ADALM2000による実習: 調整が可能な外部トリガ回路を構成する

目的

アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」のデジタル入力を使用すれば、外部からトリガ信号を取り込むことができます。今回は、アナログ信号を基にして、同入力用のトリガ信号を生成する方法を紹介します。

背景

ADALM2000のオシロスコープ機能(モジュール)は、通常は1つのアナログ入力チャンネルによってトリガされます。この機能を使用すれば、トリガのソースとして選択したチャンネルに応じ、水平時間軸で安定した波形(時間がゼロのポイントでアラインされる)を表示することができます。ただ、評価の対象となる回路上の任意の信号をトリガとして使用して波形を表示する(時間がゼロのポイントが基準)方が望ましいケースもあります。ADALM2000は、T1、T0という2つの外部デジタル入出力を備えています。これらは、トリガ入力として使用することも可能です。その場合、表示される波形は、印加された信号の立上がりエッジでアラインされる(時間がゼロのポイントに設定される)ことになります。但し、その場合に使用できるのはデジタル入力だけです。その電圧範囲は0V~5Vに限られます。また、閾値電圧は固定値となります。T1、T0を利用しつつ、アナログ入力信号(つまり-5V~5Vの信号)をトリガとして使用するにはどうすればよいのでしょうか。その方法としては、電圧コンパレータ回路とトリガの電圧レベルを設定するための可変電圧源を使用するというものが考えられます。今回は、この回路について詳しく解説します。

準備するもの

  • ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • コンパレータ:「AD8561」またはピン配置が少し異なる「AD790」( 1 個 )
  • ヘキサ CMOS インバータ:「74HC04」(1 個 )。または「CD4007」(付録を参照)
  • 抵抗:1kΩ(3 個)、1MΩ(1 個)
  • ポテンショメータ:10kΩ(1 個)
  • コンデンサ:0.1μF(1 個)、0.0047μF(1 個)

説明

今回取り上げるのは、図1に示す回路です。これをソルダーレス・ブレッドボード上に実装してください。AD8561はアナログ・コンパレータであり、非反転(真)出力と反転(相補)出力を備えています。その出力を受け取るのは1つ目のインバータです。立上がりエッジでトリガしたい場合には、このインバータにAD8561の7番ピンを接続してください。立下がりエッジでトリガしたい場合には、AD8561の8番ピンを接続します。本稿では、まずAD8561の7番ピンを1つ目のインバータの入力として使用することにします。ここでは、1つ目のインバータと、その後段の2つ目のインバータとしてヘキサCMOSインバータの74HC04を使用することにします。ただ、同じくヘキサCMOSインバータである「CD4069」で代用することも可能です。あるいは、トランジスタ・アレイであるCD4007を使って2つのインバータを構成することでも対応できます(付録を参照)。

AD8561は、非常に広い帯域幅を備えています。そのため、入力信号に周波数の高いノイズが含まれていると、それに反応してしまいます。つまり、入力信号が閾値VTHに近づいたとき、ノイズの影響により、AD8561の出力がハイとローの間で頻繁かつ高速に切り替わってしまいます。ノイズが原因で、画面に表示される波形がジャンプしたり、ジッタによって波形が前後に動いたりといった形で不安定に見えるということです。その対策として、図1の回路では抵抗R5とコンデンサC2を使用してローパス・フィルタを構成しています。このフィルタを2つのインバータの間に挿入することで、非常に高速にスイッチングするスパイクを減衰させます。このフィルタの時定数は、外部トリガとして使用する信号の性質に応じて調整することになります。

図1. アナログ信号からトリガ信号を生成するためのインターフェース回路
図1. アナログ信号からトリガ信号を生成するためのインターフェース回路

ハードウェアの設定

任意波形ジェネレータ(AWG1)は、ピークtoピークの振幅が8V、オフセットが0V、周波数が5kHzの三角波を生成するように設定します。オシロスコープの水平軸と垂直軸は、入力した三角波の波形の少なくとも1周期分が完全に表示されるように設定してください。回路の接続を確認した上で、電源を投入します。

図2. 図1の回路を実装したブレッドボード
図2. 図1の回路を実装したブレッドボード

手順

まず、オシロスコープのトリガ・ソースをチャンネル1の立上がりエッジに設定します。その際、レベルは0Vに設定してください。チャンネル1の三角波の立上がりエッジが、水平軸において時間がゼロのポイントを中心として表示されるはずです。一方、チャンネル2には2つ目のインバータのデジタル出力が接続されています。その出力の立上がりエッジは、ポテンショメータR3の設定に応じて水平軸の様々な時点に現れるはずです。試しに、R3の値をその上限と下限の間で上げ下げしてみてください。チャンネル2のパルスの立上がりエッジが、その時点において、三角波の電圧(垂直軸)のどの位置に現れるのかを観察してください。

図3. オシロスコープで取得した信号の波形(その1)。チャンネル1の立上がりエッジをトリガとして使用しつつ、ポテンショメータを異なる値に設定しています。
図3. オシロスコープで取得した信号の波形(その1)。チャンネル1の立上がりエッジをトリガとして使用しつつ、ポテンショメータを異なる値に設定しています。

次に、オシロスコープのトリガ・ソースをT1入力(External 1)に切り替えます。その上で、R3の値を上限と下限の間で上げ下げしてみてください。立上がりエッジのどこにでも時間がゼロのポイントを設定できることがわかるはずです。

図4. オシロスコープで取得した信号の波形(その2)。T1入力の立上がりエッジをトリガとして使用しつつ、ポテンショメータを異なる値に設定しています。
図4. オシロスコープで取得した信号の波形(その2)。T1入力の立上がりエッジをトリガとして使用しつつ、ポテンショメータを異なる値に設定しています。

次に、1つ目のインバータの入力をAD8561の8番ピンに切り替えてください。その場合、時間がゼロのポイントが三角波の立下がりエッジと一致するはずです。先ほどの例と同様にR3の値を上げ下げし、立下がりエッジのどこにでも時間がゼロのポイントを設定できることを確認してください。

問題

本稿の例では、コンパレータにおいてノイズが原因で生じるジッタを除去するためにRCフィルタを使用しました。それ以外にはどのような方法が考えられるでしょうか。

答えはStudentZoneで確認できます。

【付録】トランジスタ・アレイによるインバータの構成方法

図5に、CD4007の回路図とピン配置を示しました。

図5. CD4007の回路図とピン配置
図5. CD4007の回路図とピン配置

CD4007を1個使用すれば、最大3個のインバータを構成することができます。最も構成が簡単なのは、図6に示すように、8番ピンと13番ピンを接続し、インバータ出力として使用する方法です。その場合、6番ピンが入力になります。なお、電源ピンも必ず接続する必要があります。すなわち、VDD(14番ピン)を電源 に 、VSS(7番ピン)をグラウンドに接続しなければなりません。

図6. インバータの構成例
図6. インバータの構成例

2つ目のインバータの構成方法は次のようになります。まず、2番ピンをVDDに、4番ピンをVSSに接続します。その上で、1番ピンと5番ピンを接続して出力として使用し、3番ピンを入力として使用します。3つ目のインバータの構成方法は次のようになります。すなわち、11番ピンをVDD、9番ピンをVSSに接続した上で、12番ピンを出力として使用し、10番ピンを入力として使用するというものです。

著者

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。