要約
このアプリケーションノートでは、G3-PLCベースの自動化システムの利点について検討し、現実の例としてトンネルでの電力使用量の低減および保守コストの削減を実現したシステムを示します。基本的なシステムの設計について説明し、主要な性能上のパラメータについて検討します。PLCによる自動化に最適化されたトランシーバを紹介します。
この記事の類似バージョンが、「Power Systems Design」誌の2011年9/10月号に掲載されています。
はじめに
街路照明には、道路照明、トンネル照明、駐車場照明、市街地照明など多数の形態があり、電気の主な消費原因の1つになっています。実際、現在すべての屋外照明は全世界の電気使用量の19%を占めると推定されています。地方自治体や大規模な施設を持つ企業にとって、街路照明は事業経費のかなりの部分に相当します。また、街路照明は公共の安全にとっても非常に重要な要素です。街路照明を高信頼性かつ歩行者や自動車の通行に最適な照度レベルで確実に点灯させることは、公共の安全およびオペレータの責任の面で非常に重要です。その結果、電力使用量、動作の信頼性、および保守コストに対するあらゆる改善は、その街路照明を担当する組織に大幅な利益をもたらします。もちろん、電力使用量の減少にともなって、環境とっても利益が増大することは明らかです。
電力線通信(PLC)は、街路照明ネットワークを自動化するための自然な選択肢です。PLCによって、企業や地方自治体は運用コストを削減し安全性を向上させることができます。G3-PLCは、グリッドの自動化用に設計された新しいOFDMベースのPLCシステムで、電力線通信の範囲、データレート、および性能を大幅に拡張します。このアプリケーションノートでは、G3-PLCベースの自動化システムの利点について検討し、現実の例としてトンネルでの電力使用量の低減および保守コストの削減を実現したシステムを示します。基本的なシステムの設計について説明し、主要な性能上のパラメータについて検討します。PLCの自動化向けに最適化されたトランシーバを紹介します。
環境およびオペレータにとっての利益を約束するPLCシステム
G3-PLCシステムは、街路照明のネットワークに通信を追加するための簡単なソリューションを提供します。この双方向通信によって、以下のような先進的な自動化が可能になります。
- 位置、天文暦、および気象条件に基づく高精度のオン/オフ時間
- 早朝/夕刻および深夜の省電力調光
- 調光を通したトラフィック制御
- トラフィック監視
- ランプ不良の通知
- 温度、電流、PF、または動作時間に基づくランプ保守の通知
- 非常時のオン/オフ/輝度制御
- 消費電力量のリアルタイム監視
PLCは、無線通信システムと比較して一連の優位性を実現します。無線と同様に、新しい配線は不要です。しかしPLCの場合、地下、壁越し、および曲がり角の向こうでも通信が維持されます。通信チャネルはオペレータまたは電力会社が所有しているため、帯域幅を共有するリスクはありません。PLCは直線見通しという制約がなく、天候の影響も受けません。さらに、PLCは電力線を使用するため、断線の発生およびそのおよその位置を検出することができます。
トンネルの照明:現実におけるPLCの例
PLCによる節約は、電力使用量および保守コストの低減という形で現れ、これらはかなりの規模になる可能性があります。新しいPLCシステムの例を考えてみましょう。この技術は現在Nyx Hemera Technologies社によってトンネルの照明に使用されています。同社のトンネル照明制御システム(TLACS)は、蛍光灯照明に関して25%の省エネ化を実現し、保守コストを30%低減します。トンネルの入り口と出口での照度レベルを外部に合わせることで、安全性を大幅に向上させます。
TLACSシステムはマキシムのOFDM PLC製品に基づいており、長距離の電力線によって大幅に減衰された信号を(たとえ信号レベルがノイズより低い場合でも)受信することができます。マキシムのソリューションが持つアドレス能力と高速データレートにより、Nyx Hemera Technologies社は1つのシステムで最大1022の照明をサポートすることができます。TLACSシステムは3kmまでの配線長に対応し、電力線を使用するため、モジュール型であり既存の照明システムに容易に導入することができます(図1)。
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図1. PLC技術の構成。Nyx Hemera Technologies社のTLACSシステムでは、ローカルコントローラがPLCを内蔵し、ACライン上でネットワークコントローラと通信して、標準DALIインタフェースを使用して個々のランプを制御します。
照明自動化システムの最適化
照明自動化システムの性能および機能は、PLCシステムの通信範囲、データレート、ノイズ耐性、およびルーティング能力によって決まります。
標準的な街路照明技術を、下図に示します(図2)。ファイバーや2G/3GワイヤレスなどのWAN接続を備えたコンセントレータモデムは、個々のランプを制御するモデム(またはノード)のネットワークと通信します。PLCモデムの通信範囲によって、コンセントレータが直接通信することができるノード数が決まります。そのノード数が多いほど、システムの効率は向上します。
電力線上での通信範囲は、信号の電力を分散させる支線数、周波数とともに変化する減衰、およびライン上に存在するスイッチング電源/モータ/その他の電力消費機器による干渉など、複数の要因による影響を受けます。電力線上のノイズは動的に変化するため(すなわち、ノイズ源が時間によってオン/オフされるため)、自動化システムがその基本機能を維持する上でノイズ耐性は非常に重要です。ルーティング機能をノードに組み込むことによって、メッシュネットワークを確立し、コンセントレータと接続されたノードがコンセントレータおよびさらに遠距離のノードとの間でメッセージを転送することによりネットワークを拡張することが可能になります。メッシュネットワークは1つのコンセントレータで対応可能なネットワークを大幅に拡張することができますが、目的のサービスについて維持することができるサイズは電力線のデータレートによって決まります。街路照明用のメッシュネットワークではネットワークからコンセントレータへのチャネルが1つのみのため、転送されるすべてのメッセージが1つ以上の共有リンクを通って伝送される必要があり、それがシステムのボトルネックになります。
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図2. 標準的な自動化された街路照明ネットワークトポロジの例
MAX2992は、G3-PLCに準拠したトランシーバです。PLCシステムの通信範囲、データレート、ノイズ耐性、およびルーティングの要件に適合する先進的機能を通して、街路照明の自動化のためのトップクラスの性能を提供します。MAX2992は低周波帯PLCに関するIEEE® P1901.2暫定規格を実装し、ITU G.9955/G.9956 G3-PLC規格に準拠しています。DBPSK、DQPSK、およびD8PSKを使用する変調は、FCCバンド(10kHz~487.5kHz)で最大300kbpsのデータレートを可能にします。堅牢モードは、信号対ノイズ比(SN比)が-1dBの場合にも通信を維持します。このトランシーバはダイナミックリンクアダプテーションを採用しており、チャネルの条件に基づいて最適な変調方式およびデータレートを自動的に選択します。さらに、適応型トーンマッピングは最もノイズの少ないサブバンドを選択することによって干渉源を回避します。これはさらに、より高次の変調が自動的に最も高速のデータレートを達成することにつながります。自動的な関連付け機構は、ノードが追加または除去された場合にメッシュネットワークの設定を行います。メッセージが通信される際に、動的ルーティング機構はネットワーク上の最適なルーティング経路を特定し更新します。
街路照明ネットワークの容量および性能は、トランスの位置と数を含む電力線のトポロジ、電力線上の各種条件、選択された周波数帯、およびメッセージの頻度によって決まります。MAX2992のデータレートは、DB8PSK変調を使用する場合、FCCバンド全体(10kHz~487.5kHz)で最高300kbpsです。FCCバンドは、米国および他の多くの国々で使用されています。電力線トランス経由または長距離の通信を行う場合、減衰によってSN比が低下します。MAX2992は標準データレート150kbpsのDQPSKへの切替えを自動的に行います。
街路照明ネットワークのトポロジは、通信の範囲とメッシュネットワークの構成に影響します。電力線の支線は、PLC信号の分散によって通信範囲を狭めるとともに、メッシュ内の分岐を追加します。さらに、ネットワークの管理方法はネットワークの性能に深く関わります。コンセントレータによってノードがポーリングされるネットワークでは、予測可能なメッセージの遅延が発生します。各ノードが必要に応じて送信するネットワークでは競合が避けられず、可変の遅延が発生します。トポロジとラインの状態はネットワークの性能に大きく影響するため、特定のネットワークの容量と性能を見積もることは困難です。結果として、特定のネットワークのプロビジョニングは、目的のメッセージ頻度およびネットワーク管理システムを使用したテストで収集されたデータに基づいて行ってください。
街路照明アプリケーションでは、予測可能なメッセージ遅延の方が可変のメッセージ遅延よりも一般的に有利です。この場合、コンセントレータによるノードのポーリングが推奨されます。ラウンドロビン型ポーリング方式を使用する場合、コンセントレータ当りのノード数が多いほど、1つのノードに対するメッセージの間隔が長くなります。ライトの調光制御やトラフィックレベルの確認などの照明自動化はスケジュール化されたイベントのため、予想可能なメッセージ遅延をスケジュールの中で補償することが可能です。
利点の実現
大規模ネットワークでのG3-PLCシステムの利点は、次の計算によって示されます。G3-PLCを10kHz~490kHzのFCCバンド用に使用する場合、ポイント間のメッセージ時間は0.017秒で、その間に約180バイトのペイロードデータが送信されます。平均80m間隔の1000個のランプからなる大規模なネットワークの場合、総ライン長は80kmになります。
距離やトランスによってPLC信号は減衰するため、コンセントレータは個々のノードと直接通信することはできません。この場合、G3-PLCのメッシュネットワーク機能により、ノードをフォワーダにしてコンセントレータと個々のノード間でメッセージの転送を行うことが可能です。この例では、7つのフォワーダが使用されています(表1)。転送の平均遅延時間を0.005秒とし、1つのコンセントレータがすべてのノードのポーリングを行う場合、コンセントレータが1つのメッセージを個々のランプに送信するための合計時間は10分になります。この間隔で、オペレータはランプを作動させたり、個々のランプの位置(たとえば、丘の上、地下道の中、または窪地など)に応じて調光レベルを変更することができます。すべてのランプにアクセスする必要がある場合でも、遅延の最大値は10分です。非常時の「オン」コマンドのように、すべてのランプに同一のコマンドを送信する必要がある場合、0.2秒以下ですべてのランプに到達するブロードキャストコマンドを使用することができます。
表1. 7つのフォワーダを使用してメッシュネットワーク内の1000個のランプをポーリングする場合の時間 | |||
Total Lamps | Forwarders | Message Time (s) | Time to Send One Message to Each Node (s) |
1000 | 7 | 0.017 | 588 (10 min.) |
結論
街路灯メーカー、オートメーションインテグレータ、および通信OEM各社は、電力の節約、保守コストの削減、およびオペレータと環境にとって短期間での投資回収を実現する街路照明システムを配備するために、PLCを使用したソリューションを開発しています。MAX2992 PLCトランシーバは、自動的な関連付け、最適なルーティング経路の選択、トランス越しの通信、およびIPv6ネットワークのサポートを備えています。これらの最適化された能力により、自動化された街路照明システムの配備が大幅に簡素化されます。このデバイスは最先端の性能を提供し、より大規模なネットワーク、さらなる節約、および安全性の向上を可能にします。
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