要約
新しい携帯電話の設計には、小型の形状とともに、オーディオ音圧レベルの保持が要求されます。薄型の設計の制限となる部品は、従来は通常スピーカでした。セラミックまたは圧電スピーカにおける最近の進化によって、新しく見栄えのよい設計への道が開かれました。これらのセラミックスピーカは容量性の性質を持つため、これらを駆動するためのオーディオアンプの選択には特別の注意が必要となります。
このアーティクルはMaximの「エンジニアリングジャーナルvol. 62」(PDF、1MB)にも掲載されています。
最近のポータブルデバイスでは、電子部品の小型化、薄型化、高効率化が求められています。携帯電話も薄型化が進み、これ以上薄くするためにはダイナミックスピーカの厚さをどうにかしなければならなくなりました。そのため、セラミックスピーカ(圧電スピーカ)がダイナミックスピーカに代わる有力な代替品として注目されるようになりました。セラミックスピーカは薄くコンパクトなパッケージでかなりの音圧レベル(SPL)を提供可能であるため、ボイスコイルを用いた従来型のダイナミックスピーカの代替品となる可能性があります。ダイナミックスピーカとセラミックスピーカの違いは、表1にまとめたとおりです。
セラミックスピーカ | ダイナミックスピーカ | ||
メリット | デメリット | メリット | デメリット |
高効率 | 高い駆動電圧が必要 | 安価である | 製造公差が大きい |
超薄型 | 低周波数応答が劣る | 技術的に実証済み | 効率が悪い |
製造公差が小さい | 容量性負荷である | スムーズな周波数応答 | 高さに制約がある |
小さな音響空洞でよい | 大きな音響空洞が必要 |
セラミックスピーカと従来のダイナミックスピーカでは、異なる出力駆動特性がアンプ回路に求められます。セラミックスピーカの場合、その構造から、大きな容量性負荷を駆動することができる特性が必要とされますし、周波数が高くなったとき、出力電圧を高く維持したまま大電流を供給することができる特性も必要とされます。
セラミックスピーカの特質
セラミックスピーカは、積層セラミックコンデンサと同じような技術を用いて作られます。そのため、スピーカメーカーは、ダイナミックスピーカよりもスピーカ公差をより小さくコントロールすることができることになります。構造上の公差が小さいことは、スピーカを等化する上で重要となり、特にユニットによる音響特性の違いを小さくし再現性を高めようとするとき大変重要となります。
セラミックスピーカのインピーダンスは、駆動するアンプから見ると、主成分として大容量を持つRLC回路で等価することができます(図1)。ほとんどのオーディオ周波数帯では、セラミックスピーカは基本的に容量性負荷となります。スピーカが容量性であるいうことは、周波数が高くなるとインピーダンスが低下することを意味します。図2を見ると、セラミックスピーカのインピーダンスと1µFコンデンサのインピーダンスが周波数に対して同じような挙動を示すことがわかります。このインピーダンスには、スピーカが音を発生する効率が最も高くなる共振点があります。1kHz付近でインピーダンスが急に降下しているところがありますが、そこがその共振周波数です。
図1. セラミックスピーカのインピーダンスは、主成分として大容量を持っています。
図2. セラミックスピーカのインピーダンスと周波数の関係は1µFコンデンサのそれとよく似ています。
周波数および振幅と音圧との関係
セラミックスピーカの端子に交流電圧を印加すると、変位量が入力信号に比例してスピーカ内部の圧電フィルムが変形し、振動します。この圧電フィルムの振動が周囲の空気に伝わり、音が発生します。スピーカに印加する電圧を高くすると圧電素子の変形が大きくなり、音圧が 高くなります。つまり、音量が大きくなります。
セラミックスピーカの定格は、通常最大端子電圧で表されます(15VP-P程度であることが多い)。最大電圧というのは、セラミック素子が限界まで変形するポイントです。定格電圧を超える電圧を加えても音圧は増加せず、音響出力信号に含まれる歪みが増大します。図3に、セラミック スピーカを最大電圧で駆動したときの出力音圧レベル(SPL)と周波数との関係を示します。SPLの周波数特性を示すグラフとインピーダンスの周波数特性を示すグラフを比べると、圧電スピーカの効率は自己共振周波数以上の高いSPLを発生させるときに最も高くなることがわかります。
図3. スピーカの定格電圧を超える電圧を印加すると出力信号の歪みが増大します。
セラミックスピーカ駆動アンプに要求される条件
セラミックスピーカは、音圧が最大となる最大電圧が14VP-Pから15VP-Pとなっています。問題は、どのようにすれば、これだけの電圧を1つのバッテリから得ることができるかということです。1つの方法は、スイッチングレギュレータによってバッテリ電圧を5Vまでブーストするやり方です。5Vの安定化電源が得られれば、ブリッジ接続負荷(BTL)の単一電源アンプを利用することができます。 負荷をブリッジ接続すれば、スピーカが受けとる電圧は自動的に倍になります。それでも5Vの単一電源でBTLアンプを使用したのでは、理論的に得られる出力の振幅は10VP-Pにしかなりません。これではセラミックスピーカから最大のSPLを得ることはできません。SPLを高めるためには、電源電圧をさらに高い電圧に安定化する必要があります。
ブーストコンバータでバッテリ電圧を5V以上に高めようすると、別の問題が発生します。必要となる部品のサイズです。ピークインダクタ電流が大きいということは、コアの飽和を避けるために物理的に大きなインダクタが必要であり、ソリューション全体を小型にするのが難しくなります。大電流に対応する小型インダクタというものもありますが、スピーカを高周波、高電圧で駆動する際に必要な負荷電流を取り扱うためには、もっと飽和電流の大きなコアでなければならない可能性があります。
つまり、セラミック素子を駆動するためには、大電流による駆動と電流制限の回避が必要となります。その理由は、セラミックスピーカは高周波数でインピーダンスが低いからです。セラミックスピーカを駆動するためには、電流駆動能力が十分に高く、大量の高周波数成分をスピーカに供給する際にも電流制限モードに入らないですむアンプが必要となります。
図4は、G級アンプのMAX9788を使ったアプリケーション回路です。G級アンプには、高電圧と低電圧の2つの電圧レイルがあります。出力信号が小さいときには低電圧レイルが使用されます。出力信号が高い電圧振幅を要求すると、高電圧レイルが出力段に切り替わります。電源 電圧が低いため、G級アンプは、出力信号が小さいとき、AB級アンプよりも高い効率を発揮します。同時に高電圧レイルも持つことから、G級アンプはピーク過渡変化も処理することができます。
図4. MAX9788を用いたセラミックスピーカアプリケーション回路
図4に示すMAX9788は、内蔵のチャージポンプで、VDDを反転した負電源を生成します。この負電源は、出力信号が高電圧レイルを必要とするときのみ、出力段に適用されます。この結果、AB級アンプとブーストコンバータの組合せという従来のやり方よりも、このデバイスは高い効率でセラミックスピーカを駆動することができます。
なお、スピーカメーカーからは、セラミックスピーカには必ず固定抵抗器(RL)を直列に入れることが推奨されます(図4)。この抵抗は、信号に高周波数成分が非常に多いとき、アンプの電流出力を制限する働きをします。アプリケーションによっては、スピーカに供給されるオーディオ信号の周波数応答が帯域制限可能であれば、固定抵抗器は必ずしも必要ではありません。そのような場合、スピーカがショートしているようにアンプ側から見えなくなるからです。
最近のセラミックスピーカは、静電容量が1µF程度となっています。図4に示すスピーカのインピーダンスは、8kHzで20Ω、16kHzで10Ωです。今後はさらに大きな静電容量を持つセラミックスピーカが登場し、同じ出力周波数に対して今より大きな電流を供給する能力がアンプに求められる可能性もあります。
セラミックスピーカとダイナミックスピーカの効率比較
従来のダイナミックスピーカの場合、効率は簡単に計算することができました。ボイスコイルは、固定抵抗器と高インダクタンスとの直列接続という等価回路で表せるからです。負荷に供給される電力(P)は、オームの法則とスピーカの電気抵抗値から、P = I²RあるいはP = V x Iです。スピーカに供給される電力の大半は、スピーカコイルで熱として放出されます。
容量性の性質を持つセラミックスピーカは、電力を消費しても放出する熱量は多くありません。セラミックスピーカの場合、「ブラインド」電力が放出されます。放出量はセラミック素子の損失係数によって決定されますが、量的には小さなものとなります。ブラインド電力放出時の発熱量はごく少ないものになります。ブラインド電力は、P = V x I1のように簡単には計算できず、次式が必要となります。
P = (πfCV2) × (cosΦ + DF)
ただし、
C = スピーカの静電容量
V = 駆動電圧実効値
f = 駆動電圧の周波数
cosΦ = スピーカを流れる電流とスピーカに印加された電圧の位相角
DF = スピーカの損失係数:非常に小さく、信号の周波数とセラミックスピーカのESRによって決まる
電圧と電流の位相角は理想的なコンデンサでは90°であり、セラミックスピーカはほとんどの場合容量性であることから、cosΦはゼロとなり、セラミックスピーカの容量性部分における消費電力はゼロになります。現実にはセラミック材料や誘電体は非理想的であり、スピーカにかかる電圧はスピーカを流れる電流よりも必ずしも90°ではない位相角で遅れが生じます。現実の位相シフトと90°という理想的な位相シフトとのわずかの差が損失係数(DF)となります。
セラミックスピーカのDFは、理想的コンデンサに小さな等価直列抵抗(ESR)を直列接続した等価回路で表すことができます。この直列抵抗は、アンプとスピーカの間に置く分離抵抗とは別物であることにご注意ください。DFは、対象周波数における容量性リアクタンスに対するESRの比となります。2、3
DF = RESR/XC
たとえば、静電容量が1.6µFでESRが1Ωのセラミックスピーカを5VRMSで駆動する場合、5kHzの出力のブラインド電力は次式で表されます。
P = (π × 5000 × 1.6e-6 × 52) × (0 + 0.05) = 31.4mW
真の消費電力
ダイナミックスピーカとは異なり、セラミックスピーカは有効電力を熱として放出することはありませんが、駆動アンプの出力段およびアンプ‐スピーカ間の外付け抵抗(RL)で熱が発生します(図4)。この外付け抵抗を大きくするとアンプで消費される電力を小さくすることができますが、低周波応答が劣化します。
セラミックスピーカに10Ωの直列抵抗を入れると、全体的な負荷に対してブラインド電力の割合は小さいことがわかります。放出される電力のほとんどが外付け抵抗となり、アンプから供給しなければならない電力と周波数との関係は図5のグラフのようになります。
図5. セラミックスピーカ負荷全体においてブラインド電力が占める割合は非常に小さく、電力の大半は外付け抵抗で放出されます。
低周波数の応答を改善したい場合、外付け抵抗を小さくする必要がありますが、そうするとアンプ出力段での電力損失が大きくなります。なお、アンプ出力段で放散される電力は、アンプの効率によって決まります。アンプで電力損失を大きく取るためには、D級やG級アンプなど、高効率のソリューションにしなければなりません。負荷は直列抵抗であり、負荷ネットワークにおける電力消費はスピーカ外のこの抵抗で発生します。アンプの効率が100%であったとしても、スピーカを駆動するはずの電力の一部が直列抵抗で消費されます。
図5に示す例では、5kHzの周波数において負荷に供給される総電力は629mWとなります。アンプの効率が53%の場合、アンプで558mWが放出されます。アンプで放出しなければならない電力量によって、アプリケーションで使用可能なパッケージのサイズが決まります。高周波数のサイン波でセラミックスピーカを駆動したい場合には、電力消費を大きくする必要があります。
まとめ
ポータブル機器の薄型化が進行しており、薄型のセラミックスピーカへの要求が高まっています。セラミックスピーカは従来のダイナミックスピーカとは異なり、設計時に検討しなければならないことも異なります。セラミックスピーカは容量性であり、対象とする周波数の全範囲で高電圧を維持することができるように、出力電圧が高く、大きな出力電流を流すことができるアンプが必要です。セラミックスピーカを駆動するアンプには、複合負荷へブラインド電力と有効電力を供給する能力が求められます。小型ソリューションと低コストを実現するために、アンプには高い効率が求められます。このため、従来、一般的に用いられてきたAB級とは異なるアンプトポロジを採用しなければならないのです。効率の高いソリューションとしてG級アンプやD級アンプの採用が広がっていますが、中でもコストと部品点数と効率の最適なバランスを得られるのはG級アンプとなります。
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