コンデンサはノイズ関連の問題を解決するための万能薬と思われていますが、もっとよく考えることで効果が大きく変わってきます。設計者はいくつかコンデンサを追加すれば大部分のノイズ問題は解決すると思っていますが、容量と電圧定格以外のパラメータについてはあまり考慮していません。実は、他の電子部品と同様、コンデンサも完璧ではありません。寄生的に等価直列抵抗(ESR)や等価直列インダクタンス(ESL)を持ち、温度と電圧によって容量が変動します。機械的な影響も受けやすいためその電気的特性も変動します。
これらの要素については、バイパス・コンデンサを選択するときだけでなく、実際の容量値が重要となるフィルタ、積分器、タイミング回路やその他のアプリケーションで使用するときにも考慮する必要があります。選択が悪ければ、回路が不安定になり、ノイズと消費電力が過度に増え、製品寿命が短縮し、予測できない動作が生じる可能性があります。
コンデンサ技術
コンデンサには、多様なアプリケーションの条件に応じて、多種多様な容量、電圧定格、パッケージ、その他の特性があります。一般に用いられる誘電体には、油、紙、ガラス、空気、雲母、高分子フィルム、金属酸化物などがあります。各誘電体には特定の性質があり、それによってアプリケーションに対する適合性が異なります。
電圧レギュレータの場合、電圧入出力バイパス・コンデンサとして一般に用いられるのは、積層セラミック、固体タンタル電解、アルミニウム電解の3種類です。その比較を付録に示します。
積層セラミック・コンデンサ
小型サイズ、低ESR、低ESL、広い動作温度範囲を持つ積層セラミック・コンデンサ(MLCC)は、バイパス・コンデンサの第一候補です。とはいえ、欠点がないわけではありません。誘電体の材料によりますが、温度、DCバイアス、AC信号レベルによって容量が大きく変動することがあります。さらに、誘電体の圧電特性のために、振動や機械的衝撃がACノイズ電圧に変換されてしまうことがあります。多くの場合、このノイズはマイクロボルト・レベルですが、極端な場合は、機械的な力によってミリボルト・レベルのノイズが発生することもあります。
電圧制御発振器(VCO)、位相ロックループ(PLL)、RFパワーアンプ(PA)、さらにその他のアナログ回路は、電源レール上のノイズの影響を受けます。このノイズは、VCOとPLLでは位相ノイズ、RF PAでは振幅変調、そして超音波スキャン、CTスキャン、並びに微弱なアナログ信号を処理するその他のアプリケーションではフェーズノイズとして現れます。このような欠点にもかかわらず、ほとんどすべての電子デバイスでセラミック・コンデンサが使用されているのは、その小さいフットプリントと低価格のためです。しかし、ノイズの影響を受けやすいアプリケーションに使用するレギュレータの場合、設計者はその副作用を念頭におく必要があります。
固体タンタル・コンデンサ
固体タンタル・コンデンサは、セラミック・コンデンサに比べて、温度、バイアス、振動にあまり左右されません。最近は、通常の二酸化マンガン電解質の代わりに伝導性の高分子電解質を使用することで、サージ電流機能を改善し、電流制限抵抗を不要にしたタイプも出てきています。この技術にはESRが低いというメリットもあります。固体タンタル・コンデンサは温度とバイアス電圧に対して容量が安定しているため、選択するときは、許容誤差、動作温度での電圧ディレーティング、最大ESRだけを基準に判断すれば十分です。
低ESRの導電性高分子タンタル・コンデンサは、高価で、セラミック・コンデンサよりやや大きめですが、圧電効果に起因するノイズを許容できないアプリケーションの場合は唯一の選択肢となるかもしれません。ただし、タンタル・コンデンサのリーク電流は同じ値のセラミック・コンデンサに比べてはるかに大きいため、一部の低消費電力が求められるアプリケーションには不向きです。
固体高分子電解質技術の欠点は、この種のタンタル・コンデンサが鉛(Pb)フリーのハンダ付け処理プロセスで発生する高温に左右されやすいことです。このため、一般にメーカーはコンデンサのハンダ処理サイクルを3回までと限定しています。アセンブリ段階でこの条件を無視すると、長期的な信頼性に問題を生じることがあります。
アルミニウム電解コンデンサ
通常のアルミニウム電解コンデンサは、サイズが大きめであり、ESRとESLが高く、リーク電流が比較的多く、数千時間の単位で耐用寿命が限られる傾向があります。OS-CONコンデンサは、有機半導体電解質とアルミホイル・カソードを使用することで低ESRを実現します。固体高分子タンタル・コンデンサに関連することですが、実はこのコンデンサはタンタル・コンデンサより10年以上前から存在していました。乾燥する液体電解質を持たないOS-CONタイプのコンデンサの耐用寿命は、通常のアルミニウム電解コンデンサを上回ります。大部分は105℃までに制限されていますが、今では125℃の動作に対応するOS-CONタイプのコンデンサも販売されています。
OS-CONタイプのコンデンサの性能は通常のアルミニウム電解コンデンサの性能を上回りますが、セラミック・コンデンサや固体高分子タンタル・コンデンサに比べてサイズが大きく、高いESRを持つ傾向があります。固体高分子タンタル・コンデンサと同様、圧電効果の影響を受けないため、低ノイズ・アプリケーションでの使用に適しています。
LDO回路向けコンデンサの選択
出力コンデンサ
アナログ・デバイセズの低ドロップアウト・レギュレータ1(LDO)は、等価直列抵抗(ESR)が低いものであれば、省スペースの小型セラミック・コンデンサと組み合わせて使用できます。出力コンデンサのESRは、LDO制御ループの安定性に影響します。安定性を確保するには、ESRが1Ω以下で容量は1μFかそれ以上にすることを推奨します。
出力容量も、レギュレータの負荷電流の変化に対する応答に影響を与えます。制御ループの大信号帯域幅は有限であるため、きわめて高速のトランジェントにおいて負荷電流の大部分を出力コンデンサが供給する必要があります。負荷電流が500mA/μsで1mAから200mAまで切り替わるとき、1μFコンデンサが十分な電流を供給できないために、約80mVの負荷トランジェントが生じます(図1を参照)。容量を10μFに増やすと、負荷トランジェントは約70mVまで減少します(図2を参照)。出力容量をさらに20μFまで増やすと、レギュレータの制御ループのトラッキングが可能になり、負荷トランジェントが大幅に減少します(図3を参照)。これらの例では、5V入力と3.3V出力のADP151リニア・レギュレータを使用しています。
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
入力バイパス・コンデンサ
VINピンとGNDの間に1μFのコンデンサを接続すると、特に入力パターンが長いかソース・インピーダンスが高い場合に、回路がプリント回路基板(PCボード)のレイアウトの影響を受けにくくなります。1μFより大きい出力容量が必要な場合は、それに合わせて入力容量を増やすことを推奨します。
入力コンデンサと出力コンデンサの特性
入力コンデンサと出力コンデンサは、動作温度範囲と仕様の電圧において最低限の容量条件を満たす必要があります。セラミック・コンデンサに使用されるさまざまな誘電体は、それぞれ異なる温度特性、電圧特性を持っています。5Vアプリケーションには、6.3V~ 10Vの電圧定格のX5RまたはX7Rの誘電体を推奨します。Y5VとZ5Uの誘電体は、温度特性とDCバイアス特性が悪いため、LDOと使用するには向いていません。
図4は、0402パッケージの1μF、10VのX5Rコンデンサのバイアス電圧対容量特性を示しています。コンデンサのパッケージ・サイズと電圧定格は、その電圧安定性に大きく影響します。一般に、パッケージが大きく、電圧定格が高いほど、電圧安定性が良くなります。X5R誘電体の温度変動は、-40℃~+85℃の温度範囲で±15%であり、パッケージや電圧定格に依存しません。
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温度、部品許容誤差、電圧に対する最悪時の容量を求めるには、式1に示すように、公称静電容量を温度変動と許容誤差によってスケーリングします。
CEFF = CBIAS × (1 – TVAR) × (1 –TOL) |
(1) |
ここで、CBIASは動作電圧における公称静電容量、TVARは温度に対する最悪時の容量変動(1未満の値)、TOLは最悪時の部品許容誤差(1未満の値)です。
この例では、TVARはX5R誘電体では-40℃ ~ +85℃ で15%、TOLは10%、CBIASは1.8Vで0.94μFです(図4を参照)。式1にこれらの値を当てはめると、次のようになります。
CEFF = 0.94 µF × (1 – 0.15) × (1 – 0.1) = 0.719 µF |
ADP151は動作電圧/温度範囲に対して0.70μFの最小出力バイパス容量という仕様規定であるため、このコンデンサは条件を満たしています。
結論
LDOの性能を保証するには、DCバイアス、温度変動、バイパス・コンデンサの許容誤差の影響を理解し、評価しておく必要があります。低ノイズや低ドリフト、または高いシグナル・インテグリティを必要とするアプリケーションでは、コンデンサ技術も考慮する必要があります。あらゆるコンデンサは理想的でない動作の影響を受けるため、アプリケーションの必要性に対応したコンデンサ技術を選択する必要があります。
付録

上から時計回り、目盛りはmm単位
100μF/6.3Vの高分子固体アルミニウム・コンデンサ
1μF/35V、10μF/25Vの固体タンタル・コンデンサ
1μF/25V、4.7μF/16V、10μF/25Vの積層セラミック・コンデンサ
10μF/16V、22μF/25Vのアルミニウム電解コンデンサ
さまざまなコンデンサ技術の重要なパラメータの比較
コンデンサ技術 | 等価直列抵抗 | 等価直列インダクタンス | 電圧安定性 | 温度安定性 | 振動に対する感受性 | 単位体積当たりの容量 |
アルミニウム電解 | 最高 | 最高 | 良 |
最低 |
低 |
低 |
固体タンタル | 並 | 並 | 最良 | 良 | 低 |
高 |
高分子固体アルミニウム | 低 | 低 | 最良 |
良 |
低 |
高 |
積層セラミック | 最低 | 最低 |
悪 | 良 |
高 | 並 |
参考資料
アプリケーション・ノートAN-1099『Capacitor Selection Guidelines for Analog Devices, Inc., LDOs』