TNJ-083: 「緊急開催!」回路設計 WEB ラボを理解する基本 (というかそれが分かれば十分)

2022年01月04日
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はじめに

緊急開催!といっても、順番で執筆・掲載しているので、別に「緊急開催!」なんて言えるものではありませんが…。

さて今回は、WEBラボの解説が、どのようなところを基本として成り立っているかをお話しさせていただきたいと思います。実はそれは非常に単純なことがらの「組み合わせ/積み重ね」であるだけなのでした…。

 

それは他愛もない世間話から

久しぶりに社内の人と他愛もないおしゃべりができた、とある日…。その人から、「WEBラボ、いつも見てるけど、難しすぎじゃないのー?」というお話しをもらいました。まあたしかに見た目、難解にも感じられる読者の方もいらっしゃるかとも思いますが(汗)、実際には、実は、今回のこの技術ノートに示 すような、とても単純な数学/理論/技術を複合させているだけなのです。それらを積み重ねているだけなのです。

それをお伝えしたく今回の TNJ-083 では、当初計画していたネタを後送りにしてお届けさせていただきたいと思います。

そうなのです、WEBラボのこれまでの記事は「とても基本的な回路理論と数学と技術の複合」なのです。その点からすれば、私もその程度しか分かっていないということです(笑)。

 

書き出して思い出してみると

今回の技術ノートを書き出して思い出しました。38歳だったかと思いますが、私はフランス語の授業を半年だか 1 年だか(すでに記憶がありませんが)、受講する機会がありました。

いまだにそのようす、授業風景は鮮明に覚えています。30人くらいの容量の教室に生徒は4~5名。講師はフランス滞在経験のある日本人の方でした。毎回授業の 10%くらいはフランスやフランス人に関する雑談で、「フランス人の朝食はクロワッサン」とか「フランス人が飲み屋でタバコを吸うときは…」とか、私にはとても新鮮な、楽しい話題を紹介してくれたものでした。

図 1 はコロナ禍の大掃除で出てきた、そのときの教科書です。少しでもフランス語を覚えようと必死に講義を聞き、予習復習していたので、中身は赤ペンで真っ赤です。しかし今となってはすっかり忘れ、cava?(サヴァ?=お元気?)と、「ジュテーム」が 3 単語なのだという飲み屋ネタくらいしか記憶がありません(笑)。そういえば「ブーランジェリーにバゲットを買いに」を「パン屋に棒を買いに」と宿題の答えを誤訳として披露をした記憶もあります(笑)。

 

講師が「Non Native には文法の知識が重要」という

授業の初回だったと思われますが、この講師は「ネイティブでない我々が早くフランス語を習得できるようになるには、文法の知識が重要(近道)」という話しをしていらっしゃいました。それは「なるほど」と納得できる主張でした。

図 1. 38 歳のころに習ったフランス語の教科書
図 1. 38歳のころに習ったフランス語の教科書

 

今の英語の個人講師は「文法はあまり気にするな」という

私は週 1 回の英語の個人レッスンを日本在住アメリカ人講師(奥さんが日本人)から受け始めて 10 年になります。最近はレッスン料を払いながらも、その一週間で講師が経験したお茶のみ話をSkypeで延々聞かされるだけという、何をしているのか分からない状態に陥っています(笑)。なお個人契約講師なの で会社の自己啓発補助などはもらえません…。

彼はいいます。「君は non native なんだから文法は気にせず、自信をもって大きな声で話せばよい」。これも「なるほど」と納得できる主張でした。この彼の指導により、私も英語力(実際は度胸だけ)を相当つけることができました。なお本質的な英語力レベルはまだまだです…。

 

ではどう考えればよいのか

この、フランス語日本人講師と英語レッスン米国人講師のそれぞれの主張は、全くの逆方向といえるものです。

しかし全く逆方向を向いているものとはいえ、それぞれを「融合」して学習を進めていくことで、語学の学習が進んでいくのだと思います。「文法に囚われることなく言葉を発してみて、それを文法の視線から以降で修正を加えていく」という感じでしょうか。文法に囚われすぎるとお話し(スピーキング)がで きなくなると思います。しかし私の英語学習は、死ぬときになっても「満足」といえるレベルには到達できないものだと感じています。

嗚呼、またヨタ話になってしまいました。申し訳ございません…。まあ「デンキの学習も同じです!」というところで…。さて、では本題を始めて参りましょう!

 

計算は四則演算だけ

WEBラボでの計算導出はほぼすべてが四則演算(+, -, ×, ÷)なのです。もう一つ加えるとすれば平方根(√)ですね。その平方根も「同じ値を掛け算して得られた値から、その元の同じ値を推定する」と考えれば、掛け算の一種ともいえるかもしれません。

 

信号の合成は足し算と引き算

さらに殆どの回路動作や信号処理は、四則演算のうちでも「足し算と引き算」でかなり説明がつきます。

TNJ-063 で紹介した「線形」についても[1]に

【線形性 (linearity)】システムの入力と出力の関係が重ね合わせの特性を持つ。2 信号 A, B が合成された信号の出力応答は、 2 信号それぞれが単一に入力に加わり、出力に現れたものを足し合わしたものに等しい。電気回路理論としては重ね合わせの理として、デジタル信号処理ではインパルス列を畳み込みすることとして活用されている。

と説明されています。これも図 2 のように

数式1

ならば

数式2

という足し算です。なお𝑉は電圧、𝐴は電圧増幅率として、ここでの例にしてみました(図 2 では𝐴= 1で示してあります)。

 

増幅と減衰、電力と非線形は掛け算

先の線形性のところでも示しましたが、図 3 左のような増幅動作は掛け算です。

数式3

同図右のような抵抗分圧も掛け算です。

数式4

ここで𝐷は分圧による減衰率です。電力の自乗の計算も

数式5

で掛け算です。割り算も掛け算の一種ですね。

2 次歪みや 3 次歪みも(2 次歪みを例にすると)

数式6

で掛け算です。各第 2 項が 2 次歪みを表します(というか、そのように表すことができます)。𝛼1と𝛼2はそれぞれの項の係数です。

WEBラボでよく出てくるノイズ・ネタのRSSも掛け算と足し算とルート

WEBラボでも「電力の足し算」と説明してきた、図 4 のような複数のノイズ源の合成の、二乗和平方根での計算、RSS(Root Sum Square)も掛け算と足し算です。実効値𝑉𝑁1, 𝑉𝑁2のふたつのノイズ源があり、それの合算は

数式7

で掛け算と足し算とルートです。

 

積分と微分も足し算と引き算(と掛け算と割り算)

積分や微分も WEBラボでところどころで出てきます。

積分(定積分)は図 5 のように、狭い区間の長方形の面積を、その区間の長さを極限まで短くした状態で計算し、それを区間全体で「足し算」するものです。たとえば電流量𝐼を積分したものが電荷量𝑄です。数式では

図 2. 信号の合成は足し算
図 2. 信号の合成は足し算
図 3. 増幅と減衰は掛け算
図 3. 増幅と減衰は掛け算
図 4. ふたつのノイズ源の合成「RSS」
図 4. ふたつのノイズ源の合成「RSS」

数式8

とか書きますが、電荷量𝑄は時間変動する電流量𝐼(𝑡)全体を蓄積したものとなります(𝑄の初期値はゼロとしています)。同図のように電流量𝐼と電荷量𝑄とでグラフで表記してみると、グラフ全体の面積を微小区間ごとの面積の足し算で得ると考えれば、腹落ちするでしょう。ここも「足し算」なんです。

微分も同じです。電圧(電位)𝑉を微分したものが電界𝐸で、数式では

数式9

とか書きますが、図 6 のように狭い区間𝑥, 𝑥 + ∆𝑥の 2 ポイントの大きさを「引き算」し、その区間の長さ∆𝑥を極限まで短くした状態で計算し、それを区間の長さ∆𝑥で「割り算」するものです。結局はその点𝑥の傾斜を求めていると考えれば、これもすとんと腹落ちするでしょう。

 

とかいいつつ対数もありました!

とかいいつつ大事な表記、dB(デシベル)を表すときに使う対数

数式10

もありましたね(汗)。dB には常用対数が用いられます。ここで𝑃1と𝑃2は電力([W])です。電圧の比の場合は 20×ですね。

とはいえ WEBラボでは対数を計算の展開に用いることはほとんどなく、そのほとんどが数値「dB」を提示する目的のみで用いられています。

 

オームの法則とインピーダンス

[2]のエピローグでも取り上げていますが、オームの法則は非常に重要です(図 7)。

数式11

ここで𝑅は抵抗、𝑉は電圧、𝐼は電流です。

単純とも思えるオームの法則は、以下にも示すインピーダンスの計算、伝送線路の特性インピーダンス、また系を電界密度𝐸と磁界の強さ𝐻に変えることで、マクスウェルの方程式にも近づく空間固有インピーダンスというものなどにも応用できます。

つまりバカにしてはいけません…。

図 5. 積分は全体の面積を求めるもの
図 5. 積分は全体の面積を求めるもの
図 6. 微分はその点での傾斜を求めるもの
図 6. 微分はその点での傾斜を求めるもの
図 7. オームの法則
図 7. オームの法則
図 8. 位相はふたつの波形間の時間的なずれ(上:電圧波形、 下::電流波形)
図 8. 位相はふたつの波形間の時間的なずれ(上:電圧波形、下::電流波形)

電圧𝑉と電流𝐼の比率、それも位相を含めたかたちで(実際はさらに以降に示す複素数を用いて)表せば、インピーダンス𝑍として

数式12

これもまたオームの法則で表すことができます。複素数は次に示す「位相」を表す目的で、ここで必要になります。

 

位相と複素数とオイラーの公式

位相𝜃は複素数で表すことができます。図 8 は位相の意味合いを示しています。位相はふたつの波形間の時間的なずれです。図 9 は図 8 の上側の波形を基準位相としたとき、下側の波形をベクトル𝑆(大きさつまり振幅と、位相)で表したものです。記号の上についているドットで、大きさと位相をもつベクトルの意味を示す表記にしています。

このベクトル表記𝑆 を、X 軸側を実数軸、Y 側を虚数軸とし、各軸の成分𝐵, 𝐶を考えたとき

数式13

としてベクトル表記を複素数で表すことができます。このとき位相𝜃は

数式14

となります。ああ、逆三角関数が出てきてしまいました(汗)。今回のネタのフォーカスから外側に出てしまいますが、ここだけはお許しを…。そういえば、まあ…、WEBラボとしては三角関数の積和公式(これも掛け算と足し算ですが)なども使っておりました。重ねて申し訳ございません…。

さて、ベクトルの大きさ(ノルム)は

数式15

さらに複素数は

数式16

としてオイラーの公式により、大きさと位相のベクトル表記に書き直すことができます。𝑒𝑗θとexp(𝑗θ)は表現方法を変えてあるだけです。べき表記だと記号のフォント・サイズが小さくなりすぎるため、このように表す場合が多いです。

 

虚数単位記号𝒋について

WEBラボ以外でも「虚数単位記号𝑗」はよく見かけるものかと思います。これは難しく考えずに、図 10 のように

・+𝑗は「90°位相を進める操作」

・−𝑗は「90°位相を遅める操作」

と考えておけばいいでしょう。数学関係の書籍では𝑗ではなく𝑖が用いられますし、高校数学でも𝑖で説明されていたことを覚えていらっしゃるかと思います。デンキ関係の理論書で𝑗が用いられるのは、𝑖だと電流と間違えてしまうためです。なお

数式17

図 9. 図 8 の上の電圧波形を基準にしたときの 下の電流波形のベクトル
図 9. 図 8 の上の電圧波形を基準にしたときの下の電流波形のベクトル
図 10. 虚数単位記号±𝑗は±90°の位相変化を示すもの
図 10. 虚数単位記号±𝑗は±90°の位相変化を示すもの
図 11. 帰還はそれそのままが OP アンプ回路の動作
図 11. 帰還はそれそのままが OPアンプ回路の動作

でありますが、これを追求していくと胸が苦しくなりますから(笑)、

数式18

として自乗のアプローチのみで𝑗を考えていたほうが(𝑗を使ったほうが)腹落ち感があります。

 

帰還(負帰還と正帰還)

帰還も WEBラボでよくでてきます。帰還は図 11 のようなシステムです。この図中下側の〇付近に+、-と記載のあるところは上側のOPアンプでいえば、非反転入力と反転入力になります。この図 11 のシステムを OP アンプ増幅回路とし、信号入力を𝑉𝐼N、出力を𝑉𝑂UTとし、OP アンプ自体の増幅率を𝐴、抵抗による信号分圧率(減衰率)を𝛽とすれば(帰還系では帰還の部分の減衰量に記号𝛽がよく用いられます。この𝛽を「帰還率」といいます)、

数式19

この式は基本的なものとも思えますが、さらにこれで𝐴と𝛽をそれぞれ複素数(大きさと位相、つまりベクトル)にすれば、帰還系の挙動をかなりのところまで解析することができます。

今回は紙面(ノートのページ)もありますので、この式のおいたちのみを示していきましょう。

図 11 における𝛽を経由し、〇の-側に帰還される電圧を𝑉𝐹B、〇 から出力され𝐴に加わる電圧𝑉𝑥としてみると

数式20

です。この2式から𝑉𝑥を消すと

数式21

移項してみると

数式22

から上記の式𝑉𝑂UT/𝑉𝐼Nが得られることになります。これも四則演算だけです。結構単純なのです。

 

ギリシャ文字にビビらないで!

私も高校を卒業したあたりから出会う教科書で出てくる、ギリシャ文字の記号にだいぶビビったものです(笑)。ギリシャ文字で表される式はなんとなく敷居の高さを感じるものです。

残念ながら WEBラボでも一部使用させていただいております。

たとえば効率𝜂はよく使われるギリシャ文字の記号です。回路理論でもいろいろなギリシャ文字が使われますが、(私見ではありますが)ギリシャ文字が使われる理由は、「英語のアルファベットだけだと、使える記号がなくなってしまうから」程度だと認識しておけばよいでしょう。ギリシャ文字𝜉のかわりに「A」でも「あ」でも、「イ」という記号でもいいわけです。

 

【若干高度な話題】インダクタとコンデンサにおける電圧と電流の位相が90°ずれるというのは

上記のように、電圧𝑉と電流𝐼の比率を、位相を含めたかたちで複素数を用いて表すことができます。この比がリアクタンスやインピーダンスです。

 

コンデンサの電圧と電流の関係を考える

図 12 に示すコンデンサに加わる電圧(ベクトル)𝑉と流れる電流(ベクトル)𝐼の波形は図 13 のようになり、これらの関係はリアクタンスとして

数式23

だと、いろんなところに「さらり」と書いてあります。ここで𝑓は周波数、𝐶はコンデンサの容量です。これを

数式24

と書き直せば、電流(ベクトル)𝐼 に対して電圧(ベクトル)𝑉が「−𝑗で」、90°位相が遅れているものとして表すことができます。

ところで高校の物理で習った、コンデンサの端子電圧𝑉(𝑡)と、流れる電流𝐼(𝑡)の式は

数式25

というものでした。ここで𝑉0はコンデンサの初期電圧です。これと先の−𝑗の式との関係がどうなっているかと思われるでしょう。

図 12. コンデンサに加わる電圧と流れる電流
図 12. コンデンサに加わる電圧と流れる電流
図 13. コンデンサに加わる電圧と流れる電流(LTspice のシミュレーション)
図 13. コンデンサに加わる電圧と流れる電流(LTspice のシミュレーション)

ここで電流を正弦波として、

数式26

とします。ただし𝐼𝑃Kは電流のピーク値、𝑡は時間です。そうすると

数式27

ああ、積分が出てしまいました…。𝑉0 = 0とすれば、これが先の図13 のような波形となり、また𝑄 = 𝐶Vの式を用いて

数式28

としてみると、電圧の位相が電流から90°遅れること[−𝑗、つまりsin(2𝜋ft)が−cos(2𝜋ft)になること]が分かります。さらに電圧と電流の大きさの関係(リアクタンスの大きさ𝑋)を考えると

数式29

として計算することができます。このように−𝑗で 90°位相が遅れていると表すものは、実は信号を正弦波で考える「定常状態での解析」として(暗に)定義しているからなのです。

図 14. インダクタに加わる電圧と流れる電流
図 14. インダクタに加わる電圧と流れる電流
図 15. インダクタに加わる電圧と流れる電流(LTspice のシミュ レーション)
図 15. インダクタに加わる電圧と流れる電流(LTspice のシミュレーション)

 

インダクタの電流と電圧の関係を考える

つづいて同じ説明を、図 14 に示すインダクタにおける加わる電圧(ベクトル)𝑉と流れる電流(ベクトル)𝐼との関係で考えてみましょう。これらの波形は図 15 のようになり、その関係は

数式30

として表すことができます。これもいろんなところに「さらり」と書いてあります。ここで𝐿はインダクタのインダクタンスです。これを

数式31

と書き直せば、電流(ベクトル)𝐼 に対して電圧(ベクトル)𝑉 が「+𝑗で」、90°位相が進んでいるものとして表すことができます。

またこれも高校の物理で習った、インダクタの端子電圧𝑉(𝑡)と、流れる電流𝐼(𝑡)の式は

数式32

というものでした。これも先の+𝑗の式との関係がどうなっているかと思われるでしょう。

ここでまた電流を正弦波として、

数式33

とします。そうすると上記の式の微分部分は

数式34

これが先の図 15 のような波形となります。また

数式35

として電圧の位相が 90°進むこと[+𝑗、つまりsin(2𝜋ft)が cos(2𝜋ft)になること]が分かります。さらに電圧と電流の大きさの関係(リアクタンスの大きさ𝑋)を考えると

数式36

として計算することができます。ここでも「定常状態での解析」として(暗に)定義しているからなのです。

ここでの説明では、三角関数の積分・微分が出てきましたが、これも高校数学レベルということで、このようなご説明、ご容赦いただければと…(土下座)。

ところで教科書や参考書に、インダクタの端子電圧𝑉(𝑡)と流れる電流𝐼(𝑡)の関係式として

数式37

とマイナスの符号が付いているのを見ることがあります。

これは図 16 のように、電圧降下として端子電圧をみる(つまり電流が流れ込む方向に電圧が生じている)か、起電力/電圧源として端子電圧をみる(つまり電流が流れだす方向に電圧が生じている)かの違いを表すものです。プラス・マイナスの符号がどっちかな?と悩むこともあると思いますが、図 15 のように電圧降下においては「加わる電圧𝑉と流れる電流𝐼との関係で、電圧𝑉̇が 90°進んでいる」という件と、微分の式を使うことで、プラス・マイナスの符号は「どちらがどちらか」を見極めることができるわけです。電圧降下では「プラス」ということです。

 

高速信号伝送は「信号を波として考える」

WEBラボというか、私のライフワークとしたいと思っているもののひとつが、高速信号伝送です。他の電気・電子回路理論/技術も、まだまだ制覇できていないことが多いのですが、この「高速信号伝送」はより深く突き詰めてみたいと普段から思っています。

図 16. インダクタの電圧と電流の関係を電圧降下と考えるか起電力と考えるか
図 16. インダクタの電圧と電流の関係を電圧降下と考えるか起電力と考えるか
図 17. 高速信号の伝送は U 字溝に水を流したものと同じ(水は 流れていない写真だが。また別にこんな写真を掲載しなくても よいものだが…)
図 17. 高速信号の伝送はU字溝に水を流したものと同じ(水は流れていない写真だが。また別にこんな写真を掲載しなくてもよいものだが…)

その WEBラボでも、高速信号伝送ネタが結構でてきます。ここで一番基本的というか、その視点に立てばいろいろと理解できる、というポイントが、高速電気信号を伝える媒体である導体(これを「伝送線路」と呼びます)を伝搬する信号(電圧・電流)を「波」として考えるということです。

図 17 のようにU字溝に水を「ざばーん」と流したとき、水はU字溝を「波」として伝わって(伝搬して)いきます。U字溝の先に仕切り板があればそこでその波は反射します。

伝送線路を伝搬する高速信号も、水がU字溝の中を「波」として伝わって(伝搬して)いくのと同じように、電圧・電流を「波」と考え、伝送線路を伝搬していくようすとして思い描くことで、電気信号の挙動をイメージできます。これにより高速信号伝送でのふるまいの理解や、プリント基板の設計そしてデバッグを適切に行うことができます。

 

まとめ

「なんだかわけの分からないことをこねくり回している」とも思われるようなWEBラボですが、実際は非常に単純な考え方や理論を重ね合わせた、組み合わせたものであることをご理解いただければ幸いです。これ以外、あとは「重ね合わせの理」と「テブナンの定理」くらいですか。

難しいことをやっているのではありません。本人も難しいことは分かりません(笑)。

それらを考えると、「すべては基本から」というところに行き着くのではと思います。高度な技を披露するプロ・スポーツの選手も基本的な練習を繰り返し、かなりやるそうですね。

でもこのように考えると、というかこのところ思うところですが、「体系」というのは小学校のころの算数、そして中学・高校の数学(そして理科・物理)、それらからすべて蔓(つる)を手繰るように、すべてが積み重なっているのですね。

なお今回は式番号をわざとつけていません。式番号をつけると形式ばった感じになり、またまた理論ネタの敷居を高めてしまう心配もありますので、このように式番号ナシでこのノートを書き上げてみました。

 

エンジニアとしての生きざま

ネットをサーチしていると、ときどき[3]のサイト「アナログエンジニア」がひっかかります。その管理者である岡山 努様の本は 2 冊手持ちがあります[4, 5]。先般も偶然ひっかかり、『書籍』カテゴリの記事を深夜にぼんやりと読んでいました。

いろいろな想いで『書籍』カテゴリの記事を読んでいると、右側に「ご愛読、ありがとうございました」というリンクがあることに気がつきました。

2012 年の 5 月に逝去されたそうで、書き込みは息子さんでした。最後の書き込みが 4 月 26 日。亡くなられる直前までお元気だったものと拝察いたします。お会いしたことはありませんが、あらためて読んでみると、私の琴線に触れる記事も多くあり、深く感銘をうけました。逝去されてからすでに 10 年以上経つことになるわけですが、岡山 努様のご冥福をお祈りいたします。

著者について

石井 聡
1963年千葉県生まれ。1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学電気工学科卒業、同年電子機器メーカ入社、長く電子回路設計業務に従事。1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)。2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在に至る。2018年中小企業診断士登録。
デジタル回路(FPGAやASIC)からアナログ、高周波回路まで多...

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