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閉じる「ぜひこれを聴いてください」――カスタマイズ可能なワイヤレスイヤホンがもたらすサウンド
現代人の耳は、ノンストップのストリーミング、ゲームの音声、ビデオ通話などによって容赦なく痛めつけられています。音を聴くことに伴うリスクを把握していないティーン・エイジャーや、「Zoom」で同僚とリモートで議論を交わす専門家など、あらゆる年齢層の人が部分難聴という問題に直面しつつあります。「聴力は良好」、「聴力は優れている」だと認識している米国の成人のうち4人に1人は、実際には聴力の障害を抱えています1。
音楽、映画、ゲーム、ビデオ通話、対面での会話に伴う音声を、誰もがあるがままに(そしてコンテンツ・クリエータの意図したとおりに)聴くことができる状況を想像してみてください。カスタマイズ可能なワイヤレスイヤホンであれば、これを具現化できるかもしれません。
カスタマイズ可能なワイヤレスイヤホンは、パーソナル・オーディオをよりパーソナルなものにしてくれます。また、聴力を補うための技術を活用すれば、日常的に使用するイヤホンによって補聴器と同様の多くの機能を利用することが可能になります。従来の大きくて扱いにくい装備品に対するスティグマ(恥ずかしさ)を感じることなく、そのようなことを実現できるのです。そのために必要な技術のほとんどは既に開発されています。そのため、カスタマイズ可能なワイヤレスイヤホンがパーソナル・オーディオの進化を担うのは自然の流れです。
聴覚障害の静かなる拡大
聴覚障害は米国で3番目に多い慢性の身体疾患です。罹患者の数は、糖尿病やガンの患者の2倍に達しています3。米国の12歳~35歳の人(ティーン・エイジャーと若年成人)のうち50%近くは、聴力に問題が起きる可能性のある危険なレベルの音にさらされています。実に、10億人以上の若年成人が、聴き方を誤らなければ回避可能な永久的な難聴のリスクに直面しているのです4。
完全に聴力を損失している人は、コミュニケーションの手段として手話を使うことがほとんどです。ただ、軽度から重度の難聴の人は一般的には口頭言語を使います。このような人々にとっては、補聴器、人工内耳、字幕といった支援用の機器が非常に役に立ちます。しかし、実際に店頭で補聴器を購入してそれらを使用している人の数は限られています。割合で言えば、そうしたツールが役立つはずの人のうち、5人に1人しか利用していないのです。
ワイヤレスイヤホンであれば、従来の補聴器が提供しているのと同様の機能を、受け入れやすい形状で提供することができます。言い換えれば、恥ずかしさを感じることのないソリューションになり得ます。難聴の問題の一因はイヤホンの普及にあります。しかし、パーソナライズされた聴力増強機能を利用できるようにすれば、同じイヤホンがこの問題の解決策にもなり得るということです。
「大音量で音を聴くという行為は、耳の細胞を酷使し、損傷を与える原因になりかねません。また、そうした音の暴露が継続すると難聴が進行する可能性があります。一般に、耳の損傷は永久的なものであり、元の状態に戻すことはできません。」Matt Windmill
EMEA向け民生製品担当 セールス・マネージャ
リスナーの声に耳を傾ける――オーディオ市場のトレンド
現在の消費者は、様々な用途に応じてヘッドフォンやイヤホンを選択/購入しています。例えば、自宅で使うのか、オフィスで使うのか、運動中に使うのか、あるいはゲームの音声を聴くために使うのかといった具合です。今後、オーディオ・メーカーは各種の用途に対して最適化されたイヤホンを製品化することで差別化を図ることになるでしょう。例えば、アクティブ・ノイズ・キャンセル(ANC:Active Noise Cancellation)は、もともとビジネス・ユースの顧客や旅行者などが利用していた機能です。それと同様に、オクルージョン(こもり)キャンセルやトランスペアレンシ(外音取り込み)といった技術は、フィットネス向けのイヤホン市場で業界標準になると期待されています。その一方で、没入型のアプリケーションでは空間オーディオの実現(音場の再現。以下、「空間化」)が求められるようになるでしょう。いずれにせよ、技術が進化するにつれて、音質が向上するというのは明白な事実です。
オーディオの市場は、長らく利便性に支配されてきました。そうしたなか、テレビ用のサウンド・バーを提供する企業は視聴者をテレビのスピーカから解放しました。サウンド・バーによって、優れたオーディオの可能性を示すと共に、大衆の聴覚上の好みに対応した調整を可能にしたのです。その結果、視聴者はより優れたサウンドに触れる機会を得ました。そして、耳にフィットする音など、より良いサウンドが消費者の購買意欲を刺激するという状況が生み出されました。
リアルタイムの音響処理
ANCにおいては、遅延が小さくデタミニスティック性の高いリアルタイムの音響処理が中核を成します。ANCでは、オーディオ用のDSPによってオーディオ入力をサンプリングし、それにアンチノイズ成分を混合した合成オーディオ信号をスピーカから出力する必要があります。その際、遅延(レイテンシ)が大きくなると、フィルタリングされた音と周囲の音がずれた状態でユーザの耳に届くコーミング効果が生じます。その結果、オーディオ信号に歪みが発生したり、最適とは言えないリスニング体験がもたらされたりする可能性があります。
聴力の補強
パーソナルなサウンド増幅機能を備えたTWS(True Wireless Stereo)イヤホンは、以前は補聴器で使われていた機能を提供します。例えば、聴力の補強、背景雑音の制御、ビームフォーミングと音声の強調、広ダイナミック・レンジ圧縮、遅延の削減といった機能です。ANCと高度なトランスペアレンシを組み合わせれば、ユーザは自身が聴きたいものに集中するために、外界を遮断したり取り込んだりすることが可能になります。
低消費電力のソリューション
AB級アンプは、長らくオーディオ・アプリケーションで標準的に使用されてきました。しかし、ヒアラブル機器では、スイッチングを活用したDG級のアーキテクチャが使われるようになりました。それにより、効率の向上、バッテリ寿命の延長、ANCのサポートを実現できます。D級のオーディオ・アンプでは、動的な電源調整と適応型かつ動的なフィルタリングを組み合わせることによって効率と歪みのバランスをとります。それにより、イヤホンに搭載されているようなバッテリ駆動の小型スピーカでも最適なサウンドを得ることができます。
イヤホンの超広帯域化でBluetoothを超える
現在のBluetooth®技術でも、イヤホンにおける聴力の補強、空間化、バイタル・サインの監視といった機能に対応することは可能です。実際、Bluetoothによって、パーソナル・オーディオ技術の基本的な開発が可能になりました。その一方で、Bluetoothをベースとして1つのデバイスでサポートできる機能の数には限りがあります。現在の能力のままでは、消費者が将来のイヤホンを購入する際、妥協を伴う選択を迫られる可能性があります。
そのような未来を招かないようにするための選択肢は2つあります。1つは、今後数年の間にBluetoothを大幅に進化させることです。もう1つは、Bluetoothでは対応できない機能もサポート可能な他の技術を市場に浸透させることです。そのような技術として期待されるのは、超広帯域(UWB:Ultra-wide Bandwidth )に対応するワイヤレス通信です。この技術を利用すれば、より速いデータ・レート、より小さい遅延、より高い処理能力、ロスレスでハイレゾのオーディオ、空間化をサポートすることが可能になります。それ以外に、現在の小型パーソナル・オーディオ機器では手の届かないレベルの高度な処理を伴う機能も実現できるはずです。
UWBに期待される機能の中には、依然としてBluetoothのハンドシェイクを必要とするものがあります。その状況が続けば、UWBとBluetoothが共存する状態を作らなければなりません。というよりも、両者は共存することになるでしょう。Bluetoothは、非常に広範に使われている普遍的な技術だと言えます。これからも長く使用されることになるはずです。

カスタマイズ可能なワイヤレスイヤホンを取り巻くエコシステム
カスタマイズ可能なワイヤレスイヤホンはどのような要因によって広まっていくのでしょうか。実は、予測が可能な普及サイクルだけに従って広く使われるようになるわけではありません。例えば、インテリジェントなエッジも普及を後押しする要因になり得ます。インテリジェントなエッジは、カスタマイズ可能なワイヤレスイヤホンを使って音声を再生する場となる、スマートなサンドボックスを提供するからです。
カスタマイズ可能なワイヤレスイヤホンは、次のような状況を実現する可能性があります。例えば、その種のワイヤレスイヤホンによって、音楽や通話音声がスマート・カー、家庭、テレビ、オフィスに転送されるようになるかもしれません。あるいは、ワイヤレスイヤホンがパーソナル・アシスタント機能と統合されることもあるでしょう。更には、スマート・センシングやGPSによって得られる情報に基づき、環境に応じてワイヤレスイヤホンが自身の性能をスマートに調整するようになる可能性もあります。革新的なオーディオ・メーカーは、適応型のノイズ・キャンセル機能といった高度な機能を提供し始めています。ただ、この市場はまだ新たなエキサイティングな道のスタート地点にいる段階だと言えます。
ハイレゾ・オーディオ、空間化など、次世代の機能は新たな種類のコンテンツを生み出すきっかけになる可能性があります。パーソナル・オーディオのエコシステムにおいては、カスタマイズ可能なワイヤレスイヤホンが、パーソナル・オーディオを取り入れる際のより強力な原動力になるのかもしれません。



市場での普及を更に後押しするために
高度な機能も、時間が経過すれば標準的な機能になります。過去の例を見ると、HDTV(高精細度テレビ)がきっかけとなり、その技術を活用した様々なコンテンツが広く普及しました。消費者にとっては、より高い性能を活用した機器やコンテンツが当たり前のものになったということです。実際、HDTVは新たな基準になりました。
パーソナル・オーディオの業界では、ANCがHDTVと同様の道をたどりました。かつて、ANCは頻繁に飛行機を利用する人や気前よくお金を遣う人のためのものでした。しかし現在では、市販のオーバーイヤー・ヘッドホン製品においてANCは標準機能として位置づけられています。
HDTVもANCも、標準的なものになるまでの道のりは同様でした。まず、より優れた技術がより優れたコンテンツを生み出します。それを受けて、消費者の需要が形成されます。最終的に、それらは新たな業界標準となりました。カスタマイズ可能なワイヤレスイヤホンであれば、聴力の補強をはじめとするより高度な機能を提供できます。この種のイヤホンがHDTVやANCと同様の軌跡をたどる可能性は十分にあります。
参考資料
1 Joy Victory、Healthy Hearing「Hearing Loss Statistics at a Glance(難聴に関する統計の概要)」Healthy Hearing、2022年
2 「Hearing Loss Facts and Statistics(難聴に関する事実と統計)」Hearing Loss Association of America、2018年
3 「Loud Noise Can Cause Hearing Loss: Public Health and Scientific Information(大きなノイズは難聴の原因に:公衆衛生と科学情報)」Centers for Disease Control and Prevention、2022年
4 All Ears International、G. Vaughan「Deafness and Hearing Loss.(聴覚障害と難聴)」World Health Organization