電圧トラッキング要件を満たす単純なデバイス

2006年10月19日
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要約

このアプリケーションノートでは、パワーアップ時とパワーダウン時の電圧をトラッキングするためのさまざまな手法とアーキテクチャについて説明します。低コストのソリューションの例と、内蔵EEPROMで構成可能なより複雑なソリューションの例を示します。

高電力でマルチ電圧のシステムでは、多くの場合、パワーアップ時とパワーダウン時に供給電圧をトラッキングすることが必要となります。これによって、即座に損傷を及ぼすおそれのあるラッチアップ状態を防止することが可能で、また、電界に障害を生じる潜在的な損傷も防止することができます。

簡単なアプリケーションであれば、単純なディスクリートのダイオードだけで、必要なトラッキングを遂行することができますが、供給電圧が2つ以上の複雑なシステムにはダイオードは適していません。最新のASICでは、電流フローのレベルが増大することによって、電力消費を管理するためのより大きな外付けダイオードが必要となります。このため、低コストのダイオードの場合、順方向電圧が上昇し、電力消費が増大することになります。

簡単な電圧トラッキングの1つのソリューションは、電圧出力がパワーアップ時に互いをトラッキングするように設計されたレギュレータを使用することです。このようなレギュレータはパワーアップには適切ですが、多くの場合、システムはシャットダウン時にも供給電圧の降下をトラッキングする必要があります。シャットダウン時のもう1つの重要な検討事項は、大きなコンデンサを放電させて、電流が間違ってICへ流れないようにする必要があるということです。結果として、パワーアップとパワーダウンの両方のプロセスで電圧を制御可能であることが重要となります。

このように、供給電圧のトラッキングは、ターンオン時だけではなく、電源投入時間の測定や障害検出時の問題検出にも必要です。

低コストで単純な手法

おそらく、最も簡単な電圧トラッキングの方法は、同時に2つの外付けパスエレメントをターンオンすることです(図1)。このアプリケーション回路は2つの電圧をモニタし、ターンオン時にチャージポンプを起動し、2つの外付けnチャネルMOSFETを十分にエンハンス(ターンオン)します。電力が供給されていない状態から出力が開始される場合、電圧はゲート-ソース間のエンハンスとほぼ同時にターンオンします。2つの外付けMOSFETの間にはオフセットがあるため、わずかな電圧差が生じる場合がありますが、同じパッケージのデュアルnチャネルMOSFETで生じるオフセットはかなり小さいと思われます。

図1. この開ループ電圧トラッカは、単一のチャージポンプを用いて、2つの電圧を同時にターンオンしています。

図1. この開ループ電圧トラッカは、単一のチャージポンプを用いて、2つの電圧を同時にターンオンしています。

この回路は、各種の単純なアプリケーションに適した、比較的低コストの「疑似」開ループ電圧トラッカを実現するものです。最近のICには、供給電圧をモニタし、このトラッキングに使用可能な内蔵チャージポンプを実装することができるものもあります。たとえば、MAX6819/MAX6820電源シーケンサは電圧をモニタすることが可能で、電圧が仕様を満たしている場合、チャージポンプの回路を始動し、外付けのnチャネルMOSFETをターンオンします。

図2のスコープ写真は、MAX6819が、2つの外付けnチャネルMOSFET (IRF7380)を通じて制御している供給電圧VCC1とVCC2 (図1に示す開ループ構造の右上コーナー)の上昇する様子を示したものです。供給電圧は互いに200mV以内でトラッキングされます。差は主にMOSFETのゲート-ソース間のターンオンスレッショルドに起因するものですが、ほとんどの状況において十分な値です。

図2. 図1の開ループトラッキングのアーキテクチャにおける出力電圧のスコープ写真(MAX6819システム管理デバイスによって制御されています)。

図2. 図1の開ループトラッキングのアーキテクチャにおける出力電圧のスコープ写真(MAX6819システム管理デバイスによって制御されています)。

設計の課題として、MOSFETのサイズ(最大電流に対応可能なサイズ)、ドレインソース間抵抗(MOSFET両端の損失を求める)、およびゲートチャージ(電圧のランプレートを求める)などがあります。回路は、大電流のアプリケーションでロジックレベルのMOSFETを利用することができるようにするために、5.5Vのゲート-ソース間エンハンスを生成します。突入電流と立上り速度を制御するため、ゲートとグランドの間に小型コンデンサを追加することによって、電圧上昇を鈍化させることができます。パワーアップ時には、低い方の電圧が公称レベルに達するまで電圧がトラッキングされます。その後、高い方の電圧が最終値に近づきます。

電圧トラッキングは、パワーダウン時により複雑になる場合があります。その理由は、出力電圧に差があることによって、一方のMOSFETが他方のMOSFETよりも若干早くターンオフを始める可能性があるからです。電源ラインの容量負荷や出力負荷が異なることも、2つの電圧の下降速度に影響を及ぼすおそれがあります。パワーダウン時に電圧が互いに確実にトラッキングすることができるようにするため、電源ラインにまたがってダイオードを接続します。これによって、電圧をクランプすることができます。低い方の電圧にアノードを接続すると、通常動作時にダイオードが導通しなくなります。この低コストの「疑似トラッカ」は実装が簡単ですが、この開ループアーキテクチャでは、完全なレギュレーションは保証されていません。

シャント電圧トラッカ

前記の方法は、外付けのnチャネルMOSFETをパスエレメントとして使用しています。多数のnチャネルMOSFETが十分にエンハンスされると、ドレインソース間の抵抗は比較的低くなりますが、依然として、大電流時の電圧降下によって電力が消費され、負荷の両端の出力電圧が低減されます。たとえば、図1のVCC2が1.2Vのコア電源で、最大動作条件時の予想出力電流が20Aの場合、5mΩ MOSFETの両端の降下は100mVと考えられます。モニタした場合、結果として、供給電圧は8.125%降下するため、これによってシステムがリセットされます。コストが受け入れられるのであれば、ドレインソース抵抗が低いMOSFETを選択するか、複数のMOSFETを並列に接続することによって、パスエレメント両端の損失を低減することができます。

スイッチ両端の損失を低減する1つの方法は、直列のパスエレメントを省くアーキテクチャを選択することです。たとえば、上昇時に各出力を一時的に短絡させるシャントを搭載したコントローラ回路では、2つの電源間にほとんど差動電圧がないことが保証されています。最低電圧が最終レベルに到達した後、シャントはオフになり、一時的な短絡が取り除かれて、高い方の電圧が最終値に達します。直列のMOSFETがないため、回路は直列の損失がない状態で、全負荷で動作することができます。さらに、(一般に)始動時に必要な電力は通常の動作時よりかなり低いため、シャントとして使用されるnチャネルMOSFETのサイズを小さくすることができます。

このアーキテクチャは、パワーダウン時の電圧降下をトラッキングすることもできます(図3)。供給電圧が3つ以上のシステムは、複数の電圧トラッキングコントローラを採用することができます。この構成は、使用されるDC-DCレギュレータ、存在する出力容量の量(ランプレートに及ぼす影響を除く)、および最初にターンオンされる電源に関係なく、正しく動作します。

図3. ここに示したMAX5039トラッキングコントローラは、このシャント電圧トラッキングアーキテクチャの電力消費を低減します。

図3. ここに示したMAX5039トラッキングコントローラは、このシャント電圧トラッキングアーキテクチャの電力消費を低減します。

MAX5039電圧トラッキングコントローラの重要な特徴は、フィードバック入力のCORE_FBです。単純な抵抗分圧器ネットワークを使用すると、デバイスは、パワーアップ時の供給電圧をトラッキングし、I/O電源がコア電圧を上回ると、MOSFETをオフにし、I/O電源がコア電圧を下回ると、MOSFETを元に戻します。つまり、このデバイスは、パワーダウン状態と障害状態のときにトラッキング機能を提供することができるということです。デバイスには、VCCにゲートをラッチすることによって各電圧が接続される障害検出入力もあります。複数のMAX5039を同時に接続することによって、3つの電圧をトラッキングすることも可能です(図4)。

図4. マルチ電圧システムは、複数のトラッキングコントローラを必要とします。

図4. マルチ電圧システムは、複数のトラッキングコントローラを必要とします。

設定可能な電圧トラッカ

最近の複雑なシステムでは、多くの場合、トラッキング電圧に加えてその他の機能も必要となります。これらの機能として、電圧モニタリング、電圧トラッキング/シーケンシング(複合動作)、および電流モニタリングなどがあります。電圧の数が増え続けると、ほとんどの場合、複数のデバイスが必要になるため、適切なソリューションを見つけることがますます難しくなります。さらに、これらの要件の多くはプロトタイプの開発プロセス中に変化する可能性があるため、システムの進展に伴って、特定のパラメータが調整可能であることが必要となります。この結果、新世代のシステム管理デバイスは、単一デバイスにこれらの機能の多くを統合することによって、部品数を減らし、柔軟性を高め、信頼性を向上しています。たとえば、MAX6876システム管理デバイスは、多数の電圧のトラッキングやシーケンシングを行うことができます(図5)。MAX6876はEEPROMに設定可能なクワッド電圧トラッカ/シーケンサであるため、モニタ対象のスレッショルド、障害タイミング要件、スルーレート、および過電流制限値などの複数のパラメータを調整します。

図5. 設定可能なクワッド電圧トラッカ(MAX6876)。

図5. 設定可能なクワッド電圧トラッカ(MAX6876)。

各電圧がパワーアップするとき、すべての電圧がI2Cインタフェースを通じて内部EEPROMに設定された規定のレベルに達するまで、外付けnチャネルMOSFETはすべてオフです。必要な電圧を常に利用することができるようにするため、始動プロセス、システムの通常動作、およびパワーダウンまたは障害状態時に各レベルをモニタしています。いずれかの電圧が存在しない場合、デバイスはリセットをアサートし、パワーダウンプロセスをトラッキングします。

モニタされるすべての電圧がそれぞれのスレッショルドを上回ると、始動されることになります。外付けMOSFETをエンハンスするため、各ゲート電圧を同時に増大(上昇)します。システムは各MOSFETソースをモニタし、負荷に印加された他の電圧と比較します。任意の2つの電圧の差が150mVを上回る場合、高い方の電圧に関連するゲートがその電圧を降下させるため、他の電圧は「同じレベルに到達する」ことができます。他の電圧が同じレベルに到達することができない場合、パワーアッププロセスは中止されます。内部EEPROMは、自動再試行オプションを選択することによって、パワーアッププロセスを再起動することが可能で、ゲート駆動スルーレートも調整可能となります。

この初期化の間に問題が発生しなければ、最小電圧が負荷に印加されるまで、各電圧がともにトラッキングされます。最小電圧に到達すると、次に高い供給電圧がターンオンされるまで、各ゲートの電圧上昇が増大します。すべての電圧がパワーアップされるまで、このプロセスが続行します。4つの独立した内部チャージポンプが内部電圧に5.5Vを追加し、各MOSFETの5.5Vゲート-ソース間エンハンスを確保します。これによって、ドレインソース間抵抗が最小限に維持されます。ロジックレベルのFETを使用すると、損失をさらに抑えることができます。

障害やシステムのシャットダウン時の問題を未然に防ぐため、パワーダウン時に電圧を互いにトラッキングしています。MAX6876はMOSFETを流れる過剰電流がないかどうかをモニタします。4つのMAX6876は同期して最大16の電圧をトラッキングすることができます。

結論

パワーアップ時とパワーダウン時に電圧をトラッキングする方法は多数あり、ダイオードを通じて電圧を接続する簡単な方法から、外部回路を使用する、あるいはレギュレータのフィードバック経路を制御する複雑な手法まで多岐にわたります。このような手法は、必要な信頼性のレベルおよび各機能の実装に伴うコストに応じて、開ループまたは閉ループで構成することができます。システムがより複雑になり、コア電圧が低下し続け、さらに消費電力が増大し続けるにつれて、電圧トラッキングの必要性がますます高まっています。

類似の記事が2006年5月1日号の『Planet Analog』誌に掲載されています。



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