要約
現在利用できるRFパワーアンプ(PA)の効率は貧弱なため、ハンドヘルドのコンピュータ機器にワイヤレス通信を追加するには特有なパワーマネジメント技術が必要になります。通信プロトコルの中には、バースト伝送手法が可能で、送信しないときにシャットダウンできるものもありますが(デューティサイクル制御)、送信時の標準的なPAの効率は40%~60%以下になります。対照的に、ハンドヘルド機器の主電源の効率は、標準的に90%~95%です。
多くのハンドヘルド機器は、1~4個の非充電式アルカリ電池で動作します。バックライト付きディスプレイを備え、瞬間的な高電力を必要とするその他のハンドヘルド機器は、NiMHバッテリあるいはLi+バッテリまでをも(充電と充電の間またはバッテリの交換の間に)使用して長寿命化を実現しています。ただし、システムが妥当な動作寿命を維持するためには、バッテリの種類や構成にかかわらず、モデム、PA、及びワイヤレス通信に必要な無線回路に特別なバッテリ容量が必要となります。
このようなシステムの代表例が、CDPD (cellular digital packet data)を伝送するためのPCMCIAワイヤレスモデムです。PCMCIAのワイヤレスモデムは、携帯PDA (personal digital assistant)またはWindows® CEを動作するハンドヘルドコンピュータに差し込んで使用し、3.3V電源で数百ミリアンペアを消費します。PCMCIAカードは通常、ホストバッテリでの過剰な消耗を防止するために2次バッテリを搭載しています。伝送時に必要な電源サージを供給するために、2次バッテリは通常、今日普及している充電式バッテリ(化学製品)にみられる低い等価直列抵抗(ESR)を呈示しています。ワイヤレスリンクのための実際の電力は、主にPAの送信電力と効率によって 決まります。
一例として、ワイヤレスデータ通信リンク用の電源(バックアップバッテリを含む)は、3.3Vで動作するホストハンドヘルドシステムとインタフェース接続されている必要があります(図1に、ハンドヘルドシステムに最適な極小パッケージ、すなわち16ピンQSOPのIC1と8ピンµMAX®のIC2を示します)。2次バッテリは単一のリチウムイオン電池であり、4.1~4.2Vのフル充電電圧を示し、2.9V未満でほとんど残留エネルギを持ちません。IC1はこの電圧を3.3Vに変換し、IC2は、得られるバックアップ電圧によって12mV (0.36%)以内のホスト電源をトラッキングするようにしています。
図1. この回路は、適切なパワーマネジメント機能に加えて、ワイヤレスモデムとパワーアンプ機能をハンドヘルド計測器に追加しています。
トラッキングは、ワイヤレスハードウェアとホストを正しく接続するために極めて重要です。トラッキングにより、双方向のデータと制御ラインが有効なロジックレベルを確実に得ることができ、また1次バッテリからモデムハードウェアに、及び2次バッテリから1次バッテリと電子回路に、過度の電流が流れることを防いでいます。
回路は、次のように動作します。まず、モデムをホストのPCMCIAスロットに差し込む前のモデムの状態を検討します。2次バッテリからエネルギを全くあるいはほとんど消費しないようにするため、この状態ではモデムの電源を無効にしておく必要があります。この2次電源用のオン/オフ制御ラインは、IC2のPG\です。IC2に電力を供給するホストからのVHHは、モデムを接続していないときには存在しないため、IC2はパワーダウンしています。
電源がオフの場合、パワーグッド(PG\)出力(内部オープンドレインのnチャネルMOSFET)は高インピーダンスになるため、漏れ電流のみが消費されます。このPG\出力は高インピーダンスですが、2つの抵抗分圧器(通常、IC1の内部コンパレータで2次バッテリ電圧を監視するR6/R7、及び電力を印加するときのVBOOSTレベルを設定するR3/R4)が、ONB\ライン上でプルアップとして機能することによりIC1をシャットダウンします。IC1のスイッチモードブーストレギュレータ、及び低ドロップアウト(LDO)レギュレータは、どちらもシャットダウン時に無効にされます。したがって、分圧器を通過する1µAの漏れと、IC1への1mAにより、シャットダウン時の標準的なバッテリ消費はちょうど2µAになります。
電源電圧を印加したときの電力要件について検討してみます。PAが0.6Wを生成する必要があって、効率が50%の場合、1.2Wの入力電力が必要です。50%のデューティサイクル(送信と受信の時間が等しい)で動作する場合、PAに対するRMS電力は0.6Wです。3.3Vの電源電圧では、この負荷により約180mAが消費されます。残りのモデムが3.3Vから40mAを消費する場合、ワイヤレスリンクに対する全電源電流は3.3Vで約220mA1になります¹。
IC1ブーストレギュレータは、2.7Vの電源から約800mA (VBOOSTにて)、及びほとんど消耗されたLi+バッテリ(2.9~3.0V)から1A以上を出力できます。その場合でも、PAと残りのモデムハードウェアは、効率の低い内部LDOによって電力が供給されます。これは、定格が標準300mAで、最低限の保証が約220mAです。その理由はノイズ抑制にあります。LDOは、300kHzで約38dBのPSRRを提供しており、VBOOSTにおけるPWMのスイッチングノイズを抑制する場合に利点があります。PAの電源電圧と関連するRF放射に対するその後のノイズ抑制が容易になる、または必要でなくなるため、LDOによるこの内蔵フィルタの動作によって、FCCの放射要件を簡単に満たせるようになります。一方、効率は約8.3%に達します。
VBOOSTは、3.3Vの前後でVHHをトラッキングします。2次バッテリは、フル充電時にはVBOOSTよりも高い電圧になり、消耗が近くなるとVBOOSTよりも低い電圧になるため、LDOとブーストレギュレータは連携して必要なバック/ブースト機能を提供します。SEPIC、フライバック、及びフォワード構成もバック/ブースト機能を実現できますが、これらはすべて巨大で高価な磁性体記憶素子(変成器)を必要とし、またLDOによって提供されるノイズ抑制が欠如しています。この点に関して、図1で示す回路が最も優れた選択肢となります。
次に、モデムカードをホストのPCMCIAコネクタに差し込んだ場合について検討します。この操作により、各回路コモン(GND)間、及びすべての双方向データと制御ライン間の電気接続が行われます。次にホストは、ENラインを使用してモデムハードウェアを有効または無効にできます。最初にハードウェアを接続したときに、このラインがローレベルの場合、すべてのモデムハードウェアは無効にされ、LDOノードは高インピーダンスになります。
IC2は、ホストコンピュータのVHH電源(公称3.3V)がコネクタ経由でC1を充電するときに電力を受け取ります。VHHがその範囲の最低値(公称値より10%低い)にある場合でも、IC2の最小動作電圧により正しいパワーアップが可能となります。内部の15µs遅延により、/PG\出力がローになる前に、VHHが(V+端子で)安定し、モデム回路がENラインによって有効になったことがホストに通知されます。また、/PG\上のローレベル(仮想グランド)は、バッテリとブーストレギュレーションの電圧を正しく検知するために2つの抵抗分圧器を接地しています。
VHHが接続されると、IC2は/PG\がローのときに/ONB\をローにします。また、IC1はL1を経由してエネルギを送出し、VBOOSTを(R3/R4からのフィードバックを用いて)約3.7Vまで引き上げます。当初は、LDOレギュレータは遅れて機能します。LDOレギュレータは、VBOOSTがレギュレーションを達成するとオンになり、LDO出力が2.3Vを超えると(VHHはR2を経由してC2を充電しているので、すでに3.3V近くになっているはずです)、IC1はトラッキングモードに入ります。トラッキングモードは、VBOOSTをLDO電圧よりも300mV高くするIC1の特別な機能であり、OUTとTRACK間の接続によって設定します。300mVの余裕があるので、必要なPSRRを最大出力電流定格まで供給する間も、LDOはレギュレーションを維持できます。トラッキングモードは自動的に、上昇電圧を必要最小限に抑えるため、 LDOは最小限のバッテリ電力しか消費しません。
IC1のFBLDOピンが内部リファレンス電圧(公称1.23V)を示すとき、LDOはレギュレーション状態にあります。このFBLDO電圧はR5を流れる電流によって生成され、R2を流れる電流に比例します。つまり、IC2の伝達関数はVOUT = gm (VSENSE) R5となります。ここで、VOUTはR5両端の電圧、VSENSEはRS+端子とRS-端子(R2)間の電圧で、gm = 10-2mhoです。レギュレーション状態にあるとき、VOUT = VFBLDO = 1.23Vです。したがって、次のようになります。
VSENSE = VFBLDO/(gm*R5).VLDO = VHH + VSENSEの関係式で、VSENSEに代入すると、次のようになります。
VLDO = VHH + VFBLDO/(gm*R5).図1の回路の数値を代入すると、次のようになります。
LDO = VHH + 1.23/(10-2*104) = VHH + 12.3mV.R5を10kΩに設定すると、検知電圧は12.3mVになります。これがわかれば、R2を選択して、LDOからVHHに流れる電流の量をプログラミングできます。たとえば、R2 = 1kΩの場合、このR2の電流は約12µAです。
IC2 (ハイサイド電流検知アンプ)の使用目的は、高ワットで抵抗値の低い高精度の電流検知抵抗を使用してハイサイド電流を高精度に測定することです。このアプリケーションは、精度が10%で低ワットの電流検知抵抗(たとえば、1/16Wの表面実装タイプ)で充分であるという点において特殊なものです。LDOからVHHに流れる電流の正確な量を気にする必要はありません。ただ、量が安定して少ないということだけに注目します。
抵抗値の高い(1kΩ)電流検知抵抗の1つの利点として、短絡やVLDOでの予期しない高負荷が発生しても、ホストからR2を流れる電流は3.3mA前後しかないということであり、システムクラッシュはほとんど発生しません。R2は1kΩの大きさである必要はなく、IC2は約800mAを消費するので、R2 = 12mV/800µA = 15Wに設定することで、LDOノードが(ホストの代わりに) IC2に電力を供給できます。
他の構成として、IC2のV+ノードを、VHHではなくLDOに直接接続できます。これにより、VHHからR2を通じて電力を取り込むとき、IC2はLDOから電力を受け取ります(パワーアップ時を除く)。この機構では、R2によって大きな分圧を生じない高インピーダンスをLDOに提供するため、PAとモデムハードウェアをシャットダウンしておくことが必要となります。またR2は、保証動作(3V)にV+で許される最小電圧を確保できるよう十分小さくなくてはなりません。たとえば、VHH = 3.6V以上の場合、R2は375Ω未満でなければなりません。この値であれば、IC2の0.8mAの動作電流により、VHH範囲の下限(3.6V-10%)において0.3Vしか降下しないことが保証されます。
R2と並列のショットキダイオード(D2、D3)は、RS+とRS-間の過度の電圧からIC2を保護します。これらのダイオードは小さな漏れ電流を発生しますが、その他の点では、回路の動作に影響しません。R5と並列のコンデンサは、LDOフィードバックノードにおける高周波ノイズをグランドに流すことによって、滑らかで安定したVLDO電圧を保証しています。上述したとおり、IC1は、入力と出力が確定されていないコンパレータを搭載しています。この回路では、IC1は2次バッテリ電圧を監視し、残りのエネルギが通信リンクを維持するための限界レベルに近くなったときにホストに警報します。
図1の回路は、上述の条件を含んだ条件範囲に対応できるものです。これは、他の通信バスと互換性があり、たとえば、ハンドヘルド機器にワイヤレスモデムを接続するのに適しています。この通信バスとしては、カードバスや最近急速に浮上してきたユニバーサルシリアルバス(USB)があります。この回路も最大5V (公称)のホスト供給電圧を受け入れます。効率を向上するため、アプリケーションの中にはVLDOではなくVBOOSTに直接PAを接続するものもあります。この場合、VBOOSTはVLDOをトラッキングする必要はありません。電圧は、独立したフィードバック抵抗のセットで単独で制御できます。
IC1は1.1Vで始動し、0.7Vまで低下しても動作するため、2セルのNiMH2次バッテリであっても、低レベルのRF出力電力を必要とするブーストアプリケーション用として受け入れることができます。最後に、IC1は通常、重負荷時の低ノイズPWMレギュレータとして~300kHzのスイッチング周波数で動作します。必要なら、(CLK/SELラインを介して) 200~400kHzの範囲の外部ソースに周波数を同期させて、この波形の高調エネルギ成分を制御することができます。放射及び伝導エネルギが比較的少ない軽負荷状態では、(同様にCLK/SELラインを介して)最高効率と最長バッテリ寿命を提供するパルス周波数変調(PFM)モードにIC1を設定することができます。
¹ PAのデューティサイクルが<100%で、LDOの出力電流がIC1の定格制限値以内の場合、式i × t = C × Vを使用して、伝送時のLDO電圧降下が許容制限値以内になるようにLDO出力コンデンサ(C2)の大きさを決定してください。
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