スイッチング・レギュレータで電流モード制御が重要な理由
市場には多数の様々なスイッチング・レギュレータが存在します。選択の基になるのが仕様項目であり、例えば、入力電圧範囲、出力電圧能力、最大出力電流といった多くのパラメータです。本稿では、データシートに通常記載され、差別化要因となる特徴の1つでもある電流モード、およびそのメリットとデメリットについて説明します。
電流モード・レギュレータの説明
図1は、電流モード・レギュレータの基本的な動作原理を示しています。この回路では、帰還電圧は単に内部電圧リファレンスと比較されるだけではなく、パワー・スイッチに必要なPWM信号を生成するための鋸波電圧ランプとも比較されます。このランプの傾きは、電圧モード・レギュレータでは一定です。電流モード・レギュレータの場合は、この傾きはインダクタ電流によって変わり、図1に示すスイッチ・ノードでの電流測定から求まります。これが、電流モード・レギュレータと電圧モード・レギュレータとの違いです。電流モード・レギュレータがもたらすメリットは多数あります。その1つは、インダクタ電流が入力電圧(図1のVIN)の変化に即座に適応することです。したがって、出力電圧(図1のVOUT)がこの入力電圧の変化に追従する前でも、入力電圧が変化したという情報が制御ループに直接取り込まれます。
図1 電流モード・レギュレータの基本的な動作原理。
電流モード制御のこのメリットは説得力が高いため、市販されているスイッチング・レギュレータICのほとんどは、この電流モード制御の原理に従って動作します。
別の重要なメリットは、制御ループ補償が簡単になることです。電圧モード・レギュレータのボーデ線図はダブル・ポールを示しますが、電流モード・レギュレータの場合、この時点では電力段の単純なポールが1つだけ発生します。これにより生じる位相のずれは90ºになり、ダブル・ポールの場合の180ºとは異なります。したがって、電流モード・レギュレータの方がはるかに補償しやすく、そのため安定しやすいと言えます。図2は、代表的な電流モード・レギュレータの電力段の単純な伝達関数を示しています。
図2 電流モード制御による簡単な制御ループ補償が、電力段に単純なポールが1つだけある状態でボーデ線図に示されている。
しかし、上述したメリットと並んで、デメリットもいくつかあります。電流モード・レギュレータでは、スイッチング遷移の直後に必要な電流測定を行うことができません。この時点では、かなりのノイズが測定に入り込んでしまうためです。スイッチングで生じたノイズが治まるには、数ナノ秒かかります。これを、ブランキング時間と言います。通常、このブランキング時間は電圧モード・レギュレータの場合より多少長い最小オン時間仕様になります。電流モード・レギュレータの別のデメリットは、原理的に、分数調波振動の可能性です。これを図3に示します。50%を超えるデューティ・サイクルが必要な場合、電流モード・レギュレータは、短いパルスと長いパルスを交互に実行することがあります。多くのアプリケーションでは、これを不安定とみなし、避けなければなりません。この解決策として、図1に示す生成された電流ランプに、ある程度のランプ補償を加えることができます。こうすると、臨界デューティ・サイクルの閾値を、50%を優に超えるところまで上げられるため、デューティ・サイクルを高くしても分数調波振動は発生しません。
図3 スイッチ・ノード電圧:電流モード・レギュレータの分数調波振動。
ブランキング時間とその結果として生じるデューティ・サイクルの制限を原因とする先に述べたこうした制約も、IC設計で回避することが可能です。例えば、1つの対策として、オン時間ではなくオフ時間にインダクタ電流を測定するローサイド電流検出を取り入れることが挙げられます。
まとめ
総合的に見ると、スイッチング・レギュレータにおける電流モード制御のメリットは、ほとんどのアプリケーションにとってデメリットに勝るものです。また、様々な回路上の新たな工夫や改良でデメリットを回避することが可能です。その結果、現在ではスイッチング・レギュレータICのほとんどで、電流モード制御が使われています。
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