Thought Leadership

Portrait of Abhishek Kapoor
Abhishek Kapoor,

Product Manager, RF & Microwave

Analog Devices

Portrait of Bilge Bayrakci
Bilge Bayrakci,

Marketing Manager, RF&MW Control Products

Analog Devices

著者について
Abhishek Kapoor
Abhishek Kapoor は、アナログ・デバイセズのR F / マイクロ波グループ(RFMG)に所属する市場開発マネージャです。広範な市場を対象として戦略を構築することと、新興市場でRFMG がビジネス・チャンスをつかむことが主な業務です。これまでに、RF/半導体の業界を対象としたエンジニアリング、製品管理、営業、マーケティング、ビジネス開発などを担当してきました。2007年にバージニア工科大学で電気工学の学士号、2013年にノースカロライナ大学チャペルヒル校で経営学の修士号を取得しています。
Bilge Bayrakci
アナログ・デバイセズのRFおよびMW制御製品のマーケティングおよびプロダクト・マネージャ。イスタンブール工科大学で電気工学の修士号を取得。半導体業界で20年以上の経験を有す。2009年、アナログ・デバイセズ入社。
詳細を閉じる

ミリ波ボディ・スキャナ市場:過去、現在、未来


要約

全身スキャナは、今や世界中でセキュリティ対策および脅威検出用ツールキットの重要な要素となっています。RF、マイクロ波、ミリ波の各技術の進歩に伴い、この技術を利用した全身スキャナの普及が進んでいます。全身スキャナ・ソリューションが全面的に受け入れられる決め手は、主にその性能、設計、製品化の可能性にあります。本稿では、適切な設計技術とパートナーシップを選択することで、全身スキャナのシステム・インテグレータがより自信を持って、この急成長を続ける市場で製品化可能なソリューションを提供できることを示します。

Figure 1. Typical millimeter wave body scanner.
図1. 代表的なミリ波ボディ・スキャナ

はじめに

今日の世界は、数十年前とは大きく様変わりしています。グローバル・コミュニティの地政学的側面が変化し、テロの脅威が地球規模で高まる中、個人のセキュリティ対策の必要性が増しています。セキュリティ対策は、もはや重要なインフラストラクチャに限定されず、いたるところで必要とされています。各国の政府、セキュリティ機関、企業が、この現実を認識し、新たに生じたこれらのセキュリティ問題を科学技術で解決しようとしています。全身スキャンは、こうした課題を解決し潜在的な危険を防止する手助けとして、広く用いられているセキュリティ・ツールの1つです。この装置は空港や鉄道駅、庁舎ではかなり普及しており、建物に出入りする人をスキャンして、武器や爆発物などの持ち込み禁止物が隠されていないかを検査する重要な役目を果たしています。ボディ・スキャナは必要不可欠と言える半面、大きなマイナス面がいくつかあります。今日のほとんどのボディ・スキャン・ソリューションは、1人をスキャンするのに長い時間がかかるため、人の流れを滞らせてしまいます。また、最新の脅威を検知するには分解能が不十分である場合も多く、日常的活動の流れの中では目障りでもあります。更に、上記の期待にすべて応えられるものであっても、価格が高すぎて量産できないのが通常です。

アナログ・デバイセズが提供するRF、マイクロ波、ミリ波の先進技術により、この現実が変わろうとしています。新しい半導体ソリューションが入手可能となり、企業は機能の限界を明確にした次世代のボディ・スキャン・ソリューションを現実のものとすることができます。本稿では、次世代ボディ・スキャナの開発に向け、現在利用できるボディ・スキャン技術とソリューションの進展について説明します。

Evolution of body scanning technology for threat detection
図2. 脅威検出用ボディ・スキャン技術の進化

ボディ・スキャン・ソリューションの歴史

自動化ボディ・スキャン・システムが導入されるまで、人に対する検査は、人手によるボディ・チェックが中心でした。もちろん、ご想像のとおり、そのような検査には時間がかかり、個人のプライバシーを侵害しながら、必ずしも最も正確に脅威を検知できるとは限りませんでした。脅威が巧妙になり、技術がこれに追いついたことから、人手によるボディ・チェックは金属探知機に取って代わられました。金属探知機により人が自動的に流れるようになり、立ち止まることなくセキュリティ・ゲートをくぐることが可能となりました。人が所持する金属物が検知された場合のみ通行が停止され、人手によるボディ・チェックが行われます。ここでは、すべてではないにしろ、ほとんどの脅威は金属でできているという前提がありました。当時、この前提と金属探知機の期待される分解能レベルは問題なく機能していました。これらの固定型金属探知機は、小型のハンドヘルド金属探知機で更に機能が補充され、係官はこれを使って人体に直接触れることなく、より入念なスキャンが可能でした。

しかし結局は、検知されにくい、様々な隠蔽物の出現により、従来型の金属探知機では不十分となりました。現在では3Dプリンティングなどの技術が登場し、非金属材料で凶器を作製できるようになったことから、金属探知機はもはや最良の検出方法ではなくなってきています。このことから、各機関はより正確なスキャン方法を必要としています。

X線技術が選択されたのはそのためです。X線スキャナは高速で、生体を透過できるので、身体と隠蔽物の画像を極めて高い分解能で表示できます。この技術のマイナス面はスキャン対象者が高強度の放射線に曝されることで、その結果、健康と個人のプライバシーに関して社会的関心が巻き起こりました。X線は、本質的に透過特性があるため、他人には知られたくない情報が明らかになることから、大きな怒りを呼ぶ結果となりました。これらの装置の初期のタイプでは、検査官が画像を目視して隠蔽物を探す必要があったため、個人のプライバシー侵害が大きな盲点となっていました。更に、これらの装置は有効放射線を利用するため、X線装置メーカーの主張にも関わらず、多くの人が長期的に健康被害を受けるのではという懸念を抱いています。

このような結果を受けて、X線装置は改良され、対象物を透過するのではなく対象物の表面で反射する、X線後方散乱ソリューションとなりました。この技術の場合、健康とプライバシーに関する懸念は同様に残るものの、健康面では比較的安全であることから、今日、後方散乱技術は世界各国で多用されています。

その間、RF、マイクロ波、ミリ波技術が進歩を遂げました。スキャナ・メーカーでは現在この技術を利用して、高速で、個人のプライバシーを侵害することなく高分解能のスキャンを実行し、放射線を一切使用しないスキャナを開発しようとしています。これらのスキャナは通常、10GHz~40GHzの範囲で動作しますが、場合によっては、60GHz~80GHzもの高周波数範囲でも動作します。RF技術とマイクロ波技術が一般的になるにつれ、これらのスキャナの低価格化と小型化が進み、様々な市場に幅広く浸透しつつあります。一般にこれらのスキャナの安全性と信頼性は高く、これまでの手法に比べてプライバシーにも配慮しています。現在および将来のボディ・スキャナにとって、ミリ波スキャンが次第に最適な技術となりつつあります。

ミリ波ボディ・スキャナ市場の概要

ミリ波ボディ・スキャンは、セキュリティと脅威検知だけでなく、他の商用アプリケーションに対しても大きな市場機会を提供します。2015年発行のGlobal Industry Analyst, Inc.の報告書によれば、全身スキャナ市場は、2021年までにCAGR(年平均成長率)41.5%で17億ドルに成長する見込みです。MarketsandMarketsによる別の報告書によれば、空港のボディ・スキャン市場だけで、2021年までにCAGR 8.4%で1.18億ドルに達する見込みです。これには、空港以外の市場と商業市場が大きく成長する可能性は考慮されていません。

ミリ波技術は、商業セクタなどの産業分野でも同様に利用されており、ショッピング・モール、コンサート・ホール、スタジアムなどでのセキュリティには、より低コストのスキャナが使用されています。同様に、コンスーマ市場においても、これと同じ技術を小売店舗で用いれば、従来の試着室をボディ・スキャンをしながら試着ができるシステムに置き換えることができます。ヘルスケア産業でも、様々な施術に、旧式の有効放射線による全身スキャン手法を使用するの代わりに、ミリ波を利用することを検討しています。

X線、後方散乱、金属探知機技術からミリ波ボディ・スキャナへの世界的な移行によって、この市場には大きなビジネス・チャンスが広がっています。市場シェアを維持するため、この分野の業界リーダーは、単にボディ・スキャナを作るだけでなく、それらを最適化して画像解像度の向上と高速化を図ると共に、立ち止まらずに歩きながらスキャンできるような機能改良を進める必要があります。

全体として、全身スキャン・システム向けミリ波技術の将来性は、官公庁、商業、コンスーマの各領域にわたって有望です。アナログ・デバイセズは、マイクロ波やミリ波のソリューションを用いて次世代ボディ・スキャナの開発を行う新興企業数社と、既に商談を進めています。

ミリ波ボディ・スキャナ - 技術ソリューション

図3に示すように、有効ミリ波のボディ・スキャナは、大まかに言うと、アンテナ・エレメント、RFサブセクション(簡略化のため、RF、マイクロ波、ミリ波をまとめてRFと呼びます)、ミックスド・シグナル・セクション、デジタル・ドメインで構成されています。

High level millimeter wave body scanner block diagram
図3. ミリ波ボディ・スキャナの概略ブロック図

アンテナ・エレメントは、信号の送受信を行う小型アンテナ構造を実際に構成したものです。RFサブセクションは、これらの部品群の後にあり、すべて高性能半導体ハードウェア(チップセット)から成ります。このチップセットはアンテナ・エレメントへの送信信号と、アンテナ部品群からの反射受信信号を伝送します。スキャナが重大な詳細を逃すことなく、対象物に関する最大限の情報を最短時間で確実に取得するためには、RFサブセクションの設計が非常に重要です。

ミックスド・シグナル・セクションには、高速のA/Dコンバータ(ADC)とD/Aコンバータ(DAC)があります。これらのADCとDACは、アナログのRF情報を、スキャナのコンピュータが処理してRF信号を送信できるデジタル・ビットに変換します。

最後に、デジタル・セクションには、画像処理、スキャン実行、脅威の特定を行う、多くのソフトウェア・アルゴリズムが格納されています。通常、デジタル・セクションの条件によって、RFおよびミックスド・シグナルの条件(チャンネル数、周波数、必要な帯域幅、サンプリング・レートなど)が決まります。ミリ波スキャナを開発しているほとんどの企業では、スキャナのデジタル/ソフトウェア部分とアンテナの設計を厳密に制御しています。ここがスキャナの性能が差別化される場所で、最小のフットプリントで最適な解像度と最高速のスキャンを実現する、独自のソフトウェア・アルゴリズムとアンテナ設計を開発することが必要となります。

RFサブセクションとミックスド・シグナル・ドメインはソリューション全体の重要な部分ですが、全体的な設計はほとんどのスキャナで同様です。RFサブセクションの送信部を図5に、受信部を図6に示します。

前処理モジュールの出力は、心拍抽出アルゴリズムの精度を上図に示すように、送信と受信のシグナル・チェーンは、同じ周波数源(周波数生成ブロック)で駆動されます。周波数源は逓倍器チェーンを通過する5GHz~10GHzの信号を生成します。この信号が逓倍器チェーンで2回、増幅および逓倍されて、スキャナ動作のRF帯域に入る20GHz~40GHzの信号が生成されます。次にこの20GHz~40GHzの信号が送信チェーンを通過します。ここではシステム構成に応じて信号が再び増幅され、前段で付加されたスプリアスを除去するためフィルタ処理が行われます。ほとんどのスキャナが広帯域幅で動作するため、全周波数範囲にわたって処理できるフィルタが必要となります。これまで、単一の広帯域フィルタでは実現困難か、実施するにはコストがかかりすぎていました。そのため、メーカーでは、複数の狭帯域フィルタからなるフィルタ・バンクを使用し、スイッチを用いてそれを結合する方法を採用しています。これらの狭帯域フィルタが組み合わさって、1つの広帯域フィルタとして機能します。

アナログ・デバイセズは、従来用いられているこのアーキテクチャを可変フィルタを使用して簡素化できます。チューニング電圧を変更することで、フィルタを目的の周波数に連続的に調整できます。アナログ・デバイセズの可変バンドパス・フィルタは、複数のフィルタ・バンクの代わりとなるものであり、また、シグナル・チェーンの中でこれと併用した場合は、フィルタ・バンク条件を緩和するものでもあります。

フィルタ透過後の送信信号は、スイッチ・マトリックスを通過し、複数の送信チャンネルに伝送されます。各システム・インテグレータの性能条件とアンテナ設計に応じて、シグナル・チェーンには、数十~数百の送受信チャンネルが含まれます。通常、チャンネル数はシステムの性能とコストに影響します。スイッチ・マトリックスは、送信信号を取得して複数の送信アンテナ・エレメントに分配する複数のスイッチからなります。

これまで、このスイッチ・マトリックスは、特に最大40GHzの高周波数においては、PINダイオード・スイッチやGaAsスイッチをSPDT構成で使用して実現されていました。PINダイオードを用いる場合、各スイッチには、高バイアス電圧と高バイアス電流を制御するため、大量の外付け部品が必要です。これらの周辺回路は、チャンネル数の増加に伴い、一層複雑になります。同様に、GaAsスイッチを用いる設計では、スイッチ・ツリーを多チャンネル用に構築するために多くのスイッチが必要になります。

アナログ・デバイセズは、ADRF5046などの40GHz SP4T SOI(シリコン・オン・インシュレータ)を用いて、この設計を簡素化しました。各スイッチが2つのスイッチ・ポジションに対応するのではなく、SP4Tでは最大4つのスイッチ・ポジションが可能です。例えば、単純な12チャンネル・システムの場合、SP4Tスイッチ3個で、最大7個のSPDTスイッチに置き換えることができます。システムのチャンネル数が多くなると、システムの複雑さは指数関数的に増加するため、SP4T SOIスイッチを用いる利点はかなり大きなものとなります。スイッチICの数を低減するだけでなく、外付け部品数とバイアス電力を低減できることも、同様に重要です。ADRF5046は、バイアス電流が無視できるほど小さい低電源電圧で実行されるSOIプロセスで設計されており、外付け部品を必要とせずに標準的なCMOS制御信号をインターフェースできます。図4に、旧式のPINダイオードを用いたスイッチ実装と新しいSOIスイッチを用いたスイッチ実装の違いを示します。

223092-fig-04
図4. PINスイッチ(上)とSOIスイッチ(下)の実装の比較

最終的に、送信信号は送信アンテナ・エレメントから放出されます。システム・アーキテクチャに応じて、1つまたは複数の送信アンテナが所定の時間にアクティブになります。ほとんどのシステムでは、通常1つの送信アンテナが所定の時間にアクティブとなります。システムは、各送信の間を非常に短い時間間隔(数µsのオーダー)で、複数の送信アンテナにわたって連続的に信号を直線掃引します。

Generic millimeter wave imaging transmit (Tx) signal chain
図5. 一般的なミリ波イメージング送信(Tx)シグナル・チェーン
Generic millimeter wave imaging receiver (Rx) signal chain
図6. 一般的なミリ波イメージング受信(Rx)シグナル・チェーン

受信側では、複数の受信エレメントが同時にアクティブになります。受信エレメントは、対象物からの反射信号を探します。このエレメントは、複数のチャンネルを使用して反射受信信号を取得し、それを各チャンネルのロー・ノイズ・アンプ(LNA)に伝送し、ノイズを加えることなく信号を増幅します。複数のチャンネルからの増幅信号は、次に送信側と同様に、スイッチ・マトリックスを使用して統合されます。ゲイン調整にはデジタル・アッテネータが使用され、SOIプロセスのADRF5730が高速スイッチングのセトリング条件を満たします。その後受信信号はダウンコンバートされ、更に増幅段に送られます。これまで、システム・インテグレータは、スーパーヘテロダイン・アーキテクチャを用い、複数段で高周波信号をIFにダウンコンバートしていました。しかし、HMC8192(20GHz~42GHzのI/Qミキサー)などの広帯域ミキサーが入手可能となり、42GHzもの高周波をわずか1段で低周波IFにダウンコンバートできるようになりました。このミキシング段は、送信段を駆動するのと同じ周波数ソース・モジュールから駆動されます。次に、広帯域I/QミキサーのIFがシングルエンド入力差動出力アンプに供給され、更に高速ADCに送られます。この高速ADCで信号がデジタル化され、画像を検出するために様々なソフトウェア・アルゴリズムを実行するコンピュータに、デジタル入力が提供されます。

これまでの図で示したように、アナログ・デバイセズは、アンテナからビットおよびビットからアンテナまで、全機能を内蔵したミリ波ボディ・スキャナのシグナル・チェーン・ソリューションを提供することができます。RF、マイクロ波、ミリ波部品の幅広い製品群により、インテグレータは性能と価格の期待に応える適切な部品を確実に見つけることができます。アナログ・デバイセズは、ビットからアンテナまで全機能内蔵型のソリューションを提供できる、製品群、経験、技術サポートを備えた企業です。これによりメーカーは、部品ごとに選択、評価、価格交渉を行う必要がなく、多くの時間、コスト、労力を省くことができます。

RFサブセクションの観点では、ボディ・スキャナの精度(分解能)と速度は、主に次に示すいくつかの重要な要素に左右されます。

  • 周波数範囲 は、スキャナの透過特性と使用可能な帯域幅を決定します。通常、高周波であることは、透過特性が向上し、使用可能な帯域幅が拡大することを意味します。帯域幅が拡大すると分解能が向上し、周波数チャンネルごとに対象物に関してより多くのデータを転送できます。高周波数システムでは波長が短いため、必要なアンテナも小型になります。そのため、チャンネル数の多いシステムでは、高周波数の小型アンテナが複数個用いられます。残念ながら、半導体設計やパッケージングが複雑になり、高周波設計の経験があるインテグレータが限られていることから、非常に高い周波数(>60GHz)を利用するボディ・スキャナは、大変高価または複雑になりがちで、量産向けアプリケーションには不向きです。そのため、今日のシステムの大多数は、一般に10GHz~40GHzの周波数を利用して設計されています。
  • チャンネル数によって、対象物に関して複数の別々のソースから伝送される情報全体の量が決まります。チャンネル数が多いと、通常、対象物の分解能が向上し、アンテナの空間的なダイバーシティが改善します。チャンネル数を増加するには、ハードウェア構成をチャンネルごとに複製する必要がありますが、RFサブセクションのサイズとコストが著しく増加してしまう可能性があります。また、チャンネル数が増加すると、システムには複数の高速ADCが必要になるため、ミックスド・シグナル・ドメインのコストが更に増加することになります。
  • シグナル・チェーンのダイナミック・レンジは、ボディ・スキャナ・システムの感度を左右します。ダイナミック・レンジが拡大するほど、隠れた小さな物体を検出するシステムの能力が向上します。システムのダイナミック・レンジを向上させるために、通常、インテグレータは直線性に優れノイズ指数の低い部品を選択します。

主要な成功要因

ミリ波ボディ・スキャナのシステム・インテグレータやメーカーの成功は、スキャン・システムの技術的性能だけでなく、多くの要因に左右されます。スキャナの、隠れた小さな危険物を正確に検知する能力に加え、システムが、高速に動作し、高トラフィック領域での使用が可能で、量産展開できるよう費用対効果が高く、ビジネスとして成立し得る競争力のある差別化要素を備えていることが必要です。こうしたことから、ボディ・スキャナ・メーカーの成功は、次の要因で決まります。

Key success criteria for body scanner manufacturers
図7. ボディ・スキャナ・メーカーの主要な成功条件

スキャンの精度

ボディ・スキャナが危険性のある物体と無視してよい物体とを明確に区別するのに、スキャンの精度は不可欠な要素です。第1世代のミリ波スキャナは、問題だらけで誤報率の高いものでした。このため、代替手段を使ってリスクを再評価するために、多大な時間と労力を消費し、無駄にフラストレーションを溜める結果となりました。一般に、分解能を向上させ誤報を低減することは、相反する条件です。スキャナの分解能が向上するにつれ、誤報の可能性も増加します。したがって、多くのシステム・インテグレータは、分解能と誤報率の適切なバランスを見出そうと尽力しています。経験上、10GHz~40GHzの範囲であれば、この広帯域幅をカバーし高ダイナミック・レンジを提供する、アナログ・デバイセズ製品のような低ノイズ部品が幅広く取り揃えられています。適切なハードウェア・アーキテクチャを使用し、部品を選択することで、システムの分解能は向上します。したがって、システム・インテグレータは先進のソフトウェア・アルゴリズムを開発して、よりインテリジェントにこの高分解能画像を解読し、実際の脅威を最初のスキャンで正しく特定することができるようになります。

製品の市場投入期間の短縮

ミリ波のボディ・スキャナ市場は、急速な成長が見込まれており、多くの企業が新規に参入しています。そのため、製品の市場投入期間が成功の鍵となり、システム・インテグレータは、統合化とモジュール化の進んだ部品を少数の主要サプライヤから調達することで、市場投入期間を短縮する必要に迫られています。こうすることで、シグナル・チェーンの各ディスクリート部品を、個別に選別、評価、実装する必要性が低減され、代わりに統合化の進んだ広帯域の部品を用いることで、ハードウェア設計の時間を短縮し、ソフトウェアの差別化により多くの時間を使うことができます。アナログ・デバイセズは、DC~100GHzのあらゆる設計ニーズに応えるフルレンジのシグナル・チェーン・ソリューションを提供する企業です。数社のミリ波システム設計企業が、この製品群を活用して市場投入期間を短縮しています。

小型フォーム・ファクタ

ミリ波スキャナが広く利用されるようにするには、そのフォーム・ファクタを大幅に縮小する必要があります。外観上の理由から、またはスペースがないことから、次世代のスキャナには小型化が必須です。更に、分解能向上の必要性から、次世代スキャナにはより多くのチャンネルが必要なため、ハードウェアとアンテナの数が増加します。分解能を向上しながらフォーム・ファクタを小型化するため、システム・インテグレータはアナログ・デバイセズなどの半導体プロバイダと密接に連携し、高集積チップセットを開発する必要があります。100GHzまでの製品を開発してパッケージの形で提供し、更には複数の機能を同じ部品に集積できる専門性を持つ企業は、今日極めて少数です。アナログ・デバイセズは、高周波数の集積化部品(Eバンドの送受信SiPなど)とマルチチャンネル設計(24GHz、4チャンネルのレーダー・ソリューションなど)において多くの製品群を揃えており、引き続き、そのような高周波数の集積化、パッケージ化した部品を拡充していきます。

プラットフォーム手法

ミリ波スキャナが1世代限りの製品に終わるのではなく、時間と共に進化できるように、プラットフォーム設計手法を採用する必要があります。すなわち、複数世代の全身ボディ・スキャン・ソリューションにわたって同じハードウェア・アーキテクチャを使用する道筋を提供する部品を選択する必要があります。このようにすることで、ソリューションを進化させて、性能や速度の向上、コスト削減を図るたびに、インテグレータがシグナル・チェーンのすべての部品を再設計する必要性がなくなります。

このことを実現するには、狭帯域の部品ではなく広帯域部品を使用するなど、長期的に見て適切な選択をすることが重要です。それによって、インテグレータは周波数計画を変更したり、帯域幅を拡大するためより高い周波数を利用しようとする場合でも、新たに部品を探さずに済みます。同じ広帯域部品で、新しいシステムに必要な条件を満たすことができます。

同様に、複数の部品を同じサプライヤから調達することで、インテグレータは、複数の機能を1つのチップや1つのパッケージに統合するため、そのサプライヤと連携することができます。アナログ・デバイセズは広帯域デバイスを広範に取り揃えているため、その都度再設計することなくハードウェア・アーキテクチャを継続的に発展させることができる貴重な機会を提供します。

ソリューションの低コスト化

最後になりましたが、スキャン・ソリューションをビジネスとして成立させるための重要な要素は、コストです。全身スキャナが空港だけでなく商業アプリケーションでも幅広く使用されるには、価格の大幅な低下に対応する必要があります。このことはコスト構造に強いプレッシャを与えます。一方で、チャンネル数を増やし、より広帯域幅でより高い周波数の部品を使用する必要があり、このことはシステムのコスト増加につながります。他方、市場からは低コスト構造が求められることから、インテグレータはコストを削減するために、新たに独創的な方法を探す必要があります。次に、インテグレータがシステムの総コストを削減し、売上総利益を最大化できる可能性のある手段をいくつか示します。

Ways to reduce full body scanner costs
図8. 全身スキャナのコスト削減手段
  • 集積度の向上: 複数の機能を統合した1つの部品を使用することで、シグナル・チェーンの構築に必要な部品点数を大幅に削減できます。部品数が少なければ、アセンブルする部品数も少なくなり、手早いアセンブリ、小型のPCB、簡素な設計が実現します。長期的には、これによって構築コストが削減でき、そのスキャン・システムに対してより良い技術サポートを提供できるようになります。
  • フル・パッケージ化部品: フル・パッケージ化部品を使用することで、高周波数でも、特別なアセンブリ手法を必要とせずにダイ部品を実装できます。これによって、ダイ部品向けチップ・アンド・ワイヤなどの高コストのアセンブリ技術が不要となり、より簡便なSMTパッケージのハンダ処理を使用することができます。今日、高周波部品をパッケージ化できる専門性を備えた半導体メーカーは、非常に限られています。アナログ・デバイセズは、最大86GHzの実証済みパッケージング・ソリューションを有する企業の1つです。インテグレータは、広範なSMTパッケージ製品を提供できる長期的な設計パートナーを慎重に選択する必要があります。
  • サプライヤ配置の優先順位付け: システム・インテグレータは、全体的なソリューションを構築するための利用サプライヤ数を削減するよう努める必要があります。こうすることで、複数のプラットフォームに対して同じサプライヤを利用して、スケール・メリットを活用でき、交渉力を(買手として)強化できます。そのためには、適切なソリューションと将来の道筋を提供できる、適切なパートナーを選択する必要があります。
  • 非コア作業のアウトソーシング: これまで説明してきたように、全身スキャナを開発するほとんどのシステム・インテグレータは、映像と検出のためのソフトウェア・アルゴリズムを中核的な専門技術としています。ソフトウェア・アルゴリズムによって、誤報率を低減すると同時に小さな物体を高い解像度で検出する能力が決まります。ほとんどの場合、半導体ハードウェア条件は、ソフトウェア条件に左右されます。そのため、各社のコア機能を最大化し、製品の市場投入期間を短縮するには、ハードウェアの開発を専門技術を有する企業にアウトソーシングすることを検討する必要があります。こうすることで、インテグレータはコア機能に注力でき、ハードウェアの専門家は最新技術を用いて最先端ハードウェア・プラットフォームを開発することができます。

ミリ波技術がシステムとソリューションに重点を置くようになるのに伴い、アナログ・デバイセズなどの半導体企業は、フル機能のシグナル・チェーン・ソリューションにおいて他にはない優位性を持っています。システム設計をアウトソーシングすることで、インテグレータはコア・コンピタンスに集中でき、また、非コアの機能を排除しコストを削減する一方、サプライヤを1社にしてスケール・メリットを得ることができます。

まとめると、マイクロ波およびミリ波の全身スキャナは、世界中のセキュリティ・システムや検出システムの重要な部品となりつつあります。先進技術を活用し、適切な設計を選択し、最善の戦略的パートナーシップを確立することで、システム・インテグレータは自社のソリューションを差別化できるようになります。

アナログ・デバイセズなどの半導体メーカーは、次世代のミリ波全身スキャナの実現に積極的に取り組んでおり、システム・インテグレータと連携して、より高精度、高速で、製品化可能な全身スキャン・システムの新しいエコシステムを開発できる機会を歓迎しています。

参考資料

“The Global Full Body Scanners Market: Trends, Drivers, andProjections.”Global Industry Analysts, Inc. 2015 年4 月

“Airport Full Body Scanner Market by Technology (MillimeterWave Scanner (Active Scanner, Passive Scanner) andBackscatter X-Ray), Airport Class (Class A, Class B, Class C),and Region—Global Forecast to 2021.”MarketsandMarketsResearch Private Ltd., 2016 年4 月