シリーズ電圧リファレンスか、シャント電圧リファレンスか?

2007年07月17日
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要約

この記事では、電圧リファレンスのタイプを選択する場合のいくつかの簡単な手順について説明します。また、シリーズタイプまたはシャントタイプの電圧リファレンスを選択するプロセスで使用する基本的なパラメータを説明します。

シリーズリファレンス

シリーズリファレンスには3つの端子、すなわちVIN、VOUT、およびGNDがあります。リニア電圧レギュレータと概念は似ていますが、シリーズリファレンスは低電流と高精度が達成可能なように設計されています。シリーズリファレンスは負荷と直列に動作し(図1)、VINとVOUT端子間の電圧制御抵抗と見なすことができます。VINから内部抵抗の両端の降下を減算したものがVOUTでのリファレンス電圧と等しくなるように内部抵抗を調整することによってレギュレーションが行われます。電流の流れは、電圧降下を生み出すために必要なため、負荷が除去されるときのレギュレーションを確保するために少量の静止電流を消費します。シリーズリファレンスは以下の特性を備えています。

  • 電源電圧(VCC)は、内部抵抗の両端の電圧降下を許容することができるだけの大きさが必要ですが、リファレンスICを損傷するほど大きくしてはなりません。
  • ICとそのパッケージは、直列パスエレメントの電力消費を処理する必要があります。
  • 負荷電流がない状態では、電力消費の唯一のソースはリファレンスICの静止電流です。
  • シリーズリファレンスは、一般にシャントリファレンスより優れた初期許容誤差と温度係数を備えています。

図1. 3端子シリーズ電圧リファレンスのブロック図。

図1. 3端子シリーズ電圧リファレンスのブロック図。

シリーズリファレンスの設計式

シリーズリファレンスの設計はかなり容易です。入力電圧と電力消費がICで規定された最大値以内であることを確認すればよいだけです。

P_SER = (VSUP - VREF)IL + (VSUP x IQ)

シリーズリファレンスでは、ワーストケースの電力消費は最大電源電圧かつ最大負荷の場合に生じます。

WC_P_SER = (VMAX - VREF)ILMAX + (VMAX x IQ)

ここで、

P_SER = シリーズリファレンスの電力
VSUP = 電源電圧
VREF = リファレンス出力の電圧
IL = 負荷電流
IQ = リファレンス静止電流
WC_P_SER = ワーストケースでのシリーズリファレンスの電力
VMAX = 最大電源電圧
ILMAX = 最大負荷電流

シャントリファレンス

シャントリファレンスは2つの端子、すなわちOUTとGNDを備えています。ツェナーダイオードと概念は似ていますが、シャントリファレンスはより優れた仕様を備えています。ツェナーダイオードのように外部抵抗を必要とし、その負荷と並列に動作します(図2)。シャントリファレンスは、OUTとGND端子間の電圧制御電流ソースと見なすことができます。レギュレーションは、VSUPPLYからR1の両端の降下を減算したものが、OUTでのリファレンス電圧と等しくなるように電流レベルを調整することによって達成されます。別の説明として、シャントリファレンスは、負荷電流とリファレンスを通過する電流の合計を強制的に一定にすることによって、OUT端における定電圧を維持しています。シャントリファレンスは以下の特性を備えています。

  • 電力消費に合わせてR1が適切にサイズ調整されるので、シャントリファレンスでは最大電源電圧に対する制限がありません。
  • 電源は、負荷にかかわらず同じ最大電流を出力します。消費電流は、負荷とリファレンスを通って流れ、OUTのリファレンス電圧を維持するためにR1の両端の電圧を適正な値だけ降下します。
  • シャントレギュレータは単純な2端子のデバイスであるため、負レギュレータ、フローティングレギュレータ、クリッピング回路、およびリミット回路などの新しい回路構成に利用することができます。
  • シャントリファレンスは一般に、シリーズリファレンスよりも動作電流を少なくすることができます。

図2. 2端子のシャント電圧リファレンスのブロック図。

図2. 2端子のシャント電圧リファレンスのブロック図。

シャントリファレンスの設計式

シャントリファレンスの設計は、外部抵抗を計算する必要があるため幾分難しくなります。この値(R1)は、リファレンス電流と負荷電流によって生じる電圧降下が電源電圧とリファレンス電圧間の差と必ず等しくなるようにしなければなりません。このワーストケースの状態で確実に動作するために、最小電源電圧と最大負荷電流でのR1を計算する必要があります。次式では、R1の値と電力消費、およびシャントリファレンスでの電力消費を計算しています(図3)。

R1 = (VMIN - VREF)/(IMO + ILMAX)

R1の電流と電力消費は、電源電圧にのみ依存します。負荷およびリファレンスを流れる電流の合計は一定であるため、負荷電流は影響しません。

I_R1 = (VSUP - VREF)/R1
P_R1 = (VSUP - VREF)2/R1
P_SHNT = VREF(IMO + I_R1 - IL)

ワーストケースの状態は、電源電圧が最大で、かつ無負荷の状態です。

WC_I_R1 = (VMAX - VREF)/R1
WC_P_R1 = (VMAX - VREF)2/R1
WC_P_SHNT = VREF(IMO + WC_I_R1)
または
WC_P_SHNT = VREF(IMO + (VMAX - VREF)/R1)

ここで、

R1 = 外部抵抗
I_R1 = R1を流れる電流
P_R1 = R1の電力消費
P_SHNT = シャントリファレンスの電力消費
VMIN = 最小電源電圧
VMAX = 最大電源電圧
VREF = リファレンス出力電圧
IMO = リファレンスの最小動作電流
ILMAX = 最大負荷電流
WC_I_R1 = ワーストケースでのR1を流れる電流
WC_P_R1 = ワーストケースでのR1の電力消費
WC_P_SHNT = ワーストケースでのシャントリファレンスの電力消費

図3. この構成のシャントリファレンスは、その電流(I<sub>MO</sub>)を変動させることで、一定のVREFを生成しています。

図3. この構成のシャントリファレンスは、その電流(IMO)を変動させることで、一定のVREFを生成しています。

リファレンスの選択

シリーズリファレンスとシャントリファレンスの相違点を理解したところで、次の手順では、使用するアプリケーションに対していずれが適切かを決定します。最適な製品を確実に入手するための最善の方法は、シリーズタイプとシャントタイプの両方を検討することです。それぞれについて設計計算を行えば、適切なタイプが判明します。以下に、いくつかの経験則を挙げます。

  • 0.1%よりも優れた初期精度および25ppm以上の温度係数が必要な場合、シリーズリファレンスを選択することをお勧めします。
  • 最小動作電流が必要な場合、シャントリファレンスを検討してください。
  • 大幅に変動する電源や負荷をシャントリファレンスに結合するときには注意してください。予想電力消費を必ず計算してください。等価のシリーズリファレンスの電力消費より大幅に大きくなることがあります(以下の例を参照)。
  • 電源電圧が40Vより大きい場合は、シャントリファレンスが唯一の選択肢と思われます。
  • 負リファレンス、フローティングリファレンス、クリッピング回路、またはリミット回路を構築するときは、シャントリファレンスを検討してください。

例1—低電圧、安定した負荷

このポータブルアプリケーションでは、最重要なパラメータは低電力消費です。以下はその仕様です。

VMAX = 3.6V
VMIN = 3.0V
VREF = 2.5V
ILMAX = 1µA

以下の2つの製品に調査を限定します。


MAX6029シリーズリファレンス


IQ = 5.75µA
WC_P_SER = (VMAX - VREF)ILMAX + (VMAX x IQ)
WC_P_SER = (3.6V - 2.5V)1µA + (3.6V x 5.75µA) = 21.8µW

この回路内では、シリーズリファレンスが唯一電力を消費する部分です。このため、ワーストケースでの電力消費の合計は21.8µWです。


MAX6008シャントリファレンス


IMO = 1µA
R1 = (VMIN - VREF)/(IMO + ILMAX)
R1 = (3.0V - 2.5V)/(1µA + 1µA) = 250kΩ
WC_I_R1 = (VMAX - VREF)/R1
WC_I_R1 = (3.6V - 2.5V)/250kΩ = 4.4µA
WC_P_R1 = (VMAX - VREF)2/R1
WC_P_R1 = (3.6V - 2.5V)2/250kΩ = 4.84µW
WC_P_SHNT = VREF(IMO + (VMAX - VREF)/R1)
WC_P_SHNT = 2.5V (1µA + (3.6V - 2.5V)/250kΩ) = 13.5µW

この回路の場合のワーストケースの電力消費の合計は、R1のワーストケースの電力消費(WC_P_R1)にシャントリファレンスのワーストケースの電力(WC_P_SHNT)を加えたもので、18.3µWになります。

このアプリケーションに最適な製品は、MAX6008シャントリファレンスです。その理由は、電力消費が18.3µW (MAX6029シリーズリファレンスの場合は21.8µW)だからです。この例は、電源変動が設計に大きな影響を与えることを示しています。冒頭で、シャントリファレンスは最小動作電流が1µAであることによって大きな利点があることを示しました。ただし、ワーストケースの状態で動作を保証するには、動作電流が4.4µAにまで上昇する必要がありました。この例で指定された範囲(3.0V~3.6V)よりも大きい電源電圧の変動では、シリーズリファレンスを使用する必要があります。

例2—低電圧、変動する負荷

この例は、例1に似ていますが、仕様が少し異なります。安定した1µAの負荷の代わりに、この負荷では、99msに対し1µA、1msに対し1mAと、交互に電流が消費されます。

VMAX = 3.6V
VMIN = 3.0V
VREF = 2.5V
ILMAX = 1mA (計測時間の1%)
ILMIN = 1µA (計測時間の99%)

同じ2つの製品を以下で検討します。


MAX6029シリーズリファレンス


IQ = 5.75µA

WC_P_SER = (VMAX - VREF)ILMAX + (VMAX x IQ)
WC_P_SER (1mA IL) = (3.6V - 2.5V)1mA + (3.6V x 5.75µA)
= 1.12mW (計測時間の1%)
WC_P_SER (1µA IL) = (3.6V - 2.5V)1µA + (3.6V x 5.75µA)
= 21.8µW (計測時間の99%)

平均電力消費 = 1.12mW x 1% + 21.8µW x 99% = 32.78µW


MAX6008シャントリファレンス


IMO = 1µA
R1 = (VMIN - VREF)/(IMO + ILMAX)
R1 = (3.0V - 2.5V)/(1µA + 1mA) = 499Ω

ILOAD = 1mAのとき、
WC_P_R1 = (VMAX - VREF)2/R1
WC_P_R1 = (3.6V - 2.5V)2/499Ω = 2.42mW (計測時間の1%)
P_SHNT = VREF(IMO + I_R1 - IL)
P_SHNT = 2.5V(1µA + 1mA - 1mA) = 2.5µW (計測時間の1%)

ILOAD = 1µAのとき、
WC_P_R1 = (VMAX - VREF)2/R1
WC_P_R1 = (3.6V - 2.5V)2/499Ω = 2.42mW (計測時間の99%)
P_SHNT = VREF(IMO + I_R1 - IL)
P_SHNT = 2.5V(1µA + 1mA - 1µA) = 2.5mW (計測時間の99%)

平均電力消費は、2.42mW x 1% + 2.5µW x 1% + 2.42mW x 99% + 2.5mW x 99% = 4.895mW

これまででわかるように、シャントリファレンスの平均電力消費は、シリーズリファレンスの100倍を超える高さです。負荷電流が大きく変動するアプリケーションの場合、シリーズリファレンスが一般的により優れた選択肢になります。

同様の記事が2006年5月Planet Analogウェブサイトに掲載されています。



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