低雑音アンプ(LNA)のMAX2640を470MHz~770MHz ISDB-T用にチューニング

2007年11月20日
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要約

MAX2640は、400MHz~2500MHzの周波数範囲で動作するアプリケーション用に設計された低コストの低雑音アンプ(LNA)です。このアプリケーションノートは、MAX2640を470MHz~770MHz ISDB-Tアプリケーション用の動作にチューニングするために必要なRFマッチング回路について説明します。最適化された回路は、全動作帯域において、1.2dB以下の雑音指数、15dB以上の利得、-3dB以下の入力リターン損失、-12dB以下の出力リターン損失、-18dBm以上のIIP3、および-26dBm以上の入力P1dBという性能特性を達成します。

はじめに

MAX2640は、400MHz~2500MHzの周波数範囲で動作するアプリケーション用に設計された低コストの低雑音アンプ(LNA)です。このデバイスは、+2.7V~+5.5Vの広範な電源電圧範囲で動作し、わずか3.3mA (typ)の消費電流で、低雑音指数、高利得、および高入力IP3を実現します。

ISDB (統合ディジタル放送サービス)は、日本におけるディジタルマルチメディアサービスの放送用に策定したディジタルテレビおよびラジオ規格です。ISDB-Tは、地上およびモバイルマルチメディアアプリケーション用のコア規格です。ISDB-Tは、470MHz~770MHzの周波数帯域で6MHz幅のチャネルを利用して、各チャネルを13の等幅の帯域セグメントに細分割します。セグメント化されたチャネルを使用すると、各セグメントをさまざまに組み合わせ、必要な帯域幅が異なる各種サービス(HDTV、SDTV、ディジタルラジオなど)を送信することが可能になるため、提供されるサービスのフレキシビリティが高まります。モバイルアプリケーションが使用するのは、13セグメントの中のわずか1セグメントのみです。

マキシムは現在、ISDB-Tアプリケーション用として、機能完備したチューナのMAX2160、およびMAX2161/MAX2162を提供しています。適切なチューニングによって、MAX2640 LNAは、ISDB-Tチューナのフロントエンドに組み込まれて、システムの雑音指数を改善し利得を増大することが可能です。このアプリケーションノートは、ISDB-Tアプリケーション用の動作にMAX2640の性能を最適化するために使用可能なマッチング回路について説明します。

LNA性能の最適化

特定の周波数範囲に適切なマッチング部品を使用すると、RFアンプの性能が向上します。アンプから信号に追加されるノイズ量を最小限に抑えつつ、システムエレメント間の最適な信号伝送を保証するためには、アンプに対して正しいソースと負荷インピーダンスとする必要があります。一般的に、最適な雑音指数が得られるソースと負荷インピーダンスは、最大利得に必要なソースと負荷インピーダンスとは等しくありません。低雑音アンプの性能を最適化するために、入力と出力のマッチング回路は、雑音指数、リターン損失、利得の間でトレードオフのチューニングとなります。

MAX2640の評価キットを使用すると、MAX2640の迅速なプロトタイプ作成と評価が可能になります。このアプリケーションノートは、MAX2640EVKITを使用し、入力と出力のマッチングを最適化します。

まず、MAX2640の固有利得と安定度が検証されます。MAX2640のVCCラインにVCCバイバスコンデンサをフレキシブルに配置することにより、VCCピンと直列に接続されるインダクタンス量が変化することになります。VCCピンと直列に接続するインダクタンス量は、アンプに無視できない効果をもたらすため、性能の向上のためにチューニング可能な追加のパラメータを提供します。MAX2640の以前の分析は、VCCバイパスコンデンサをVCCピンから約4mm~5mm離して配置すると、固有利得と安定度の間に優れたトレードオフが得られることを示しました(アプリケーションノート3571:「MAX2640 LNAのSパラメータの測定と安定度の分析」を参照)。

アンプの逆アイソレーションが低いと、出力のマッチングは、入力のマッチングに影響を及ぼさずにチューニングすることはできません。しかし、MAX2640の出力と入力の間のアイソレーションを高くすると、入力と出力のマッチングは独立してチューニングすることが可能です。このアプリケーションノートでは、まず、出力のマッチングを、利得と出力リターン損失を最適化するようにチューニングします。

次に、入力のマッチングを最適化する必要があります。このアプリケーションには広範な動作帯域幅が必要なため、入力のチューニングが更に複雑になります。全帯域において、適切に平坦な利得と雑音指数を保証するために、何か別のトレードオフが追加される必要があります。このアプリケーションノートは、全帯域で一定した利得を維持しつつ、雑音指数を最小限に抑える方法を中心に説明します。これを達成するには、入力リターン損失を犠牲にする必要があります。LNA入力でブロードバンドのマッチングを提供するために、T型のマッチングを使用します。LNA入力にはDCカット用コンデンサも必要です。

図1は、最終的な回路を示し、表1は、部品表を提供しています。

図1. MAX2640を470MHz~770MHzのISDB-Tアプリケーション用にチューニングする回路を提示しています。

図1. MAX2640を470MHz~770MHzのISDB-Tアプリケーション用にチューニングする回路を提示しています。

表1. 470MHz~770MHzのISDB-Tアプリケーション用のMAX2640のEVキットの部品表
DESIGNATOR DESCRIPTION
C1 470pF ceramic cap (0603), Murata GRM1885C1H471JA01B
C2 15pF ceramic cap (0603), Murata GRM1885C1H150JA01B
C3 10µF ceramic cap (1206), AVX TAJA106D010R
C4 470pF ceramic cap (0805), Murata GRM40COG471J50V
C5 3.9pF ceramic cap (0603), Murata GRM1885C1H3R3CZ01B
L1 10nH wire-wound inductor (0603), Coilcraft 0603CS-10NXJBC
L2 22nH wire-wound inductor (0603), Coilcraft 0603CS-22NXJBC

性能

上記に示された回路で、MAX2640の性能を、VCC = +2.8V、およびTA = +25℃において測定します。帯域の中心部分では、LNAは1.05dBの雑音指数、15.1dBの利得、-5dBの入力リターン損失、-16.5dBの出力リターン損失、-16dBmのIIP3、および-26dBmのP1dBを達成します。全帯域において、1.2dB以下の雑音指数、約±0.1dBの利得の平坦性、-3dB以下の入力リターン損失、-12.3dB以下の出力リターン損失、-18dBm以上のIIP3、および-26dBm以上の入力P1dBとなります。

入力と出力のマッチング部品までのボード損失が全測定から除去されています。高精度を保証するために、雑音指数はファラディケージを使用して測定しています。この帯域における性能を、図2~5に示します。

図2. 最適化された雑音指数vs.周波数を例示しています。

図2. 最適化された雑音指数vs.周波数を例示しています。

図3. 最適化された利得vs.周波数を例示しています。

図3. 最適化された利得vs.周波数を例示しています。

図4. 最適化された入力/出力リターン損失vs.周波数を例示しています。

図4. 最適化された入力/出力リターン損失vs.周波数を例示しています。

図5. 最適化されたIIP3/P<sub>1dB</sub> vs.周波数を例示しています。

図5. 最適化されたIIP3/P1dB vs.周波数を例示しています。



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