質問:
センサー後段でのデータのポストフィルタリング用に慣性計測装置(IMU)を構成する場合、デシメーション FIR フィルタとカルマン・フィルタのいずれも選択できることは理解しています。このアプリケーションに最適なのはどちらでしょうか?
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回答:
これらのフィルタがそれぞれIMU 内で提供する機能は全く異なります。大体において、フィルタは独立して動作します。どちらを使うかは、エンド・システムの要件に依存します。その詳細とセンサー・システムに応用する方法を理解するために、両者を詳しく見ていきましょう。
有限インパルス応答(FIR)フィルタと組み合わせてデシメーションを使用するのは、動作対象となる狭いローパス周波数帯域に焦点を絞るために IMU の全入力帯域幅を狭めるためです。これは、システムに多くの回転周波数や加速周波数の運動が生じますが、センサー内ではその一部だけが測定対象として重要となるシステムで特に有効です。さらに、FIR バンドパス・フィルタによって除去しないと、不要あるいは無視されてしまう高周波帯域の動作が、対象周波数帯域にエイリアスとして折り返す可能性があります。
FIR フィルタは、センサーの全帯域幅を必要としない場合に最も有効です。それとは異なり、ローパス領域内の既知の信号周波数帯域幅が対象となる時は、不要信号を除去することができます。例えば、システムの対象となる回転周波数が 20 ~ 50 Hz だけだとします。他の検出可能な高周波ノイズが存在するとしても、IMU 内での測定には関係ありません。デシメーションと FIR フィルタのオプションB を使用し、係数 16 で全帯域幅をローパス・フィルタする方法を図1 に示します。
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不要な信号を除去して、対象となるローパス周波数帯域幅に焦点を絞ることができる
協同発明者である電気技術者のルドルフ・カルマン(Rudolf Kálmán)に因んで名付けられたカルマン・フィルタは、デシメーションと FIR フィルタを組み合わせた利点とは違った利点を提供します。カルマン・フィルタに付けられた「フィルタ」という語は名称として幾分不適切かもしれません。カルマン・フィルタは「再帰的推定器」とでも言った方が適切でしょう。他の方法でフィルタをかけていない、ノイズの多いソリューションで誤差を伴う可能性のある位置を使用するよりも、予測された位置を使用する方が有効なシステムで最も効果を発揮します。カルマン・フィルタは、IMU 内のセンサー軸の影響をすべて考慮して方向角を推定します。
実際は単一の式よりはるかに複雑ですが、ここでは状態行列を省くことによって使用例を簡素化し、次の式を得ることができます。
Xk = Kk × Zk + (1 – Kk) × Xk–1
Xk = 最新推定値
Kk = カルマン・ゲイン
Zk = 測定値
Xk–1 = 前回推定値
それぞれの k は、各センサー軸出力の識別用離散時間間隔またはサンプルとして扱うことができます。新しい最良推定値は、前回の最良推定値から導かれた予測値に、既知の外部的影響を加味したゲイン補正を加えた値です。IMU レジスタ設定内では、Isensor 出力ベクトル間の予想相関関係を確立するために、初期カルマン・ゲインまたは共分散係数が使われます。多くの場合、IMU 内で使用する最適共分散値は、個々の観測内容に依存します。したがってこれは、測定、データの観察、分析、調整、そして反復という繰り返しプロセスと言うことができます。ADIS16480 には、イノベーション残差を使用する内部アルゴリズムが組み込まれています。このアルゴリズムは、共分散項を結果に合わせてリアルタイムで調整することができます。
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ある程度の相関関係を持つカルマン・フィルタ・モデルの一例。
最新の位置は、直前の位置、IMU による測定加速度値、
および 2 つの変数間の相関関係を考慮した共分散に基づいて推定できる