要約
6系統の電圧シーケンサ/モニタであるMAX6870は、複雑な設計を簡素化する全機能内蔵ソリューションです。このEEPROMで構成可能なデバイスを使用することによって、スレッショルド、出力構造、およびタイミング遅延を極めて柔軟に設定することができるようになります。
大部分の電子システムでは、システム電圧を監視(モニタリング)することが重要になっています。これはプロセッサをはじめとするICがパワーアップ時にリセット状態を保ち、またブラウンアウト状態の発生を検出することができるようにするためです。このモニタリングによって、メモリの破損やシステムの不正実行を引き起こすコード実行の問題を最小限に抑えます。ハイエンドシステムでは、システム内の多くの電源が適切にシーケンシングされることも非常に重要になります。シーケンシングが適切であれば、システム問題を引き起こしたり、マイクロコントローラ(µC)、DSP、ASIC、またはマイクロプロセッサ(µP)などの重要な部品を破損したりする可能性のあるラッチアップ状態を防止することができます。このように適切なシーケンシングとモニタリングの機能を実現するためには通常、1つまたは複数の監視用製品が必要となります。
従来、これらの機能の多くは、パワーオンリセットなどのµP監視回路によって実現されてきました。最近、電源電圧の数が増えるにつれて、この機能を実行するのに必要なデバイスの数も増え、結果として、複雑さが増してコストが上昇し、ますます多くの基板スペースが消費されるようになっています。
複雑なシステムのモニタリングとシーケンシング
電源電圧を監視する最も簡単な方法として、パワーオンリセット(POR)または電圧検出回路を使用する方法があります。これらのデバイスは、1つまたは複数の電圧を監視することができます。監視対象の電源電圧に電力が供給されて、PORの電圧スレッショルドを超えると、特定の期間が経過するまで、PORの出力はデアサートされません。これによって、システムクロックが安定し、µCの動作を許可する前にシステムのブートルーチンが初期化されます。これらのPORや電圧検出器は、電源のシーケンシングにも使用可能です。あるレギュレータを監視しているPORの出力を次のレギュレータのシャットダウン端子に接続すると(いわゆるデイジーチェーン方式)、PORの時間遅延が経過した後に、次のレギュレータが立ち上がるようになります。
システムの電源電圧の数が増えると、複数の電圧を監視する電圧モニタと監視回路が必要となります。ただし、複雑なシステムに電源を供給するには10~15種類の電圧が一般的に必要であるため、このようなデバイスがいくつも必要となることがよくあります。
複数の監視回路を使用するときの課題
この複数の監視回路を使用するという方法には、固有の問題点がいくつかあります。1つは、適切なスレッショルドを持つデバイスを見つけるという問題です。3.3V、2.5V、1.8V、1.5V、および1.2Vなど、いくつか標準的な電圧がありますが、標準以外の電圧も多数、監視する必要があります。このような場合、適切なスレッショルドを設定するために外付けの抵抗分圧器が必要です。システムの電源電圧が変わるとき(ASICのコア電圧を下げて消費電力を抑えたり、コア電圧を上げてASICの性能を向上したりするとき)、これらの新しい電圧に対応するよう、抵抗の値を変更する必要が生じます。このような柔軟性を実現するには、外付けの抵抗を追加する必要があり、必要な基板スペースとコストも増大します。適正なリセットのタイムアウト時間を選択するときにも、同じ問題が生じます。
システムが特定のパワーアップシーケンスを提供する必要があるとき、複数の監視回路の使用によって、もう1つの問題が生じます。多数の電源電圧がシステムに電力を供給する場合、上述のデイジーチェーン方式では、さまざまな電源が起動するタイミングを処理することができない可能性があります。また、シーケンシング要件が開発中に変更されると、その変更に対応できるような回路変更は後になるほどより難しくなります。
これらの大規模なシステムが「シルバーボックス」や「ブリック」と呼ばれる電源を使用するときには、また別のシーケンシング問題が発生する可能性があります。これらの電源は、電源の設計を簡素化するものですが、特定のパワーアップシーケンスを必要とするときには、問題を引き起こすことになります。たとえば、マルチ出力のブリック電源は、イネーブル端子が1つしかない場合があります。このため、電源電圧はすべて、その1つの端子の制御によって、同時にオン/オフされることになります。この問題は、複数のイネーブル(またはシャットダウン)入力を備えたブリック電源によって解決することができます。ただし、複数のICが同じ電源(たとえば、3.3VのI/Oロジック電源や1.8Vのコア電源)を共有する場合、2つのICの要件が矛盾する場合があります。一方のデバイスは、「コア電源の後にI/O電源」のシーケンスを必要とし、他方のデバイスはその反対のシーケンスで電源が動作することを必要とする可能性があります。
この問題は、MOSFETなどの外付けのスイッチを用いて解決することができます。低電力アプリケーション向けには、pチャネルMOSFETを使用することが可能で、これは、一般的にnチャネルMOSFETよりも高価ですが、使用は簡単です。nチャネルMOSFETは、大電流アプリケーションに最適ですが、それは、低いオン抵抗が、スイッチ両端の電圧降下を低減するためです。nチャネルは、超低電圧コアにも使用可能です。ただし、nチャネルMOSFETの価値を完全に高めるには、適切なゲート-ソース間電圧が得られるだけの十分に大きな電源電圧が利用可能でなければなりません。高電圧を持たないシステムでは、MAX6819/MAX6820電源シーケンサなどのICを使用して、シーケンシングプロセスを制御することができます。これらのデバイスに内蔵されるチャージポンプは、5Vのゲート-ソース間電圧を保証しています。この電圧降下は、一部のシステムには極めて大きな値です。結果として、基板設計者は、レギュレータの数を2倍にして、このシーケンシング問題を回避することが必要となる場合があります。
電源電圧の数が増えると、複数のMAX6819/MAX6820回路の使用が有効になります。複数のPORを使用する場合と同様に、これらのパワーシーケンシングICを構成することによって、デイジーチェーン方式で電源を接続することができます。ただし、電圧の数が多い場合、このソリューションには多くのディスクリートICが必要で、全体的なシステムコストが増大し、大きな基板スペースが必要となります。
マージニング機能
より高度な信頼性を実現するためには、電源電圧の監視機能とシーケンシング機能が非常に重要になります。テレコム、ネットワーキング、サーバ、およびストレージ機器で見られる大規模で複雑なシステムの多くは、主要部品の追加テストが必要です。一例としてマージンテストがあり、これは、電圧を一時的に上下に変動させたときのシステムの性能をチェックするというものです。マージニングは、しばしば、システムの開発中に行われますが、製造工程中でもよく実施されます。マージニングプロセスは、システムの長期的な信頼性を向上するために使用されます。
電源電圧の調整は、レギュレータのリファレンス入力(電圧レギュレータモジュール用)のトリミング、電圧レギュレータのフィードバックループの変更、「ブリック」電源のトリム入力の調整、あるいはインタフェースを通じたレギュレータのプログラミングによって行うことができます。さまざまな制御レベルのマージニングがあります。1つの方法は、「オールオアナッシング」式で、電源を一定量(たとえば±5%や±10%)だけ増減する方法です。また別の、さらに厳格な方法では、より小さなステップ(10mVや100mVなど)で電源電圧を増減し、システムの性能を詳細に評価することができるようにします。通常動作中およびマージニングプロセス中のシステム電圧についての詳細な情報を得るには、アナログ-ディジタルコンバータ(ADC)を使用することで、これらの値を正確に測定することができます。µCを制御するPORは、システムがリセットされないよう、マージニングプロセス中はディセーブルにする必要があることに留意してください。
大規模なシステムを扱う場合にこれらのマージニング機能を実施することは、非常に長たらしくて退屈な作業となる可能性があります。複数の監視回路デバイスを使用すれば、モニタリングとシーケンシングの処理とともに、マージニングプロセスを管理することができます。ただし、この手法には問題点があります。ICのコストと余分な基板スペースを必要とすることに加えて、電源電圧レベルの変更やこれら電源のシーケンシング順序の変更に対応することが難しくなるという点です。これは、必要となる設計変更が単純なものではなくなっているからです。
内蔵システム管理デバイス
これらのモニタリングとシーケンシングの問題を最小限に抑える方法の1つは、MAX6870などの、EEPROMで構成可能な全機能内蔵のシステム管理デバイスを使用することです。この種のICは、システム電源のモニタリングとシーケンシングを実施したり、マージニングプロセスを簡素化したりするのに必要な機能を内蔵したものです。MAX6870は、複数の入力にて電圧スレッショルドを簡単に変更することができるという柔軟性を備えています。つまり、任意の順序で出力をシーケンシングすることが可能で、また出力構造をプッシュ/プル、オープンドレイン、または強化チャージポンプに構成することができます。さらに、ディジタル入出力を、アクティブハイまたはアクティブローのロジック用に設定することができます。また、マージニングプロセス中に出力をディセーブルにすることもできれば、所定の状態に設定しておくこともできます。
図1は、MAX6870の機能を説明するブロック図です。このデバイスの6つの入力によって、いろいろなタスクが可能ですが、特にシステムのさまざまな電源電圧を監視することができます。各入力にプログラミングした2つのスレッショルドレベルによって、2つの不足電圧状態あるいは不足電圧と過電圧状態を検出するように設定することができます(ウィンドウディテクタ)。これらのスレッショルドレベルは、I²C*インタフェース経由でプログラミングされ、設定EEPROM内に格納されます。選択したスレッショルド電圧範囲に応じて、10mVと20mVの間隔で、0.5~5.5Vの範囲のスレッショルドを指定することができます。ある入力IN1は、13.2Vもの電圧を監視することができるので、12V (またはこれ以下)のシステムバスの電圧を直接監視することが可能となります。2つ目の入力IN2は、2番目に高い電圧か負電圧のいずれかを監視することができます。残りの入力、IN3~IN6は、0.5~5.5Vのレベルで電源電圧を監視します。
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図1. このICは、ADCの読み取り機能を提供しながら、複数の電源のモニタリングとシーケンシングが可能です。内部EEPROMによって、スレッショルド、タイミング、ロジック依存性、および出力構造などの主要パラメータを簡単に調整することができます。
内部マルチプレクサは、6つの検出器入力を、2つの補助入力とともに10ビットで精度1%のADCに転送します。ADCは、これら8つの入力の各電圧をディジタル化し、内部レジスタに書き込みます。これらの格納された値は、I²Cインタフェース経由で利用することが可能で、一般的に、電源出力をトリミングするとき、あるいは長期にわたるシステム電圧の安定性をチェックするとき、マージニングプロセス中に使用されます。2つの補助入力を使用することによって、電流検出アンプや温度センサからのアナログ出力など、2つの追加電圧を読み取ることもできます。
このデバイスは、IN3~IN6上のいずれかの電圧が2.7Vの最小動作電圧を超えるか、IN1が4Vを超えたときに動作します。これらの入力のいずれかによって、図1に示したダイオードを通じてデバイスに電源が供給されます。
6つの検出器入力および4つの汎用入力(GPI)は、プログラマブルアレイロジック内に設定された接続に応じて、8つの出力のいずれかをアサートすることができます。また、出力は、デバイスのその他の出力によって、あるいは、入力と出力の信号の組み合わせによって制御することが可能です。各出力のタイミング遅延は、個別にプログラムが可能で、ICのEEPROMに格納することができます。
出力を設定することも可能です。内部または外部プルアップを備えたオープンドレイン出力として、あるいは、監視する電源電圧のいずれかにIC内部で接続可能なプッシュ/プル出力として、出力を設定することができます。出力はすべて、アクティブローにすることもアクティブハイにすることもできます。また、上述のとおり、入力と出力を自由に組み合わせて、特定の出力を駆動することができます。つまり、MAX6870のプログラマブルアレイロジックによって、さまざまな接続が可能となります。たとえば、OUT2は、IN2によって制御することが可能で、さらにOUT1によっても制御することができます。この種の接続は、OUT1信号によって投入される電源が、OUT2信号によって投入される電源よりも先に起動されなければならないときに有効となります。
MAX6870は、チャージポンプも内蔵しているので、OUT1~OUT4によって、追加の電源電圧を必要とせずに、外部のnチャネルのパスエレメントを完全に高めることができます。このデバイス内の別の機能として、設定可能なウォッチドッグのタイムアウトと起動遅延を備えた2つのウォッチドッグタイマがあります。ウォッチドッグタイマの起動遅延機能は、リセット状態の後に長時間の遅延を提供します。この遅延によって、システムの初期化プロセスのための特別な時間が確保され、メモリをアップロードしたり、ソフトウェアのルーチンを完全にロードしたりすることができます。
手動リセット入力によって、テスト技術者は、すべてのIC出力を手動でアサートできるようになります。デバイスのマージン入力を使用して、現状の出力をラッチすることで、マージンプロセス中にシステムがリセットされるのを防止することができます。また、マージン入力を使用すれば、関連するEEPROMレジスタをプログラミングすることによって、所定の状態に出力を設定することもできます。MAX6870には、4kbのユーザEEPROMも用意されており、シリアルボードの識別、ボードレビジョンの履歴、およびその他のプログラミング情報などの項目を格納することができます。
さらに、MAX6870は、設定レジスタと設定EEPROMを内蔵しています。プロジェクトの試作作業の段階では、更新内容を設定レジスタに書き込むことによって、即座に変更を反映することができます。これらの変更が受け入れ可能であれば、変更内容を設定EEPROMに書き込むことができます。保存されたEEPROM設定をリロードするには、システムを再起動します。ソフトウェアを再起動またはハードウェア全体を再起動することによってシステムを再起動することができます。設定EEPROMは、再起動中に、そのデータを設定レジスタにダウンロードします。
MAX6870のEVキット
MAX6870の設定プロセスを簡素化するには、EVキットが利用可能です。EVキットは、コンピュータ画面上でポイント&クリックすることで、正しい設定情報をロードすることができます。各画面で、レジスタテーブルを参照することなく、デバイスを部分的に設定することができます。この画面では、スレッショルドレベル、タイミング遅延、ロジック動作状態(アクティブロー/アクティブハイ)、ロジック入力設定構成を設定して、出力を構成することが可能です。
図2は、MAX6870評価ソフトウェアの主要な設定画面を示しています。ブロック図の中のブロックをクリックすることもできれば、タブをクリックすることもできます。ブロックの1つをクリックすると、その特定のブロックを設定することができるようになります。タブをクリックすると、特定の機能に関する画面を表示することができます。たとえば、[Voltage Monitor]タブ(図3)を選択すると表示される画面では、スレッショルドの選択や入力の設定が簡単に行えるようになります。また、[Output]タブ(図4)をクリックすると、オープンドレイン、プッシュ/プル、またはチャージポンプ増強として出力を設定したり、出力の状態を決定するロジック条件を設定したりすることができます。
図2. 適切なボックスまたはタブをクリックして、スレッショルド、遅延、出力設定、およびロジックを設定します。
図3. [Voltage Monitor]タブをクリックすることによって、入力ごとに、2つの低電圧レベルを監視するのか、あるいは低電圧と過電圧レベルを監視するのかを決定することができます。さらに、スレッショルドを設定したり、どのディジタル化入力を表示可能にするのかを選択したりすることもできます。
図4. [Outputs]タブをクリックすることによって、各出力を、オープンドレイン、プッシュ/プル、またはチャージポンプ増強に設定することができます。各入力は、ICのプログラマブルロジックアレイに接続され、他の出力を制御するために使用することができます。
デバイスの設定が完了すると、設定データをEEPROMに保存することができます。さらに、このデータをファイルに保存することによって、他のデバイスにロードすることができます。当然、I²Cインタフェースを通じて、すべての設定レジスタと設定EEPROMに直接書き込むこともできます。MAX6870用のデータシートには、これを行うために必要な値が記載されています。ただし、この手法を採用すると、より多くの時間がかかり、誤差の可能性が増えます。
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