ジャイロが道を間違えた

質問:

ジャイロ・センサーの方位には、時間とともにドリフト誤差が蓄積される可能性があると聞いたことがあります。これはどのIMUにも起こり得るのでしょうか?

RAQ:Issue 139

回答:

角速度を測定するMEMSジャイロ・センサーには、誤差を発生させる内部的要因がいくつかあり、バイアスの不安定性もその1つです。しかし、慣性計測ユニット(IMU)にはディスクリート部品より優れた点がいくつかあり、それらの利点によって高い性能を実現しています。6 自由度のIMUは複数のMEMS慣性センサーで構成されており、これらのセンサーは温度補償され、さらに各直交軸に合わせて補正されています。内蔵された3軸ジャイロ・センサー機能で既知点のまわりの回転を計測し、3軸加速度センサーで変位を計測します。デジタル・シグナル・プロセッサやマイクロコントローラを使用するポストプロセシング・ステップでは、センサー・フュージョンのための内部的手段を提供します。

ジャイロ・センサーのバイアスは不安定になることがあり、この場合は、デバイス内で本来存在する欠陥にノイズが加わることで、時間とともにジャイロ・センサーの初期ゼロ値にドリフトが生じます。再現性のあるバイアスは、IMUの既知の温度範囲内で補正することができます。しかし、定常的なバイアス不安定性が蓄積すると、角度誤差が生じます。これらの誤差は、長期にわたるジャイロ・センサー・ベースの回転や角度の見積のドリフトとして、蓄積されます。ドリフトが招く望ましくない結果は、計算方位の誤差が、減少することなく連続的に増大していくことです。逆に加速度計は、振動や重力以外のその他の加速度の影響を受けやすくなります。

ジャイロ・センサーのドリフトは、主に2つの成分が組み合わされて生じます。ゆっくりと変化するDCに近い変数と、より高い周波数のノイズ変数です。前者は「バイアス不安定性」、後者は「角度ランダム・ウォーク(ARW)」と呼ばれます。これらのパラメータは、単位時間あたりの回転角で表されます。このドリフトの影響を最も受けやすいのがヨー軸です。ピッチ(姿勢)軸とロール軸のジャイロ・センサー・ドリフトのかなりの部分は、加速度センサーのフィードバックを通じて重力を基準とした相対位置をモニターすることにより、IMU内部で除去することができます。ローパス・フィルタやカルマン・フィルタを使ってIMU内でジャイロ・センサー出力をフィルタ処理する方法も、ドリフト誤差を部分的に除去する方法として広く使われています。

理想を言えば、すべての軸のジャイロ・センサー・ドリフトを補正するには2つの基準が必要です。通常、9自由度のIMUは、3軸に磁気センサーを付加しています。磁気センサーは、地球の磁北を基準とした磁界強度を検出するものです。これらのセンサーを使用する時は、加速度センサーのデータをもう1つの外部基準として一緒に使用することで、ヨー軸におけるジャイロ・センサー誤差の影響を軽減することができます。しかし、地球の磁場と同程度の大きさの磁場を生成する要素が数多く存在するので、適切な空間磁気センサーを設計しようとしても、加速度センサーより信頼性が低下する方向に進みかねません。

長期ドリフトを除去するためのより効果的なもう1つの方法は、角速度ゼロ補正機能をジャイロ・センサーに実装することです。デバイスが完全に静止している場合は、その軸におけるジャイロ・センサーのオフセットをいつでもゼロにすることができますが、この機会はアプリケーションによって大きく異なります。車のアイドリング時、自律型ロボットの静止時、人間の足を運ぶ動作の合間など、システムが反復的に休止状態に置かれるような場合は、その状態を使ってオフセットをゼロにすることができます。

もちろん、設計内でのバイアス不安定性が最小になるような最先端のIMUを最初から使用することが、ジャイロ・センサーのドリフトに最も効果的であることは言うまでもありません。ジャイロ・センサーの一定バイアス誤差は、デバイスが回転していない状態で長時間の出力平均を求めることにより計測できます。IMUのアラン分散のグラフは、1 時間あたりの回転角で表したジャイロ・センサーのドリフトと積分時間τの関係を表しており、通常は両対数で表されます。ADIS16490は、高性能のタクティカル・グレードIMUで構成されるアナログ・デバイセズのポートフォリオの中で最新の製品です。ADIS16490 の動作時バイアス安定性は、1時間あたり1.8°という優れた値です。これは、図1に示すADIS16490のアラン分散のグラフに反映されています。図では、1時間(3600秒)における誤差が1.8°であることが分かります。

Figure 1
図1.ADIS16490ジャイロ・センサーのルート・アラン分散

 

著者

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Ian Beavers

Ian Beaversは、アナログ・デバイセズ(ノースカロライナ州、ダーラム)の航空宇宙および防衛システム・チームのフィールド・アプリケーション・エンジニアおよびカスタマ・ラボ・マネージャです。1999年以来、アナログ・デバイセズで勤務しています。半導体業界で25年以上の経験を積んでいます。ノースカロライナ州立大学で電気工学の学士号を、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校でM.B.A.の学位を取得しました。