要約
D級アンプは、同レベルのAB級アンプよりもはるかに優れた効率と熱的性能を提供します。これらの改良点にもかかわらず、D級アンプの熱的性能に関しては検討の必要があります。このアプリケーションノートでは、D級アンプの熱的性能について検討し、一般的な例を使って正しい設計上の慣行を示します。
連続的正弦波と音楽
D級アンプを研究室で評価する場合、信号源として連続的正弦波が良く使用されます。これは測定用途には便利ですが、アンプの熱的負荷としてはワーストケースのシナリオに相当します。連続的正弦波を使って最大出力付近で駆動されると、D級アンプがサーマルシャットダウンに入ることも珍しくありません。
オーディオコンテンツは、音楽でも音声でも、RMS値がピーク出力に比べてはるかに低くなっています。ピークとRMS値との比はクレストファクターと呼ばれ、音声で約12dB、楽器で18dB~20dBというのが一般的です。図1は、時間軸に沿ったオーディオ信号を正弦波と一緒に示したものです。両方のRMS値をオシロスコープで測定してあります。オーディオ信号の方が正弦波よりわずかにピーク値が高いにもかかわらず、RMS値は正弦波のほとんど半分になっています。また、図に表示されたオーディオ信号は音楽の高潮部に相当します。平均の値は、ここに示したものよりさらに小さくなるでしょう。したがって、オーディオ信号も正弦波と同様のピークに達する時点があるものの、D級アンプへの熱的影響は大幅に少なくなります。システムの熱的性能を評価する場合は、正弦波ではなく実際のオーディオ信号をテストに使用することが重要です。正弦波を使う必要がある場合、熱的性能は通常の使用におけるシステムの実際の能力よりも低いものになります。
図1. 正弦波のRMSレベルがオーディオ信号より高いことから、正弦波でテストを行うとD級アンプにより多くの熱的負荷がかかると予測される。
PCBの熱に関して
業界標準のTQFNパッケージでは、エクスポーズドパッドがICから熱を取り除く最大の経路になります。底面にエクスポーズドパッドがあるパッケージの場合、PCBとその銅パターンがD級アンプの主なヒートシンクになります。図2に示すような標準的なPCBに実装されるD級アンプを扱う場合、以下の指針が役立ちます:エクスポーズドパッドを大きな銅ポリゴンに半田付けしてください。このポリゴンから、近くにあるD級アンプの端子および近くにある部品にかけて、できる限り多くの銅箔部を追加してください(ただしそれらの接点が同じ電位であることが条件です)。この例の場合は、サーマルパッドの右上端と右下端が銅パターンで接続されています(図2)。これらの銅パターンの経路はシステム全体の放熱能力に寄与するため、できる限り太くする必要があります。
図2. TQFNまたはTQFPパッケージに封止されている場合、エクスポーズドパッドがD級アンプからの主な放熱経路になる。
エクスポーズドパッドを半田付けする銅ポリゴンは、複数のビアを使ってPCBの反対側にある別の銅ポリゴンに接続してください。このポリゴンは、配線に関するシステムの制約の範囲内でできる限り大きくする必要があります。
デバイスからのすべての基板配線をできる限り太くすれば、さらなる改善が可能です。ICのピンはパッケージからの主たる放熱経路ではありませんが、少量の熱を放散するのは確かです。図3に示すPCBでは、太い基板配線によってD級アンプの出力を図の右側にある2つのインダクタに接続しています。この場合、インダクタの銅巻線もD級アンプからの放熱経路に加わります。合計の改善量は10%に過ぎませんが、それが許容範囲の熱的性能と熱的問題との差になる可能性もあります。
図3. D級アンプ右側の太い基板配線が放熱に役立っている。
補助的なヒートシンク
D級アンプが高い周囲温度で動作している場合、外付けのヒートシンクを追加することで、PCBの熱的性能を改善することができる可能性があります。そうしたヒートシンクは、性能を最大化するためできる限り熱抵抗を低くする必要があります。下面エクスポーズドパッドの場合、最も抵抗の低い放熱経路はPCBの底面にあります。ICの上面はデバイスにとって重要な放熱経路ではなく、したがってヒートシンクの位置としてコスト効率が良くありません。図4に、PCB実装型ヒートシンクの例(Wakefield Engineeringの218シリーズ)を示します。PCBに半田付けされるこのヒートシンクは、サイズ、コスト、組立の容易さ、および熱的性能の間の、優れた妥協点です。
図4. D級アンプを高い周囲温度で動作させる場合、この写真のようなSMTヒートシンクが必要になる可能性がある。(写真提供:Wakefield Engineering)
熱の計算
D級アンプのダイ温度は、基本的な計算によって見積もることができます。次の条件で、この例の温度を計算します。
- TAM = +40°C
- POUT = 16W
- 効率(η) = 87%
- ΘJA = 21°C/W
最初に、D級アンプの電力損失を計算する必要があります。
この電力損失を使用して、ダイ温度TCを次のように計算します。
これらの数値から、このデバイスは妥当な性能で動作すると結論付けることができます。これらの計算は、システム内の周囲温度に対する現実的な推定に基づいて開始することが重要です。こうしたシステムで、実際の周囲温度が+25℃という贅沢な条件はまず考えられません。
負荷インピーダンス
D級アンプのMOSFET出力段のオン抵抗は、効率とピーク電流供給能力の両方に影響します。負荷に流れるピーク電流を小さくすると、MOSFETのI2R損失が低減し、効率が向上します。ピーク電流を小さく保つため、図5に示すように、D級アンプとその電源の電圧振幅の限度内で必要な出力電圧が得られるものの中で、最もインピーダンスの高いスピーカを選択してください。ここでは、D級アンプの出力電流供給能力を2A、電源電圧の範囲を5V~24Vと仮定します。負荷が4Ωの場合、電源電圧が8V以上のときにこの2Aという電流の上限を超え、それに対する最大連続値は8Wになります。もし8Wが許容できる出力レベルであるなら、12Ωのスピーカと15Vの電源電圧の使用を検討してください。その場合、ピーク電流は1.25Aに制限され、それに対する最大連続出力は9.4Wになります。さらに、12Ωの負荷は4Ωの負荷よりも10%~15%高い効率で動作するため、電力損失も小さくなります。実際の効率改善は、D級アンプによって異なります。ほとんどのスピーカは4Ωか8Ωですが、熱的により効率の高いソリューションを提供するその他のインピーダンスのものも入手可能です。
図5. 最適なインピーダンスと電源電圧の選択によって出力が最大化する。
もう1つの検討すべき点は、オーディオ周波数帯全体での負荷インピーダンスです。スピーカは、様々な共振点を持つ複雑な電気機械システムです。言い換えると、8Ωのスピーカが8Ωのインピーダンスを示すのは、通常はごく狭い周波数範囲だけです。図6に示すように、オーディオ帯域の大部分では、インピーダンスが仕様上の公称値よりも高くなります。このスピーカも、オーディオ帯域の大半にわたって、実際のインピーダンスが公称値の8Ωよりもはるかに高い値になっています。残念ながらこのインピーダンスは、通常はツイータとクロスオーバ回路の付加によって低下します。適切な電流および熱的能力を確保するため、システム全体のインピーダンスを考える必要があります。
図6. この8Ω、13cmワイドレンジスピーカのインピーダンスは、周波数によって大きく変化している。
結論
D級アンプはAB級アンプに比べて大きく改善された効率を提供します。この効率によってシステム設計における熱に関する考慮事項が減少しますが、完全になくなるわけではありません。しかし、正しい設計上の慣行を使用し、現実的な予想を設定するなら、D級アンプはオーディオシステムの設計を単純化してくれます。
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