ワイヤレス電力伝送の概要

2019年06月01日
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電力をワイヤレスで伝送する技術を活用すれば、多くのメリットを得ることができます。例えば、電源の供給に使用するプラグの部分は、故障しやすい個所だと言えます。ワイヤレス電力伝送を利用すれば、そのプラグをなくすことができます。その場合、水分の侵入を防ぐことが可能になり、電源供給に関連するデバイスは、筐体内部に密閉されることになります。また、給電のためにケーブルを差し込む手間が省かれます。ワイヤレス電力伝送は、主に携帯型デバイスのバッテリを充電するケースに適用されます。

この分野には、いくつかの確立された標準規格があります。しかし、特に規格への準拠は求められず、個別に最適化されたワイヤレス電力伝送技術を適用できるアプリケーションも数多く存在します。図1に、電磁誘導方式のワイヤレス電力伝送の概念図を示しました。図のように、2つのコイルを互いに近づけて配置し、1次コイルに交流電流を流します。すると、変圧器と同様に、生成される磁場を介して、2次コイルに交流電流が誘導されます。

図1. 電磁誘導方式のワイヤレス電力伝送の概念図。1次側の制御回路とレシーバー回路で構成されています。

図1. 電磁誘導方式のワイヤレス電力伝送の概念図。1次側の制御回路とレシーバー回路で構成されています。

一般に、1次側のトランスミッタは、シンプルな発振器といくつかのディスクリート部品で構成することができます。必要な電力のレベルが小さければ、それだけで十分に機能します。より大きな電力を伝送するには、集積型のトランスミッタ回路を使用する必要があります。例えば、アナログ・デバイセズの「LTC4125」のような製品を使用するということです。このトランスミッタは、与えられた共振周波数に応じて、非常に正確に制御されます。最適な外付け部品を選択すれば、最大限の電力を伝送することが可能になります。また、LTC4125を採用すれば、1次コイル上の異物を検出することもできます。例えば、コイルに金属片が付着していたとすると、渦電流が生じて金属片が発熱します。特に大電力を扱う場合には、その発熱によりユーザがやけどを負ってしまうかもしれません。電力のレベルが低ければ、異物による加熱は最小限に抑えられ、重大なリスクを回避できます。LTC4125を使用すれば、金属性の異物を検出したら、電力量を低下させるか、電力伝送を中断するといった仕組みを構築することができます。

加えて、LTC4125を採用した場合には、エネルギーを節約するために、送信電力量を2次側の電力の要件に応じて調整することが可能になります。

図2は、2つのコイルのオフセットと間隔の関係を表したものです。特定の部品を使用したデモ回路の例を示しています。変圧器の場合、結合係数は通常0.95~1です。それに対し、ワイヤレス電力伝送を使用するシステムでは、一般に結合係数は0.8~0.05程度になります。図2において、X軸はコイルのオフセット、Y軸は2つのコイルの間隔(X、Y軸共に単位はmm)です。2つのコイルが垂直方向に正確に位置合わせされていたとします(コイルのオフセットが0)。この条件下でバッテリの充電のために1Wの電力を伝送する場合には、2つのコイルの間隔を最大12mmまで広げられます。必要な電力が大きいほど、2つのコイルを近づけると共に、正確に位置合わせすることが重要になります。送信可能な電力量は、回路で使用する素子を適切に選択することによって調整できます。ただ、コイルのオフセットと間隔の関係は、この例とほぼ同様になります。

図2. 2つのコイルのオフセットと間隔の関係

図2. 2つのコイルのオフセットと間隔の関係

より長い距離でワイヤレス電力伝送を行いたい場合には、RF電力伝送について検討するとよいでしょう。例えば、ISM(産業‐科学‐医療)帯で動作するテスト用の回路なども提供されています。但し、そうした方法の場合、送信可能な電力と伝送効率は、本稿で紹介した電磁誘導方式よりもはるかに低くなります。

著者について

Frederik Dostal
Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーショ...

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