圧電アクチュエータによる触覚フィードバックソリューション

2011年01月17日
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要約

触覚(ハプティック)フィードバックを民生用電子機器に構成することでユーザー体験を向上させることができます。触覚フィードバックはユーザーインタフェース設計に触覚をもたらす、スマートフォンやその他の民生用電子機器の最新の主要なインタフェースです。いくつかのハプティック技術が現在存在しており、それらには振動モータアクチュエーション、圧電アクチュエーション、およびエレクトロ・アクティブポリマ・アクチュエーションなどがあります。このアプリケーションノートでは圧電素子を使用するアクチュエーションと、これによってもたらされる高速な応答時間、薄さ、低消費電力について説明します。これらはすべてハンドヘルドアプリケーションでは重要な特長です。

このアプリケーションノートは、2部に分れて「Planet Analog」の2010年11月17日号(第1部)と2010年11月22日号(第2部)に掲載されました。

はじめに

ポータブルハンドヘルド民生機器の機械式ボタンをタッチスクリーンが置き換えるようになり、触覚によるフィードバックがなくなったことから、リアルタイムのフィードバックの必要性が生じました。ユーザーは、例えば問題なくエントリしたことを示す、キーパッドの機械式フィードバックの「押してオンにする」感覚に慣れています(図1)。最近、優れた触覚フィードバックがないことから、電気的な触覚フィードバックシステムを追加する需要が増えています。

図1. 押してオンにする、ソフトウェアで構成されるボタン

図1. 押してオンにする、ソフトウェアで構成されるボタン

リアルタイムの触覚フィードバックで期待の高い方法の1つに、数年前から少数の民生機器において使用されている、圧電アクチュエーションがあります。圧電ベースのハプティックには、高速な応答時間、薄さ、低い消費電力、使用可能な圧電特性や実装技術が多種類存在する点など、いくつかの利点があります。

圧電特性とその比較

圧電素子には様々な形状、大きさ、厚み、電圧範囲、力、および定格容量があります。特定のアプリケーションやパッケージの制限に合わせて形状のカスタム化が可能で、単層や積層構造で提供されます。複数の圧電素子を使用することによって強力なハプティック応答が提供され、ハプティックフィードバックをより局所化することができます。

共振周波数または共振周波数近くでの動作を実現する圧電アクチュエータアプリケーションには下記が含まれます。

  • 振動シミュレーションと相殺
  • マイクロポンプ
  • マイクロエングレーブシステム
  • 超音波掘削/溶接/ナイフ/メス/スケーラー

共振周波数を大きく下回るところで動作するアプリケーションには下記が含まれます。

  • 触覚フィードバック
  • 画像安定化
  • オートフォーカスシステム
  • 光ファイバ位置合わせ
  • 構造歪み
  • 磨耗補償

圧電動作の基本

共振周波数を大きく下まわるところでは、圧電素子は単純なコンデンサとしてモデル化することができます。圧電素子はその構成と物理的な形状に基づき、(DC)電圧が端子間に印加されると形状が変化します(図2)。

図2. 圧電素子の単純化モデル

図2. 圧電素子の単純化モデル

クーロンの法則では、Q = CVと定められています。しかし圧電素子では、印加された電圧によって電極の間隔が変化するためCは一定ではありません。

電圧が圧電素子に印加されると、電極間の距離が変化するため容量も変化します(図3)。圧電素子の変位は電界に比例し、電界は電極の電圧と電極間の距離の関数です。印加電圧は圧電アクチュエータによって生成された力とほぼ比例関係を保ちます(図3C)。

圧電容量への電荷は、圧電アクチュエータの可動域ほぼ全体にわたって、変位に対しきれいな比例関係を保ちます。電圧源から電極が切断された場合も、標準的なコンデンサで通常見られる小さなリーク電流を除き、変位は保たれます。

図3. 変位と力 vs 印加電圧

図3. 変位と力 vs 印加電圧

力は圧電素子に印加された電圧に比例します(図3)。(時間に対して)力は「優れた」ユーザー感覚を決定するため、触覚フィードバックの最も支配的な要素です。変位の向上は圧電素子の積層(スタック)を使用することによって達成できます。

圧電モデル

圧電素子の運動の電気機械システムは1次誘電体コンデンサCPと並列の直列LRCによってモデル化することができます(図4)。インピーダンスは共振周波数に達するまでは容量のように減少します。圧電素子は、共振周波数の大きく下で動作する場合は、単純なコンデンサCPとしてモデル化することができます。

図4. 圧電インピーダンス vs 周波数

図4. 圧電インピーダンス vs 周波数

圧電素子は、超音波振動子などの固定の自走周波数を使用するアプリケーションでは、共振周波数での使用が可能です。しかし、触覚フィードバックで使用される圧電アクチュエータは、通常、固有振動周波数の大きく下で使用されます。

触覚フィードバックでは中核となる問題は、通常はオーディオアプリケーションと関連付けられる概念、すなわち圧電素子の駆動効率ではなく、「感触」、すなわち人間が触った感覚です。数百ヘルツ以上の周波数は優れた触覚フィードバックをもたらさず、不必要に電力を消費します。数ミリ秒よりも短いスルー時間は、強力な触覚を実現しますが、望ましくない可聴クリックが生じます。

図5は優れた触覚の標準的な波形を示しています。この波形は、機械式ボタンの標準的な押下と解放の感覚を模倣しています。波形の立上りであるP0~P1は押下の触覚応答、波形の立下りであるP2~P3は解放の触覚応答を提供します。P1~P2の時間はユーザーが「機械式」ボタンを押下している時間で、この時間はユーザーによって決定されます。

図5. 「優れた」触覚フィードバック応答の波形例

図5. 「優れた」触覚フィードバック応答の波形例

圧電素子を使用した触覚フィードバックシステムを構成する場合に、初めに決定する事項の1つは単層または積層圧電アクチュエータのどちらを使用するかです(図6)。この2つの圧電素子タイプの比較のまとめは表1に示されています。

表1. 単層/積層圧電アクチュエータの利点の比較
  単層ディスク(SLD) 積層ストリップ(MLS)
コスト
容量性負荷
必要な駆動電圧
実装 制限あり
生産状況 生産中 サンプル提供中/低数量
入手性(サプライヤ)

図6. 左:100VP-P単層圧電ディスク(SLD) 右上:120VP-P 右下:30VP-P積層圧電ストリップ(MLS)

図6. 左:100VP-P単層圧電ディスク(SLD) 右上:120VP-P 右下:30VP-P積層圧電ストリップ(MLS)

設計時の決定事項

単層構成 vs 積層構成


表1の情報は単層圧電アクチュエータの使用を薦めています。単層圧電アクチュエータは入手がより容易で、既に量産されています。積層の圧電アクチュエータは量産されているものの単層圧電アクチュエータに比べて入手が困難です。また単層圧電アクチュエータはコストが大幅に低く、これは1つ以上の圧電素子を使用するソリューションではより重要となります。例えば、市場のいくつかのスマートフォンではディスプレイの裏に複数の単層圧電ディスクを実装しています。類似の積層圧電ソリューションはコストがはるかに高くなります。


ディスクリート部品 vs 1チップソリューション


圧電素子を用いたハプティックの欠点の1つは、従来、ソリューションの複雑さでした。標準的な圧電ベースのソリューションは完全な触覚フィードバックシステムの構成にディスクリート部品を使用してきました。追加となるディスクリート部品には、マイクロコントローラ、フライバックブーストまたはチャージポンプ集積回路、フライバックトランスまたはインダクタ、様々な抵抗、コンデンサ、ダイオード、トランジスタなどがあります。これを、外付け部品をほとんど、あるいは全く必要としないDCモーターを用いるハプティックと比較してみてください。

MAX11835のような1チップのモノリシックハプティックソリューションは、従来のディスクリート設計に比べて、より小型のプリント回路基板(PCB)の実装面積、低い消費電力、より低い部品(BOM)コスト、簡素なソフトウェア対応といった、いくつかの利点があります。MAX11835は、これらの利点を圧電素子によってもたらされる薄さと組み合わせることによって、ポータブルのハンドヘルド機器に魅力的なソリューションとなっています。

図7はモノリシックの高電圧ハプティック・アクチュエータ・コントローラのブロック図です。

図7. 圧電アクチュエータを使用した触覚フィードバックソリューションの回路図

図7. 圧電アクチュエータを使用した触覚フィードバックソリューションの回路図

モノリシックソリューションのMAX11835は下記を提供するために最適化されています。

  • 単層/積層圧電アクチュエータに対応
  • ユーザー定義可能、(シリアルインタフェースを介した)オンチップの波形保存
  • 波形生成器内蔵
  • DC-DC昇圧コントローラ内蔵
  • 標準的な携帯電話のバッテリ電圧に対応する電源電圧範囲
  • 小型形状でPCB実装面積を最小化
  • 低電力動作

パワーマネージメントの重要性

圧電アクチュエータは、それ自体、例えばDCモータアクチュエータと比較して低消費電力です。しかしながら、下記のような他の要素を考慮する必要があります。

  • 各ハプティックイベントにおいて主電源で消費される電力
  • 各ハプティックイベントの波形タイプ
  • 1秒当りのイベント数
  • 高電圧昇圧回路の消費電力

ハプティックアクチュエータコントローラのMAX11835を使用する様々な圧電アクチュエータおよび高耐圧コンデンサで消費電力の測定を実施しました。MAX11835はフィードバックループのソフトウェア制御、フライバックブーストコンバータを使用して、保存されている波形の再生をします。テスト波形には100Hzの正弦波と20Hzののこぎり波があります。

図8、9A、9Bは175V、100Hzの正弦波を駆動するMAX11835の出力を示しています。トランスの一次側電流も図に表されています。

図8. MAX11835の出力波形と昇圧電源電流の波形

図8. MAX11835の出力波形と昇圧電源電流の波形

図9A. 100Hzの連続正弦波の電力対負荷

図9A. 100Hzの連続正弦波の電力対負荷

図9B. ピーク時の昇圧電源の電流対負荷。テスト条件:周波数 = 100Hzの正弦波、昇圧電源電圧4.2V、昇圧電源ディカップリング = 10µF、6:1トランス

図9B. ピーク時の昇圧電源の電流対負荷。テスト条件:周波数 = 100Hzの正弦波、昇圧電源電圧4.2V、昇圧電源ディカップリング = 10µF、6:1トランス

押しボタンは一般的な機能です。図10の波形は40msの昇圧と10msの放電を使用しています。ゆっくりとした昇圧は触覚では感知することができず、急激な放電は機械式ボタンが押し下げられたような感覚となります。

図10. ボタン押下を模倣した波形

図10. ボタン押下を模倣した波形

図11. 電力対圧電電圧のグラフ。単層および積層ディスク圧電素子を使用したボタン押下の模倣。MAX11835の第1クランプが起動すると180V以上で電力の急速な増加が起こります。

図11. 電力対圧電電圧のグラフ。単層および積層ディスク圧電素子を使用したボタン押下の模倣。MAX11835の第1クランプが起動すると180V以上で電力の急速な増加が起こります。

図11は連続動作の波形です。デューティサイクルが減少すると電力は比例して線形に減少します。機械的に負荷が(ブロッキングフォースの半分で)加えられたアクチュエータと無負荷の圧電アクチュエータの間に圧電データの目立った差はありませんでした。

図12は、負荷に供給されるエネルギーと昇圧電源(VBST)から供給されるエネルギーとして測定される、MAX11835の昇圧過程の効率を示しています。

図12. エネルギー伝送効率:負荷に蓄積されたエネルギーとV<sub>BST</sub>におけるエネルギー消費。MAX11835の第1クランプが立ち上がると180V以上で高速な効率の上昇が起こります。

図12. エネルギー伝送効率:負荷に蓄積されたエネルギーとVBSTにおけるエネルギー消費。MAX11835の第1クランプが立ち上がると180V以上で高速な効率の上昇が起こります。

図12において、負荷容量が増加すると効率が上昇することに注目してください。これは昇圧回路の自己消費電力によるものです。

MAX11835の消費電力 vs モータアクチュエータの消費電力

MAX11835の消費電力は、偏心回転質量(ERM、eccentric rotating mass)、リニア振動アクチュエータ(LRA、linear resonant actuator)やボイスコイルなどのモータベースのアクチュエータよりも低い値です。

モータベースのアクチュエータは必要な電圧は通常低い(1.8V~3V)ですが、電流は比較的大きい値となります。また、特にERMタイプのモーターのターンオン/ターンオフ特性は、ボタンと触感を模倣するのに必要なくっきりとしたハプティック応答を実現するのに理想的とはいえません。

表2と図13に示されるアクチュエータの比較測定を行いました。連続動作とパルス動作の2種類の測定値が収集されました。多くのハプティック応答は、表面の質感の模倣においてでさえも短時間しか有効でないため、連続動作は一般的に現実的ではありません。

表2. モータベースのアクチュエータの消費電力
アクチュエータ ERM (コイン型) ERM (棒型) LRA ボイスコイル 圧電素子(SLD)
サイズ(mm x mm) 12 x 2.85 15.5 x 4.7 10 x 3.9 12 x 47 44 (D) x 0.23 (T)
ターンオン時間(ms) ~85† ~45† ~12* ~10*
電流 60mA 54mA 56mARMS 67mARMS
電力(連続、mW) 180 162 113 133
RDC (Ω) 25.3 39.6 35.4 30.1 > 10M
重さ(g) 1.4 1.4 0.9 15 0.4
†モーター内で3V以下の場合に最大RPMの50%に達するまでにかかる時間。
*2VRMSで共振周波数の約半分。

図13. 表2で比較およびデータ収集に使用されたアクチュエータ

図13. 表2で比較およびデータ収集に使用されたアクチュエータ

図14は連続動作における消費電力を示しています。このグラフでは、圧電素子は180Vの振幅で連続の100Hzの正弦波で駆動されています。ほかのアクチュエータは3VDCまたは2VRMS (LRAおよびボイスコイル)で駆動されています。

図14. 数種類のアクチュエータの連続動作

図14. 数種類のアクチュエータの連続動作

図15はパルス動作の消費電力を示しています。このグラフではアクチュエータはボタンの押下を模倣する50msのパルスで駆動されています。圧電アクチュエータは180Vの振幅で駆動され、他のアクチュエータは3VDCまたは2VRMS (LNAおよびボイスコイル)で駆動されています。

図15. 数種類のアクチュエータのパルス動作

図15. 数種類のアクチュエータのパルス動作

結論

以上の議論からいくつかの結論が導き出すことができます。下記に挙げるいくつかの理由から、積層ではなく単層圧電アクチュエータのほうが、現在のところ明らかに魅力的な設計ソリューションです。

  • 低コスト
  • 多くのサプライヤが存在
  • 量産中
  • カスタム設計が可能
  • LCDの裏または隣に実装可能

データは電源からのハプティックフィードバック回路の電力を算出するべきであることを示しています。波形の振幅、種類や時間が、それらの結果としての消費電力とハプティック応答に影響を与えます。

1秒当りのイベント数が消費電力に影響します。スクロール/触感イベントとタップまたはゆっくりとしたタイピングと比較検討してください。最後に、1秒当り1イベントに正規化することによって比較が簡単になります。

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