードを購入し、計測器に接続しなければ評価できないということです。また、最適な設定を見いだすためにさまざまなボードでテストを行うプロセスには、特に時間とコストがかかります。このような複雑さを回避できるようにするために、アナログ・デバイセズは、設計者がシミュレーションによって ADC や D/Aコンバータ(DAC)の評価を行えるようにするためのオンライン・ツールを開発しました。それが Virtual Evalです。このツールを使えば、物的コストが不要になります。また、設計を行う際、部品の選択に費やす時間を削減することができます。

Virtual Eval 向けには、アナログ・デバイセズの ADC/DAC に関する最新かつ包括的なデータベースが用意されています。同ツールを使用すれば、ADC/DAC の各動作環境について正確にシミュレーションすることができます。同時に、さまざまなシナリオや境界条件でのテストを実施することも可能です。図 1 に示すように、同ツールにはさまざまな機能が用意されています。ここでは、分解能が 24 ビットの ΣΔ ADC 「AD7124」を例にとることにします。同 IC は、ケーブルの接続やショートなどを検出する診断用の拡張機能をオプションとして備えています。.

図 1. Virtual Eval 上に表示された AD7124 のブロック図
図 1. Virtual Eval 上に表示された AD7124 のブロック図

Virtual Eval では、最初のステップとして ADC 全体のブロック図を確認することができます。図中で内部の各モジュールをクリックすれば、個々のシミュレーションのシナリオに合うようにパラメータを変更できます。設定が可能なモジュールとしては、入力アンプや各種スイッチが挙げられます。また、画面左側の「SETTINGS」には、利用可能なオプションが表示されます。AD7124 の場合、フィルタの設定(Sinc 4 + Sinc 1 または Sinc 4)、内部クロック、電圧リファレンスなども設定の対象になります。変換レートやタイミングの校正も可能です。

パラメータの設定を行ったら、ADC の特性が視覚化され、それを基に評価を行うことができます。まず、入力波形を表示できます( 図 2 (a) ) 。また、入力信号に対して FFT を適用することが可能です。ADC の統計的なデータと精度はヒストグラム(図 2(b))によって確認できます。

図 2 . 入力信号の波形(a)と入力信号に対応するヒストグラム(b)
図 2 . 入力信号の波形(a)と入力信号に対応するヒストグラム(b)

Virtual Eval では、信号の周波数応答とステップ関数を表示することも可能です(図 3(a))。一般に、ADCはナイキスト定理を満たせるように選択されます。ステップ関数を利用することにより、安全を確保するためのマージンを含む最大入力周波数の正確な値を算出することができます。ステップ関数の立上りは、ADC が適切な変換レートで動作する場合だけ適切に分解できます。変換レートが不十分であれば、データは失われます。図3(b)のタイミング図は、AD7124 の時間の経過に伴う応答を表しています。消費電流を削減した場合や、変換レートを高めた場合など、さまざまなシナリオでシミュレーションを実施することが可能です。

図 3 . ステップ関数(a)とタイミング図(b)
図 3 . ステップ関数(a)とタイミング図(b)

まとめ

ADC/DAC 用のシミュレーション・ツールである VirtualEval は、異なる条件やシナリオに基づいてさまざまな製品のシミュレーションを実施する手段を提供します。これを利用すれば、コストを削減しつつ、製品の選択に必要な時間を大幅に短縮することができます。つまり、設計者は評価用ボードを購入したり、コストのかかるテストを実施したりすることなく、適切な製品を選択できるということです。ADC を選択したら、すぐに Virtual Eval のヘルプ・ページ上でデータシートや詳細な情報を確認することができます。近い将来、データベースは拡張され、ADC/DAC を内蔵した AMR(異方性磁気抵抗)センサーなどの集積化モジュールも網羅されるようになります。

今月の問題

PGA のゲインが 128 に設定され、差動入力電圧が 0.1 Vに設定されているとき、AD7124-4 には何が起きるでしょうか。ヒントは、差動入力とはどのようなものなのか考えてみることです。なお、リファレンス電圧は 2.5 V、アナログ電源は 3.3 V、I/O 電源は 2.7 V であるとします(それ以外はすべて標準的な設定)。

各自で計算を行ってみたうえで、Virtual Eval でシミュレーションを実施してみてください。

この問題の答えは StudentZone で確認できます。

著者

Christoph Kaemmerer

Christoph Kämmerer

Christoph Käemmerer。2015年2月以来、ドイツのアナログ・デバイセズに勤務。2014年にエアランゲンのフリードリヒ・アレクサンダー大学を卒業。物理学修士。その後、プロセス開発のインターンとしてリメリックのアナログ・デバイセズに勤務。2016年12月にフィールド・アプリケーション・エンジニアとしてのトレイニー・プログラムを終了してアナログ・デバイセズに勤務し、新興アプリケーションを担当。現在は新興ビジネス・マネージャとして、アナログ・デバイセズにとって将来成長が見込まれるオプションの検討を担当。