電圧定在波比の定義と計算

2012年11月15日
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要約

RF信号の伝送線路にインピーダンス・ミスマッチが存在すると、何が起きるのでしょうか。その答えは、電力損失が生じることに加え、反射エネルギーが発生するというものになります。そこで、伝送線路の不完全さを測定するための方法がいくつか考案されました。電圧定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)は、その不完全さを表すために用いられる指標の1つです。本稿では、まずVSWRの定義を示します。その上で、VSWRの計算方法を明らかにします。最後に、アンテナのVSWRを監視するためのシステムを紹介します。

なお、「Power Systems Design」の2012年10月号に本稿と同様の記事が掲載されています。

VSWRの定義

VSWRは、RF信号を伝送するシステムにおける送信電圧定在波と反射電圧定在波の比として定義されます。つまり、VSWRとは、伝送線路を介して電力源から負荷までRF電力がどれくらい効率的に伝送されるのかを表します。VSWRの測定が必要になる一般的な例としては、伝送線路を介してアンテナに接続されるパワー・アンプが挙げられます。

上記の内容をもう少し簡単に表現してみましょう。送信波と反射波の比はSWR(Standing Wave Ratio)と呼ばれます。SWRが高いということは、伝送線路の効率が低く、反射エネルギーが多いということを意味します。その場合、トランスミッタに損傷が生じ、その効率が低下してしまう可能性があります。通常、SWRは電圧の比として表されるので、一般的にVSWRという表現が用いられます。

VSWRとシステムの効率

理想的なシステムでは、電力段から負荷に対して100%のエネルギーが伝送されます。そのためには、ソース・インピーダンス(伝送線路とすべてのコネクタの特性インピーダンス)と負荷インピーダンスの間で完全なマッチング(整合)が実現されている必要があります。信号のAC電圧成分に干渉が及ばなければ、伝送線路の端から端まで同じ状態で伝送されます。

現実のシステムでは、インピーダンス・ミスマッチが原因となって電力の一部が(エコーのように)電力源に向かって反射します。この反射は、建設的(constructive)な干渉と破壊的(destructive)な干渉を引き起こします。具体的には、電圧の山と谷が発生し、それらが時間の経過と伝送線路の距離に応じて変化します。VSWRは、この電圧の変化を測定することで取得します。そのため、伝送線路のある点における最大電圧と最小電圧の比がVSWRの定義として使われることがよくあります。

理想的なシステムで信号を伝送した場合、その電圧は変化しません。つまり、VSWRは1.0になります。なお、この状態は1:1といった比の形で表されることもよくあります。一方、反射が生じると、電圧には変化が現れます。その場合のVSWRは、例えば1.2(1.2:1)といったより大きい値になります。VSWRの増大と伝送線路(つまりトランスミッタ全体)の効率の低下には相関があります。

反射エネルギー

送信波が、損失の生じない伝送線路を伝わり、何らかの境界に達したとします。代表的な境界としては、その伝送線路と負荷が接続されているポイントが挙げられます(図1)。その際、エネルギーの一部は負荷に伝送され、一部は反射します。入射波と反射波の比は反射係数と呼ばれ、以下の式で表されます。

Γ = V−/V+ (1)

ここで、V は反射波、V+ は入射波です。VSWRと電圧反射係数(Γ)の大きさには次式のような関係があります。

VSWR = (1 + |Γ|)/(1 – |Γ|) (2)

図1.伝送線路と負荷の関係。この伝送線路には、インピーダンス・ミスマッチの生じる境界が存在します。Γで示されたその境界において反射が発生します。V+ は入射波、V− は反射波です。

図1.伝送線路と負荷の関係。この伝送線路には、インピーダンス・ミスマッチの生じる境界が存在します。Γで示されたその境界において反射が発生します。V+ は入射波、V は反射波です。

VSWRは、SWRメータを使用することで直接測定できます。例えば、入力ポートS11と出力ポートS22の反射係数は、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)のようなRF対応のテスト装置を使うことで測定可能です。S11とS22は、それぞれ入力ポートと出力ポートでΓと等しくなります。演算機能を備えるVNAを使用すれば、測定した値を基にVSWRの値を直接計算/表示することも可能です。

入力ポート/出力ポートにおけるリターン・ロスは、反射係数S11とS22から、次のように求められます。

RLIN = 20log10|S11| dB (3)

RLOUT = 20log10|S22| dB (4)

反射係数は、伝送線路の特性インピーダンスと負荷のインピーダンスを使うと次のように表されます。

Γ = (ZL - ZO)/(ZL + ZO) (5)

ここで、ZLは負荷のインピーダンス、ZOは伝送線路の特性インピーダンスです(図1を参照)。

VSWRは、ZLとZOを使って表すこともできます。式(2)に式(5)を代入すると、次式が得られます。

VSWR = [1 + |(ZL - ZO)/(ZL + ZO)|]/[1 - |(ZL - ZO)/(ZL + ZO)|] = (ZL + ZO + |ZL - ZO|)/(ZL + ZO - |ZL - ZO|) (6)

ここで、ZL > ZOであれば、|ZL - ZO| = ZL - ZOです。

したがって、以下の式が成り立ちます。

VSWR = (ZL + ZO + ZL - ZO)/(ZL + ZO - ZL + ZO) = ZL/ZO (7)

一方、ZL < ZOであれば、|ZL - ZO| = ZO - ZLです。

したがって、以下の式が成り立ちます。

VSWR = (ZL + ZO + ZO - ZL)/(ZL + ZO - ZO + ZL) = ZO/ZL (8)

先述したように、VSWRは1.5:1のように、1に対する比の形で表されます。特別なケースとして、VSWRが ∞:1の場合と1:1である場合が存在します。∞:1の状態は、負荷がオープン・サーキットの場合に生じます。1:1の場合、負荷が完全に伝送線路の特性インピーダンスとマッチングしているということになります。

VSWRは、伝送線路上に現れる定在波により、次式のように定義されます。

VSWR = |VMAX|/|VMIN| (9)

ここで、VMAXは定在波の最大振幅、VMINは最小振幅です。2つの波が重なり合うと、入射波と反射波の建設的な干渉によって最大振幅が生じます。最大の建設的な干渉が生じた場合、以下の式が成り立ちます。

VMAX = V+ + V (10)

一方、最小振幅は破壊的な干渉によって生じます(以下参照)。

VMIN = V+ - V (11)

式(10)と式(11)を式(9)に代入すると、次式が得られます。

VSWR = |VMAX|/|VMIN| = (V+ + V)/(V+ - V)(12)

この式(12)に式(1)を代入すると、以下の式が得られます。

VSWR = V+(1 + |Γ|)/(V+(1 - |Γ|) = (1 + |Γ|)/(1 – |Γ|)(13)

この式(13)は、本稿の冒頭で示した式(2)と同じものです。

VSWRを監視するためのシステム

MAX2016」は、ログ・スケールのデュアル・ディテクタ/コントローラICです。サーキュレータ、アッテネータと組み合わせて、アンテナのVSWRやリターン・ロスを監視するために使用されます。MAX2016は、2個のパワー・ディテクタで検出した値の差を出力します。

図2に示したのは、VSWRを監視するための完全なシステムの例です。このシステムでは、MAX2016に、デジタル・ポテンショメータ「MAX5402」とA/Dコンバータ「MAX1116/MAX1117」を組み合わせています。MAX5402は、MAX2016が生成するリファレンス電圧を対象とする分圧器として機能します。MAX2016が内蔵するリファレンス電圧の生成回路は、通常2mAの電流を供給することが可能です。MAX5402で生成した電圧は、MAX2016が内蔵するコンパレータの閾値電圧(CSETLピン)として使用されます。出力電圧(COUTLピン)が閾値を超えたときには、アラームを生成することが可能です。MAX1116は2.7V~3.6Vの電源電圧で動作し、MAX1117は4.5V~5.5Vで動作します。これらのADCでは、MAX2016が生成するリファレンス電圧を使用することもできます。MAX1116/MAX1117をマイクロコントローラと組み合わせることにより、アンテナのVSWRを常時監視することが可能になります。

図2.VSWRを監視するためのシステム。リアルタイムの測定を実現するためにADCを使用して構成しています。デジタル・ポテンショメータを使用することにより、コンパレータの出力(COUTL)に対応して、アラームの信号(構成が可能)をイネーブルに設定できるようになっています。

図2.VSWRを監視するためのシステム。リアルタイムの測定を実現するためにADCを使用して構成しています。デジタル・ポテンショメータを使用することにより、コンパレータの出力(COUTL)に対応して、アラームの信号(構成が可能)をイネーブルに設定できるようになっています。

まとめ

本稿では、伝送線路の不完全性と効率を測定する方法としてVSWR/SWRを紹介しました。VSWRは反射係数と関連するものですが、その比が1:1のときは完全にマッチングしているという意味になります。一方、この比が大きいほどミスマッチが大きいということになります。このマッチ/ミスマッチは、定在波の最大振幅/最小振幅によって生じます。なお、SWRは送信エネルギーと反射エネルギーの比に関連するものです。また本稿では、アンテナのVSWRを監視するためのシステムの構成例も紹介しました。そのシステムでは、MAX2016を中核的なデバイスとして使用しました。



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