超低消費電流の絶縁型パルス周波数変調(PFM) DC-DCコンバータによる待機電力の削減

2009年08月03日

要約

このアーティクルでは、絶縁型DC-DC電源においてごくわずかに流れる電流のレベルを引き下げる方法と、絶縁型DC-DC電源の無負荷時性能を改善する方法を説明します。最近は画期的な「グリーン」ソリューションが強く求められていることから、バッテリ駆動の電子機器や不連続送信方式を採用した通信システム機器のバッテリ寿命を延長する方法について特に詳しく検討します。

このアーティクルは「マキシムのエンジニアリングジャーナルvol. 65」 (PDF、2.64MB)にも掲載されています。

この記事の日本語版が「EDN Japan Power Supplement」の2008年12月号に掲載されています。

今日、多くの産業用システムでは、バッテリ駆動のセンサやトランスポンダを採用しており、これによって高価なケーブルの取付けをなくし、システム全体の消費電力を削減しています。これらの産業用システムには、通常アクティブモードとスタンバイモードがあります。アクティブモードでは、センサはデータをトランスポンダ(無線モデム)に送信し、トランスポンダはそのデータをホストシステムに送信します。スタンバイモードでは、トランスポンダとセンサは固定もしくは可変の時間スリープとなります。このように開始と停止を繰り返す動作は不連続モードとも呼ばれ、デバイスのバッテリ寿命を最大化します。

GSM無線モジュールをセンサに利用する散水システムなどのアプリケーションでは、GSM無線への給電用バッテリを2、3日ごと、または数週間ごとであっても、交換する必要性がある場合、維持費がかさんでしまいます。このようなシステムはほとんどの時間スタンバイもしくはスリープモードであるため、無活動時の消費電力を最小限に抑制することは、バッテリの長寿命化に大いに貢献します。このシステムでは、無負荷時の自己消費電流が設計上の主な課題であり、安全性の面では、直流絶縁が重要な項目となります。

これらの課題に対応するため、設計者は無負荷条態における消費電流を可能な限り最小限に抑えるべく、DC-DCコンバータの設計に注力する必要があります。すべてのDC-DCコンバータは、スタンバイ時であっても、自己消費電流が大きな値となり得ます。たとえば、ある市販の電源モジュール(RECOM® R-78A3.3-1OR)は、無負荷状態で約7mAを消費します。しかしながら、トポロジに注意し、慎重に設計することで、無負荷時の消費電流が1mA以下の絶縁型DC-DCコンバータモジュールを実現することができます。

このように消費電流が30分の1になることによって、バッテリの交換回数を減少させることができます。たとえば、システムバッテリが充電式である場合も、消費電流の大きい電源を使用すると充電回数が増加してしまいます。また、バッテリの頻繁な充電は消耗を早め、最後には埋め立てごみとなります。同様に、デバイスに使い捨てバッテリが用いられている場合も、スタンバイ電流がより大きいため放電が早く、捨てる頻度が増えることになります。

この課題の解決法はいくつか考えられますが、このアーティクルではパルス周波数変調(PFM)によって、デバイスのアクティブ時とスタンバイ時の比率を1700:1とする方法を紹介します。

システムの特性

電力消費の経時変化は、一般に図1のようになります。負荷電流は機器の動作中や充電中に大きく上昇し、機器が待機状態になると低下します。バッテリの消耗を抑えてバッテリ寿命と待機時間を延長するためには、このアイドル電流(IZ)を最小限に抑える必要があります。つまり、無負荷時に消費電流が非常に小さく、かつ、入力出力間の絶縁性能が高い絶縁型DC-DCコンバータが必要になります。これに加えて変換効率が高く実装面積が小さければ理想的です。

図1. 不連続送信方式を採用した通信機器におけるアクティブ状態とスタンバイ状態の関係

図1. 不連続送信方式を採用した通信機器におけるアクティブ状態とスタンバイ状態の関係

一般的に使用されているDC-DCコンバータは、表1に示すように、入力12Vで無負荷時、7mAから40mAの入力電流が流れます。これらのコンバータは、一般にパルス幅変調(PWM)コントローラを搭載していますが、PWMコントローラは負荷がつながれていないときを含めて常にオシレータがアクティブであり、このオシレータがバッテリの消耗を早めています。

表1. 市販のDC-DCコンバータの特性
Manufacturer
Model
VIN (V)
VOUT
(V)
IOUT
(A)
IIN
(IOUT = 0, mA)
η
(%)
Isolation
Traco® Electronic AG
TEN 5-1210
12 3.3 1.2 20 77

XP Power
JCA0412S03
12 3.3 1.2 38 83

RECOM International Power
RW-123.3S
12 3.3 0.7
21 65

C&D Technologies®
HL02R12S05
12 5 0.4
40 60

Bourns® Inc.
MX3A-12SA
12 3.3 3.0
11 93

RECOM International Power
R-78A3.3-1
12 3.3 1.0
7 81

PFMコントローラのトポロジ

別のアプローチとして、パルス周波数変調(PFM)コントローラを用いたDC-DCコンバータの採用が考えられます¹。PFMコントローラに用いられる2つのワンショット回路は、DC-DCコンバータの出力から負荷へと電流が流れたときにのみ動作します。なお、PFMは、基本的に2種類のスイッチング時間(最大オン時間と最小オフ時間)と2つの制御ループ(電圧制御ループと最大ピーク電流オフ時間ループ)で構成されています。

PFMが持つもう一つの特長は、制御パルスの周波数が可変であることです。TON (最大オン時間)とTOFF (最小オフ時間)は、コントローラの2つのワンショット回路によって決定されます。TONを決めるほうのワンショット回路がもう1つのワンショット回路のTOFFを起動します。VOUTがレギュレーション範囲を逸脱すると電圧ループのコンパレータがそれを検知し、TONワンショット回路をオンにします。このときパルス幅は最大値に設定されますが、電流が制限値を超えると最大ピーク電流ループがそれを検知し、パルス幅を小さくします。

このためPFMコントローラの自己消費電流は、そのリファレンスと誤差コンパレータをバイアスするのに必要となる電流(数十マイクロアンペア)のみとなります。PWMコントローラの場合は内部のオシレータをオンに保つ必要があるため、数ミリアンペアの電流が流れ続けてしまいます。このアーティクルで紹介する構成ではPFMコントローラトポロジを採用しているため、消費電流を12Vで1mA以下に抑えることができます。

散水システムなどの野外で使用されるシステムは過酷な環境にさらされるため、そこに搭載されるDC-DCコンバータは入出力が直流的に絶縁されている必要があります。絶縁方法としてはトランスの採用が考えられますが、その場合、絶縁性能を損なわずに2次側から1次側へリファレンス電圧をフィードバックする方法が問題になります。一般的にこの問題は、補助巻線かフォトカプラによって解決します。

この電源はステップダウン型のトポロジです。使用するバッテリパックの公称電圧が12Vであるのに対し、システムの電子回路は公称3.6Vで動作するからです。このようなDC-DCスイッチングレギュレータの回路図を図2に、部品リストと定数を表2に示します。制御ループで電圧を制御している間、トランスの1次側に接続されたフォトカプラのLEDに定電流を流す必要があります。この電流の下限は、低バイアス電流におけるフォトカプラのCTR (10mAで63%、1mAで22%)と応答時間の短縮(20mAで2µs、5mAで6.6µs)で決定されます。

図2. 絶縁型PFMフライバックDC-DCコンバータの回路例

図2. 絶縁型PFMフライバックDC-DCコンバータの回路例

表2. PFMフライバックDC-DCコンバータの部品リスト
Reference
Values
Description
Manufacturer
C2
470µF 25V
CEL 470µF, 25V, +105°C, 10mm x 10mm SMD
UUD1E471MNL1GS (Nichicon®)
C10
180pF
CS 180p C COG, 50V 0603/1
GRM39 COG 181 J 50 PT (Murata®)
C1, C4, C7
100nF 16V
#CSMD 100nF K X7R 16V 0603/1
GRM39X7R104K16PT (Murata)
C5, C8
100µF 16V 0.1Ω
CEL TAN 100µF ±20% E 16V 0.1Ω
T495D107K016ATE100 (Kemet®)
C6 100pF
CS 100p C COG 50V 0603/1
GRM39 COG 101 J 50 PT (Murata)
C3 1nF 50V
#CS 1n M X7R 50V 0603/1
GRM39 COG 271 J 50 PT (Murata)
C9 150pF
CS 150p C COG 50V 0603/1
GRM39 COG 151 J 50 PT (Mutata)
D1 MBRS230LT3G
D Schottky 2A, 30V SMB
MBRS230LT3G (ON Semiconductor®)
D2 MBRA160T3G
D Schottky 1A, 60V SMA
MBRA160T3G (ON Semiconductor)
L1 22µH 1.2A 0.19Ω
L SMD 22µH, 1.2A, 0.19Ω
SRR0604-220ML (Bourns®)
M1 IRFR120
Q IRFR120 DPAK 8.4A, 100V, 0.270Ω, nMOS
IRFR120 (Int. Rectifier)
R1, R6
680Ω
RS 680R J 1/16W 0603/1
RK73B 1J T TD 680 J (KOA Speer®)
R9, R2
100kΩ
#RS 100K F 1/16W 0603/1
RK73H 1J T TD 1003 F (KOA Speer)
R3 10Ω
#RS 10R J 1/16W 0603/1
RK73B 1J T TD 100 J (KOA Speer)
R4 4.7kΩ
#RS 4K7 J 1/16W 0603/1
RK73H 1J T TD 4701 J (KOA Speer)
R5 390kΩ
#RS 390K F 1/16W 0603/1
RK73H 1J T TD 3903 F (KOA Speer)
R7 0.047Ω
RS R047 J 1206 /1
SR73 2B T TD R047 J (KOA Speer)
R10 270kΩ
RS 270K F 0603 /1
RK73H 1J T TD 2703 F (KOA Speer)
R11 820kΩ
RS 820K F 0603 /1
RK73H 1J T TD 8203 F (KOA Speer)
R8 100Ω
#R SMD 100R-J 1206/1
RK73B 2B T TD 101 J (KOA Speer)
T1 EP10 3F3
T SMD EP10 3F3 NUCTOR
CSHS-EP10-1S-8P-T (Ferroxcube®-Nuctor)
U1 MAX1771
DC-DC controller
Analog Devices
U2 TLV431A
U TLV431A V.REF 1.25V SOT23-5
TLV431ACDBVR (Texas Instruments)
U3 SFH6106-2
#U SFH6106-2 OPTO 63-125%, 5.3kV SMD-4
SFH6106-2 (Vishay®)

出力の抵抗分割器(抵抗R5とR11)の消費電流は7µAに固定されます。そのため、リファレンス入力で必要とされる0.5µAの電流や熱による電流の変動が出力電圧に大きな影響を与えることはありません。また、入力の静電容量が小さいため、出力の抵抗分割器で測定される電圧に遅延が発生することもありません。このため、高精度リファレンスの入力静電容量を小さくするため容量分割器を入れる必要もありません。フォトカプラではフォトトランジスタが60µAを消費するので(|IFB| < 60nA)、LEDを流れる電流は230µA以下(CTR~26%)となります。

すべてを制御する

PFMコントローラを使うにあたって必要なタイミングは、BiCMOSのステップアップスイッチモード電源コントローラMAX1771 (U1)で生成することができます。スイッチング周波数が300kHzで小型インダクタを使うことができ、電流制限付きPFM制御方式により幅広い負荷電流範囲で90%の効率が可能であり、最大供給電流が110µAにすぎないなど、MAX1771はさまざまな点で従来のパルススキップ型制御ソリューションよりも優れています。そのほかにも、非絶縁型アプリケーションにおいて、30mA~2Aの負荷電流において90%の効率が得られる、最大で24Wの出力に対応し、入力電圧が2V~16.5Vに対応するという特長を持ちます。

電圧制御ループの抵抗は可能な限り大きな値としてありますが、これは消費電流とループ安定度のトレードオフを勘案した結果です。このような値を選んだ結果、抵抗分割器を流れる電流は7µA以下となりました。フィルタリングコンデンサは理想的とはいえないため、この電流にコンデンサの漏れ電流を合算する必要があります。この設計では、C5とC8のフィルタコンデンサの漏れ電流は20µA以下です。漏れ電流をより小さくする必要がある場合は、これらのコンデンサを上位の100µF、6.3V、X5R、1206サイズのセラミックコンデンサ(Kemet C1206C107M9PAC)に変更することもできます。セラミックコンデンサなら、フィルタリングコンデンサにおける漏れ電流を数マイクロアンペアまで落とすことができます。ただし、セラミックコンデンサのコストはタンタルコンデンサの約3倍であり、この差がシステムコストを増加させることに注意してください。

図3はPFM DC-DCコンバータの試作基板ですが、この自己消費電流は0.24mAしかありません。基板サイズは50mmx 30mm以下で、10V~15Vの入力電圧において(公称12V) 3.6Wを供給することができます。スイッチング周波数は300kHzです。3.6Vに出力電圧を制御しつつ、最大で1Aの電流を定常的に流すことができます。なお、このコンバータは電流と電圧のフィードバック制御機能を持つフライバックトポロジ(ステップダウン)を採用しており、直流的に入出力が絶縁されています。

図3. 無線アプリケーション用PFM DC-DCコンバータ試作基板

図3. 無線アプリケーション用PFM DC-DCコンバータ試作基板

この試作回路は、不連続送信モードで動作するさまざまな無線アプリケーションで使用することができます。このようなモジュールはピーク値で3A、最大で平均1Aという電流を消費します。無線性能の低下を回避しつつピーク電流を引き下げるため、リファレンスの2と3に記述されている方法を採用しました。また、基本的に直列抵抗の小さな大容量コンデンサを使うべきだと考えられます。

設計性能を検証する

この電源の性能を検証するために、入力電圧(VIN)、入力電流(IIN)、公称出力電圧(VOUT)、負荷電流消費(IOUT)、および電源効率を測定しました。コモンモード入力フィルタの損失と保護回路の損失を含んだ測定結果を表3と表4に示します。なお、低電力を取り扱う電源は重負荷用電源ほど高効率とならない点にご注意ください。重負荷用電源は同期型であることが多く、そのため能動素子における損失が小さくなります。

表3. 入力電圧の違いによる無負荷時消費電流の変化
VIN
(V)
IIN
(mA)
VOUT
(V)
IOUT
(A)
10.0
0.244
3.615
0
12.0
0.239
3.615
0
15.0
0.227
3.615
0

PFM制御方式を採用したこの電源の消費電流は、0.24mAと低く抑えられています。ただし、このアーティクルで採用した部品定数の場合、負荷条件によって制御ループが発振するおそれがあります。自己発振を避けるために、製造環境においてはさまざまな側面から部品に余裕を持たせる必要があります。制御ループで使用する抵抗やコンデンサの値には注意が必要です。

表4を見ると、負荷が変動した際、電源の入力と出力パラメータがどのように変化するのかが分かります。効率が最大となるのは、通常の条件で公称の負荷範囲に入っている場合です。

表4. 公称電圧における効率と負荷の関係
VIN
(V)
IIN
(mA)
VOUT
(V)
IOUT
(A)
Efficiency
(%)
12.0
0.24
3.615
 0 0
12.0
61
3.615
 0.14 69.14
12.0
83
3.615
0.2 72.59
12.0
121 3.615
0.3 74.69
12.0
160 3.615
0.4 75.31
12.0
200
3.615
0.5 75.31
12.0
240
3.615
0.6 75.31
12.0
281
3.615
0.7 75.04
12.0
323
3.615
0.8 74.61
12.0
367
3.615
0.9 73.88
12.0
411
3.615
1.0 73.30

無負荷時におけるDC-DCコンバータの効率は、計算上、ゼロとなります(図4)。無線機器がスタンバイモードに入ったとき、3.6Vの出力側において消費される電流が140µA以下と非常に小さいためです。この電流は、無負荷時、電源の入力側で消費される0.24mAという電流と比較して無視できるほど小さい値です。

図4. 公称入力電圧(12V)における負荷と電源効率の関係

図4. 公称入力電圧(12V)における負荷と電源効率の関係

図5a. 無負荷時の出力電圧と制御電圧(10ms/div、CH1 1V/div、CH2 5V/div)

図5a. 無負荷時の出力電圧と制御電圧(10ms/div、CH1 1V/div、CH2 5V/div)

図5b. 0.1A負荷時の出力電圧と制御電圧(20ms/div、CH1 1V/div、CH2 5V/div)

図5b. 0.1A負荷時の出力電圧と制御電圧(20ms/div、CH1 1V/div、CH2 5V/div)

図5c. 0.5A負荷時の出力電圧と制御電圧(20ms/div、CH1 1V/div、CH2 5V/div)

図5c. 0.5A負荷時の出力電圧と制御電圧(20ms/div、CH1 1V/div、CH2 5V/div)

図5a、図5b、図5c、図5dの波形は、異なる負荷(無負荷、100mA、500mA、1A)を接続した際の出力電圧と制御電圧を示したものです。負荷が大きくなると、スイッチングデバイスのゲートに対する制御パルスの印可頻度が上がることが分かります。オシロスコープのトレースを見ると、PFM制御方式の動作を視覚的に把握することができます。下側のトレースは見やすいように5xにスケーリングしてあります。なお、X軸は時間、Y軸は電圧を表します。

図5d. 1A負荷時の出力電圧と制御電圧(20ms/div、CH1 1V/div、CH2 5V/div)

図5d. 1A負荷時の出力電圧と制御電圧(20ms/div、CH1 1V/div、CH2 5V/div)

まとめ

電子機器業界で一般に使用されており、無負荷時の消費電流を抑えることができるとされる電源用絶縁型DC-DCコンバータを調べた結果、少なくとも20mA程度の電流を消費することが分かりました。これに対してPFM方式を採用した電源であれば、消費電流を最低レベルに抑えた低IQの絶縁型電源を比較的簡単に作ることができます。このアーティクルで紹介した電源の場合、無負荷時の消費電流はわずかに0.24mAとなりました。

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