アラーム誤作動率の低減 −煙アラームはどうすればハンバーガー誤作動アラーム試験に合格できるのか

2020年06月01日
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最新の煙アラーム − 検出能力と安全性向上に向けた進化

今日の建築物は、日々の暮らしを快適にして安全を確保するために様々なセンサーを備えています。環境センサーや電力と暖房の調整といったスマート・ホーム・アプリケーションの他に、安全関連のセンサーも重要な役割を担っています。煙アラームもこれに含まれます。煙アラームは必須のもので法律によって規定されていますが、市販されている多くの煙アラームは、台所や浴室での使用には適していません。これらの場所では、調理時の煙や蒸気によってアラームが誤作動するリスクが高くなるからです。アラームの誤作動を軽視すべきではありません。誤作動が多いとユーザが煙アラームのスイッチをオフにしてしまうかもしれず、また、不必要な消防の出動によって高いコストを招くおそれがあるからです。

しかし、浴室や台所は火災の危険が高いので(特に台所)、これらの場所に煙アラームがないというのは非常に問題です。近代的なアパートでは、台所が居間に組み込まれていることが多いので、この問題はより大きなリスクを発生させます。建築に合成素材を大量に使用する現代の環境では火災は急速に広がるので、より細かい区画に分割した煙アラームのネットワークを設けることが火災を正確に検出するために重要です。

世界中の各種の標準が、様々なタイプの煙の検出を新しい試験に規定することによって、これらの新たな要求を満たそうと試みています。これらの規則は地域によってわずかに異なり、ヨーロッパではEN、北米ではULが適用され、国際的にはISOが適用されています。ULは、2021年6月に発表予定の最新版(UL 268:7th editionとUL 217: 8th edition)に、「ハンバーガー誤作動アラーム試験」と呼ばれる新たな試験を導入しました。この試験では、ハンバーガー・パテを焼く際に発生する規定濃度の煙を、ポリウレタンの燃焼で発生する規定濃度の煙と区別できなければなりません。この試験は、台所の誤作動アラームの率を減らす助けとなるはずです。本稿ではこの試験について説明し、この試験に合格するためには、新しい検出器技術をどのように設計する必要があるのかについて検討します。

ULのハンバーガー誤作動アラーム試験の詳細

このハンバーガー誤作動試験は、実際の調理時の煙を再現するために定められたものです。このハンバーガー誤作動アラーム試験の背景となる概念は単純なものですが、最新の煙アラームであっても1つの課題に直面することになります。つまり、ハンバーガー・パテは一定時間焼いて調理されるという事実です。試験では、この調理過程で発生する煙によって煙アラームがトリガされるかどうかが確認されます(定められた限界値から開始)。この試験は、当然ながら、すべての煙アラームを同じ条件下で試験できるように標準化されています。基準として使われるのは不透過度測定です。この試験では光線直径10cm~15cmの光源を約2mの距離に設置します。光源には規定波長589nmの蒸気ランプを使用します。そして、ランプと検出器の間にある煙がこの光線を遮ります。この基準測定のセットアップと原理を図1に示します。

図1. ULによる基準システムの図

図1. ULによる基準システムの図

この時の光線の不透過度を、煙がない状態の基準信号と比較して示します。この不透過度に基づいて、煙の密度と濃度に関する結論を導くことができます。粒子が同じであれば、不透過度が高いほど密度も高くなります。もちろん、不透過度は濃度だけではなく粒子のタイプによっても異なります。基本となるのは散乱断面積で、これは粒子のタイプによって大きく異なります。 

不透過状態が続く時間は、アラーム生成の補助的要素としての役割を果たします。つまり、標準に従い、基準システムで一定の時間制限に達した場合、あるいは不透過度が制限値に達した場合は、アラームがトリガされます。したがって、ハンバーガー誤作動アラーム試験は、ハンバーガー・パテ調理中の不透過度が1.5%/ftを超える前にはアラームは作動してはならない、と規定しています。

試験の第2段階ではポリウレタンを燃やします。ポリウレタンは、アームチェアのような実際の物品をエミュレートすることができます。煙アラームはこの違いを識別して、不透過度が5%/ftに達した時点でアラームをトリガしなければなりません。

2種類の煙、つまり本当の火災による煙と調理による煙を区別するのは難しいので、これは極めて困難な課題です。しかし、この試験はUL 217とUL 268に定める多くの試験のうちの1つに過ぎません。偶然の結果を排除してその検出器の幅広い品質的安定性を確保するために、複数の同じ煙アラームがこの試験に合格することも求められます。

煙アラームはどうすればこの試験に合格できるのか

最新の煙アラームは光電子の原理に基づいて作動します。ハンバーガー誤作動試験の場合は、光線が照射されて、それが粒子によって反射されます。散乱の状態は、粒子のタイプ、粒子の密度、および散乱角度によって異なります。煙アラームは、散乱信号に基づいてアラームをトリガするかどうかを決定します。

ハンバーガー誤作動アラーム試験に合格するには、ハンバーガーの煙とその他の煙を区別するために、検出器が高いS/N比を備えている必要があります。アナログ・デバイセズのADPD188BI集積化光学センサー・モジュールは、この難しい試験に合格するための技術を煙アラームのメーカーに提供します。ADPD188BIの動作原理を図2に示します。 

図2. ADPD188BIの動作原理

図2. ADPD188BIの動作原理

この煙検出用の新しい集積化モジュールは、左側のキャビティに2個のトランスミッタLED(波長470nmの青色LEDと波長850nmの赤外線LED)を取り付けたハウジングで構成されています。ハウジングの右側部分にはフォトダイオードとアナログ・フロント・エンドが置かれています。LEDが光を放射し、煙の粒子がこの光を屈折させてフォトダイオードに反射します。LEDドライバは内蔵されており、内部タイム・スロットによってスイッチングされます。これらのタイム・スロットは、定期的にレジスタを書き換えることなくフロント・エンド全体のタイミングを調整することを可能にします。

アナログ・フロント・エンドは、電流/電圧コンバータと、周囲光用のアナログ・フィルタで構成されます。アナログ・フィルタは、一定の周囲光用のバンドパス・フィルタと、例えば蛍光灯から放射されるような変動周囲光用の積分器で構成されます。次いで、内蔵のA/Dコンバータが電圧をデジタル信号に変換します。

集積密度が高いことから、ADPD188BI煙センサー・モジュールにはいくつもの利点があります。まず、必要とされる外付け部品がわずかなので、システム全体を容易にキャリブレーションすることができます。また、2種類の光波長を使った検出によって、誤作動アラームは更に少なくなります。これは、各波長での個別の測定に加えて、比率を形成できるためです。更に、このモジュールは小型で、従来の検出器より消費電力も小さくなっています。赤外線LED使用時の消費電力は約5µW/Hzです。LEDとフォトダイオードはアナログ・フロント・エンドに組み込まれているので、煙アラーム・メーカーはワンモジュール・ソリューションを提供できます。

ADPD188BIモジュールの高い集積度は、ハンバーガー誤作動試験の結果を左右するものとなります。通常、LEDは一定電流時の光度のばらつきが大きいため、煙アラーム・メーカーは必ずキャリブレーションを行わなければなりませんでした。電流に対するLED光度のスロープとオフセットのキャリブレーションを行えば、すべてのLEDを同じように動作させることができます。LEDとすべての信号パスはADPD188BIに内蔵されているため、アナログ・デバイセズは、このセンサー・モジュールのキャリブレーションを事前に行っています。したがって、部品ごとの変動幅は少なくなっています。煙アラーム・メーカーは事前にキャリブレーションされたモジュールを使用できるので、システム設計が容易になります。

アナログ・デバイセズが用いているキャリブレーション方法では、LEDのスロープとオフセットのキャリブレーションを直接の目標にしています。このために、ADPD188BIは反射器の下に置かれます。反射された光は、内蔵のフォトダイオードによって測定されます。スロープとオフセットはそれぞれのADPD188BIごとに個別に求めることができ、キャリブレーション係数はeFUSEレジスタと呼ばれるチップの不揮発性メモリに保存されます。チップごとの変動は、これらの係数を読み出すことによって最小限に抑えることができます。これは、アルゴリズム内にアラーム閾値をより明確に設定できること、誤作動アラームを減らせること、そして最終的にはUL試験に合格できることを意味します。

図3は標準化されたUL試験環境におけるADPD188BIのサンプルのデータを示したもので、一方はハンバーガーの煙によるもの(左)、もう一方はポリウレタンの燃焼によるもの(右)です。

図3. ハンバーガーの煙とポリウレタンの煙に関するAPDPD188BIのUL試験結果(煙検出チャンバなしの環境)

図3. ハンバーガーの煙とポリウレタンの煙に関するAPDPD188BIのUL試験結果(煙検出チャンバなしの環境)

いず れの場 合もプロットは時間(x軸)に対するもので、ADPD188BIの信号は左側のy軸で表されています。これは電力伝達率として表した値で、LED動作用の電力とフォトダイオードが受け取る電力の関係を示しています。電力伝達率を表す式を下に示します。

数式1

この量を使用すれば、様々なモジュールを互いに比較することができます。これに対し、右側のy軸は%/ftで表した不透過度を示しています。ここで緑の曲線はULの基準光を示しており、青はADPD188BIの青色信号、紫は赤外線信号を表しています。

図3に示すように、ADPD188BIの2つの信号曲線は2つのシナリオで大きく異なっており、センサーがこれらの煙のタイプを明確に区別できていることを実証しています。その違いの1つが時間に伴う信号の上昇率で、ポリウレタンの煙の場合は、ハンバーガーの煙がアラーム閾値に達するまでの時間(1000秒以上)の1/4の時間(220秒)で閾値に達していることを示しています。ポリウレタンの場合は、4分が経過した時点で、既に限界レベルが検出されています。

センサーのS/N比が高いので、図に示すように、例えばポリウレタン燃焼時のスロープの突然の増大によって、粒子の濃度変化を明確に区別して記録することも可能になっています。図3では該当部分が赤でマークされています。

更に、ADPD188BIは2つの波長で測定を行っていますが、その比率は、ハンバーガーの煙を検出する(したがってハンバーガー試験に合格する)信頼性の高いアルゴリズムをキャリブレーションするための、もう1つの量となります。

まとめ

煙検出用の新しい集積化光学モジュールがターニング・ポイントである理由


焦げたハンバーガー・パテから発生した煙の粒子と、通常の煙の粒子との間にそれほど大きな違いはないため、新たに導入されたハンバーガー誤作動試験に合格することは非常に困難です。したがって、ハンバーガー・パテの煙とその他のタイプの煙を区別するために、煙センサーには高いS/N比が求められます。この場合、センサーの部品ごとの変動の小さいことが、決定的な役割を果たします。これにより、測定をより高い信頼性で完了させて試験に合格することが可能になり、更にそれを通じて、最終的なアプリケーションにおける誤作動アラームの発生をより少なくすることができます。アナログ・デバイセズが提供する煙検出用の新しい集積化光学モジュールADPD188BIは、高感度の集積化モジュールです。このデバイスは高いS/N比と2色の光による検出機能を備えているだけでなく、部品ごとのばらつきも最小限に抑えられているので、設計とアルゴリズム開発が容易になります。

著者について

Christoph Kämmerer
Christoph Käemmerer。2015年2月以来、ドイツのアナログ・デバイセズに勤務。2014年にエアランゲンのフリードリヒ・アレクサンダー大学を卒業。物理学修士。その後、プロセス開発のインターンとしてリメリックのアナログ・デバイセズに勤務。2016年12月にフィールド・アプリケーション・エンジニアとしてのトレイニー・プログラムを終了してアナログ・デバイセズに勤務し、新興アプリケーションを担当。現在は新興ビジネス・マネージャとして...

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