リニア・レギュレータを電源用のフィルタとして利用する

2024年05月01日
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要約

スイッチング・レギュレータで生成した電源電圧に対しては、様々な構成のフィルタ回路が適用されます。本稿では、そのフィルタ回路としてリニア・レギュレータを使用する手法を紹介します。その手法の長所を、LCフィルタを使用する場合との比較を交えて解説することにします。

はじめに

通常、リニア・レギュレータは高い電圧を低い電圧に変換するために使用されます。その場合、生成された電圧は、必要な値に正確にレギュレートされています。この方法を使用すれば、様々なアプリケーションに必要な様々な電源電圧を簡単に生成することができます。但し、リニア・レギュレータには効率がやや低いという欠点があります。そのため、多くのアプリケーションでは、リニア・レギュレータではなくスイッチング・レギュレータ(SMPS:Switched-mode Power Supply)が使われています。図1に、シンプルなリニア・レギュレータを使用して電圧変換を行う方法(概念図)を示しました。

図1. シンプルなリニア・レギュレータを使用して電圧変換を行う方法

図1. シンプルなリニア・レギュレータを使用して電圧変換を行う方法

ただ、最近では違う目的でリニア・レギュレータが使われるようになっています。SMPSで生成した電源電圧に対するフィルタとしてリニア・レギュレータを使用するケースが増えているのです。図2に示したのは、SMPSを使用する場合の従来のフィルタリング手法です。ご覧のように、SMPSの後段に、コンデンサとインダクタで構成されるパッシブ・フィルタ(LCフィルタ)が付加されています。この種のフィルタは、直流(DC)損失が少ないことから広く活用されています。DC損失を抑えられる主な理由としては、インダクタLの直流抵抗(DCR)が小さいことが挙げられます。

図2. SMPSにLCフィルタを付加した回路。電圧リップルを抑えるために同フィルタを適用しています。

図2. SMPSにLCフィルタを付加した回路。電圧リップルを抑えるために同フィルタを適用しています。

このフィルタが有効に機能するか否かは、その伝達関数に依存します。伝達関数は、ボーデ線図における二重極の位置によって特徴づけられます。ローパス・フィルタの場合、そのゲインはLとCの値によって決まるコーナー周波数から40dB/decadeで減少していきます。また、電圧リップルなど、電源ライン上の周波数の高い成分を減衰させつつ、DC電圧はそのまま通過させます。

LCフィルタはコンデンサとインダクタによって構成されます。つまり、アクティブ部品を使うことなく実現することが可能です。ただ、インダクタについては、必要なインダクタンスと電流定格の値によってはかなり高価なものを使用しなければならなくなります。

ここで図3をご覧ください。この回路では、SMPSの後段にリニア・レギュレータを配置しています。その目的は、リニア・レギュレータをフィルタとして利用し、SMPSの電圧リップルを最小限に抑えることです。このリニア・レギュレータがフィルタとして有効に機能するか否かは、同レギュレータの電源電圧変動除去比(PSRR:Power Supply Rejection Ratio)に依存します。一般に、PSRRの特性は周波数を横軸とするグラフによって表されます。PSRRの値が高いリニア・レギュレータを使用すれば、リップルなどの成分を大きく減衰させられます。例えば、SMPSのスイッチング周波数が1MHzである場合に、同周波数において最大80dBの減衰を実現できるといった具合です。

図3. SMPSにリニア・レギュレータを付加した回路。同レギュレータはフィルタとしての役割を果たします。

図3. SMPSにリニア・レギュレータを付加した回路。同レギュレータはフィルタとしての役割を果たします。

図3の回路ではリニア・レギュレータとして「LT3042」を使用しています。同ICは、この用途に非常に適しています。高い周波数でも優れたPSRRが得られることに加え、同IC自体からはほとんど干渉成分が生じないからです。この特徴は、電源電圧をクリーンにするためのフィルタを必要とするアプリケーションでは特に重要です。

SMPSに付加するフィルタとしては、様々な実装方法のものが考えられます。ただ、リニア・レギュレータをフィルタとして使用することには特に大きなメリットがあります。それは、同レギュレータの出力電圧は正確にレギュレートされるというものです。LCフィルタには電圧をレギュレートするためのループは存在しません。そのため、同フィルタから出力される電圧は、大元の電圧源(SMPSなど)の動作の影響を受けます。また、LCフィルタに流れるDC電流とインダクタのDCRが原因で、多かれ少なかれ出力電圧に影響が及ぶ可能性があります(図2)。これについては、負荷電流が一定のアプリケーションであれば許容できるかもしれません。しかし、負荷電流が変化するアプリケーションでは問題になる可能性があります。

まとめ

ある電源回路に適用すべきフィルタの種類は、個々の条件に応じて異なります。どのように実装されたフィルタが最適なのかを検討するためには、それぞれのフィルタを使用した場合のメリットとデメリットを評価する必要があります。その評価作業の効率は、シミュレーション・ツールを利用することで高められるはずです。シミュレーション・ツールの例としては、アナログ・デバイセズの「LTspice®」が挙げられます。この無償のツールを利用すれば、必要な評価作業を効率良く進められます。

著者について

Frederik Dostal
Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーショ...

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