信号およびデータ処理回路用の超低ノイズ大電流小型DC/DCコンバータ・ソリューション
はじめに
フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、システム・オン・チップ(SoC)、マイクロプロセッサといったデータ処理ICは、電気通信、ネットワーク、工業、オートモーティブ、アビオニクス、防衛などのシステム分野において、絶え間なくその適用範囲を広げています。これらのシステムに共通する側面の1つが、増大し続ける処理電力で、それに応じて電源の条件も厳しくなっていきます。設計者は、高出力プロセッサに関わる熱管理の問題には十分な注意を払いますが、電源の熱管理に関する問題の考慮が不十分になりがちです。トランジスタが詰め込まれたプロセッサ自体とは異なり、低コア電圧で大電流が必要とされる場合は、最も厳しい条件における熱の問題を避けることはできません。これは、すべてのデータ処理システム向け電源に共通する傾向です。
DC/DCコンバータに関する条件の概要:EMI、変換率、サイズ、および熱に関する考慮事項
通常、FPGA/SoC/マイクロプロセッサは、ペリフェラルや補助電源用の5V/3.3V/1.8V、DDR4およびLPDDR4用 の1.2V/1.1V、処理コア用の0.8Vなど、複数の電源レールを必要とします。これらのレールを生成するDC/DCコンバータは、普通、バッテリまたは中間DCバスからの12V入力または5V入力を使用します。これらのソースDC電圧を更に降圧してプロセッサに必要な電圧にする場合、通常はスイッチモード降圧コンバータを選びます。その理由は、降圧比が大きい場合の効率が良いからです。スイッチモード・コンバータの種類は細かい違いを入れると多岐にわたりますが、多くの場合、基本的にはコントローラ(外付けのMOSFET)またはモノリシック・レギュレータ(内蔵MOSFET)の2つに分類されます。まずコントローラから見てみましょう。
従来のコントローラ・ソリューションでは不十分
従来のスイッチモード・コントローラICは外付けのMOSFETを駆動し、外付けの帰還制御ループ用補償部品を使用します。これにより得られるコンバータは、大電力を供給すると同時に非常に効率的で汎用性も高いのですが、多くのディスクリート部品が必要で、設計が比較的複雑になり、最適化も容易ではありません。更に、外付けのスイッチによってスイッチング速度が制限される可能性もあり、これは、オートモーティブやアビオニクスなどのスペースの制約が厳しい環境で問題となります。スイッチング速度が遅いということは、結果として全般的に部品サイズが大きくなるからです。これに対し、モノリシック・レギュレータは設計をはるかに簡素化します。本稿では、後述の「EMI、熱性能、効率の改善と小型化を同時に実現」するという問題を手始めに、モノリシック・ソリューションについて詳しく検討します。
最小オン時間とオフ時間を見落とさないこと
もう1つの重要な検討事項は、コンバータの最小オン時間とオフ時間、言い換えると、入力から出力へ降圧するのに十分なデューティ・サイクルで動作する能力です。降圧比が大きいほど、必要な最小オン時間は小さくなります(周波数にも依存)。同様に、最小オフ時間はドロップアウト電圧、つまり、出力を維持することのできる限界までの入力電圧の低下量を表します。スイッチング周波数を大きくすれば全体的なソリューション・サイズを小型化できますが、動作周波数の上限値は最小オン時間とオフ時間によって決まります。要するに、これらの値が小さいほど設計に余裕が出て、小形化と高電力密度化が容易になります。
実際のEMI性能に注意を払う
優れたEMI性能は、ノイズに敏感な他のデバイスに対して安全な動作を確保する上でも、不可欠な要素です。工業用、電気通信用、またはオートモーティブ用のアプリケーションにおいて、EMIを最小限に抑えることは、電源設計にとってかなり高い優先度を持ちます。複数の電子部品で構成される複雑なシステムが、EMIの重複による問題を起こすことなく連携して動作できるようにするために、CISPR 25やCISPR 32放射EMI仕様などの厳格なEMI標準が採用されてきました。これらの条件を満たすために、従来の電源は、スイッチング・エッジを低速にするか、スイッチング周波数を低くすることによってEMIを低減していましたが、前者は効率の低下と熱放出の増大につながり、後者は電力密度の低下につながります。
また、スイッチング周波数を低くすると、530kHz~1.8MHzのAM帯域で、CISPR 25標準に定めるEMI条件を満たせなくなるおそれがあります。複雑でサイズの大きいEMIフィルタや金属製シールディングを含む機械的な低減手法を採用してノイズ・レベルを下げることもできますが、これらの方法はコストの大幅な上昇を招き、必要なボード・スペースが大きくなって部品数も増え、組み立ても複雑化する上に、熱管理やテストも難しくなります。これらの方法では、コンパクトなサイズ、高い効率、低EMIといった条件を満たすことができません。
EMI、熱性能、効率の改善と小型化を同時に実現
電源システムの設計は複雑さを増しており、いまやシステム設計者にとって大きな重荷となるようなポイントに達していることは明らかです。この重荷をある程度軽くするために役立つ戦略が、多くの問題を同時に解決することのできる機能を備えた電源ICソリューションを探すことです。つまり、ボードの複雑さを緩和し、高い効率で動作可能で、熱放出を最小限に抑えることができ、EMIが小さいソリューションです。複数の出力チャンネルをサポートできる電源ICを使用すれば、設計と生産を更に簡素化することができます。
パッケージにスイッチが組み込まれたモノリシック電源ICは、これらの目標の多くを実現することができます。例えば、図1はデュアル出力ソリューション・ボードの全体像で、モノリシック・レギュレータが小型かつシンプルであることが分かります。ここで使用しているICの内蔵MOSFETと組込みの補償回路は、わずかな数の外付け部品しか必要としません。このソリューションの合計コア・サイズはわずか22mm × 18mmで、このサイズの実現には比較的高い2MHzのスイッチング周波数も一役買っています。

図1. 優れたEMI性能を備えた、コンパクト、高スイッチング周波数、高効率のソリューション。
このボードの回路図を図2に示します。このソリューションはコンバータが2MHzで動作し、LT8652Sの2つのチャンネルを使って、3.3V/8.5Aと1.2A/8.5Aの出力を生成します。この回路は容易に変更が可能で、3.3Vと1.8V、あるいは3.3Vと1Vなどを含む、様々な出力の組み合わせを生成することができます。もしくは、LT8652Sの広い入力範囲を生かし、12V、5V、または3.3Vのプリレギュレータに続く第2段コンバータとしてLT8652Sを使用して、全体的な効率と電力密度性能を改善することも可能です。LT8652Sは効率が高く、優れた熱管理機能を備えているので、各チャンネルに同時に8.5Aを出力して17Aのパラレル出力として使用したり、最大12Aのシングル・チャンネル動作で使用したりすることができます。3V~18Vの入力範囲を備えたこのデバイスは、FPGA/SoC/マイクロプロセッサ・アプリケーションに必要なほとんどの入力電圧の組み合わせをカバーすることができます。

図2. LT8652Sの2つのチャンネルを使用する、デュアル出力、2MHz、3.3V/8.5Aおよび1.2V/8.5Aのアプリケーション。
デュアル出力モノリシック・レギュレータの性能
図1に示すソリューションの効率を測定した結果を、図3に示します。シングル・チャンネル動作の場合、このソリューションは、入力電圧が12Vの時に3.3Vレールで94%、1.2Vレールで87%のピーク効率を実現します。デュアル・チャンネル動作の場合、LT8652Sのピーク効率は12V入力時で90%、各チャンネルの負荷電流が8.5Aの時の全負荷時効率は86%です。オフ時間スキッピング機能により、LT8652Sは100%近くまでの広いデューティ・サイクルを備えており、最小限の入力電圧範囲で出力電圧をレギュレーションします。代表値で20nsの最小オン時間は、高いスイッチング周波数でレギュレータを動作させることも可能にし、12VバッテリまたはDCバスから1V未満の出力を直接生成して、AM帯域を避けながら、全体的なソリューション・サイズの小型化とコスト低減を実現します。内蔵バイパス・コンデンサを使用するSilent Switcher® 2技術は、良好なベンチトップEMIや効率上の性能に影響を与えるような、レイアウト上または生産上の問題の発生を防止します。

図3. スイッチング周波数2MHzの時のシングル出力とデュアル出力の効率
大電流負荷時の差動電圧検出
大電流アプリケーションでは、PCBの直線パターン1インチごとに大きな電圧降下が生じます。現代のコア回路では一般的となっている低電圧大電流負荷の場合は、要求される電圧範囲は非常に狭くなり、電圧降下は重大な問題を引き起こす可能性があります。LT8652Sは差動出力電圧検出機能を備えているので、出力電圧検出用にケルビン接続をして、出力コンデンサから直接フィードバックを行うことができます。これにより、最大±300mVの出力グラウンド・ライン電位を修正できます。この差動検出機能を使用した、LT8652Sの両チャンネルの負荷レギュレーションを図4に示します。

図4. 差動検出機能を使用したLT8652Sの負荷レギュレーション。
出力電流のモニタリング
一部の大電流アプリケーションでは、テレメトリおよび診断用に出力電流情報を収集する必要があります。更に、動作温度に基づいて最大出力電流を制限したり出力電流をディレーティングしたりすれば、負荷の損傷を防ぐことができます。したがって、出力電流を正確にレギュレーションするには、一定の電圧と電流での動作が求められます。LT8652Sは、負荷へ送る実効的なレギュレーション電流をIMONピンでモニタし、必要に応じてその量を減らします。
IMONは負荷へ送るレギュレーション電流を設定しますが、IMONとGND間の抵抗に基づいてレギュレーション電流を減らすようにIMONを設定することもできます。負荷/ボードの温度ディレーティングは、正の温度係数を持つサーミスタを使って設定します。ボード/負荷の温度が上がるとIMON電圧も上がります。レギュレーション電流を減らすには、このIMON電圧を内部1Vリファレンスと比較して、デューティ・サイクルを調整します。IMON電圧は1V未満とすることもできますが、その場合は効果がなくなります。IMON電流ループがアクティブになる前後の、出力電圧と負荷電流のプロファイルを図5に示します。

図5. LT8652Sの出力電圧と電流のプロファイル。
低EMI
複雑な電子システムを機能させるために、個々のコンポーネント・ソリューションには厳格なEMI標準が適用されます。複数の産業間で一貫性を保つために、工業用のCISPR 32やオートモーティブ用のCISPR 25など、各種の標準が広く採用されています。LT8652Sは、優れたEMI性能を実現するために最先端のSilent Switcher 2技術を採用しています。この技術はEMIキャンセリング設計を採用し、ノイズの多いアンテナのサイズを最小限に抑えるホット・ループ・コンデンサを内蔵しています。内蔵MOSFETと小さいソリューション・サイズを兼ね備えたLT8652Sソリューションは、非常に優れたEMI性能を発揮します。図1に示すLT8652S標準デモ・ボードのEMIテスト結果を図6に示します。図6aはピーク・ディテクタを使用したCISPR25放射EMIのテスト結果、図6bはCISPR 32放射EMIの結果です。

図6. 図1に示すアプリケーション回路の放射EMIテスト結果。VIN = 14V、VOUT1 = 3.3V/8.5A、VOUT2 = 1.2V/8.5A
電流増大と熱性能改善のためのパラレル動作
データ処理速度の向上とデータ量の大幅な増加に伴って、これらのニーズを満たすために、FPGAやSoCの消費電力も増大しています。電力を消費するには電力が必要で、電源には、電力密度と性能の面でこれらの変化に追いつくことが求められます。それでも、電力密度増大を追求するにあたっては、シンプルさと堅牢さの利点を見失うべきではありません。17A以上の電流容量を必要とするプロセッサ・システムでは、複数のLT8652Sを並列化して、それぞれ異なる位相で動作させることができます。
1Vで34Aの出力を得るために並列に接続した2個のコンバータを、図7に示します。マスタ・ユニット(U1)のCLKOUTをスレーブ・ユニット(U2)のSYNCに接続することによって、U1のクロックがU2に同期されます。これによって得られるチャンネルあたり90ºの位相差は入力電流リップルを減らし、熱負荷をボード全体に分散します。

図7. SoCアプリケーション向けの4相、1V/34A、2MHzソリューション。
定常状態時とスタートアップ時に良好な電流分担を維持できるように、VC、FB、SNSGND、SSは相互に接続されています。また、帰還精度とノイズ耐性を向上させるために、ケルビン接続を推奨します。熱性能を改善するために、最下層へのグラウンド・ピン付近にできるだけ多くのサーマル・ビアを配置してください。入力ホット・ループ用のセラミック・コンデンサは、VINピンの近くに置く必要があります。
自動車の運転条件は大幅に変化し得るものであり、しかもそれが頻繁かつ急激ですが、SoCはこの急速に変化する負荷に遅滞なく適応する必要があるので、オートモーティブ用SoCに求められる負荷過渡応答条件を満たすことは容易ではありません。ペリフェラル電源では負荷電流のスルー・レートが100A/µs程度になるのも珍しいことではなく、コア電源では更に高い値になります。更に、負荷電流のスルー・レートが大きい場合は、電源出力における電圧トランジェントを最小限に抑える必要があります。スイッチング周波数が高い場合は(>2MHz)、最小限の出力電圧変動でトランジェントからの迅速な回復が可能です。図7には各種のループ補償部品に適した値が示されていますが、これらの値には、高いスイッチング周波数と安定したダイナミック・ループ応答の利点が生かされています。また、ボードのレイアウトにあたっては、回路の出力コンデンサから負荷へ続くパターンのインダクタンスを、できるだけ小さくすることも非常に重要です。

図8. 図7に示す回路の負荷過渡応答
まとめ
FPGA、SoC、マイクロプロセッサの処理電力は絶え間なく増大しており、これに対応して電源そのものについての条件も厳しくなっていきます。必要とされる電源レールの数とその電流容量が増えるにつれて、電源システムの設計と性能に関しては、小型化と高速化を考えることが不可欠になっています。LT8652Sは、電流モード、8.5A、18Vの同期整流式Silent Switcher 2降圧レギュレータで、3V~18Vの入力電圧範囲で動作します。このデバイスは、シングルセルのリチウムイオン電池から車載入力電源まで、様々な入力電源を使用するアプリケーションに最適です。
LT8652Sの動作周波数範囲は300kHz~3MHzで、設計者は、外付け部品のサイズを最小限に抑えると共に、AM無線などの重要な周波数帯を避けることができます。Silent Switcher 2技術は、スイッチング周波数と電力密度、あるいはスイッチング速度と効率を犠牲にすることなく、優れたEMI性能を確保します。また、Silent Switcher 2技術は、必要なすべてのバイパス・コンデンサをパッケージに内蔵しており、レイアウトや生産に起因する予期せぬEMI発生の可能性を最小限に抑え、設計と製造を簡素化します。
Burst Mode®動作は、静止電流をわずか16µAに減らす一方で、出力電圧リップルを抑制します。4mm × 7mmのLQFNパッケージと非常に少ない外付け部品の組み合わせは、極めてコンパクトなフットプリントを実現し、ソリューションのコストを最小限に抑えます。LT8652Sの24mΩ/8mΩスイッチは90%以上の効率を実現し、プログラマブル低電圧ロックアウト(UVLO)機能はシステム性能を最適化します。出力電圧のリモート差動検出機能は、全負荷範囲を通じて高い精度を確保すると同時に、パターンのインピーダンスに対する耐性を備えており、外部変動によって負荷が損傷する可能性を最小限に抑えます。その他にも、内部/外部補償、ソフト・スタート、周波数フォールドバック、サーマル・シャットダウン保護などの機能が備わっています。
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