相対的な電圧に関わらない任意の優先順位での電源の選定:マイクロプロセッサ不要

2013年07月01日
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そのアプリケーションには複数の入力電源がありますか?主電源と同じ、もしくはそれよりも高い電圧の2次電源が1つ以上ありますか?主電源より高い電圧の2次電源が存在する場合にも、必ず主電源を出力へ供給する方法はありますか?入力電源の切り替えにおいて、電源間のショートや逆給電をどうやって防いでいますか?同じような電圧の電源間の電流分担を防ぐ必要はありますか?ユーザが電源を逆に接続したり、過電圧の電源をシステムに接続したりする危険性はありますか?LTC4417優先順位付けPowerPathコントローラは、動作電圧範囲が2.5V~36Vと広いので、ユーザ定義の優先順位および妥当性に基づいて入力電源の接続を制御すると同時に、システムに最大±42Vの過電圧および逆電圧が加わった場合の保護を行うことにより、このような問題をすべて解決します。

3つの入力電源の優先順位付け

3入力の優先順位回路を図1に示します。ここでは、12VのACアダプタを最高の優先順位とし、14.8Vのリチウムイオン・バッテリ・スタックを2番目の優先順位、12Vの密閉型鉛(SLA)蓄電池を最低の優先順位とします。優先順位は、電源をLTC4417の対応したピンに接続することで簡単に設定されます。V1が最高の優先順位で、V3が最低の優先順位です。

図1.3入力のLTC4417による優先順位付けされた入力電源選択アプリケーション

図1.3入力のLTC4417による優先順位付けされた入力電源選択アプリケーション

LTC4417は、入力電源電圧が有効である限り、つまり、抵抗分割で設定した過電圧(OV)と低電圧(UV)の範囲内にある限り、より優先順位の高い入力電源を出力に接続します。優先順位の高い電源が有効である限り、優先順位の低い入力は、その相対的な電圧には関係なく、切断されたままになります。

高精度(±1.5%)コンパレータは、各入力のOVピンとUVピンの電圧を絶えずモニタして、入力電源が256ms 以上安定状態にあることを確認したのちに出力への接続を行います。過電圧状態または低電圧状態が検出されると、入力電源は速やかに切断されます。8µs の過電圧、低電圧フィルタ時間が組み込まれているので、誤作動の防止に役立ちます。

他の有効な入力電源に切り替えられるのは、過電圧フォルトまたは低電圧フォルトが検出されるか、より優先順位の高い電源が有効になった場合に限ります。この機能により、図1について、電圧が低く優先順位の高い12VのACアダプタが有効である場合には、それを出力に接続したままにすることができます。別の電源が出力に電力を供給している場合にも、12VのACアダプタが有効になると、それが出力に再接続されます。

LTC4417は、バック・トゥ・バックの外付けPチャネルMOSFETをスイッチとして駆動し、入力電源と出力の間の接続と切断を切り替えます。強力なゲート・ドライバにより、バック・トゥ・バックのP チャネルMOSFETは入力電源の挿入時にオフ状態に確実に保持され、大型でオン抵抗の低いPチャネルMOSFETを駆動して、安定状態の電力損失を低減し、出力の動作電圧範囲を広げます。6.2Vのゲート/ソース間クランプ電圧が内部に組み込まれているので、ゲート/ソース間酸化膜への過電圧印加を防止しつつ、一般的なロジック・レベル定格のPチャネルMOSFETを十分にオーバードライブすることが可能です。

LTC4417の重要な特長は、切り替え時に入力電源を相互導通から保護するブレーク・ビフォア・メーク回路です。ゲート/ソース間(VGS)コンパレータは、切断する側の入力電源の外付けMOSFETがオフになったことを検出してから、別の入力電源を共通の出力に接続できるようにします。接続時に出力から入力電源への逆導通を防止するため、高い出力電圧が検出されると、逆電圧(REV)コンパレータは接続を遅らせます。出力電圧が低下して、接続する側の入力電源電圧より低くなるまで接続は遅らされます。

図2は、UVフォルトが原因でLTC4417が12VのACアダプタを出力から切り離したときの状態を示したものです。切断する側の12V ACアダプタのバック・トゥ・バックPチャネルMOSFETがオフであることがVGSコンパレータによって確認されると、次に優先順位の高い有効な入力電源である14.8Vのリチウムイオン・バッテリがすぐに出力に接続されます。VGSコンパレータの動作により、切り替え中、入力電源間に相互導通も逆導通も起こっていないことが2つの入力電源電流波形で分かります。

図2.低電圧入力から高電圧入力への切り替え

図2.低電圧入力から高電圧入力への切り替え

抵抗とコンデンサ(図1のRSとCS)は、14.8Vのリチウムイオン・バッテリを出力に接続したとき、その突入電流のピーク値を14Aに制限する役目を果たします。突入電流が大きいと、入力電源のUVフォルトが発生したり、外付けMOSFETの許容尖頭ドレイン電流(IDM)を超えたり、場合によってはコネクタが損傷したりする可能性があります。RSとCS の値を大きく設定すると、切り替え時間が長くなり、その結果出力電圧が400mV低下します。RSとCSの値を大きくすると突入電流は小さくなりますが、その代わり出力電圧の低下幅が増えます。RSとCSを選択するときは、このトレードオフに十分注意してください。ショットキ・ダイオード(DS)は、高速の切断を実現します。

LTC4417が、優先順位の低い有効な14.8Vのリチウムイオン・バッテリ・スタックを切り離して、新たに有効になった優先順位の高い12VのACアダプタを出力に接続する様子を図3に示します。REVコンパレータが、初期状態で14.8Vになっている出力電圧を監視しているので、12VのACアダプタがすぐに出力に接続されることはありません。2つの入力電源電流波形で示すように、REVコンパレータは、出力電圧が12VのACアダプタの電圧以下まで放電するまで接続を遅らせ、逆電流が流れないようにします。

図3.高電圧入力から低電圧入力への切り替え

図3.高電圧入力から低電圧入力への切り替え

出力電圧が11.88Vになると12VのACアダプタが素早く接続されるので、ACアダプタからの突入電流が低く抑えられています。ACアダプタの電流波形が示すように、ACアダプタから供給される電流は、2Aの負荷電流と、VOUTを充電するためのわずかな電流の和です。

優先順位付けされた低ICCによる消費電力の最小化

LTC4417の最大動作電流はわずか28µAであり、この電流のうち可能な限り多くの電流が、最も優先順位の高い有効な電源から流れます。通常動作時は、VOUTが2.5Vより高くなると、電源電流の半分を超える量が出力から流れます。VOUTが2.5Vより低いとき、動作電流は最も優先順位の高い有効な入力電源から流れ、残りの電源電流は、最も電圧の高い入力電源から流れます。LTC4417は、優先順位の低い入力電源の電圧が出力電圧より低い場合、それらの入力電源からはほとんど電流を消費しません。

SHDNを強制的に“L” にすると、デバイスは一時停止モードになります。このモードでは、消費電力を節減するため過電圧コンパレータおよび低電圧コンパレータに電力が供給されず、すべての入力電源が無効になります。この状態では、電源電流は最も電圧の高い電源から流れます。

出力のソフトスタート

電圧が高い入力電源を、電圧が低い出力コンデンサに急に接続すると、大きな突入電流が流れることがあります。出力電圧が0.7Vより低い場合、LTC4417はVOUTをソフトスタートさせることにより、突入電流を最小限に抑えます。

LTC4417 が12VのACアダプタから電力を受け、最初は放電されていた120µFの出力コンデンサの電圧をソフトスタートで立ち上げた場合の入力電流と出力電圧の波形を図4に示します。図に示すように、入力電流のピーク値は500mAに制限されます。

図4.出力のソフトスタート

図4.出力のソフトスタート

出力がその最初の電源に接続された後、似たような電圧の複数のシステムでは、入力電源の切り替え時に入力電圧と出力電圧がそれぞれほぼ同等なので、チャネル変更時の突入電流が最小限で済みます。このため、入力電源電圧が近いシステムでは、図1に示すRS、CS、およびDS による突入電流制限回路を省略することができます。

過電圧、低電圧、および逆電圧の挿入に対する保護

電源が物理的に抜き差しされるアプリケーションでは、電源の不適切な挿入や故障した電源の挿入が起こる可能性があります。故障したACアダプタが挿入されると、損傷の可能性がある過電圧にシステムがさらされることがあり、バッテリを不適切に挿入すると挿入時に逆電圧が加わることがあります。電圧の仕様が異なる標準化されたコネクタの普及によって、さらに頻繁にこうした間違いが起きる可能性がでてきました。±42Vに対応できるよう設計された入力電源ピン(V1~V3)を備えているので、LTC4417に必要なことは、入出力間での想定される電圧変位より大きなBVDSS 定格を持つP チャネルMOSFETを選択するだけで、過電圧、低電圧、および逆電圧の入力電源の挿入からシームレスに保護することが可能です。

完全な入力フォルト挿入保護システムを図5に示します。LTC4417 は、–42V~42Vの入力電圧範囲でデバイス自体を保護します。最悪の場合の電圧変位にも耐えられるよう、BVDSS が–40VのFDD4685というPチャネルMOSFETが選択されています。挿入時には、256ms のデグリッチ・タイマにより、強力なゲート・ドライバが、最初に外付けMOSFETを確実にオフに維持します。入力電圧が20Vより高い場合に推奨されるトランジェント電圧サプレッサ(TVS)ダイオードにより、LTC4417の絶対最大定格電圧である±42Vをトランジェント電圧が超えないことが保証されます。 27Vの強制的なV1過電圧ステップと、その後の–27V逆電圧ステップを、LTC4417が11.1Vのリチウムイオン・バッテリ・スタックおよび出力から遮断している様子を図6に示します。説明を簡単にするため、図5には突入電流制限回路を示していません。.

図5.逆電圧保護機能を備えた24Vアプリケーション

図5.逆電圧保護機能を備えた24Vアプリケーション.

図6.過電圧および逆電圧の遮断

図6.過電圧および逆電圧の遮断

高インピーダンスの入力電源アプリケーション

すべてのバッテリおよびコンデンサに存在する内部直列抵抗により、負荷電流が存在すると動作電圧を低下させる電圧降下が発生します。負荷電流をなくせば、この電圧降下から電圧源を回復させることができます。一部のバッテリおよびコンデンサは、低電圧フォルトによって負荷電流が切り離されると、数百mV程度の電圧上昇を起こします。ヒステリシスが不十分な場合、入力電源はその有効な電圧範囲内に戻り、再度接続されることがあります。

こうした状況では、LTC4417を使用することにより、外付け抵抗RHYSを流れるヒステリシス電流のイネーブルおよび設定が可能です。

ヒステリシスが組み込まれると、RHYSを流れる電流の1/8がOVとUVの抵抗分割器に流れてヒステリシス電圧が発生します。抵抗分割の値を調整するか、OVピンおよびUVピンと直列に抵抗を追加するか、あるいはその両方を行うことにより、各入力電源の内部抵抗特性に合わせて個々のヒステリシス電圧を調整し、回復後の誤った再接続を防止することができます。

12VのACアダプタに約200mVのOVヒステリシスおよびUVヒステリシスを発生させるための抵抗分割器R1~R3と、これらに流れる245nAのヒステリシス電流を設定する255kΩ の抵抗RHYS を図7 に示します。抵抗によるT型構造(R4~R7とR8~R11)を使用して、リチウムイオン・バッテリの端子において、独立したOVヒステリシス電圧およびUVヒステリシス電圧である201mVおよび390mVをそれぞれ設定しています。

図7.ヒステリシス電圧の設定

図7.ヒステリシス電圧の設定

任意の数の電源の優先順位付け

LTC4417は、カスケード接続することにより、任意の数の入力電源に対して優先順位を付けることが簡単にできます。2つのLTC4417について図8に示すように、カスケード接続されたすべてのLTC4417のVOUTピンを単純にシステムの出力に接続し、優先順位の高いいずれかのLTC4417 のCASピンを次に優先順位の高いLTC4417のENピンに接続します。LTC4417を追加する場合は、そのCASピンとENピンをデイジーチェーン接続すればカスケード接続が可能です。最も優先順位の高いLTC4417 のENピンを“L” にすると、すべての入力電源が共通の出力から切り離されます。最も優先順位の高いLTC4417 のSHDNピンを“L” にすると、そのLTC4417はディスエーブルされ、シリアル・チェーン内にある次のLTC4417が出力を制御できるようになります。

図8.カスケード接続アプリケーション

まとめ

高電圧(2.5V~36V)、3入力のLTC4417 優先順位付けPowerPathコントローラは、使いやすく堅牢で、電圧に関係なく、さまざまな入力電源からアプリケーションを自律的に給電することができます。電源電流の供給が自動的に優先順位付けされるので、優先順位の低い入力電源の寿命が長くなり、同時に、制御された切り替えにより、切り替え時に入力電源がショートおよび逆電流から保護されます。

±1.5%の高精度過電圧および低電圧コンパレータによる入力電源の継続的モニタ、256msの入力デグリッチ時間、6.2Vのクランプ回路を内蔵した強力なゲート・ドライバなどの重要な特長により、故障した入力電源からの過電圧保護、低電圧保護、および逆電圧保護が有効になります。

抵抗分割で規定した過電圧および低電圧作動点、調整可能な電流モード・ヒステリシス、外付けの突入電流制限回路、および外付けのバック・トゥ・バックP チャネルMOSFETにより、LTC4417は多数のアプリケーションに適用することが可能です。LTC4417は、24ピンGNパッケージおよびリードレスの4mm×4mm QFNパッケージで供給されます。いずれのパッケージもCグレード、Iグレード、および–40ºC~125ºCのHグレードで供給されます。

データシート、デモボード、およびその他のアプリケーション情報については、www.analog.com/LTC4417 にアクセスしてください。

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Sam Tran

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