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要約
このアプリケーションノートでは、高電圧高輝度LEDドライバMAX16833の設計プロセスをステップバイステップで詳しく説明します。このプロセスによって試作設計を迅速化し、初回で成功する確率を高めることができます。標準的な設計シナリオを設計上の制約事項に基づいた計算例とともに示しています。部品を選択する際のトレードオフについても説明します。外付け部品の値の計算に役立つ表計算(XLS)も紹介しています。このアプリケーションノートは、バックブーストコンバータのトポロジに焦点を合わせています。しかし、基礎となる計算式を理解していれば、他のトポロジにも同じプロセスを適用することが可能です。ブーストコンバータの設計例については、アプリケーションノート5571 「高電圧高輝度LEDドライバMAX16833のステップバイステップの設計プロセス、パート1」をご覧ください。
はじめに
このアプリケーションノートは、試作設計を迅速化し、初回で成功する確率を高めるために、高電圧高輝度LEDドライバMAX16833の設計プロセスをステップバイステップで詳しく説明するシリーズのパート2です。MAX16833はピーク電流モード制御LEDドライバであり、LEDストリングをいくつかの異なるアーキテクチャ(ブースト、バックブースト、SEPIC、フライバック、ハイサイドバックのトポロジ)で駆動することができます。このシリーズのパート1であるアプリケーションノート5571 「高電圧高輝度LEDドライバMAX16833のステップバイステップの設計プロセス、パート1」は、ブーストコンバータのトポロジに注目しています。このパート2のアプリケーションノートはバックブーストのトポロジに焦点を当てています。
MAX16833は、外付けpチャネルMOSFETを駆動するための調光ドライバ、過渡的な過電圧や低電圧を伴わないLEDへの超高速PWM電流スイッチング、アナログ調光、100kHz~1MHzの範囲でプログラム可能なスイッチング周波数のほか、ランプ出力による周波数ディザリングか、またはいくつかの外付け部品での電圧リファレンスによる高精度なLED電流設定の、どちらかのオプションなど、いくつかの特長を備えています。
このパート2の設計例では、4個のLEDで構成したLEDストリングを1Aの定電流で駆動します。各LEDが3V (typ)の順電圧降下と0.2Ωのダイナミック抵抗を持つと仮定します。また、LEDドライバ回路は6V~16Vの範囲で変動する12V (typ)の車載バッテリから直接受電して動作するものとします。LEDストリングの電圧が入力電圧の範囲内のため、バックブースト構成を選択しています。
図1. 標準動作回路
インダクタの選択(バックブースト)
適正なインダクタ値を選択するため、最初に次の式で最大デューティサイクルを計算する必要があります。
ここで、VLEDはLEDストリングの順電圧(V)、VDは整流ダイオードの順電圧降下(約0.6V)、VINMINは最小入力電源電圧(V)、VFETはスイッチングMOSFETがオンのときの平均ドレイン-ソース間電圧(V、当初は0.2Vと仮定)です。
最大デューティサイクルとLED電流によって、平均インダクタ電流が決まります。
ピークインダクタ電流は次のように定義されます。
ここで、ΔILはピーク間インダクタ電流リップル(A)です。
最後に、次の式で最小インダクタ値を計算することができます。
以下では、「はじめに」で概説した設計問題に基づく計算例を取り上げます。50%のインダクタ電流リップルを選択します。リップル電流を小さくするには、それだけ大きな(そして通常、高価な)インダクタが必要です。リップル電流が大きい場合は、スロープ補償と入力静電容量を増やす必要があります。
最小インダクタ値が決まったら、できる限りLMINに近く、かつLMINを下回らない実インダクタ値を選択する必要があります。選択したインダクタ値を使用して、ピークインダクタ電流とリップルを再度計算します。これらの数値は、さらに計算を進めるために必要です。
LACTUAL = 8.2µH
選択したインダクタの定格電流がILPを上回ることを確認します。通常、ピークインダクタ電流に対して20%の余裕を見込んでおきます。
スイッチングMOSFETの選択
最大出力電圧に耐えることができる定格のスイッチングMOSFETを選択します。
VDS = (VLED + VINMAX + VD) × 1.2
余裕を見込むために係数1.2を掛けています。
また、スイッチングMOSFETの定格は最大RMS電流も処理できる必要があります。
ここで、IDRMSはスイッチングMOSFETのドレインRMS電流(A)です。
整流ダイオードの選択
整流ダイオードは、全体的な電力損失に大きく寄与する可能性があります。平均LED電流を処理できる定格を備えた、順方向電圧降下の小さいショットキーダイオードを選択します。
ID = ILAVG × (1 - DMAX) × 1.2
余裕を見込むために係数1.2を掛けています。
また、ショットキーダイオードはダイオードにかかることが予想される最大逆電圧(VLED + VINMAX)より20%高い逆電圧定格を備えていることを確認してください。
調光MOSFETの選択
動作温度での連続電流定格がLED電流より30%高い調光MOSFETを選択します。調光MOSFETのドレイン-ソース間電圧定格はVLEDより20%高い必要があります。
入力コンデンサの選択
バックブーストコンバータでは入力電流が連続的であるため(出力コンデンサがグランドに接続されていると仮定、「出力コンデンサの接続」の項を参照)、RMSリップル電流は小さくなります。バルク容量とESRの両方が入力リップルに寄与します。アルミニウム電解コンデンサとセラミックコンデンサの両方を並列に使用する場合は、リップルに対するバルク容量とESRの寄与が同等であると仮定します。セラミックコンデンサのみを使用する場合は、入力リップルの大部分がバルク容量から生じます(セラミックコンデンサのESRが極めて小さいため)。最小入力バルク容量と最大ESRを計算するには、式15および16を使用します。
ここで、ΔVQ_INは入力リップルのうちコンデンサの放電による部分です。
ここで、ΔVESR_INはESRによる入力リップルです。
L最大120mVの入力リップルが許容可能であると仮定します(VINMINの2%)。また、この入力リップルの95%がバルク容量から生じるものとします。実際の部品で計算値が容易に得られない場合は、この仮定を再検討する必要があるかもしれません。規定した設計仕様に基づいて、入力コンデンサは次のように計算されます。
2つの4.7µFのコンデンサを並列に使用して、7.5µFの最小バルク容量を達成します。選択したコンデンサが動作電圧で最小バルク容量の要件を満たすことを確認します(セラミックコンデンサでは、電圧の変化とともに静電容量が大幅に減少することがあります)。
出力コンデンサの選択
出力コンデンサの目的は、出力リップルを低減することとスイッチングMOSFETがオンしたときにLEDへの電流をソースすることです。バルク容量とESRの両方が総出力電圧リップルに寄与します。セラミックコンデンサを使用する場合は、リップルの大部分がバルク容量から生じます。必要なバルク容量を計算するには、式19を使用します。
ここで、ΔVQ_OUTは出力リップルのうちコンデンサの放電による部分です。
残りのリップル、ΔVESR_OUTは、出力コンデンサのESRから生じます。このESRは次の式で計算することができます。
許容される総出力リップルを算定するには、許容されるLED電流リップルにLEDストリングのダイナミックインピーダンスを掛けます。LEDのダイナミックインピーダンスは、動作LED電流におけるΔV/ΔIと定義され、LEDのデータシートにあるI-V曲線から求めることができます。LEDのデータシートにI-V曲線が掲載されていない場合は、自分で測定する必要があります。
バルク出力容量の実効ESRとESLを引き下げるには、複数のセラミックコンデンサを並列に使用します。
PWM調光中に、セラミック出力コンデンサがいくらか可聴ノイズを生じることがあります。このノイズを低減するには、電解またはタンタルコンデンサをセラミックコンデンサとともに使用して必要なバルク容量の大部分を実現します。音響ノイズが小さいセラミックコンデンサを使用することもできます1。
0.1 × ILEDの最大LED電流リップルを仮定します。また、選択したLEDのダイナミックインピーダンスが0.2Ωであるものとします(4個のLEDで構成したLEDストリングでは、合計0.8Ω)。その場合、総出力電圧リップルは次のように計算されます。
VOUTRIPPLE = 0.1A × 0.8Ω = 80mV
リップルの95%がバルク容量から生じるとすれば、出力コンデンサは次のように計算されます。
3つの10µFのコンデンサと1つの4.7µFのコンデンサを並列に使用して、30µFの最小出力容量を達成します。選択したコンデンサが動作電圧で最小バルク容量の要件を満たすことを確認します(セラミックコンデンサでは、電圧の変化とともに静電容量が大幅に減少することがあります)。
過電圧保護
LEDがオープンの場合、コンバータは出力電圧を引き上げて目的のLED電流を達成しようとします。これは、出力電圧が危険なレベルに近付く可能性があるということです。過電圧状態を検出して出力電圧を制限するために、OVP入力が用意されています。VOVPが1.23Vを超えた場合は、放電して1.16VになるまでNDRVが強制的にローに設定されます。
バックブースト構成の場合、出力電圧は入力電圧とLED電圧を足したものに等しくなります。通常動作時に予想される最大出力電圧より高いVOVのトリップポイントを選択します。
VOV > VINMAX + VLEDMAX
この設計例では、42VのVOVが目的であると仮定します。ROVP2に10kΩを選択します。その場合、次のようになります。
電流検出
MAX16833は電流モード制御LEDドライバです。つまり、インダクタ電流とLED電流に関する情報がループにフィードバックされます。
LED電流検出
LED電流は、直列のハイサイド電流検出抵抗か、またはICTRL入力に印加された電圧のどちらかによってプログラムされます。
VICTRL > 1.23Vの場合は、内部リファレンスによってRCS_LED (VISENSE+ - VISENSE-)両端の電圧が200mVに調整されます。したがって、電流検出抵抗RCS_LEDによってLED電流が設定されます。
VICTRL < 1.23Vの場合は、LED電流はRCS_LEDとVICTRLによって決定されます。そのため、アナログ電圧でLEDを調光することが可能です。
VICTRL = 1.23Vのときは、両方の式が同じであることに注意してください。
スイッチングFET電流検出とスロープ補償
デューティサイクルが50%を超える場合、スロープ補償なしでは、負荷過渡事象によってサブハーモニック発振が生じてループが不安定になることがあります。ループの安定性を保つには、抵抗を追加します(CSとスイッチングMOSFETのソース間のRSC)。MAX16833の内部には、RSC経由で電流を供給して電圧VSCを生み出す電流ソースがあります。この電圧がRCS_FET両端の電圧に追加され、結果がリファレンスと比較されます。
VCS = VSC + VCS_FET
安定性を保つために必要なスロープ補償電圧の最低値は、次のとおりです。
VSCMIN = 0.5 × (inductor current downslope - inductor current upslope) × RCS_FET
FET電流検出抵抗のRCS_FETには、スイッチングMOSFETの電流とスロープ補償電流の両方が流れます。
図2. スロープ補償
スロープ補償電圧は次のように定義されます。
必要な最低スロープ補償電圧を計算するため、最低電源電圧と最小インダクタ値を仮定します。
したがって、
十分な余裕を見込むために係数1.5を掛けています。
RCS_FETが決まったら、RSCを次のように計算することができます。
規定した設計仕様に基づいて、スロープ補償抵抗と電流検出抵抗は次のように計算されます。
この値を上回らない、最も近い標準抵抗値は75mΩです。
エラーアンプの補償
バックブースト構成では、スイッチングコンバータで右半平面(RHP)ゼロが生じてループが不安定になります。ループ補償の目標は、0dBを超えるループ利得に180°未満の位相シフト(と十分な位相マージン)を保証することです。左半平面(LHP)の極を追加することによって、ループ利得を約1/5 fZRHPで0dBにロールオフすることが可能で、RHPゼロによる不安定化を回避することができます。エラーアンプを補償して、予期されるいかなる動作条件の変動に対してもループの安定性を確保する必要があります。ワーストケースのRHPゼロ周波数は、次の式で計算されます。
スイッチングコンバータの出力にも極があります。出力極fP2は次の式で計算することができます。
ここで、COUTは上で計算したバルク出力容量で、ROUTは実効出力インピーダンスです。
ここで、RLEDは、動作電流におけるLEDストリングのダイナミックインピーダンス(Ω)です。
ループは、直列抵抗とコンデンサ(RCOMPとCCOMP)をCOMPとSGND間に追加することによって補償されます。RCOMPはクロスオーバー周波数を設定し、CCOMPは積分器のゼロ周波数を設定します。最大限の性能を引き出すには、次の式を使用します。
CCOMPとエラーアンプの出力インピーダンスは次の式に従って主極周波数を設定します。
ROUTEAはRCOMPより大幅に高いと仮定しています。ROUTEAはMAX16833のデータシートには記載されていませんが、エラーアンプのトランスコンダクタンスとオープンループ利得から計算することができます。最初に、75dBのオープンループ利得をdBからV/Vに変換します。
すると、ROUTEAを次のように計算することができます。
設計例に従うと、次のようになります。
この値を下回らない、最も近い標準抵抗値は82Ωです。
この値を下回らない、最も近い標準コンデンサ値は0.47µFです。
ループ応答と位相マージン
位相マージン(ΦM)は次のように近似値を求めることができます。
クロスオーバー周波数をfZRHPの1/5に設定し、積分器のゼロ(fZI)をfP2に設定し、fP1はfCより大幅に低いと仮定することによって、この式は次のように簡素化されます。
ΦM = 90° - tan-1(0.2) = 79°
図3は、上記の外付け部品の選択に基づいてシミュレートしたボード線図を示します。クロスオーバー周波数は5.5kHzで、位相マージンは79°です。クロスオーバー周波数は計算した値よりわずかに低くなっていますが、十分に予想の範囲内です。
図3. ボード線図シミュレーション
ループ応答の計算とシミュレーションは、どちらも良い考えで、プロトタイプHB LEDドライバの設計における重要なステップです。しかし、プロトタイプの組み立て完了後に実験室でループ応答を検証することも必要です。
ネットワークアナライザとトランスを使用して小さい信号をループに注入し、応答を測定します。標準的な利得および位相測定のセットアップについては、図4を参照してください。
図4. ループの利得および位相応答を測定するためのセットアップ
AC信号は小さい抵抗の両端でフィードバック経路に注入し、抵抗の両側で測定する必要があります。この設計はすでにISENSE-入力と直列に100Ωの抵抗を備えているため、ループを切断する必要はありません。AC信号はこの100Ωの抵抗の両端で注入することができます。
ループ応答は全負荷電流かつアナログまたはPWM調光なしで測定する必要があるため、テスト時はPWMDIMとICTRLの両方がハイであることを確認してください。また、測定は予想される最小入力電圧で行ってください。
ネットワークアナライザによって測定されたクロスオーバー周波数と位相マージンが、計算値に近いことを確認してください。
複数アプリケーションに対応する回路の設計
多くの場合、個々のアプリケーションに対して新しい設計を行うことは望ましくありません。2つのアプリケーション間の差がわずかな場合、システム設計者は両方のアプリケーションに同じ回路を使用し、それに伴う性能上のトレードオフを受け入れることがあります。
設計者は、すべての可変条件下における回路の振る舞いについて評価および理解することが推奨されます。これらの条件には、最小/最大入力電圧範囲、駆動されるLEDの最小/最大数、LEDストリングのカソードがGND (ブースト)またはIN (バックブースト)に接続されているかなどが含まれます。
用意された表計算(XLS)を使用して上記の各シナリオを挿入し、どのシナリオによって部品の最小値が決まるかを容易に調べることができます。
図5. ブーストまたはバックブースト構成が可能な汎用のMAX16833ソリューション
出力コンデンサの接続
バックブーストLEDドライバの出力コンデンサは、通常はショットキーダイオードのカソードとPGND間に接続されます。しかし、出力コンデンサをショットキーダイオードのカソードとVIN間に接続することもできます。図6は、バックブーストLEDドライバの出力コンデンサの接続に対する両方のオプションを示します。オプションAは標準的な方法で、通常は最高のEMI性能を提供します。しかし、LEDのカソードが入力に接続されているため、LED電圧はライン過渡状態の影響を受けやすくなります。出力コンデンサをLEDと並列に接続することによって、ライン過渡に対する脆弱性が軽減されます。オプションBには、入力電流が連続から不連続に変化するため、入力の電圧リップルが増大してEMI性能が低下するという欠点があります。
図6. バックブーストLEDドライバの出力コンデンサの接続に対する2つの異なるオプション
結論
バックブーストLEDドライバの包括的な回路図を図7に示します。このアプリケーションノートで概説したステップバイステップの設計プロセスに従うことによって、プロジェクトのデバッグおよびテストフェーズ中に相当な時間を節約することができます。
図7. 計算例に基づいた標準アプリケーション回路
さらに詳しい情報については、MAX16833のデータシートやMAX16833EVKITのデータシートを参照してください。
MAX16833のブーストコンバータのトポロジに焦点を当てた設計プロセスの詳細についてはアプリケーションノート5571 「高電圧高輝度LEDドライバMAX16833のステップバイステップの設計プロセス、パート1」をご覧ください。
この記事に関して
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