RS-232トランシーバの進化

2010年11月22日
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要約

RS-232トランシーバは、20年以上もの間、RS-232の設計に必要不可欠なものでした。このアプリケーションノートでは、RS-232トランシーバの歴史を振り返ります。技術の進歩をたどり、さまざまなアプリケーションへの実用的な利点について説明します。多様なマキシムのデバイスは、業界トップのRS-232トランシーバの進化の例とされています。

はじめに

過去25年の間に、RS-232トランシーバは改良を重ね、RS-232の設計におけるトレンドの変化に対応してきました。RS-232トランシーバの革新としては、内蔵チャージポンプ、高ESD保護、AutoShutdown™、3.3V単一電源、高帯域幅、レベルトランスレータ、縮小パッケージなどがあります。これら多くの改良によって機能が向上し、RS-232インタフェースが簡略化され、部品点数が削減され、またスペースが節減されました。RS-232トランシーバの革新における先駆者の一員であるマキシム・インテグレーテッド・プロダクツは、幅広いアプリケーションに対応した付加価値機能とともに、158を超えるRS-232デバイスをお届けします。

このアプリケーションノートでは、RS-232トランシーバの主要な機能について見直します。年代順に見ると、RS-232トランシーバの進化は、シリアル通信に対する要望の変化も反映しています。

背景

EIA/TIA-232-E規格は、1962年に導入されて以来4回更新されてシリアル通信アプリケーションの進化するニーズに応えています。EIA/TIA-232-E規格の正式名称は、「シリアルバイナリデータ交換を用いたデータ端末機器(DTE)とデータ回線終端機器(CTE)の間のインタフェース」です。より簡単な定義では、ホストシステム(DTE)と周辺システム(CTE)間のシリアルデータ通信(図1)となります。

図1. DTE/DCEシステムの説明図。このアプリケーションは、MAX214トランシーバを使用しており、DTEとDCEの機能を備えた2台のPCを示しています。
図1. DTE/DCEシステムの説明図。このアプリケーションは、MAX214トランシーバを使用しており、DTEとDCEの機能を備えた2台のPCを示しています。

アプリケーションの歴史

歴史的にRS-232シリアル通信は、モデム、プリンタ、キーボード、ジョイスティック、マウスなどの周辺機器とコンピュータとをインタフェース接続するために使用されていました。これらのアプリケーションのほとんどは、現在、ユニバーサルシリアルバス(USB)などの他の通信プロトコルに変更されています。

今日、RS-232のシリアル通信は、GPS、POS、血糖値計、バーコードスキャナ、車載用テレマティクス、セットトップボックス、ゲームなどのアプリケーションや、低コストで低速(1Mbps以下)のシリアル通信を必要とするその他の多くのアプリケーションで使用されています。

RS-232 IC設計の進化

RS-232トランシーバの仕様は著しく進化しましたが、エンジニアは、今日のアプリケーションで、引き続きRS-232の従来プロトコルを使用することができます。RS-232の革新を図2に示し、以降で年代順に取り上げます。

図2. RS-232トランシーバの進化
図2. RS-232トランシーバの進化

チャージポンプの内蔵

RS-232のICは本来、RS-232トランスミッタの正と負の出力スイングに適した電圧を提供するため、2つの電源レイル(+15Vと-15V)を必要としていました(図3のチャネル1を参照)。単一電源しか利用することができないアプリケーションでは、外付けのチャージポンプを使用して、単一電源を2倍にして反転していました。1980年の後期に、マキシムは、チャージポンプをRS-232トランシーバに内蔵し、単一電源で動作する最初のRS-232 ICであるMAX232を開発しました。この初期世代のRS-232トランシーバは、電源電圧を2倍にして反転し、RS-232トランスミッタの回路に供給していました。

図3. RS-232の信号。チャネル1はトランスミッタのバス出力信号です。またチャネル2はレシーバのロジック出力です。
図3. RS-232の信号。チャネル1はトランスミッタのバス出力信号です。またチャネル2はレシーバのロジック出力です。

MAX3232のような後期世代の製品では、EIA-232レベルは、±5V (5kΩ)と定義されています。マキシムは、新しい低ドロップアウト出力段を用いて、安定化された±5.5V出力を供給可能な内部チャージポンプを備えたRS-232トランシーバを発表しました。この設計によって、トランスミッタ出力は、最小の消費電流でRS-232対応のレベルを維持することができます。

内蔵チャージポンプはどのように動作するのでしょうか。最初のチャージポンプは、電圧ダブラとして動作し、5Vの電源から+10Vの電圧を生成しますが、若干の損失が生じます。2番目のチャージポンプのコンバータは、インバータとして構成されており、+10Vから-10Vを生成しますが、この場合も、若干の損失を生じます。これらの±10Vの電源を使用して、RS-232トランスミッタに電力を供給します。

高ESD保護

すべてのRS-232デバイスは、すべてのピンに静電放電(ESD)保護を組み込んでおり、ハンドリングやアセンブリの間に発生するESD (通常±2kV)から保護します。ハンドヘルド機器やポータブル機器はRS-232のシリアル通信を採用しているため、これらのアプリケーションは、ヒューマンボディモデルに対して大きなESD保護を必要としていました(HBMの業界基準では、±2kV以上のESD保護が必要)。マキシムのESD保護付きRS-232トランシーバは、RS-232トランスミッタ出力とレシーバ入力のピン上で±15kVのHBM ESD保護を実現しています。MAX3238Eなどの一部のデバイスは、RS-232 BUSとCMOSのどちらのピンについても±15kVのESD保護を実現しています。

±15kVのESD保護付きRS-232デバイスは通常、標準のRS-232デバイスと同じピン配列と機能を備えているため、基板レイアウトや実装面積に変更を加えることなく、簡単にこれらの製品に置き換えることができます。たとえばMAX3232とMAX3232Eは、ピン配列、パッケージタイプ、および機能が同じです。

低電圧動作

歴史的に見て、RS-232準拠の製品は、少なくとも2つの電源電圧を必要としていました。1つは+5Vより大きく、もう1つは-5Vより小さい(-5Vよりさらにマイナスの)電圧です。これら2つの電源は、トランスミッタで必要な少なくとも±5Vの出力スイングを保証するために必要なものです。図4を参照してください。すでに±12Vの電源を搭載しているシステムは、この電源要件に対応可能です。ただし、今日設計されているシステムのほとんどは、±12V (またはその他の電圧)を利用することができません。このためマキシムは、単一電源でデュアル電圧に対応するため、電源コンバータを内蔵する多彩なトランシーバを設計しました。

図4. RS-232の出力スイングレベル
図4. RS-232の出力スイングレベル

以下の説明では、さまざまなデュアル電圧の要件に対する特殊な要望のいくつかを取り上げます。

3.0V~5.5V専用

5Vの単一電源が、最もよく知られたRS-232アプリケーションですが、ますます多くのアプリケーションで、3.3Vの単一電源で動作する製品が要求されています。3.3V電源での動作は、3.3V専用のシステムで重要ですが、RS-232製品を3Vロジックにインタフェース接続しなければならない環境においても重要です。5V専用製品に組み込まれた類似の技術を使用することによって、マキシムは、3.0V~5.5Vの単一電源で動作するトランシーバを設計しました。

5V単一電源のRS-232トランシーバのように、3.0V~5.5Vのデバイスは、2つのチャージポンプ電源を内蔵しています。これらのRS-232製品は特殊な製品となります。最小限必要な±5Vのスイングを満たすと同時に、±5.5Vという低いチャージポンプ電源で動作する低ドロップアウトトランスミッタであるからです。結果的にこれらの製品は3.0Vの単一電源で動作しつつ、RS-232の仕様に完全準拠しています。これらの製品は、3.0Vという低電源で動作しますが、5.5Vまでの高電源でも動作するように設計されています。したがって、3.3Vと5Vの両方の設計で同じ製品を使用することが可能です。図5は、3.0V~5.5V対応のRS-232デバイスであるMAX3232Eを示しています。

図5. MAX3232EのRS-232トランシーバは、3.3V~5Vの単一電源で動作するチャージポンプを内蔵しています。
図5. MAX3232EのRS-232トランシーバは、3.0V~5.5Vの単一電源で動作するチャージポンプを内蔵しています。

2.7V~3.6V専用

3.0V未満で動作するRS-232準拠の製品を作るには、チャージポンプダブラとインバータ以外に必要なものがあります。図6に示すMAX3212は、単一のインダクタを使用して、トランスミッタが必要とする±6.5Vを生成しています。このバックコンバータトポロジによって、製品は、2.7V~3.6Vの単一電源で動作します。

図6. MAX3212は、デバイスが2.7V~3.6Vの単一電源で動作するようにバックコンバータを内蔵しています。
図6. MAX3212は、デバイスが2.7V~3.6Vの単一電源で動作するようにバックコンバータを内蔵しています。

1.8V~4.25V

MAX3218 (図7を参照)は、電圧供給の問題に対してハイブリッド手法を用いています。この手法では、インダクタベースのソリューションを使用して+6.5Vの電圧を生成しています。次にチャージポンプのインバータを使用して、-6.5Vを生成しています。この手法によって、製品は1.8V~4.25Vの単一電源で動作します。この広い入力範囲のおかげで、MAX3218は、バッテリ駆動のシステムに特に有用です。

図7. MAX3218は、インダクタとチャージポンプインバータを使用しているため、1.8V~4.25Vの単一電源で動作可能です。
図7. MAX3218は、インダクタとチャージポンプインバータを使用しているため、1.8V~4.25Vの単一電源で動作可能です。

AutoShutdown

多くのRS-232デバイスは、ほんのわずかな時間しか使用されません。たとえば、血糖値計の中には、通常、RS-232のポートをまったく使用しないものもあります。RS-232のポートに何も接続されていないのであれば、RS-232製品を低電力モードにすることは理にかなっています。

AutoShutdownは、省電力機能です。この機能によって、RS-232デバイスは、インタフェースが使用状態にないことが検出されたときには必ず低電力シャットダウンモードに移行します。AutoShutdownは、プロセッサの関与を必要としないため、特に強力な機能となります。ソフトウエアに特別な対策を設けることなく電力を節約することができます。

AutoShutdownは、レシーバのRS-232側を監視します。別のRS-232デバイスと接続されている場合、レシーバには、-3Vを下回る、または+3Vを上回る有効なRS-232信号が現れます。ただし、何も接続されていない場合、レシーバは通常グランドになります。AutoShutdown機能が、すべてのレシーバが30µs以上の間、-0.3V~+0.3Vの電圧範囲にあることが検出した場合、有効なトランスミッタが接続されていないものと見なします。これによって、デバイスは自動的に低電力モードに移行します。図8および図10を参照してください。トランシーバは、レシーバ入力のいずれか1つでも+2.7Vを上回る、または-2.7Vを下回る場合、自動的に低電力モードから抜け出ます。図9および図10を参照してください。.

図8. すべてのレシーバの入力が、少なくとも30µSの間、±0.3Vの間にある場合、AutoShutdownに移行します。
図8. すべてのレシーバの入力が、少なくとも30µsの間、±0.3Vの間にある場合、AutoShutdownに移行します。

図9. レシーバ入力のいずれかが±2.7Vを超える場合、AutoShutdownから抜け出ます。
図9. レシーバ入力のいずれかが±2.7Vを超える場合、AutoShutdownから抜け出ます。

図10. AutoShutdownに移行および抜け出る場合のトリップレベル
図10. AutoShutdownに移行および抜け出る場合のトリップレベル.

低電力モードで、トランスミッタとトランスミッタが使用するチャージポンプコンバータはオフになります。ただし、レシーバそのものの動作にはほとんど電流を必要としないため、レシーバはオンのままとなります。全体的には、MAX3221の場合で、自己消費電流が標準で0.3mAから1µA (最大で1mAから10µA)に低減します。レシーバ上で有効なRS-232レベルが検出されてから、トランスミッタが完全にオンになるまでに約100µsを要するということに留意する必要があります。MAX3221およびMAX3243は、AutoShutdown機能を備えたRS-232デバイスの例です。

AutoShutdown Plus™

AutoShutdown機能と同様、AutoShutdown Plusは、RS-232デバイスが使用されていないときに必ずシャットダウンすることによって節電されるように設計されています。ただし、AutoShutdown Plusは、30秒間、信号に動きがないときに必ずシャットダウンします。この動作は、トランシーバがRS-232ポートに接続されているが、データを送信していないアプリケーションを対象にしたものです。

AutoShutdown Plusについては、留意すべき2つの興味深い点があります。

  1. レシーバとトランスミッタの両方の動作状態を監視します。
  2. ForceOnとForceOffの両方にInvalidラインを接続した場合、AutoShutdownのように動作させることも可能です。図11を参照してください。
図11. ForceOnとForceOffの入力をInvalid出力に接続することによって、AutoShutdown Plus製品は、AutoShutdown製品のように動作させることができます。
図11. ForceOnとForceOffの入力をInvalid出力に接続することによって、AutoShutdown Plus製品は、AutoShutdown製品のように動作させることができます。

MAX3224EおよびMAX3245Eは、AutoShutdown Plus機能を実装するRS-232デバイスの例です。

MegaBaud™

より低い放射妨害波で広範囲の帯域幅を必要とするアプリケーションでは、MegaBaud RS-232デバイスが理想的なソリューションです。MegaBaudは、1Mbps以上のRS-232ロジックレベル対応のデータレートを表すマキシムの用語です。ここでは「対応(compatible)」という用語を使用しており「準拠(compliant)」という用語は使用していません。これは、MegaBaud機能が実際にはRS-232のスルーレート制限の仕様に違反しているからです。

I一般的なRS-232アプリケーションでは、スルーレートが放射妨害波と反射を最小限に抑えるという利点がありますが、最大データレートは制限されます。スルーは、トランスミッタのスルーレートは30V/µs未満でなければならないということを規定する制限です。この制限は、RS-232を簡易な物理インタフェースにするために規定されたものです。この制限がなければ、放射妨害波や伝送ラインの影響などの問題に対してより慎重な注意を払う必要があります。このスルーレート制限によって物理インタフェースは簡単になるものの、一般的に使われる最大データレートは実質的に制限されます。

マキシムは、MegaBaud動作が可能で、かつRS-232の仕様を満たす(スルーレート制限は除く)製品を製造しています。物理インタフェースを簡単なままにするため、これらの製品は引き続きスルーレートが制限されますが、RS-232仕様で許容される制限値よりも大きくなります(たとえば、MAX3237Eの場合で150V/µs)。

このことはどのような意味を示すのでしょうか。MegaBaud製品は、厳密にはRS-232に準拠していません。MegaBaud対応の製品を通常のRS-232準拠のポートにプラグ接続した場合、20kbpsという低いデータレートであっても正しい動作は保証されません。ただし、実際には、低いデータレートであれば、正常に機能します。しかし、1Mbpsでの動作は別の話です。1Mbpsのデータレートを保証するには、ケーブルの両端にMegaBaud動作に対応する製品を装備しなくてはなりません。

一部のMegaBaud対応製品で利用可能な興味深い機能は、MBAUDという名前のピンです。このロジックピンによって、RS-232準拠の30V/µs未満のスルーレート、またはMegaBaud動作が可能なより高いスルーレートのいずれかで動作するように製品を設定します。通常のRS-232のポートに接続すると、製品は、真のRS-232準拠のモードで機能することができます。別のMegaBaud対応製品に接続すると、回路を切り替えることで、製品は1Mbps以上で送信することができます。

VLピン

現代の多くのアプリケーションでは、マイクロコントローラ(µC)は、トランシーバよりもはるかに低い電源で動作します。このため、通常、ロジックレベルのトランスレータを使用して、µCとRS-232トランシーバのロジック信号間をインタフェース接続します。MAX3386EのようにRS-232デバイスの中には、レベルトランスレータを内蔵しているものがあります。これは、レシーバ出力とトランスミッタ入力のロジックスレッショルドをプログラムするVLピンを実装しています。この柔軟性は、複数の電源電圧や複数のロジックレベルを備えたシステムで極めて有用です。たとえば、図12のMAX3386Eは、3.0V~5.5Vの単一電源で動作し、VLピンは、ロジックスレッショルドを0.8V~5Vの間に設定しています。

図12. MAX3386Eは、混合電圧システムの場合にロジックスレッショルドを設定することができるV<sub>L</sub>ピンを搭載しています。
図12. MAX3386Eは、混合電圧システムの場合にロジックスレッショルドを設定することができるVLピンを搭載しています。

小型パッケージ

現代の多くのアプリケーションは、小さな筺体に収まるように設計されるため、ICも非常に小さな基板面積に収まる必要があります。利用可能な最も小さなパッケージは、チップスケールパッケージ(CSP)です。ウェハレベルのチップスケールパッケージ(WLCSP)は、表を下にしてプリント基板に取り付けるICとして設計されました。つまり、チップのパッドは、個々のはんだボールを介してプリント基板のパッドに接続され、アンダーフィル材を必要としません(図13)。WLCSP技術は、ボンディングワイヤやインターポーザ接続がないため、他のボールグリッドアレイ、リード、およびラミネートベースのCSPとは異なります。WLCSPの第1の利点は、ICとPC基板間のインダクタンスが最小限に抑えられるということです。第2の利点は、パッケージサイズと製造のサイクルタイムの低減、および熱伝導特性の向上です。マキシムのWLCSPは、UCSP™として商標登録されています。

図13. 14ピンの標準WLCSPパッケージ
図13. 14ピンの標準WLCSPパッケージ

結論

RS-232の技術は、過去25年にわたってアプリケーションの要望に従って着実に進化してきました。マキシムのRS-232トランシーバの多くは、この業界で遂行された重要な進歩の証です。さらに、設計の向上は今後も継続されるものと想定されます。

今後も、RS-232のシリアル通信は、低コストで簡素な設計が重要となるアプリケーションで引き続き使用されることでしょう。将来のアプリケーションでは、さらなる低電源電圧と高データレートが、新しい設計のために検討されることになります。今後の集積化の対象として、ガルバニック絶縁や過電圧保護が考えられています。最後に、マキシムは、今後もこの革新における先駆者であり続けていきます。

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