出力インピーダンスのアクティブ合成による終端損失の低減

2005年06月02日
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要約

高速伝送ラインのアプリケーションでは、ラインドライバの出力インピーダンスをラインにマッチングさせることが重要となります。これは通常、抵抗器を用いて実現することができますが、アクティブにインピーダンスを合成することで利点が得られます。このアプリケーションノートでは、オペアンプによる正帰還を使用して希望の出力インピーダンスを生成する方法について説明します。50Ω~600Ωの負荷を駆動する、低ノイズオーディオ/ビデオオペアンプについての式と回路の例を示します。

終端の必要性

伝送ラインの駆動アプリケーションでは、回路の出力インピーダンスが重要となります。伝送ラインのインピーダンスは、導体と絶縁体の物理的な形状で決まるものですが、信号の反射による劣化を最小限に抑えるために送信端と受信端の両方でこのインピーダンスを一致させる必要があります。特性インピーダンスが、駆動端と受信端で正しくマッチングされていないと、信号エネルギのすべてが負荷に供給されるわけではなくなります。一部のエネルギは反射されて負荷に転送された信号を歪ませる(場合によっては相殺される)ことになります。

RFエンジニアは同軸ケーブルについて正確な50Ω終端を必要とし、ビデオ伝送エンジニアはそのケーブルについて正確な75Ω終端を必要とし、さらに放送エンジニアはそのオーディオ回路について正確な600Ω終端を必要としています。その他の標準終端値は、110Ω、120Ω、および500Ωです。終端の要件は、アナログ信号に限定されたものではありません。システム全体を通して正確で高速な伝送を得るため、ディジタル信号も正しいライン終端に依存しています。

パッシブ抵抗終端

終端を得る通常の方法は、低出力インピーダンスのバッファアンプを使用し、必要な値になるまで直列抵抗を追加するという方法です。この手法は簡単です。ただし先行するバッファアンプが、対象とする帯域にわたって真に低出力インピーダンスである場合に限ります。

しかし、単純な抵抗器による手法には大きな欠点があります。バッファ出力と終端される負荷との間に6dBの信号損失があるという点です。これは、特に単一電源システムにおいて、信号ヘッドルームを大幅に損失することになります。

図1は、出力インピーダンスを設定するために直列抵抗器を帰還ループの外側に追加した、閉ループのバッファアンプを示しています(アンプの負荷端子側から見て測定)。

図1. 簡単なパッシブ終端
図1. 簡単なパッシブ終端

図1で、負荷への転送電流IFORWARDは、VO/RLOADによって求まることに留意してください。

合成出力インピーダンスROUTは、VINがゼロのときのVO/IREVERSEで求めることができます。

ここで認識すべきことは、オペアンプの閉ループの出力インピーダンスは、十分に広い帯域幅にわたって十分に低いため無視することができるということです。したがって、選択した抵抗によって出力インピーダンスが設定されます。図1で、RΘは、IC1の出力側から見たインピーダンスを設定する直列抵抗です。RΘ = RLOAD = ROUT (正しい逆終端の場合)。オペアンプの開ループの出力抵抗はROOLで示されています。

電圧利得は、次式で得ることができます。

誤差の項は、次式で得ることができます。

出力インピーダンスは、次式で得ることができます。

誤差の項は、次式で得ることができます。

オペアンプの有限開ループ利得(AOP-AMP)による誤差を以下に示します。

理想的なオペアンプによる無限開ループ利得であると想定

理想的なオペアンプによる無限開ループ利得であると想定

図1の長所:

  1. 簡単。必要な終端値にRΘを設定します。
  2. 適度な短絡保護
  3. R1-R2とRΘの間に1次的に相互作用がありません。
  4. 反転および非反転の利得演算が可能
図1の短所:
  1. RLOADのとき(逆終端)のアンプ出力ピン(V'O)と負荷駆動ポイント(VO)の最小損失が6dB。最大出力のピークトゥピーク電圧スイングは、必ず総電源電圧の半分未満になります。
  2. オペアンプに要求される利得帯域幅が2倍
  3. オペアンプの開ループ出力抵抗は、高周波における結果に影響します。

出力インピーダンスのアクティブ合成

幸いにも、出力インピーダンスを設定して利得の損失を低減する方法があります。電圧差動入力アンプの周りに正帰還を慎重に使用すれば、低値の出力電流検知抵抗を必要な最終値にまでブーストすることができます。

図2. 単一オペアンプのアクティブ終端
図2. 単一オペアンプのアクティブ終端

図2で、負荷への転送電流IFORWARDは、VO/RLOADによって求まることに留意してください。

合成出力インピーダンスROUTは、VINがゼロのときのVO/IREVERSEで求めることができます。

図2は、負と正の両方の帰還ループを備え、利得と出力のインピーダンスを設定している単一オペアンプを示しています。RΘは、負荷と直列に配置され、負荷に流れる電流を監視するのに使用します。R3とR4を通過する正帰還は、RΘの効果をブーストするために使用します。回路の安定性のため、負帰還が一連の動作を支配する必要があり、これによって利用可能なブーストの量を制限します。

オペアンプの開ループ出力抵抗は、ループ利得が減衰するにつれて、高周波でのROOL値がRΘに近くなるような状況に対応できるように実装されています。

図2の電圧利得は、次式で得ることができます。

誤差の項は、次式で得ることができます。

図2の出力インピーダンスは、次式で得ることができます。

オペアンプの有限開ループ利得による誤差を以下に示します。

図2の入力-出力信号経路の全体が反転していることに注意してください。

理想的なオペアンプによる無限開ループ利得であると想定すると、出力インピーダンスは次のようになります。

一般に、項[RΘ / [R3 + R4]]は、[1 + R2 / R1][1 + R4 / R3]-1に比べて十分に小さいため、無視してもかまいません。

理想的なオペアンプによる無限開ループ利得であると想定すると、電圧利得は次のようになります。

出力インピーダンスを用いて並び替えると、次式になります。

通常、逆終端アプリケーションについては、RLOAD = ROUTになります。したがって次式となります。

図2の長所:

  1. アンプ出力ピン(V'O)と負荷駆動ポイント(VO)との間の損失が大幅に低減されます。RΘ = 0.1RLOADの場合、損失はわずか0.83dBです。つまり、パッシブ終端の場合に比べて、所定の電源について、ピークトゥピーク出力電圧スイングが大幅に増大します。
  2. メイン出力における適度な短絡保護
  3. 使用が簡単
図2の短所:
  1. 正帰還と負帰還が共存します。安定性を得るため、負帰還が常に全体を支配する必要があります。
  2. R1-R4間に相互作用があります。固定利得と終端の条件についてのみ適しています。
  3. 実際の演算だけを反転しています。
  4. 正帰還は、純粋に負帰還だけの場合に比べて歪みを増大させる傾向があります。

出力インピーダンスの測定

回路の出力端子側から見たインピーダンス係数を測定する簡単な方法がいくつかあります。被テスト回路の出力インピーダンスの測定方法を図3に示します。被テスト回路への入力は接地されています。

図3. 出力インピーダンスの測定
図3. 出力インピーダンスの測定

図3aにおいて明らかな手法は、|E2|が1/2|E1|となるように、特定周波数におけるRSETの値を設定することです。RSETに示される値は、被テスト回路のZOUTに等しくなります。この手法は、テスト周波数においてZOUTが純粋に抵抗だけの場合に当てはまります。リアクタンス部品があると、この、いわゆる「6dB」手法に大きな誤差をもたらすことになります。

より正確な手法は、|E1|より20dB低い|E2|に対してRSETを調整することです。次のようになります。

|ROUT| = RSET / 9

実用上、RSETは、測定する公称インピーダンスの10倍の値に固定される場合があります。これによってE1とE2の比率は、「ZOUT」の値になります。

比率が40dBになると

|ROUT|は、RSET / 99で得られます。

40dBの比率を使用するときには注意を払う必要があります。電源電圧が、被テスト回路の絶縁破壊よりも大きくなるおそれがあるからです。これは、低電圧のオペアンプを対象としているときに関連します。

2番目の方法は、適切なネットワークアナライザを使用する方法です。

3番目の方法は、アクティブなインピーダンスのブースト技法に固有なもので、電流検知抵抗RΘの両端の電圧と位相をじかに測定する方法です。電圧差から、次式によって合成出力インピーダンスを得ることができます。

図2を参照すると次のようになります。

図2を参照し、出力と並列に配置されたR3とR4の効果を考慮すると次のようになります。

テストソースから入力される電圧すなわち入力駆動電圧はVO (図2)であり、オペアンプ出力からの反射電圧はVO' (図2)です。ベクトル電圧計を使用すれば、振幅と位相の両方の差を抽出することができます。その後、Cos qによってVO' / VOの比率を変更します。この方法の大きな欠点は、比較的大きな信号レベルが存在する場合に、RΘの両端の小さな電圧差を識別する必要があるということです。

設計

図2に示す回路を選択するのは、アンプと最終出力間の損失を極めて低くするために規定の出力抵抗が必要となる場合です。RLOADとROUTはどちらも既知の量です。RΘは、できるだけ小さくなるように選択し、回路全体の安定性に対応しています。

RΘはどの程度「ブーストする」必要がありますか?実用的な上限は、10倍です(すなわちRΘ = 0.1RLOAD)。これによって0.83dBの終端損失が生じます。各状況について徹底的な分析を行う必要がありますが、開ループ出力抵抗などの一部の変動要素は、データシートの規格値から判断することは困難です。ブーストを大きくするほど、より多くの正の帰還が適用されるため、低減された位相マージンが上昇し、また閉ループ歪みが増大します。最終的に「ブースト」は、終端損失とその他の閉ループパラメータとの間の微妙な妥協によって選択することになります。また、ユニティゲイン安定を備えたオペアンプを選択する必要があります。

負帰還ループの時定数がループ制御の全体を支配していることを確認してください。これは、理想的には負帰還よりも前に正帰還ループが減衰する必要があるということです。図2を参照すると、負帰還ループの1次の時定数(TC)は、次式で表すことができます。

正帰還ループの時定数は、次式で表すことができます。

CCOM = オペアンプの+と-の入力端でのコモンモード容量。TC(-) < TC(+)となるように設定します。

これは、オペアンプ入力端での容量が、帰還ループ抵抗の寄生容量よりも大きいと仮定しています。広帯域の状況では、R1-R4のそれぞれを2つの等しい値の抵抗器に分割し、寄生容量を実質的に2つに分けることが適切です。

回路が実際に発振しない場合、帯域内の応答がピークに達する場合があります。これは、小信号(50mV~100mV)の正弦波で回路をスイープし、閉ループ周波数応答を識別してプロットすることで確認することができます(負荷を使用)。また帰還の時定数を調整して帯域内ピークを修正することによって確認することもできます。

例1

600Ωシングルエンドオーディオケーブルのアクティブ終端
電源 = +5V
利得 = 1 (0dB)
ROUT = RLOAD = 600Ω
終端損失 = 1dBを選択

MAX4475オペアンプを選択した理由は、その優れた歪み特性、帯域幅、および出力駆動性能にあります。またMAX4475はユニティゲイン安定でもあります。

ROUT = RLOAD、および利得 = 1

RLOAD = 600R (テスト目的の場合)、およびRΘ = 75R (最も近く望ましい値)。RΘ = 0.125RLOAD

R2 = 0.25R1

R1 = 10kとすると、R2 = 2.5kになります。R2 = 2.4k + 100Rを使用すると、次式を得ることができます。

上に示すようにRΘおよびRLOAD = ROUTと仮定した場合。

この比率によって、RΘがブーストされます。

R4 = 0.428R3

R3 = 10kとすると、R4 = 4.28kになります。R4 = 4.3kを使用します。

図4. 例1 (見やすくするため電源デカップリングは表示していません)
図4. 例1 (見やすくするため電源デカップリングは表示していません)

表1. 利得対周波数(0dB = 137.5mVRMS)

Frequency (kHz) Gain (dB) Phase (Deg)
100 -0.3 5.6
220 -0.5 14
430 -1.0 23
580 -1.5 29
710 -2.0 33
830 -2.5 37
940 -3.0 39
1050 -3.5 47
1170 -4.0 52
1370 -5.0 62

表2. RSET = 6.2kΩ両端の電圧差(図3) (0dB = 486mVRMS)
Frequency (kHz) dB (across 6.2kΩ) ROUT (Ω)
100 -21.5 517
220 -21.8 502
430 -22.4 468
580 -23.2 429
710 -24 392
830 -24.6 364
940 -25.2 340
1050 -26 313
1170 -26.6 287
1370 -28 249

計算した利得 = -0.18dB (上記の値を使用)

計算した出力インピーダンス = 572Ω。この値は、R3 + R4 || ROUTによって求めることができます(計算値を引き下げる)。

例2

アクティブ終端を施した、50Ωシングルエンドのブロードバンドケーブルドライバ
電源 = +5V
利得 = 1 (0dB)
ROUT = RLOAD = 50Ω
終端損失 = 1dBを選択

MAX4265オペアンプを選択した理由は、その優れた歪み特性、帯域幅、および出力駆動性能にあります。またMAX4265はユニティゲイン安定でもあります。

1dBの終端損失の場合

RLOAD = 50R (テスト目的の場合)、およびRΘ = 6.8R (最も近く望ましい値)。RΘ = 0.136RLOAD

R2 = 0.272R1

R1 = 1kとすると、R2 = 272Rになります。最も近く望ましい値としてR2 = 270Rを使用します。次のようになります。

上に示すようにRΘとRLOAD = ROUTの場合。

この比率によって、RΘがブーストされます。

R4 = 0.472R3

R3 = 1kとすると、R3 = 472Rになります。最も近く望ましい値としてR3 = 470Rを使用します。

図5. 例2 (見やすくするため電源デカップリングは省略しています)
図5. 例2 (見やすくするため電源デカップリングは省略しています)

表3. 利得対周波数(0dB = 70mVRMS)

Frequency (MHz) Gain (dB) Phase (Deg)
1.0 -0.3 0
2.0 -0.3 -3.5
4.0 -0.4 -10.25
6.0 -0.7 -16.5
8.0 -1.0 -23.5
10.0 -1.3 -30
15.0 -2.3 -44
20.0 -3.5 -58
30.0 -7.0 87

表4. RSET = 510R両端の電圧差(図3) (0dB = 225mVRMS)
Frequency (MHz) dB Across 510Ω Phase (Deg) ROUT (Ω)
1.0 -21 -3.2 45.4
2.0 -21 -4.4 45.4
4.0 -21 -7.25 45.4
8.0 -21.8 -14.5 41.45
10 -22.1 -15.5 40
20 -23.7 -21 33.3

計算した利得 = -0.63dB (上記の値を使用。R1には含まれていない追加の50Ωソース抵抗を考慮に入れる)。

計算した出力インピーダンス = 45.5Ω。この値は、R3 + R4 || ROUTによって求まります(計算値を引き下げる)。

結論

従来の電圧差オペアンプの周りに正帰還を慎重に適用すれば、負帰還のアプリケーションから得られる通常値よりも大きな出力インピーダンスを合成することができます。これは、既知のソースインピーダンスの負荷を駆動アンプが駆動しなければならないような単一電源アンプのアプリケーションで有効です。通常のパッシブ終端に比較して、約5dBの終端「利得」を達成することができます。

最終閉ループ性能に対する、開ループ利得と出力インピーダンスの効果を洞察できるようにするための式を開発しました。また回路の例を作成し、所定の回路の使いやすさを実証しています。

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