低電圧マイクロプロセッサ、ASIC、FPGAを中間バス電圧サージから保護する降圧μModuleレギュレータ

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公称24V~28Vの中間バス電圧は、直列接続のバッテリをバックアップ電源にすることができる産業用システム、航空宇宙システム、防衛システムで一般的になっており、ここでは12Vのバス・アーキテクチャは配電損失のため実用的ではなくなってきています。システム・バスとデジタル・プロセッサの電源入力の間の電圧ギャップが大きくなることにより、電力供給、安全性、およびソリューション・サイズに関する設計上の課題が浮かび上がってきました。

単一段の非絶縁型降圧DC/DCコンバータをポイントオブロード(POL)で使用する場合は、コンバータをきわめて正確なPFM/PWMタイミングで動作させる必要があります。入力サージが発生すると、DC/DCコンバータにストレスが加わり、負荷に過電圧の危険が生じることがあります。製造段階に入り込んだコンデンサの不具合により、出力電圧に負荷の定格を超える変動が生じて、FPGA、ASIC、またはマイクロプロセッサを破損する危険性があります。損傷の程度によっては、根本原因を突き止めるのが困難な場合もあります。

ユーザでの不具合を防ぐために、過電圧発生のリスクを軽減する方策は絶対に必要です。特に上流の電圧レールが公称24Vまたは28Vの場合には、従来のヒューズを用いた過電圧保護は、応答速度が十分ではなく、最新のFPGA、ASIC、およびマイクロプロセッサを保護するための信頼性のある方式とは言えなくなってきています。したがってPOL DC/DCコンバータでの積極的な保護が必要です。LTM4641は、出力過電圧を含む多くのフォルトから負荷を保護し、回復させる38V定格の10A DC/DC降圧μModule®レギュレータです。

入力電圧とサージに伴って高まる、正確なスイッチング・タイミングの重要性

入力電圧と出力電圧の差が大きい場合には、リニア・レギュレータに比べてスイッチングDC/DCレギュレータが、変換効率の面で断然に有利です。ソリューション・サイズの小型化を実現するには、非絶縁型の降圧コンバータが最善です。パワー・インダクタおよびフィルタ・コンデンサのサイズを減らすのに十分高い周波数で動作することができるからです。

ただし、降圧比の高いアプリケーションでは、DC/DCスイッチング・コンバータが3%といった非常に低いデューティ・サイクルで動作する必要があり、正確なPFM/PWMタイミングが要求されます。さらに、デジタル・プロセッサにより厳しい電圧レギュレーション範囲が要求され、電圧を安全な制限値の範囲内に維持するために高速トランジェント応答が必要です。比較的高い入力電圧では、DC/DCレギュレータの上側スイッチのオン時間の誤差に対する余裕も減少します。

航空宇宙アプリケーションや防衛アプリケーションで発生することが多いバス電圧サージは、DC/DCコンバータだけでなく負荷をも危険にさらします。DC/DCコンバータは、過電圧サージを受けている間において必要な入力電圧除去特性を実現するため、十分に高速な制御ループによって安定化できる性能を備えている必要があります。

DC/DCコンバータがバス・サージを安定化できないかバス・サージに耐えられない場合は、負荷に過電圧が生じています。負荷のバイパス・コンデンサが年月の経過や温度によって劣化すると負荷トランジェント応答性能が下がるため、製品の設計寿命の末期にはこれによる過電圧フォルトが生じる可能性もあります。制御ループの設計限度を超えてコンデンサが劣化すると、以下の2つのメカニズムにより、負荷が過電圧にさらされる可能性があります。

  • 第1に、制御ループがなんとか安定状態を維持することができていても、重いトランジェント負荷ステップの発生により、設計開始時に予想していたより大きい電圧変動が生じ得ます。
  • 第2に、制御ループの安定性が条件付きにせよ崩れてしまった場合、出力電圧が発振して許容限度を超える電圧ピークをもたらすことがあり得ます。誤った誘電体材料が使用された場合や、製造工程に偽造品の部材が入り込んだ場合には、コンデンサも予想外に劣化したり、劣化時期が早まることがあります。

安い偽造部品のもたらす高い代償

グレー・マーケットやブラック・マーケットの偽造部品は(価格的に)魅力的ですが、本物の標準規格には合致しません(偽造品は、たとえばリサイクル部品だったり、家電製品の廃棄物からの再生品だったり、粗悪材料で製造したものだったりします)。偽造部品が不良になると、短期的には節約に見えても長期的には巨額の出費になってしまいます。

たとえば、偽造コンデンサはさまざまな形で不良になります。偽造タンタル・コンデンサについては、自己発熱がポジティブ・フィードバック・メカニズムによって熱暴走を引き起こし破壊する例が報告されています。偽造セラミック・コンデンサには、粗悪な誘電体材料が使用されている可能性があるので、年月が経過するか、動作温度が高いと容量が急速に失われます。コンデンサが致命的に故障するか容量が低下して制御ループが不安定になると、電圧波形の振幅が当初の設計よりはるかに大きくなり、負荷を危険にさらすことがあります。

産業界にとっては残念なことですが、偽造部品は、サプライ・チェーンおよび電子機器の製造工程にますます紛れ込んできています。最も扱いに注意が必要なアプリケーションや安全性を重視するアプリケーションであっても同様です。2012年5月に公表された米国上院軍事委員会(SASC)の報告書によると、軍用機および兵器システムには、性能と信頼性を損なう可能性がある偽造電子部品が広く使用されていました。これらのシステムは、防衛産業における最高クラスの請負業者が製造したシステムです。こうしたシステム内部にある電子部品がますます増加している(新型の次世代主力戦闘機には3,500を超える集積回路が搭載されている)ことと相まって、偽造部品は、もはや無視できないシステムの性能上および信頼性上の脅威となってしまっています。

リスク軽減計画

リスク軽減計画では、システムが過電圧状態に対してどのように応答し、そこからどのように回復するかを検討する必要があります。過電圧フォルトによって起きる発煙や発火の可能性は許容されるものなのか? 過電圧フォルトに起因する損傷により、根本原因を突き止めて改善措置を講じるための作業が妨げられることはないか?現地のオペレータが障害が発生したシステムの電源オン/オフ・サイクル(再起動)を行うと、システムの被害がさらに拡大し、かえって回復の妨げにならないか?フォルトの原因を突き止め、通常のシステム動作を再開するために必要な手順と時間はどれくらいか?

従来の保護回路の欠陥

従来の過電圧保護方式は、ヒューズ、サイリスタ(SCR)、ツェナー・ダイオードで構成されています(図1)。入力電源電圧がツェナーのブレークダウン電圧を超えると、サイリスタが作動し、上流のヒューズを溶断するために必要な電流が流れます。

図1.ヒューズ、サイリスタ、およびツェナー・ダイオードで構成される従来の過電圧保護回路。この回路は安価ですが、最新のデジタル回路を確実に保護するには応答時間にばらつきが多く、特に上流の電源レールが中間電圧バスである場合には不適当です。さらに、過電圧フォルトからの回復には人手の作業が必要です。

図1.ヒューズ、サイリスタ、およびツェナー・ダイオードで構成される従来の過電圧保護回路。この回路は安価ですが、最新のデジタル回路を確実に保護するには応答時間にばらつきが多く、特に上流の電源レールが中間電圧バスである場合には不適当です。さらに、過電圧フォルトからの回復には人手の作業が必要です。

この素直な回路は比較的単純で安価ですが、この手法には次のような欠点があります。

  • ツェナー・ダイオードのブレークダウン電圧、サイリスタのゲート・トリガしきい値、およびヒューズを溶断するのに必要な電流のばらつきにより、応答時間が一定になりません。保護回路が作動するのが遅すぎて、危険な電圧が負荷に到達することを防げない場合があります。
  • また、フォルトから回復する際には、ヒューズを物理的に交換した後にシステムの再起動を行うなどの人手による作業が発生します。
  • デジタルICのコアに電力を供給するラインを保護する目的でサイリスタの使用した場合の保護能力は限られています。大電流での順方向電圧降下が、最新のデジタル・プロセッサのコア電圧と同等以上であるからです。

これらの欠点により、従来の過電圧保護方式は、数万円から数十万円もするASICやFPGAなどの高価な部品に電力を供給する、高電圧から低電圧へのDC/DC変換の保護には適していません。

電源とフォルト保護の組み合せによる、高速・高信頼の応答と回復の実現

より優れた解決策は、起こりつつある過電圧状態を正確に検出し、入力電源を素早く切り離す一方で、負荷での過剰な電圧を低インピーダンス経路で放電する方法です。これはLTM4641の保護機能を使用すれば可能となります。

このデバイスの心臓部は、インダクタ、制御IC、パワー・スイッチ、補償回路をすべて1つの表面実装パッケージに統合した38V定格の10A降圧レギュレータです。ASIC、FPGA、マイクロプロセッサなど高価な負荷を保護するため、多彩なモニタ回路および保護回路も内蔵しています。LTM4641は、入力低電圧、入力過電圧、過熱、出力過電圧、および出力過電流について常に監視しており、これらの状態が起きた場合には負荷を保護するための適切な動作を行います。

保護機能が誤って動作しないように、これらのモニタ対象パラメータにはそれぞれグリッチ耐性とユーザが調整可能なトリガしきい値が組み込まれています。ただし、過電流保護は例外で、電流モード制御によりサイクル単位で確実に実行されます。出力過電圧の場合、LTM4641はフォルト検出後500ns 以内に反応します(図2)

図2.LTM4641は500ns以内に過電圧状態に応答し、電圧ストレスから負荷を保護します。

図2.LTM4641は500ns以内に過電圧状態に応答し、電圧ストレスから負荷を保護します。

LTM4641 は迅速かつ確実に応答して下流デバイスを保護し、さらにヒューズ・ベースの解決策とは異なり、フォルト状態が治まった後、自動的にリセットして再起動することができます。LTM4641 は内部の差動検出アンプを使用して、負荷の電源端子の電圧を安定化し、同相ノイズと、LTM4641と負荷の間に生じるPCBトレースの電圧降下に起因する誤差を最小限に抑えます。負荷でのDC電圧は、入力、負荷、温度の全範囲で±1.5%より高い精度で安定化されます。この正確な出力電圧測定値は、高速の出力過電圧コンパレータにも供給され、LTM4641の保護機能の起動に使用されます。

過電圧状態を検出すると、µModuleレギュレータはいくつかの並行した処理を速やかに開始します。外付けのMOSFET(図3のMSP)によって入力電源を切り離し、レギュレータおよび高価な負荷から高電圧の経路を取り除きます。別の外付けMOSFET(図3のMCB)によって低インピーダンスのクローバー機能を実装し、負荷のバイパス・コンデンサ(図3のCOUT)を急速に放電します。LTM4641の内蔵DC/DC降圧レギュレータはラッチオフ・シャットダウン状態に移行し、HYSTピンで示されるフォルト信号を送出します。システムはこの信号を使用することにより、十分に管理されたシャットダウン・シーケンスまたはシステム・リセットを開始することができます。制御ループのリファレンス電圧とは無関係の専用の電圧リファレンスを使用してフォルト状態を検出します。これにより、制御ループのリファレンスに一点障害が発生した場合への耐性が得られます。

図3.LTM4641の出力過電圧保護回路図。プローブ・アイコンは図2の波形に対応します。

図3.LTM4641の出力過電圧保護回路図。プローブ・アイコンは図2の波形に対応します。

LTM4641の保護機能は、そのフォルト回復オプションによって強化されています。従来の過電圧ヒューズ/ サイリスタ保護方式では、電源を高価な負荷から切り離す機能をヒューズに依存しています。ヒューズが溶断するようなフォルトから回復するには、人手による作業が必要です。このため、稼働率が高いシステムや遠隔地にあるシステムをフォルトから回復させるために、場合によっては許されないほどの時間が掛かります。対照的に、LTM4641では、ロジック・レベル制御ピンの状態を切り替えるか、規定のタイムアウト時間後に自律的に再起動するようにLTM4641を設定することにより、フォルト状態が解消されれば通常動作を再開できます。LTM4641が動作を再開した後にフォルト状態が再発した場合は、前述した保護機能が即座に再作動して負荷を保護します。

入力サージ保護

時には、出力過電圧保護だけでは足りなくて、入力過電圧保護が必要な場合もあります。LTM4641の保護回路は、入力電圧をモニタして、ユーザが設定した電圧しきい値を入力電圧が超えると、その保護機能を作動させることができます。予想最大入力電圧がモジュールの定格である38Vを超える場合は、外部に高電圧LDOを追加して制御回路と保護回路を稼働状態に維持することにより、入力サージ保護範囲を最大80Vまで広げて、LTM4641を引き続き完全に動作可能な状態にしておくことができます(図4)。

図4.LTM4641と外部LDOを使用した最大80Vの入力サージ保護

図4.LTM4641と外部LDOを使用した最大80Vの入力サージ保護

まとめ

ミッション・クリティカルな電子機器の中には、12V~28Vの分散電源バスと低電圧の高性能デジタルICを組み合せた構成が増えつつあります。リスクの軽減はこれまでにないほど重要になっており、この問題は特にバスが電圧サージの影響を受けやすい場合に深刻です。最新の高価なFPGA、ASIC、およびマイクロプロセッサが要求する電源電圧の絶対最大定格は公称電圧プラス3%~10%程度と低く、極端に壊れやすくなっており、過電圧フォルトが起きた場合には発火することすらあります。フォルトは、スイッチング・レギュレータのタイミング誤差、入力電圧サージ、または製造時に入り込んだ不適切な部品が原因で発生することがあります。

基幹システムでの過電圧保護には、高速、正確、均一であることが要求されており、従来のSCR/ヒューズ・ベースの方式の能力を超えるレベルが必要です。LTM4641は高効率の10ADC/DC降圧レギュレータで、厳しいシステム要件を満たすため、高速で高精度の出力過電圧保護回路を1つの表面実装パッケージ内に統合しています。

データシート、デモボード、およびその他のアプリケーション情報については、www.analog.com/LTM4641にアクセスしてください。

著者について

Jason Sekanina
Willie Chan

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