オシロスコープで取得する波形を改善する方法、プローブのグラウンド・リードを短縮する

2013年11月06日
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筆者は、お客様に対して1つのお願いをすることがあります。それは、問題になっている回路において、「ADコンバータ(ADC)用のインターフェースのタイミングを確認するために、オシロスコープで取得した波形の写真を送ってください」というものです。ところが、送られてきた波形を見ると、振幅の大きいリンギングが生じていることがよくあります。また、比較的きれいな方形波であるべきなのに、実際には正弦波のような波形が写っているケースも少なくありません。そこで、オシロスコープのプローブはどのようにグラウンドに接続したのかと尋ねると、「標準のグラウンド・リードを使った」という答えが返ってきます。通常、オシロスコープにはプローブが付属しているはずです。そのプローブには、当然のことながら標準のグラウンド・リードが設けられています。おそらく、その長さは3~6インチ(約7.6~15.2cm)程度であるはずです。問題なのは、グラウンド・リードが長くなるほどインダクタンスが大きくなるということです。そうすると、信号の立上がりエッジが急峻である場合、リンギングが発生しやすくなります。

以下、オシロスコープで取得した波形をいくつか示しながら、解説を進めることにします。それらの波形は、ADCのデモ用ボード「DC1925A」を使用して取得しました。図1に示したのが同ボードの回路図(一部抜粋)です。図2、図3に、それぞれ10MHzと100MHzのクロック信号を示しました。これらは、標準のグラウンド・リードを基板のグラウンド端子に接続し、図1における抵抗R1の左側で取得した波形です。ご覧のように、2つの波形には大きなオーバーシュートが生じています。OVDDよりも約1V高く、グラウンドよりも約1V低いレベルまで達しています。このリンギングが回路内で現実に発生しているものであったとしたら、このノードに接続されているデバイスには損傷が生じる可能性があります。図4に示したのは、図2、図3の波形を取得した測定環境です。

図1. DC1925Aの回路図(一部抜粋)

図1. DC1925Aの回路図(一部抜粋)

図2. 10MHzのクロック信号(その1)。オシロスコープに付属するプローブの標準グラウンド・リードを使用して取得しました。

図2. 10MHzのクロック信号(その1)。オシロスコープに付属するプローブの標準グラウンド・リードを使用して取得しました。

図3. 100MHzのクロック信号(その1)。オシロスコープに付属するプローブの標準グラウンド・リードを使用して取得しました。

図3. 100MHzのクロック信号(その1)。オシロスコープに付属するプローブの標準グラウンド・リードを使用して取得しました。

図4. 図2、図3の波形を取得した測定環境。オシロスコープに付属するプローブの標準グラウンド・リードを使用しています。

図4. 図2、図3の波形を取得した測定環境。オシロスコープに付属するプローブの標準グラウンド・リードを使用しています。

では、オーバーシュートの問題を解決するにはどうすればよいのでしょうか。その答えは、グラウンド・リードを短くすることです。そこで、まずはオシロスコープのプローブから標準のグラウンド・リードを取り外します。続いて、短く切った24ゲージのバス・ワイヤを、プローブの先端近くのグラウンド部に巻き付けます。こうすることで、基板上のすぐ近くのグラウンド・ノードにプローブのグラウンドを接続することが可能になります。その結果、接地用のパスのインダクタンスが標準のグラウンド・リードを使う場合よりもはるかに小さくなります。図5、図6は、このような改善を図った上で取得した10MHz、100MHzのクロック信号の波形です。インダクタンスの小さいグラウンド・リードを使用し、オシロスコープのグラウンドを抵抗R6の下側に接続しました。その上で、R1の左側において波形を取得しました。図5、図6を見ると、リンギングの振幅がかなり小さくなったことがわかります。それだけでなく、立上がり時間と、リンギングの発生期間もはるかに短くなっています。図7に、図5と図6の波形を取得した測定環境を示しました。

図5. 10MHzのクロック信号(その2)。インダクタンスの小さいグラウンド・リードを使用して取得しました。

図5. 10MHzのクロック信号(その2)。インダクタンスの小さいグラウンド・リードを使用して取得しました。

図6. 100MHzのクロック信号(その2)。インダクタンスの小さいグラウンド・リードを使用して取得しました。

図6. 100MHzのクロック信号(その2)。インダクタンスの小さいグラウンド・リードを使用して取得しました。

図7. 図5と図6の波形を取得した測定環境。短く切ったバス・ワイヤをオシロスコープのグラウンド・リードとして使用しました。そのリードは、すぐ近くのグラウンド・ノードに接続しました。

図7. 図5と図6の波形を取得した測定環境。短く切ったバス・ワイヤをオシロスコープのグラウンド・リードとして使用しました。そのリードは、すぐ近くのグラウンド・ノードに接続しました。

本稿では、オシロスコープのプローブとしてインダクタンスの小さいグラウンド・リードを使用する方法を紹介しました。この方法を採用すれば、測定の対象となるノードで何が起きているのか、はるかに正確に把握できるようになります。実際、オシロスコープには、ピークtoピークの振幅、立上がり時間、オーバーシュートの発生期間がはるかに正確に表示されます。この手法を採用したとしても、測定に必要な時間はわずか1~2分長くなるだけです。また、本稿で紹介したグラウンド・リードを数本常備しておけば、余計な時間は全く生じません。

著者について

Guy Hoover
Guy Hooverは、Linear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)で30年以上にわたりIC設計技術者、アプリケーション・エンジニアなどの職務を果たしてきました。

Bob Dobkin氏、Bob Widlar氏、Carl Nelson氏、Tom Redfern氏の指導の下、オペアンプ、コンパレータ、スイッチング・レギュレータ、A/Dコンバータ(ADC)など、様々な製品を担当。この時期には、...

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