ADC 入力の保護

2017年04月01日
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ADC 回路の設計時に発生する共通の問題は、ADC 入力を過電圧からどのように保護するかということです。ADC 入力の保護には数多くのシナリオがあり、考えられるソリューションも数多くあります。どのメーカーの ADC も、この点では同じ課題を抱えています。この記事では、どのような問題がどのようにして生じるのかを考察し、講じ得る対策を検討します。

一般に ADC 入力のオーバードライブは、駆動アンプのレールが ADC の最大入力範囲より著しく大きいときに発生します。例えば、アンプの動作範囲が ±15 V で、ADC の入力範囲が 0 V ~5 V の場合です。これは特に、±10 V の入力を受け入れるために高電圧レールを使用する工業用設計や、PLC モジュールなどのADC 前段の電力信号コンディショニング/ドライバ段によく見られます。このような駆動アンプのレールに不具合が生じると、最大定格値を超えたり、マルチ ADC システムにおける同時変換やその後の変換を妨げたりすることによって、ADC を損傷させてしまうおそれがあります。この記事では AD798x ファミリーのような高精度 SAR ADC の保護に焦点を当てていますが、他のタイプのADC にも適用することができます。

図 1 に示すケースを考えます。

図 1. 高精度 ADC 設計の代表的な回路図

この回路は、AD798x ファミリー(例えば AD7980)の PulSAR® ADCに見られる代表的なものです。入力、リファレンス、グラウンドの間には保護ダイオードがあります。これらのダイオードは130 mA までの高電流に対応できますが、対応可能な時間は数ミリ秒に過ぎず、これ以上の長い時間や繰り返しの過電圧には耐えられません。AD768x/AD769x ファミリーのデバイス(例えば AD7685AD7691)など、一部の製品では、保護ダイオードが REF ピンではなく、VDD ピンに接続されています。これらのデバイスでは、VDD 電圧が常に REF 以上の値になります。一般に、クランピングに関しては VDD の方がレールとしては確実であり、外乱に対してそれほど敏感ではないので、より良好に動作します。

図 1 において、アンプが +15 V レールにスイングしようとすると REF への保護ダイオードがオンになり、アンプは REF ノードの電圧を上げようとします。REF ノードが強力なドライバ回路によって駆動されているのでない場合は、REF ノード(および入力)の電圧が絶対最大定格より高くなり、電圧がそのプロセス上にあるデバイスのブレークダウン電圧を超えると ADC が損傷するおそれがあります。ADC ドライバが 8 V にレール動作し、リファレンス電圧(5 V)がオーバードライブされた例について、図 3 を参照してください。多くの高精度リファレンスはシンク電流能力を備えておらず、それがこのシナリオにおける問題となります。あるいは、リファレンス駆動回路はリファレンスをその公称値に近い値に保持できるだけの十分に強力なものですが、やはり、その正確な値から外れてしまいます。

1 つのリファレンスを共有して同時サンプリングを行うマルチADC システムでは、システムがきわめて正確なリファレンス電圧に依存しているので、他の ADC 上での変換が不正確になります。異常状態からの復帰時間が長い場合は、その後の変換も不正確なものとなります。

この問題を緩和するために用いられる方法が複数あります。最も一般的なのは、ショットキー・ダイオード(BAT54 シリーズ)を使用して、アンプの出力を ADC のレンジ内にクランプする方法です。図 2 と図 3 を参照してください。アプリケーションのニーズに適うならば、ダイオードを使用して入力をアンプにクランプすることも可能です。

図 2. ショットキー・ダイオードとツェナー・ダイオードによる保護機能を追加した高精度 ADC 設計の代表的回路図

 
 

図 3. 黄色 = ADC 入力、紫 = リファレンス。左はショットキー・ダイオードなし、右はショットキー・ダイオードあり。

この場合は順方向電圧降下が低いショットキー・ダイオードを選択して、ADC の内部保護ダイオードより前にショットキー・ダイオードがオンになるようにします。内部ダイオードがわずかにオンになっている場合は、ショットキー・ダイオードの後にある直列抵抗も ADC への電流を制限する助けとなります。リファレンスがシンク機能をほとんど持っていない場合、あるいはまったく持っていない場合は、追加的な保護機能として、リファレンス・ノードにツェナー・ダイオードまたはクランプ回路を使用して、リファレンス電圧が高くなり過ぎないようにすることができます。図 2 では、5 V のリファレンスに対して 5.6 Vのツェナー・ダイオードが使われています。

ADC 入力を正弦波でオーバードライブしたときに、ADC 入力にショットキー・ダイオードを追加することによるリファレンス入力(5 V)への影響を、図 4 に例示します。ショットキー・ダイオードは、グラウンドと、電流をシンクできる 5 V のシステム・レールに接続されています。ショットキー・ダイオードがないと、入力がダイオードの電圧低下分だけリファレンスとグラウンドを超えたときに、リファレンスに乱れが生じます。図からわかるように、ショットキー・ダイオードを使用すれば、リファレンスの乱れを完全になくすことができます。

図 4. 黄色 = ADC 入力、緑 = ADC ドライバ入力、紫 = リファレンス(AC カップリング)。左の図はショットキー・ダイオードなし。右の図はショットキー・ダイオード(BAT54S)を追加。

ショットキー・ダイオードの逆方向リーク電流は、通常動作時に歪みと非直線性を発生させるので、注意が必要です。この逆方向リーク電流は温度に大きく左右され、通常はダイオードのデータシートに仕様規定されています。BAT54 シリーズのショットキー・ダイオード(25 ºC で最大 2 µA、125 ºC で約 100 µA)は、望ましい選択肢と言えます。

過負荷に関する問題を完全になくす 1 つの方法は、アンプに単電源レールを使用することです。これは、リファレンス電圧に同じ電源レベルを使用した場合(最大入力電圧、この場合は 5 V)、駆動アンプが、グラウンド未満の値または最大入力電圧を超える値にはスイングし得ないことを意味します。リファレンス回路が十分な出力電流とドライブ強度を有している場合は、リファレンス回路を使用して直接アンプに電源を供給することも可能です。もう 1 つの可能性は、図 5 に示すようにわずかに低いリファレンス値を使用することで(例えば、5 V レール使用時は4.096 V)、これによって電圧オーバードライブ能力を大幅に下げることができます。

図 5. 単電源高精度 ADC 設計の代表的な回路図

これらの方法は、入力のオーバードライブに関するあらゆる問題を解決しますが、その代償として、ヘッドルーム条件とフットルーム条件のために、ADC に対する入力スイングとレンジが制限されてしまいます。通常、レール to レール出力アンプは数十 mV 以内のレール範囲をとることができますが、バッファとユニティ・ゲイン構成では入力ヘッドルームによってさらにスイングが制限されるため、1 V 以上になることもある入力ヘッドルーム条件を考慮することも重要です。この方法は、他にコンポーネントを追加する必要がないという点で最もシンプルなソリューションを提供しますが、正確な電源電圧に依存しており、さらにレール to レール入力/出力(RRIO)アンプが必要になる場合もあります。

アンプと ADC 入力間の RC フィルタ内にある直列抵抗 R を使用して、過電圧状態時に ADC 入力に現れる電流を制限することもできます。ただしこれは、電流制限と ADC 性能のトレードオフになります。直列抵抗 R の値を大きくすれば入力保護機能を向上させることができますが、その結果 ADC 性能における歪みは大きくなります。このトレードオフは受け入れ得るものであり、特に入力信号帯域幅が低い場合や、ADC をフル・スループットで使用しない場合はより大きな直列抵抗 R を許容できるので、トレードオフの条件は有利になります。アプリケーションに使用できる R の抵抗値は、実験で求めることができます。

前述のように、ADC 入力を保護するにあたって特効薬的なソリューションはありませんが、アプリケーションの条件に応じて、個別の方法やそれらの組み合わせによるさまざまな対策を講じることにより、それぞれに対応するトレードオフの下で、希望するレベルの保護を実現することができます。

著者について

Alan Walsh
Alan Walshは、アナログ・デバイセズのシステム・アプリケーション・エンジニアです。1999年に入社し、マサチューセッツ州ウィルミントンの高精度計装グループに在籍しています。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン校を卒業し、電子工学の工学士号を取得しました。

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