簡略化された電源シーケンシング

2015年12月07日
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デザインノート1037:はじめに

複数の電源システムを設計するのは、難易度の高い課題です。電源レールを個々に追加すると電源設計者の負担は増加します。設計者は、協調電源シーケンシングおよびタイミングの動的環境、パワーオン・リセット信号の生成、フォルトのモニタリングと適切な応答によるシステムの保護を検討する必要があります。経験豊富な設計者は、プロジェクトが試作品から量産に移行していくのにつれてその浮き沈みにうまく対応する鍵は柔軟性であることを認識しています。理想的な解決策は、開発期間中、ハードウェアとソフトウェアの変更回数を最小限に抑えることです。

理想的な多電源設計ツールは、設計回路に最初から最後まで存在する単一のICで、製品のライフサイクルを通じて配線を変更する必要がないものです。このデバイスは、複数の電源レールを自律的に監視してシーケンス制御し、他のデバイスと連携してシステム内の多くの電源レギュレータを継ぎ目なく監視し、フォルト管理とリセット管理を実行します。設計者は、システムをI2Cバスに接続している場合、強力なPCベースのソフトウェアを使用して、システム動作の構成、視覚化、デバッグをリアルタイムで行うことができます。

LTC2937はこの要求を満たしています。このデバイスは、EEPROMを内蔵した6チャネルのシーケンサおよび高精度の電圧スーパーバイザです。6つのチャネルは、それぞれ2つの専用コンパレータを内蔵しており、過電圧状態および低電圧状態が±0.75%の制限範囲内にあることを正確にモニタします。コンパレータのしきい値は、0.2V~6Vの範囲にわたり8ビット分解能で個別にプログラム可能です。コンパレータは高速で、デグリッチ後の伝播遅延時間は10μsです。シーケンサの各チャネルにはイネーブル出力があり、外部レギュレータ、またはパスFETのゲートを制御できます。アップ・シーケンスとダウン・シーケンスの順序、シーケンスのタイミング・パラメータ、フォルト応答など、スーパーバイザの電圧とシーケンサのタイミングのあらゆる面を個別に設定可能です。組み込みのEEPROMにより、デバイスは完全に自律しており、電源を正しい状態で投入してシステムを制御することができます。更に、複数のLTC2937が協力して、全て単線の通信バスを使用し、1つのシステム内で最大300の電源を自律的にシーケンス制御することができます。

電源フォルトは、LTC2937の自律的フォルト応答動作とデバッグ・レジスタを通じて制御、可視化、および管理を行うことができます。LTC2937はフォルト状態を自動的に検出し、システムの電源を連携して遮断することができます。このデバイスはオフ状態を維持するか、またはフォルト後に電源の再シーケンス制御を試行することができます。マイクロコントローラとI2C/SMBusを内蔵しているシステムでは、LTC2937はフォルトの種類と原因、およびシステムの状態に関する詳細を出力します。マイクロコントローラが応答方法を決定することも、LTC2937が単独で応答することもできます。

Figure 1. LTC2937 Sequencing Six Supplies

 

電源制御の3つの段階

電源サイクルには3つの動作段階(シーケンス・アップ、モニタリング、およびシーケンス・ダウン)があります。標準的なシステムでのこれらの段階を図2に示します。アップ・シーケンス制御中、各電源はその順番を待ち、指定の時間内に正しい電圧まで電圧を上昇させる必要があります。モニタリング段階では、各電源は指定の過電圧および低電圧制限範囲内に電圧を維持する必要があります。ダウン・シーケンス制御中、各電源はその順番(多くの場合、アップ・シーケンス制御とは異なる順番)を待ち、設定された制限時間内に電源を遮断します。いずれかの時点で何らかの問題が生じることがあると、システム内にフォルトが発生します。設計上の難題は、これら全ての段階(更に全ての変数)を簡単に設定できる一方で注意深く制御できるシステムを作成することです。

Figure 2. Power Supply Sequencing Waveforms

 

ON入力がアクティブに切り換わると、シーケンス・アップが始まります。LTC2937はそのアップ・シーケンスを進めて各電源を順番にイネーブルし、設定時間より前に電源電圧が設定しきい値より高くなるようモニタします。割り当てられたタイミングを満たすことができない電源があると、シーケンス制御フォルトが発生します。

LTC2937固有の利点は、そのシーケンス位置クロックです。各チャネルにはシーケンス位置(1~1023)が割り当てられており、LTC2937がシーケンス内の所定の数をカウントすると、各チャネルはそのイネーブル信号を受け取ります。シーケンス位置1のチャネルは、常にシーケンス位置2のチャネルより先にイネーブルされます。システムの仕様が変更され、これら2つのチャネルを別の順序でシーケンス制御する必要がある場合は、シーケンス位置を入れ替えて、シーケンス位置1で2番目のチャネルの電源を投入し、シーケンス位置2で最初のチャネルの電源を投入することができます。複数のLTC2937がシーケンス位置情報を共有できるので、シーケンス位置Nは全てのLTC2937チップにとって同時に発生し、異なるチップによって制御されるチャネルは同じ順番で加わることができます(図3参照)。

Figure 3. Typical Connections Between Multiple LTC2937s

 

最後のチャネルのシーケンス・アップが行われ、電圧が低電圧しきい値を超えると、モニタリング段階が始まります。モニタリング中、LTC2937はその高精度コンパレータを使用し、各入力の電圧を過電圧しきい値および低電圧しきい値に照らして絶えずモニタします。このコンパレータは、入力の軽微なグリッチは無視し、入力電圧がしきい値を超えたときの超え幅と時間が十分な場合にのみ作動します。LTC2937は、フォルトを検出すると、その設定されたスーパーバイザ・フォルト応答に従ってただちに応答します。代表的なシナリオでは、全ての電源を同時に遮断し、システムにRESETBをアサートして、通常の起動シーケンスに従って再シーケンス・アップを試行します。これにより、システムの一部分に電源が供給されながらその他には電源が供給されない状況や、フォルト後の回復処理に一貫性のない状況を防止します。システム内部の複数のLTC2937は、フォルト状態を共有して互いのフォルトに応答し、フォルトの回復処理中、連携しているチャネル間の完全な一貫性を維持することができます。LTC2937は、数多くのプログラム可能なフォルト応答動作を実現して、多くの異なるシステム構成に適合します。

ON入力が“L”に切り換わると、シーケンス・ダウン段階が始まります。シーケンス位置クロックはカウントを再開して電源を遮断しますが、シーケンス・ダウン・パラメータはシーケンス・アップ・パラメータとは全て無関係です。チャネルのシーケンス・ダウン順序は任意であり、複数のLTC2937チップが全ての制御電源のシーケンス制御を調整できます。ダウン・シーケンス制御中、各電源の電圧は、設定された制限時間内にその放電しきい値より低くなる必要があり、そうならない場合はシーケンス制御フォルトが発生します。LTC2937は、オプションの電流源を使用して電源電圧を低下させ、電圧変化の遅い電源を能動的に放電することができます。

シーケンス位置クロックにより、イベント・ベースのシーケンス順序が強制的に適用されるので、どのイベントも、先行するイベントを待たないと先に進めません。また、LTC2937は時間ベースのシーケンス制御も可能であり、電源レールを所定の時点でイネーブルするシステムに加わることができます。再構成可能なレジスタは、時間ベース・モードとイベント・ベース・モードのどちらでも機能します。

LTpowerPlayによる簡略化

LTC2937の多彩なレジスタ・セットは強力であり、しかも使いこなすのは簡単です。LTpowerPlay™ グラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)は、ステータス・レジスタとデバッグ・レジスタの全情報を1つの便利なインタフェースで表示します。このGUIは、リニアテクノロジーの全てのパワーシステム・マネージメントIC(LTC2937を含む)とI2C/SMBus上で通信します。1つ以上のLTC2937を設定するのは、マウスを数クリックするのと同じくらい簡単です。

LTpowerPlayは設定をPC上に保存し、LTC2937のEEPROMに書き込むことができます。また、LTpowerPlayのGUIは、システム異常に関する全てのデバッグ情報も表示します。LTpowerPlayは、いずれかの電源が過電圧または低電圧になった場合、あるいは電源シーケンスのタイミング制御に障害が発生した場合に情報を表示できます。フォルト発生後、このGUIは、システムの再起動を完全に制御することができます。設計のあらゆる段階(起動、構成、デバッグ、および動作)で、LTpowerPlayはシステム性能を監視する上で不可欠の手段です。

まとめ

LTC2937は電源システムのシーケンス制御および監視を簡略化します。このデバイスは、システム全体に必要な基板実装面積が非常に少なくて済みます。このデバイスは柔軟で再構成可能であり、しかも内蔵のEEPROMメモリにより自律動作が可能です。このデバイスは単独で動作することも、大規模なシステム内で他のチップと連携して動作することも可能であり、最大300台の電源の動作を継ぎ目なく調整できます。

著者について

Nathan Enger
Nathan Engerは、アナログ・デバイセズのミックスドシグナル・アプリケーション・エンジニアです。コロラド州コロラド・スプリングスの事業所に勤務しています。コロラド大学で電気工学の学士号、コロラド技術大学で電気工学の修士号を取得しています。Ford Motor、Intel、MarvellTechnology Groupで、23年間にわたって高速PLLやトランシーバーなどのミックスド・シグナルICの設計/開発に従事してきました。

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