フォトカプラを使用しなくても、絶縁型のDC/DCコンバータを構成できるというのは本当ですか?

質問:

フォトカプラを使用しなくても、絶縁型のDC/DCコンバータを実現できると聞きました。その場合、どのようにして設計上の課題に対応するのでしょうか?

Did You Know Optocouplers Are Not Needed for Isolated DC-to-DC Conversion?

回答:

確かに、フォトカプラを必要としない新たなフライバック・ソリューションは存在します。そのソリューションは、フォトカプラだけでなく、それに伴うフィードバック回路やトランスの3次巻線も必要としません。しかも、出力電圧のレギュレーション精度の面で新たな基準になり得るものでもあります。

はじめに

アプリケーションによっては、絶縁型のDC/DCコンバータが必要になることがあります。その目的の1つは、安全性を確保すことです。あるいは、複雑なシステムにおいて適切な動作を保証するために絶縁型のDC/DCコンバータが必要になることもあります。従来の絶縁ソリューションでは、フォトカプラならびにそれに関連する追加の回路が用いられていました。あるいは、トランスを使用した複雑な設計を適用することによって絶縁バリアをまたぐフィードバック・ループを形成し、出力電圧をレギュレートするということが行われていました。いずれにせよ、絶縁型DC/DCコンバータを実現するためには追加のコンポーネントが必要になります。そのため、設計が複雑になり、実装に必要なスペースも大きくなるという課題を抱えていました。それだけでなく、フォトカプラには大きな問題があります。フォトカプラの性能は、時間が経過するにつれて劣化してしまうのです。そのため、システムでフォトカプラを使用すると、信頼性が低下してしまいます。また、通常は最終製品のサイズをできるだけ小さく抑えることが求められます。電源用のスペースも限られるので、熱の管理という課題も浮上します。絶縁型のDC/DCコンバータを設計する際には、上記のすべての課題を克服する必要があります。つまり、システム設計者が必要としているのは、小型、低コストで信頼性が高く、システムの設計を簡素化してくれるソリューションです。このようなニーズに応えるものが、フォトカプラを必要としない新たなフライバック・ソリューションです。これを採用すれば、設計の簡素化とシステムの小型化を実現できます。

なぜ、絶縁型のDC/DCコンバータが必要になるのか?

絶縁型のDC/DCコンバータは、様々な分野の多くの電源システムで使用されています。代表的なアプリケーション分野としては、ファクトリ・オートメーション、ビル・オートメーション、eモビリティ、オートモーティブ、アビオニクス(航空電子機器)、医療、民生などが挙げられます。こうした分野で絶縁型のDC/DCコンバータが使われる理由としては、以下の3つ(3つのうち1つ以上)が挙げられます。

安全性の確保: 電流サージによる機器の損傷を防ぐと共に、主電源から人間を保護するために絶縁型のDC/DCコンバータが使用されます。図1に示したのは、オペレータが身体的に接触する可能性のある2次側と主電源の間を絶縁した電源システムの例です。安全性を確保するための絶縁が適切に行われていない場合、落雷などが原因となって、非常に高い電圧サージが機器を介してオペレータとグラウンドに印加されるおそれがあります。万が一そのようなことが起きれば、ほとんどの場合、オペレータは死に至ることになります。この例の場合、危険なサージのエネルギーは絶縁バリアによって1次側のグラウンドに送り返されます。それによって、サージのエネルギーがオペレータに到達するのを防ぎます。

Figure 1. Isolation for safety. 図1. 安全性を確保するための絶縁
図1. 安全性を確保するための絶縁

グラウンド・ループの回避: 規模の大きいシステムや複雑なシステムでは、グラウンドの電位が異なる領域が存在することがあります。そのような場合、システムの損傷の原因になるグラウンド・ループを回避するための手段として絶縁が使用されます。また、高精度なアナログ・システムにデジタル・ノイズが影響を及ぼさないようにするために絶縁が使われることもあります。

Figure 2. Isolation to avoid ground loop. 図2. グラウンド・ループを回避するための絶縁
図2. グラウンド・ループを回避するための絶縁

レベル・シフト: いくつもの電源レールが混在するシステムでは、絶縁型のDC/DCコンバータが活用されることがあります。それにより、絶縁された正負の出力電圧を複数生成するということです。

Figure 3. Isolation for level shifting. 図3. レベル・シフトのための絶縁
図3. レベル・シフトのための絶縁

絶縁型DC/DCコンバータの基礎

図4に示したのは、従来の絶縁型DC/DCコンバータの構成例です。このソリューションでは、絶縁バリアをまたぐフィードバック・ループが使用されます。その主な構成要素は、フォトカプラ、エラー・アンプ、電圧リファレンスです。エラー・アンプはDC/DCコンバータの出力電圧を検出し、その値を電圧リファレンスの値と比較します。比較結果の情報は、フォトカプラによって絶縁バリアをまたいで1次側に送信されます。1次側では、制御回路によってパワー段が調整され、出力電圧のレギュレートが実現されます。

Figure 4. Traditional isolated DC-to-DC converter using optocoupler and associated feedback circuitry. 図4. 従来の絶縁型DC/DCコンバータの構成例。フォトカプラを使用してフィードバック回路を構成しています。
図4. 従来の絶縁型DC/DCコンバータの構成例。フォトカプラを使用してフィードバック回路を構成しています。

このソリューションでも、十分に目的を果たすことができます。ただ、機器のサイズを縮小することが強く求められる場合、これらの回路を実装するためのスペースがほとんどなくなります。典型的なフィードバック回路では、フォトカプラ、エラー・アンプ、電圧リファレンスを含めて12個のコンポーネントが使用されます(図5)。つまり、設計に使用されるコンポーネントの数がかなり増えることになります。また、プリント基板上のかなりの部分がその回路によって占有されます。この回路を排除したいというニーズが生じるのは当然のことだと言えるでしょう。

Figure 5. Traditional feedback circuit using an optocoupler, an error amplifier, and a voltage reference. 図5. 従来のフィードバック回路。フォトカプラ、エラー・アンプ、電圧リファレンスを使用して構成しています。
図5. 従来のフィードバック回路。フォトカプラ、エラー・アンプ、電圧リファレンスを使用して構成しています。

フォトカプラには、もう1つ大きな問題があります。それは、温度によって性能が大きく変化するというものです。また、先述したように、フォトカプラでは性能の経時劣化が生じます。そのため、アプリケーションによっては信頼性の問題が起きるおそれがあります。図6に示したのは、フォトカプラの電流伝達率(CTR:Current Transfer Ratio)の例です。ご覧のように、-60°C~120°Cの温度範囲でCTRは270%も変化しています1。更に、このCTRは時間の経過に伴って30%~40%も低下します234

Figure 6. Optocoupler collector current vs. ambient temperature.<sup>1</sup> 図6. フォトカプラのCTRと周囲温度の関係1
図6. フォトカプラのCTRと周囲温度の関係1

フォトカプラを排除する方法

上述したような課題を解決するには、フォトカプラに頼らない手法が必要です。以下、その手法について解説します。

1次側に制御用の回路を集約する: フォトカプラを排除するための1つの方法は、1次側に制御用の回路を集約するというものです。その手法では、パワー・トランスに3次巻線を追加します。それにより、オフのサイクルにおける出力電圧を間接的に測定するということを行います。図7に示したのが、そのような回路の例です。反射電圧VWは出力電圧に比例します。その値は以下の式で表すことができます。

数式 1

ここで、VOは出力電圧、VFは出力用の整流器で使用するダイオードの電圧降下、Naは3次巻線の巻き数、NSは2次巻線の巻き数です。

Figure 7. Primary side control using third transformer winding. 図7. 1次側に制御を集約する手法。トランスの3次巻線を使用しています。
図7. 1次側に制御を集約する手法。トランスの3次巻線を使用しています。

この手法を採用すれば、フォトカプラを使用しなくても済みます。但し、以下に示す新たな課題が生じます。

(a) 3次巻線を追加することによって、トランスの設計と構造が複雑になります。また、コストが増加します。

(b) 反射電圧VW の値はダイオードの電圧降下VFに依存します。ここで、VFの値は負荷と温度によって変動します。そのため、出力電圧の検出値には誤差が生じます。 

(c) VW 上の漏れインダクタンスに起因するリンギングによって、出力電圧の読み取り誤差が増加します。

上記のような課題が存在することから、この手法では出力電圧のレギュレーション精度が低くなります。そのため、多くのアプリケーションにとっては実用的なものではなく、ポストレギュレータが必要になります。結果として更にコストがかさみ、ソリューションのサイズも増大してしまいます。

フォトカプラが不要なフライバックのトポロジ: 1次側に制御を集約する手法にはバリエーションがあります。その1つが、フォトカプラを必要としないフライバック型のDC/DCコンバータを使用するというものです(図8)。この方法では、1次側の電圧を直接検出することによって上述した問題を解消します。そのため、パワー・トランスの3次巻線は不要になります。結果として、トランスの構造/設計と基板レイアウトの複雑さは大幅に緩和されます。

Figure 8. No-opto flyback circuit. 図8. フォトカプラを必要としないフライバック回路
図8. フォトカプラを必要としないフライバック回路

この回路において、反射電圧VPは出力電圧に比例します。その値は以下の式で表されます。

数式 2

ここで、VOは出力電圧、VFは出力用整流器で使用するダイオードの電圧降下、NPは1次巻線の巻き数、NSは2次巻線の巻き数です。

フォトカプラを必要としないフライバック・トポロジ自体は新しいものではありません。また、上述した(b)と(c)の問題を完全に解消できるわけでもありません。この手法の場合、(c)の問題は、VWではなくVP上の漏れインダクタンスに起因するリンギングによって生じます。フォトカプラを使用しないフライバック回路でも、出力電圧のレギュレーション精度が低いことが技術的な最大の課題になります。

ただ、この課題については、最新の回路設計技術やMaxim Integrated(現在はアナログ・デバイセズの一部門)の独自技術を適用することによって大幅に改善することができます。以下、この点について詳しく説明します。

高いレギュレーション精度を実現した製品

図9に示したのは、フォトカプラを使用しない絶縁型DC/DCコンバータの例です。その中核を成すのはフライバック・コントローラである「MAX17690」です。この回路では、出力電圧のレギュレーション精度として±5%という値を実現できます。

Figure 9. No-opto flyback circuit achieving new output voltage regulation benchmark. 図9. フォトカプラを必要としないフライバック回路(その1)。出力電圧のレギュレーション精度の面で新たな基準になり得るものだと言えます。
図9. フォトカプラを必要としないフライバック回路(その1)。出力電圧のレギュレーション精度の面で新たな基準になり得るものだと言えます。

MAX17690は、2次側の電流ISECが少ないときに反射電圧のサンプリングを行います。その目的は、検出する出力電圧の読み取り誤差に対処することです。この方法により、出力負荷に起因するダイオードの電圧降下のばらつきが緩和されます。このICは、ダイオードの電圧と、温度に伴うその変化を補償する機能も備えています。加えて、漏れインダクタンスに起因するリンギングを除去するための高度な手法も採用しています。そうしたすべての機能によって、同ICはフォトカプラを必要としない高精度のフライバック・トポロジを実現します。このソリューションは、出力電圧のレギュレーション精度の面で新たな基準になり得るものだと言えます。

もう1つ具体的な例を紹介しておきましょう。図10に示したのは、MAX17690と同じ製品ファミリに属する「MAX17691」を使用した回路です。同ICはパワーFETと電流検出素子も内蔵しています。そのため、回路全体を構成するために必要な外付けコンポーネントの数を抑えられます。同ICを採用すれば、高性能な絶縁型DC/DCコンバータを非常に簡単な形で実装できます。

Figure 10. Highly integrated no-opto flyback solution. 図10. フォトカプラを必要としないフライバック回路(その2)。図9の例と比べてより集積度の高いICを使用しています。
図10. フォトカプラを必要としないフライバック回路(その2)。図9の例と比べてより集積度の高いICを使用しています。

MAX17690とMAX17691は、出力電圧のレギュレーション精度として非常に高い値を達成します。図11に、様々な温度、ライン電圧、負荷に対する両ICの出力性能を示しました。

Figure 11. MAX17690/MAX17691 output voltage regulation. A new benchmark! 図11. MAX17690/MAX17691の出力電圧。レギュレーション精度の面で新たな基準となる性能を実現しています。
図11. MAX17690/MAX17691の出力電圧。レギュレーション精度の面で新たな基準となる性能を実現しています。

まとめ

新たな機器を設計する際には、そのサイズや基板の面積を最小限に抑えることが求められます。そのような場合、従来の絶縁型DC/DCコンバータを使用するのはできるだけ避けたいはずです。フォトカプラを使用してフィードバック・ループを構成することで、全体のサイズが大きくなってしまうからです。それだけでなく、フォトカプラの性能は温度によって変化します。更には経時劣化も生じます。それに対し、フォトカプラを必要としないフライバック・トポロジであれば、より容易に使用できます。必要な外付けコンポーネントの数も少ないので、必然的により良い選択肢となります。本稿では、フォトカプラを必要としないフライバック型のDC/DCコンバータの設計例を紹介しました。その回路では、設計技術の進化によって出力電圧のレギュレーション精度が大幅に改善されます。したがって、そのDC/DCコンバータは、絶縁型の電源アプリケーションにおける実用的かつ適切な選択肢となります。

参考資料

1Optocoupler, Phototransistor Output, Low Input Current, SSOP-4, Half-Pitch, Mini-Flat Package(フォトカプラ、フォトトランジスタ出力、少ない入力電流、SSOP-4、ハーフピッチ、ミニフラット・パッケージ)」Vishay Intertechnology, Inc、2023年1月

2Vishay Optocoupler Application Note, Document Number: 80059」(Vishay フォトカプラのアプリケーション・ノート、ドキュメント番号:80059)」Vishay Intertechnology, Inc.、2008年1月

3Basic Characteristics and Application Circuit Design of Transistor Couplers(トランジスタカプラの基本特性と応用設計)」Toshiba Electronic Devices and Storage Corporation、2018年

4T. Bajenesco「CTR Degradation and Ageing Problem of Optocouplers(フォトカプラが抱える課題、CTRの低下と経年劣化)」Proceedings of 4th International Conference on Solid-State and IC Technology、1995年10月

著者

Thong Huynh

Thong Huynh

Anthony T. Huynh(Thong Anthony Huynh)は、Maxim Integrated(現在はアナログ・デバイセズの一部門)でアプリケーション・エンジニアリングを担当するプリンシパルMTS(Member of the Technical Staff)を務めていました。20年以上にわたり、絶縁型/非絶縁型のスイッチング電源とパワー・マネージメント製品の定義/設計に従事した経験を持ちます。アナログ・デバイセズでは、DC/DCコンバータ、ホットスワップ・コントローラ、PoE(Power over Ethernet)、システム保護などの用途に向けた100種以上のパワー・マネージメント製品を定義。それらの製品は、世界中の主要な機器メーカーに採用されています。

パワー・エレクトロニクスに関する4件の米国特許を保有。広報用の記事やアプリケーション・ノートも多数執筆しています。オレゴン州立大学で電気工学の学士号を取得。ポートランド州立大学で電気工学の修士号の取得に必要なすべての課程を修了しています。同校では、非常勤講師としてパワー・エレクトロニクスの講義も担当していました。