スイッチング周波数に関する考慮事項
スイッチング・モード電源は、固定周波数、可変周波数、あるいは外部クロックに同期した周波数でスイッチングを行います。スイッチング周波数の値は物理的サイズを決定するので、それによって電源のコンデンサとインダクタのコストも決まります。スイッチング周波数は、コンパクトでロー・コストの回路を設計できるように、より高い値になる傾向にあります。
スイッチング・レギュレータICに組み込まれている発振器は、通常、データシートにおいて非常に広い周波数範囲について仕様規定されています。例えば、ADP2386モノリシック降圧コンバータICでは、設定スイッチング周波数の±10%までの動作が規定されています。他の一般的なスイッチング・レギュレータICは、±20%あるいはそれ以上の範囲で仕様規定されています。ADP2386のスイッチング周波数の部品変動が±10%なので、RTによってスイッチング周波数を600kHzに設定した場合は、最小540kHz、最大660kHzでのスイッチングとなる可能性があります。
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図1 抵抗RTでスイッチング周波数を設定したADP2386降圧コンバータ
インダクタを通るピーク電流は実際のスイッチング周波数によって異なるので、回路を設計する場合は、このように合計で20%のスイッチング周波数変動が可能である点を考慮する必要があります。結果として、インダクタの電流リップルは、出力電圧リップルに直接的な影響を及ぼします。
スイッチング周波数がインダクタの電流リップルに与える影響を図2に示します。600kHzの公称スイッチング周波数は青で示されています。最小スイッチング周波数(540kHz)は紫、最大周波数(660kHz)は緑です。公称値を600kHzに設定した場合、レギュレータが540kHzでスイッチングを行ったときのピークtoピーク電流リップルは1.27Aです。しかし、同じ600kHzの周波数設定でもスイッチング・レギュレータが660kHzでスイッチングを行う場合もあります。この場合の電流リップルは1.05Aです。つまりこの例では、回路内の部品ごとにスイッチング周波数が異なることによって、コイルの電流リップルに220mAの差が生じる可能性があります。これは、許容温度範囲全体にわたって起こり得ます。
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図2 スイッチング周波数変動の影響を受けるコイルのピークtoピーク電流リップル。
スイッチング・レギュレータの電流制限値は、この影響を考慮して設定する必要があります。ピーク電流は、通常動作時に既存の過電流保護が働かないよう、十分に小さい値としなければなりません。
インダクタやコンデンサの値の変動など、この他にも考えられる変動はありますが、この例ではこれをまったく考慮していません。
出力電圧リップルに関し、これに応じて生じる電流リップルの変化を図3に示します。この回路は、600kHzのスイッチング周波数で生じる電圧リップルが4.41mVとなるように設計されています。図には、スイッチング周波数が540kHzのときの電圧リップルが5.45mVで、660kHzでは3.66mVであることが示されています。
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図3 スイッチング・モード・レギュレータICのスイッチング周波数変動による出力電圧リップルの変化。
例としてあげたため、考慮している部品変動は、許容温度範囲内におけるスイッチング周波数に関わるものだけです。実際には、インダクタやコンデンサの実際の値の変動など、他に多くの変数があります。これらも動作温度による影響を受けます。ただし、ほとんどの場合、スイッチング周波数の実際の変動は±10%の限界値に達しないと見なすことができます。通常、このような挙動は指定範囲の中央にある代表値付近に現れます。電源の動的変数を体系的に検討するには、モンテカルロ解析を使用して答えを求めます。この場合は、様々な部品や可変パラメータの変動が、それらの発生確率に従って重みづけされ、互いに関連付けられます。モンテカルロ解析は、アナログ・デバイセズから無料で提供されているLTspice®シミュレーション・ソフトウェアを使って行うことができます。
LTspiceシミュレーションでパラメータを変化させる方法の詳細は、Gabino AlonsoとJoseph Spencerによる記事、WorstCase Circuit Analysis with Minimal Simulation Runsを参照してください。
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